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東方楽曲伝  作者: ホッシー@VTuber
第6章 ~カーボンホープ~
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第191話 妹、大学に乱入する

「……」

 大学の講義中、俺はノートも取らずにぼーっとしていた。

「なぁ? 響」

「……」

「おい、響」

「……」

「おいってば!」

「え!?」

 突然、両肩を掴まれて変な声を上げてしまった。

「あ……すみません」

 講義中の教授に睨まれ、頭を下げる。教授はもう一度、俺を睨んだ後、講義に戻った。

「どうしたんだ?」

 隣で心配そうに悟が問いかけて来る。

「まぁ……色々な」

 俺が疲れている原因はフランだ。

「はぁ……」

「大変そうだな」

「ああ」

 俺が頷いたのを見て悟は黒板の方を向いた。悟は俺が話そうとしない限り、聞こうとしない。本当に助かる。フランのことをどうやって、説明すればいいかわからないからだ。

 フランと暮らし始めてから早くも3日、経った。その間、フランは色々と問題を起こしているのだ。

 例えば、お風呂。

 俺が入ろうとすると決まってフランも一緒に入ろうとするのだ。それを望たちが必死に止めている。

 他にも外出しようとしたり、霙に変なことを吹きこんだりと悪戯をしまくっていた。

 それに夜には俺のベッドに潜り込んで来るし、朝は不機嫌で抑えるのが大変だ。もう、ヘトヘトなのだ。

「なぁ? そう言えばさ?」

「ん? 何だ?」

 少しだけ言いづらそうに悟が声をかけて来た。

「その、リボンって……博麗 霊夢が付けてるのに似てるよな?」

「ああ、そうだもん」

「そうなのかよ!!」

 悟が立ち上がって叫ぶ。

「あ、すみません……」

 その後すぐに教授に謝って座り直した。

「それ、誰かに貰った物って言ってたけどその人も東方が好きなのか?」

 さすがに本人から貰ったとは思わなかったのか、そう問いかけて来る。

「まぁ、な。俺も本当は付けたくないけど……なんか、これを付けてると仕事が上手く行くんだよ」

 どのように説明したものかと少しだけ、言葉の間に空白が出来てしまったが咄嗟に吐いた嘘としては上出来だ。

「幸運のリボンなのか?」

「さぁ? それに仕事仲間にも好評でもう、外すわけにもいかなくて……」

 このリボンを付けてから人里で仕事をすると色々な人に褒められることが多くなった。

「なるほど……まぁ、似合ってるのは間違いないけどな」

「本当、何で俺はこんなに女っぽいんだろう……」

 思わず、深い溜息を吐いてしまった。最近、街を歩く度に男に話しかけられるようになったし。

「さすがにそれを知ってるのは神様ぐらいだな」

(霙に聞けってか?)

 きっと、質問しても家でフランの面倒を見ている神狼は苦笑いして誤魔化すだろう。

「ん?」

 その時、何だか外が騒がしいのに気付いた。

「どうしたんだろう?」

 悟も異変を感じ取ったらしい。

「さぁ?」

「萩教授! ちょっといいですか!」

 突然、講義室のドアが開いて一人の男性が入り込んで来た。

「どうした? 何だか、外が騒がしいが?」

「それが、女の子が大型の犬に乗って大学内に。保護しようとしたんですが、そのまま学内に侵入してしまい、行方不明になったんです!」

(大型の犬に乗った……女の子?)

 一瞬、奏楽を思い浮かべたが奏楽は今、小学校だ。あり得ない。

「何!?」

「なので、講義を中断してこちらに来てください!」

「わかった! 今日の講義はここまで!」

 そう叫んだ教授は男性と一緒に出て行った。

「何で、あんなに焦ってるんだ?」

 悟が不思議そうに呟く。

「ここにはたくさん、薬品があるだろ? もし、危険な薬品に触って怪我でもしたら大変だからな」

 まぁ、大学側としてはそうなって責任を取りたくないだけだろうけど。

「に、しても大型の犬に乗った女の子って……奏楽ちゃん?」

「奏楽は小学校」

「あ、そうか」

「ほら、今日はこの講義で最後だから帰ろうぜ?」

 そう言いながら鞄に荷物を詰め込み、席を立った。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」

 焦りながら悟も鞄を持って俺の後を追って来る。

「あー、あつっ……」

 冷房の効いた講義室を出ると一気に蒸し暑くなった。本格的に夏が迫っているようだ。

「こりゃ、気温というよりも湿度が高いな……ジメジメしてる」

「空も曇天だしな」

「あ、響。それに悟君も」

 その時、前から霊奈が歩いて来た。

「おっす。そっちも早めに講義、終わったのか?」

 悟がそう聞いた。

「うん。犬に乗った女の子がどうとか……それって奏楽ちゃん?」

「奏楽は小学校」

「あ、そっか……」

「お前も俺と同じだな」

 苦笑しながら悟。

「え? どういうこと?」

 首を傾げる霊奈だったが、説明する前に霙から通信が入った。

『ご、ご主人様! やっと、繋がった!』

 声だけでもものすごく慌てているのがわかる。

(霙? どうしたんだ?)

