COUNTⅡ『射光の転校生』
「………え?……『転校生』…?」
そのワードを聞いてボクが初めにに思ったことは、『どんな子だろう?』『男かな?女かな?』…そんなことではなかった。確認するがボクは今年晴れて高校生になった。勿論、高校1年生として。つまり、ボクのクラスに転校してくるということは、その『転校生』とやらも無論、高校1年生だろう。さらに今は梅雨時の6月下旬。ボクら高校1年生も入学してまだ2ヶ月しか経っていない。よってボクの第二声はこうだ。
「こんな時期に?」
逆にこれ以外の言葉が見当たらないくらいだ。
「まあ、確かに珍しいが…ウチの学校ではよくあることらしいぜ?」
「いやいや…小中学校ならともかく高校だよ?どうやって入るんだよ?ウチの学校私立じゃないから金積んでも入れねぇだろ?」
「そこは…あれだろ?都立は都立なりの裏手口があんだろ?」
「聞こえの悪さが半端じゃねぇな…」
そんなこんなしている内に我が校の門が見えた。
――都立『秀盟学院 しゅうめいがくいん 』
校門に掲げてある木製の表札に書かれてある学校名は初代校長の直筆によるものらしい。普段、風流など語らないボクでもこの迫力ある字には圧倒させられた。
門をぬけると昇降口までの通路沿いには季節の花々が生い茂っている。これは歴代の生徒会長から受け継がれているらしく、その季節に合った花を節目節目に植え変えていくという我が校の特色の1つだ。近所の方からの評判はとても良く、植物園と間違え散歩のコースとして訪れる人が年々増加しているほど。なのでよく学校に野良犬が入るという光景がウチの学校では老夫婦が入ってくる光景と化していた。
昇降口までたどり着くと康浩は、
「いや~濡れた濡れた!んじゃあ早速着替えてくるわ!」
と言い、風のごとく駆け抜けていった。全く少しは落ち着きというものを持って欲しいな。風というか嵐のような奴だ。
……待てよ?だからアイツが来た瞬間大雨になったんじゃないか?ちくしょー…ボクはどうやらとんでもない雨男…もとい嵐男をここまで意味のない傘をさしてまで連れてきてしまったようだ…。おそらく両親よりも長い時間一緒にいるのに…今気づくとは…何たる屈辱…。
そんな約12年分のどーでもいい葛藤に苦しまれながら、ボクは濡れた傘を昇降口の傘立てに掛け、教室へと向かった。
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教室に入るとやはり『あの話』で持ちきりのようだった。オレの姿を見るなり駆け寄ってくる数名の男女生徒。何やら好奇心の眼差し。
「小鳥遊くん!君はどう思う?」
手にはメモ用紙とペンを持っている。何の調査?
「あ~…日本のTPP参加表明の件?ボクん家は農家じゃないから基本賛成派だけど?」
「んな事どうでもいいんだよッ!!」
「『転校生』の事だよ!」
いや…分かってはいたけど…。こんな冗談も軽いノリで返してくれないとなると…これは相当だな…。
「どう思うって?」
「決まってんだろ!?『転校生』は男子か?女子か?って話だ!!」
「今の所…全32人中21人で…男子だと思う人は7人…女子だと思う人は14人なんだよ!」
やっぱり女子の『転校生』が期待されてるわけね…。
「…ん?待て…お前今21人って言った?その人数って何?」
「今来てるウチのクラスの人数だけど?」
驚いた…。ここまでですか…。ボクは教室にに掛けてある時計を見た。7時58分。普段この時間と言えば、室内には来ても7・8人ってとこなのに…もう既に半分以上の生徒が来ている。『転校生』ってのはそんなに偉大ですか!?
「で?どうなの?小鳥遊くん!」
「お前も『転校生』が気になってこんな時間に登校してきたんだろ?」
いいえ、違います。ボクがいつもこの時間に登校してることお前らも知ってるだろ?そもそもボク今日『転校生』が来るなんて話、康浩から教えてもらわなかったら知らなかったし…。
「あぁ…どっちでもいいんじゃないか?てかボク…あんまりそういう話には乗れないというか…。ボクとしては何でこんな時期に転校してくるのか?っていうことの方が気になるというか…」
するとハァ~っとため息をつく3人。
「相変わらずノリが悪いな~…小鳥遊は…」
「確かにそこも気になる所ではあるけど…」
「やっぱり『転校生』といやぁ、男か?女か?を議論すんのがお約束じゃねぇかよ!」
誰が決めたんだよ…そんなお約束…。せっかく人がさりげなく話題を変えようとしたのに…。だいたい『転校生』が男か?女か?なんて教室に入ってくれば解決する事実、議論したって何の意味もない。議論した上で実際には男が入ってくる予定だったのが女に変わってしまう訳じゃあるまいし…。
「いや~流石に更衣室、結構人いたよ~」
濡れた制服を詰め大きく膨らむバックを片手に学校指定の運動着を着た嵐男:康浩が現れた。
「幸いパンツまで濡れてなくてセーフだ!!」
「お前…それで授業受けるつもりか?」
「大丈夫!先生には許可とってある!」
傘をさしてたとはいえボクも靴下とかぐしゃぐしゃだな…。替えの靴下に履き替えておくかな。
「康浩には聞かなくていいのか?調査」
コイツならすぐ答えてくれるだろうと思った。康浩はキョトンとしている。
「何の調査?」
「『転校生』について…」
「『女』『美人』『帰国子女』」
早ッ!!…まるで呪文のようによくそんなにスラスラと単語が出てくるもんだ…。てか…出てきた単語の中に何やら予想と言うよりもかは単なる願望じゃないの?という単語も混じってたような…。
「流石!長谷川は考える事が違う!オレたちの先端をいってるぜ~!」
「やっぱ『帰国子女』だろ~」
いや…高1で好きな女性のタイプ『帰国子女』ってなかなかいねぇーだろ!おっさんじゃねぇーか!
