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東方楽曲伝  作者: ホッシー@VTuber
第8章 ~名前と存在~
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第266話 インターホン

今回、少し短いです。

 何とか、響の汗を拭くことが出来た望たちはそれからも響の看病を続けていた。しかし、その努力も空しく、彼の熱は下がる気配がしない。

「どうする? やっぱり、医者に見せた方が」

 時刻は午後3時。未だに目を覚まさない響を見ながら雅が望に問いかけた。

「でも、病院に行ってお兄ちゃんの秘密がばれたら……」

 確かに、響の種族は人間である。だが、体の構造は人間のそれとは若干、違っている。『超高速再生』がいい例だ。

 そのため、病院に連れて行き、検査した結果、響の体の構造が人間とは違っていることがばれてしまう可能性がある。それを望は危惧しているのだ。

「そもそも、響が熱を出したのは病気のせいじゃないと思う」

 そんな2人の会話を聞いていた霊奈が望に加勢した。

「どういうことですか?」

 すかさず、霙が追究する。

「響には『超高速再生』があるの。それのおかげで病原菌は響の体内に入った瞬間に死滅する。だから、病気で熱が出るのはおかしいの」

「それに、お兄ちゃんって健康管理は完璧だから熱が出るまで体の異変に気付かないのはおかしいんだよね」

 響が熱を出して寝込んでしまうとお金を稼ぐことが出来なくなってしまう。今では貯金も増えて数日程度ならば大丈夫なのだが、幻想郷で働き始めた頃は切羽詰っていた。だから、響は自分や家族の体調を完璧に管理し、予防していたのだ。その時の習慣が今でも残っているのである。

「やっぱり、能力の暴走?」

 お昼ご飯を食べた時、望は自分の考えを皆に話していた。それを思い出した雅は不安そうに呟く。

「そうだと思うんだけど……暴走した原因がわからないことには動きようがないよね」

 そう言って望は悔しそうな表情を浮かべながら拳を握る。響の役に立てないのが悔しいのだ。

 ――ピンポーン。

 会話もなくなり、長い沈黙が響の部屋に流れているとそれを破るようにチャイムが鳴った。奏楽を除いた全員(奏楽は響の無事を祈っているのでチャイムの音すら聞こえていない)が肩をビクッとさせて驚く。

「だ、誰? 望、わかる?」

「……悟さんかも。お兄ちゃんも霊奈さんも休んだから様子を見に来たとか」

 因みに、響が熱を出したことは悟に連絡していなかった。いや、出来なかった。悟に連絡が取れなかったからである。

「ど、どうするんですか? このままではご主人様が寝込んでいることがばれてしまいます」

「……よし。霊奈さん、お札を一度、剥がしてください」

 霙の問いかけに数秒ほど考え込んだ望は霊奈に指示を出した。

「いいの?」

「いっそのこと、お兄ちゃんが寝込んでいることを話します」

「え? 何で?」

 望の作戦を聞いて雅が首を傾げた。響が寝込んでいる原因は能力の暴走によるものだ。それを悟に話してしまったら、響の秘密を全て、話さなくてはならなくなる。

 そのことを言うと望は首を横に振った。

「お兄ちゃんが熱を出した理由は風邪ってことにする。何も知らない人が今のお兄ちゃんを見れば誰だってそう思うだろうし、悟さんは最近、お兄ちゃんの秘密に気付き始めてる。だから、お兄ちゃんは普通の人間だってことをアピールしようかなって」

「お札剥がしたよ」

 望が作戦のアウトラインを説明している間に結界を解除してお札を剥がし終えた霊奈が望に話しかける。

「ありがとうございます。じゃあ、奏楽ちゃん以外はついて来て」

「奏楽だけここに残しておくの?」

「逆にただの風邪なのに全員がお兄ちゃんの傍にいるのっておかしいでしょ? でも、奏楽ちゃんならお兄ちゃんが心配で傍にいるって説明出来る」

 それだけ言って望は急いで部屋を出て行ってしまう。さすがにそろそろ、インターホンに出ないと悟に怪しまれてしまうからだ。

「あ、ちょっと望! 奏楽、響のことよろしくね」

「うん、まかせて」

 奏楽が頷いたのを見て雅たちも望の後を追った。






『悟さん、どうしたんですか?』

 インターホンを押してから2分ほど経った頃、やっと師匠の声が聞こえた。

「……急にごめん。響が大学を休んでるって聞いて少し気になって。霊奈も休んでるし」

 あえて、知らない振りをしてみる。

『あ、すみません。お兄ちゃん、風邪を引いたみたいで、寝込んでるんですよ。悟さんに連絡しようにも取れなくて』

「ああ、ちょっと携帯が壊れちゃって。明日、買って来るつもりだったんだ」

 師匠はまだ気付いていないのだろうか? 過ちを犯している事に。

『そうだったんですか』

「それで響は無事なのか?」

『はい。結構、熱は高めですがそれ以外に目立った症状は出てませんよ』

 そうハキハキと俺の質問に答える彼女だったが、俺からしたら滑稽に聞こえた。

「……なぁ、望ちゃん」

『ッ……』

 俺が『師匠』ではなく『望ちゃん』と呼んだことに驚いたのか息を呑む望ちゃん。

「もう、わかってんだ。そんな上手い芝居はいらない」

 正直、何も知らなかったら望ちゃんの芝居に騙されて信じていただろう。

 だが、俺はすでに知ってしまっているのだ。

『芝居? 何のことですか?』

「響は風邪で倒れてるんじゃない。別の理由で倒れてるってこと。それとな。望ちゃん、ちょっとだけ爪が甘かったね」

『え?』

 まだ、この家に来るまで俺の仮説は外れている可能性があった。響は本当に風邪を引いているかもしれない。そうであってくれと願った。

 でも、望ちゃんがインターホンに出た瞬間、俺の仮説は当たっていたと確信してしまった。

『爪が、甘いって……どういうことです?』

「まぁ、俺が突然、家に来たから焦ってたのかもしれない。それに、今の響の姿を見せたら響の秘密に気付かれてしまうと危惧したのかもしれない。でも……それでも、望ちゃんは普段通りに――インターホンに出ずに、カメラで俺だと分かった時点でドアを開けなくちゃいけなかったんだよ」

 望ちゃんは俺が響の家に来た時、いつもインターホンなど使わずに直接、ドアを開けて要件を聞いていたのだ。そりゃ、望ちゃんと出会ってもう10年ほど経つのだ。今更、警戒する必要はない。それなのに、彼女はインターホンで俺とコンタクトを取った。つまり、俺でも警戒することがあるということになる。それはもちろん、響の秘密について、だ。

『あ……』

 やっと、それに気付いたのか望ちゃんは声を漏らす。

「詳しい話は中で聞く。もう、誤魔化さないでくれるよな?」

『……はい』

 それからすぐ、玄関の鍵が開く音が聞こえた。


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