『す、すみません! フランさんが!』

「え?」

 思わず、声を漏らしてしまったその時、廊下の向こう側に何か見覚えのあるシルエットが現れた。

「お兄様ー!」

 そう、霙に乗ったフランだ。ちゃんと、奏楽の服を借りていて見た目では誰も『フランドール・スカーレット』だとは思わないだろう。髪もサイドポニーではなく、ポニーテールにしているし、あの目立つ帽子も被っていない。

「ふ、フラン!?」

 驚きのあまり、叫んでしまった。その間も霙が全力疾走でこちらに向かって来る。

「ちょ、ちょっとこれってどういうこと!? 響!」

 霊奈はフランだとわかったようで質問して来た。

「知らないよ! とにかく、止まれ! 危ないか――」

「お兄様にダーイブ!」

 霙の上に立ち、フランが俺に向かって跳躍。躱すわけにもいかず、受け止めたがあまりにも勢いがあったので背中から倒れ込んでしまった。

「いつっ……」

 痛みで息を漏れる。

「お兄様ー」

 俺に抱き着きながら頬をすりすりして来るフラン。傍で霙がお座りした。何だか、その姿は申し訳なさそうにしているように見える。

(霙、どういうことだ?)

 フランを引き剥がしながら霙に問いかけた。

『実はご主人様が忘れ物をしていることに気付いたフランさんが届けるって聞かなくて……』

(忘れ物?)

 そう言えば、2個前に受けた講義のノートを忘れたような気がする。まぁ、悟からノートの切れ端を貰ったので難を逃れた。

「はい、お兄様!」

 霙の話は本当だったようでフランは笑顔で1冊のノートを差し出して来る。

「あ、ああ……ありがとう」

 戸惑いながらもノートを受け取った。

「響、説明して貰っても?」

 上を見上げると悟が顔を引き攣らせながらそう言う。

「あー、えっと……まぁ、とりあえず、教授たちに大型の犬に乗った女の子を保護したって報告しなきゃ」

 その間に何か、考えなくては。








「つまり、その子は奏楽ちゃんの友達で今、その子の両親は遠い所へ出張していてその間、お前がこの子の面倒を見ている、と?」

「そう言うことだ」

 大学の食堂。そこで俺、悟、霊奈、フラン、霙(犬モード)がいた。他の生徒もいるが皆、息を潜めてこちらの様子を窺っているようだ。

「……大変だね」

 霊奈はフランだとわかっているので俺が嘘を吐いていることに気付いている。しかし、こちらの話に乗ってくれた。

「それにしても、綺麗な金髪だな……外国の子なのか?」

「両親が外国に住んでいたんだけど、結婚してすぐに日本に来たそうだ。で、この子は生まれも育ちも日本」

「あ、だから日本語を喋られたんだな」

 納得してくれた悟。

「……で、名前は?」

「え?」

「だから、名前。お前は“フラン”って呼んでたけど……ん? フラン?」

「何?」

 呼ばれたと勘違いしたのか俺の隣でオレンジジュースを飲んでいたフランが首を傾げながら返事をした。

「あ、最初に言っておくがお前の知ってるフランじゃないからな?」

「そ、そうだよな! あり得ないもんな!」

(悟、残念ながら本物のフランだ)

 口では嘘を言い、心の中で本当のことを呟いた。

「お兄様? ダイガクはもう、終わったの?」

 不意にフランが聞いて来る。ナイスタイミングだ。これで、悟の質問に答えなくて済む。

「ああ、講義はもうないよ」

「なら、帰ろっ!」

「まぁ、そうだな……」

 このまま、ダラダラしてフランの正体がバレでもしたら大変だ。それに今は曇っていても晴れる可能性だってある。

「じゃあ、そう言うことだからそろそろ、帰るわ」

「おう、また明日な」

「またね」

 フランを霙に乗せ、俺たちは悟と霊奈に別れを告げ、大学を後にした。


 家に帰ってから、フランに説教したのは言うまでもない。


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[良い点] 残念だが本物のフランだ が笑った [気になる点] ないに決まってる [一言] 最高ー
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