「で?小鳥遊は何て答えたんだ?」
「それがよ…どっちでもいいとか言うんだぜ?」
「はぁ!?いい年して何言ってんだろうねぇ~この子は!!?」
いったい誰から目線で言ってんだ?そのセリフ…。てか何で怒られてんのボク…?
「いいか!?キョウ二郎!!」
いや…ボク一応長男です。後、名前はキョウです!『慶』と書いてキョウです!ボクとお前…12年の付き合いなんだからね?
「男に生まれたからにゃあ…女を好むのは当たりめぇなぁことなんでぃ…」
お前…いつの時代の人だよ?オレの記憶が正しかったら平成生まれのはずだが…。
「よ!親分!」
「待ってました!」
…誰が?…親分って何?
「さぁ…おめぇも男なぁ答えてみろぃ…『新入り』は…『るぇでぃ』だとなぁ…」
もはやキャラ設定も守れきれてねぇーよ…。英語になっちゃってるし…。『転校生』は『新入り』って訳し方でいいのかな…。
「答えるぉッ!!!キョウ三郎ッ!!!」
「キョウだよ!!」
いい加減にキレた。後、次男でも三男でもなく…長男だから!!2人兄妹の長男だから!!
「ったく…そうですね…親分…ボクも女だと思います」
「声がちぃせぇ!!おめぇも江戸っ子なら腹から声出すぇい!!このアホんだらぁ!!」
江戸っ子じゃねッつーの!!ついでにお前もな!!……ああ!こうなりぁ自棄だ!!
「…て、てやんでぃ!!…親分!…ぼかぁ…女だと思いやす!」
「そうか、ご苦労」
「え?」
そう言うと康浩とその他3名は他の人へ調査に向かった。周りの女子のクスクスという笑い声がオレの胸を見えない刃物でグサグサと刺す。康浩…後で覚えてろ…。
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《キーンコーンカーンコーン…》
《キーンコーンカーンコーン…》
チャイムが鳴る前から1年4組のクラスの生徒は誰1人自分の席を立たず沈黙の中、担任の先生…ではなく本日の時の人『転校生』の登場を待っていた。おそらくこのクラスで1人だけであろう、そこまでしなくても…と思う生徒、つまりボクである。
廊下側の席の生徒が合図を送った。どうやら担任ともう一人の足音が聞こえたようだ。高鳴る心臓の鼓動。…が聞こえる。ボクの鼓動は至って正常だ。分かってる。ボクが異常なのは。
「来た!」
一斉に姿勢を正す。ガラガラ…と扉がが開く。入ってきたのは担任のみ。まあそうだろうと一同が納得している。その光景を一番後の中央から眺めるボクは今にも吹き出してしまいそうだった。
担任は明らかにいつもと違うクラスの雰囲気を感じたようで、あえていつも通りに進めるように心掛けたようだ。
「日直!号令!」
「起立…礼…」
『おはようございます』
「着席…」
あまりに普通すぎて拍子抜けする一同を差し置いて担任は話を進めた。
「えー今日は…朝からスゴい大雨でねぇ~…先生普段、健康を気遣って片道10㎞の道を自転車で30分かけて出勤してるんだが、今日はね…やむを得ず車で出勤してきた…」
お前の交通手段の話なんかどうでもいいんだよ!!早く『転校生』紹介しろ!!っという心の声がダイレクトに聞こえてきた。ボクも『転校生』関係なしにどーでもいいよ…先生。
「…という訳で傘さし運転して来た奴…ホームルーム終了後、生徒指導部の先生までいくように!後、これは余談だが…」
『余談なら早く紹介しろ!!』
キレイにハモった。これなら学園祭の合唱会も大賞とれるんじゃない?と思わせるくらいキレイにハモった。
「何だ~お前ら~ショウカイ?いったい何の話だ?」
いや…苦しいよ先生。流石にそれは苦しすぎますって。明らかにドアの向こうに誰か立ってる、オーラがありますから!
「ショウカイ…あぁ…そう言えば、新しくこの学校の花壇の手入れをして下さる『田中』さんの紹介が…」
『『転校生』を紹介しろ!!』
何だこの茶番劇…。田中さんってマジの人?
「しょうがねないねぇー…どうしてお前たちは先生のタイミングで紹介させてくれないかね~」
『前置きが長いわッ!!』
先生…ボクは最後まであなたの味方でいようとしましたが…どうやら無理のようです。脅されたわけではありません、自分で正しいと思う道を見つけた…ただそれだけです。
「分かった…分かった。……んじゃあ…どうぞ!入って!」
すると再び教室の扉が開いた。と思ったら今まで分厚い雨雲が覆っていた空から太陽が顔を出し教室内を照らした。まるで暗闇の中でいきなりスポットライトを当てられたかのようなそんな感覚に陥ってしまった一同はしばらく目を開けることができなかった。その時、黒板にチョークで何かを書いている音がした。
先生か?いや…あれは…。
やがて太陽の光に目が慣れた一同が正面つまり黒板の方を見ると、そこにはチョークで自らの名前を書き終え皆に背を向け立つ1人の『少女』がいた。我が校のものではない制服を身に纏い、白いショートヘアーには鈴の髪飾りが付いている。
「初めまして」
そう言うと『彼女』は振り向いた。振り向くと同時に爽やかな風がボクの頬を過った。ボクは目を疑った。これは…現実なのだろうか…。まるで時間が止まった異空間に飛ばされたかのような衝撃。
「『神影灯 みかげあかり 』と申します」
目映い光を放つ、可憐な『美少女』がそこにいた。