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東方楽曲伝  作者: ホッシー@VTuber
第9章 ~響とキョウ~
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第358話 温かいヒント

 不意に額に冷たさを感じた。そして、ゆっくりと意識が浮上して行く。体が重い。でも、その気怠さが心地よかった。

「ん……」

 重い瞼が自然と動き、目を開ける。ぼやける視界の中、誰かが僕の顔を覗き込んだ。

「……体の調子はどう?」

「れい、む?」

 僕の顔を覗き込んでいたのは霊夢だった。彼女は僕の額に手を当てながらホッとした様子でため息を吐く。心配かけてしまったらしい。

「えっと……」

「霊奈との模擬戦の後、気絶したのよ。ななさんと桔梗が見つけてなかったらどうなってたことやら」

 霊夢の言葉で思い出した。そうだ、霊奈を吹き飛ばした後、僕も気絶してしまったのだ。動かし辛い体に鞭を打って右手を布団の中から出す。ズタズタになってしまった手の平は包帯でぐるぐる巻きにされていた。

「……何をどうしたらあんな傷できるのよ。全然血も止まらなかったし」

「そう、だったの?」

「ええ、後でななさんにお礼言いなさいよ。あの人がいなかったら出血多量で死んでたかもしれないんだから」

「う、うん……」

 どうやら、ななさんにも迷惑をかけてしまったようだ。八つ当たりしてしまったし、そのことも後で謝ろう。

「それじゃ私は行くわね」

「あ……」

 立ち上がろうとした霊夢の手を傷だらけの右手で掴んでしまった。一瞬だけ痛みが走り、顔を歪ませる。

「……何やってんのよ」

 それを見た彼女は呆れた様子で座り直した。反射的に手を掴んでしまったので僕にもよくわからない。どうして僕は霊夢を引き止めたのだろう。

「もう……そんな顔しないでよ。こっちが悪いみたいじゃない」

「……僕、今どんな顔してる?」

「泣きそうな顔」

 そう言いながら霊夢は立ち上がり、布団の反対側に回り、布団から僕の左手を出して握った。

「こっちなら痛くないでしょ」

「……うん」

 冷たくて温かいぬくもりを感じつつ、僕は目を閉じる。相当、疲労が溜まっていたのだろう。いつの間にか意識を手放していた。









「本当に心配したんですからね!」

「すみません……」

 すっかり体調も元通りになり、皆で朝ごはんを食べた後、僕は桔梗にお説教されていた。なお、霊奈は霊夢に怒られている。ただでさえ修行で霊力が減っていた僕に対し、本気で戦ったからだそうだ。僕がお願いしたことだし、気にしていないと言ったのだが霊夢的にアウトだったようで部屋の隅に連れて行かれた。

「ななさんが凄まじい霊力の爆発を感じ取って慌ててその場所へ行ってみたらマスターと霊奈さんは倒れていましたし、マスターの右手は血だらけで……こ、このまま、ぐすっ……マスターが死んじゃったら、どうしようって」

「あ、ああ! 泣かないで!」

 ポロポロと涙を零す桔梗。慌てて彼女の涙を指で拭うが次から次へと溢れてしまう。

「ほら、桔梗ちゃん。泣いていたらキョウ君が困っちゃいますよ。きちんとお説教するんでしょう?」

 ティッシュで桔梗の涙を拭いながらななさんが笑顔で言った。そして、すぐに僕の方へ顔を向ける。

「桔梗ちゃん、キョウ君の悩みに気付けなかったってずっと後悔していたんですよ? 私も無神経なこと言っちゃって……本当にすみませんでした」

「ごめんなさいいいい!」

 ななさんは申し訳なさそうに、桔梗は大泣きしながら謝った。まさか謝罪されるとは思わず、狼狽えてしまう。

「い、いえ……僕の方こそ八つ当たりしちゃってごめんなさい。後、助けてくれてありがとうございました」

「いえいえ、気にしないでください。私は何もしてないんですから」

「数キロ離れた場所で起きた霊力の爆発を感じ取るわ。桔梗【翼】を初見で乗りこなすわ。傷だらけのキョウの右手を無意識で治癒術を使って治すわ……それで何もやってないってどの口が言うのかしら」

 お説教が終わったのか呆れた様子で呟いた霊夢の言葉にギョッとしてしまった。霊力の爆発の感知や治癒術はわからないが、桔梗【翼】を初見で乗りこなす難しさは知っている。桔梗【翼】は重力を操作して飛行するのだが、空中姿勢を保つのが意外と難しいのだ。ましてや乗りこなしたということは桔梗による自動運転ではなく、ななさんの意志で飛んだことになる。桔梗も焦っていただろうし、桔梗の補助なしで飛んだはずだ。

「あはは……無我夢中でやっていたので何でできたのか私もわかりません」

 僕の表情から言いたいことを察してくれたのか苦笑を浮かべながら首を横に振った。僕も霊奈に霊力の爆発を放った時は無我夢中で今すぐ同じように放てと言われても出来るかわからない。

「ななさんの件は後回し。まずは色々説明して貰おうかしら? 私に隠して今まで何をしてたのか」

「ひっ……」

 肩を霊夢に捕まれて悲鳴を上げてしまった。チラリとななさんと桔梗を見るがななさんは困った様子で肩を竦め、桔梗はまだ泣いている。話すしかないようだ。

 それから僕は蔵で奥義書を見つけたこと。そして、その中にあった『夢想転身』を習得しようと修行していたこと。その修行の途中で行き詰ってしまい、桔梗とななさんに八つ当たりしてしまったこと。霊奈に相談して模擬戦することになったこと。模擬戦の終盤で霊力の爆発を起こし、それを放ったこと。そのせいで右手がズタズタになってしまったことを説明した。

「……たくさん言いたいことがあるけれど、まずは一番気になることから聞くわ。“どうして奥義書が読めたの?”」

 霊夢の鋭い視線が僕を捉える。自然と背筋が伸びた。

「えっと……前に博麗のお札を使った時に僕に博麗の巫女の素質があるって言ってたけど、それが原因なんじゃないの?」

「いいえ、違うわ。博麗のお札なら素質があるかもしれないってだけで終わるけれど、奥義書は『博麗の巫女の関係者』じゃないと読めないの。私や霊奈ならまだしも部外者であるキョウが読めるのはおかしい」

「あの……私も読めました……」

 そっと手を挙げたななさんがそう言うと霊夢は目を吊り上げてななさんを睨む。ななさんが小さな悲鳴を上げて僕の腕にしがみ付いた。

「……もう何も隠してないわよね?」

「た、多分……」

「おそらくですが……」

 僕とななさんは顔を見合わせた後、そう答えるのが精一杯だった。

「はぁ……時空跳躍でたまたまここに辿り着いた子と記憶喪失でどこの誰かもわからない人が『博麗の巫女の関係者』? 偶然にしては出来過ぎよ。そもそもキョウは記憶消えてないんだから自分がどんな家で育ったのかぐらいわかるでしょ? 何か思い当たる節はないの?」

「僕いつも家で独りだったから。お父さんもお母さんも夜遅くに僕の様子を見に来るだけだったし」

「そう、だったわね……まぁ、いいわ。読めちゃったものは仕方ないもの。それで? 霊奈との模擬戦で何か掴んだっぽいけど」

「……やってみなきゃわからないけど何としてでも習得するよ、『夢想転身』」

 僕は霊夢の目を真っ直ぐ見て断言する。きっとそれが僕たちがこの時代に跳んで来た理由だと思うから。

「……あんまり無理はしないように。それと絶対に誰かと一緒に修行すること。それだけ奥義は危険な物なんだから。特にキョウが覚えようとしてる『夢想転身』は」

「うん、わかった。気を付けるよ」

「キョウ君、一緒に頑張りましょう! 私も出来る限り協力します!」

「わ、私も精一杯お手伝いしますよ! むしろさせてくれなきゃ泣きます!」

 ななさんと桔梗の応援に思わず、笑みを浮かべてしまう。僕にはこんなにも頼もしい人たちが傍にいてくれる。それがわかった途端、胸の中が温かくなった。それと同時にやっと理解出来た。これがずっと探していた奥義を習得するための手がかりだと。でも、まずは――。




「ありがとう、皆」




 ――感謝の気持ちを伝えよう。

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