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可憐な罠  作者: さばこ
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第五話

お気に入りいれて下さった方ありがとうございます!



これから2週間か…。

まだまだ全然見慣れないでっかい屋敷を目の前に生唾を飲み込む。



俺の担当は裏庭の土作りから、種まき。

親父は屋敷を囲む木々の伐採。他に手伝ってくれているのが、親父の兄弟子の山本さん、長岡さん、そして弟弟子の鈴木さん。

これはもうヤマさん、チョーさん、スーさんで覚えることにした。


真夏の太陽の日差しをガンガンに浴びて、男くさい職場になるなと苦笑した。




午前中は土の配合だけで終わってしまった。

昼飯は鳥居さんが、おにぎりを作ってきてくれて、それを冷たいお茶で流し込む。

首にかけたタオルで汗を拭いながら、これでも結構真剣にやった。


ようやく一息つけるところまで来て、日陰になっているところで休憩を取る。

まだまだこれから西日も強いから、暑さには油断できない。

日射病にならないよう、スポーツドリンクはこまめに飲んでいた。




―そういや、今日はあのお嬢様見ないな。




善美でもほどよく小麦色になっているのに、あの子は真っ白だった。

どうやったらあんなに白くなれるんだ。善美に教えてやってくれ、と心に毒づいたとき。




ポロン、ポロン…と言葉で表すのも情けないが、ピアノの音が聞こえてきた。


つっかえることもなく流れるように鳴るその音楽に、俺は耳を澄ませて聞いていた。


すげぇな、お屋敷って。


最早何がすごいのか分からないが、そればかり思っていた。




「あ、善くん」

「どうも」

鳥居さんが覗きに来てくれた。


「おおー、すごい雑草ばっかりなのが綺麗になってる!」

「一度植え替えしちゃいますからね」

「本当に今回はありがとう」


にこっと随分くだけた笑みを向けられた。出会って2日目だが、両親を知ってる分、打ち解けるのに時間はかからなかった。




「あ、和華様ピアノ弾いてらっしゃるわ」


鳥居さんに合わせて、頭上の窓を見やる。


「そうなんすか」

「今朝も食欲がなくって、寝込まれてたんだけど…良かった」

「お嬢様ってほんとに小学生なんですか?ランドセル背負ってんの?」



ふふっと鳥居さんは笑いを零した。


「本当よ。ランドセルはお使いになってないけど、12歳になられたばかり。きっとご当主様がおられなくて寂しいんだと思うの。一言も口に出さないけど…。そういうとき何も出来ない自分が悔しいわ」


「2週間いないんですっけ」

「丸々3週間なのよ」




自分のときはどうだっただろう。小学生…ちょうど母さんが死んだときの、善美の年だ。

出張と永遠の別れは違うかもしれないが、善美はしばらくずっと俺にくっついていた。

それくらい、まだまだ親が恋しい時期だと思う。



「ほんと可哀想ですね」


そんな素振りを見せず、父親の代わりに挨拶をする姿を思い出し、そう呟いていた。

鳥居さんは、それには何も返さず、少し悲しそうに微笑んだ。


「少し、買い物に行ってきますね。お嬢様も元気そうだし、すぐ戻りますから」





それからしばらく軽快にピアノの音は続いていた。何の曲かも分からないが、心地よく聞いていると、



―ガッシャーン



と、鍵盤を全部叩くような音がして、音楽はぷつっと切れた。


…終わりか?


カーテンを全面にひいて、ぴっちり閉まっている頭上の窓を見上げる。

何かイライラしたんかな。


首を傾げて、作業に戻った。


…のだが、何故か胸騒ぎがして。何度かピアノが聞こえてきていた窓を凝視した。

白いカーテンだが、分厚い生地なのか中はちらとも見えない。

胸のもやもやが気持ち悪かったので、スコップを投げ捨て、屋敷を覗いてみることにした。




「失礼しまーす…」


恐る恐る玄関に入る。外の日差しがキツイ分、やっぱり薄暗く感じる。


「あのートイレ借ります!」


一つ咳払いをして、螺旋階段を上って行った。



広い廊下には、高そうな壺や生け花が飾ってあって、塵一つ落ちていない。

別に悪いことをする訳じゃないが、忍び足で歩いてしまう。


裏庭が西だから、右だろ?



階段から右には3つ扉があって、一番端っこを目指すと、少し開いていた。


軍手が汚れていたから、目線だけで中を覗くと、


「―おいっ!」

予感的中とでも言うのか。

お嬢様が頭をピアノの鍵盤につけて気を失っていた。



白い腕が、何だか青く見えて慌てて近寄る。


今日に限って生成りのワンピースか。触ると泥がつくな…と多少躊躇ったが、軍手を投げ捨て体を持ち上げた。

そして、すっかすかの段ボール箱みたいな軽さに驚いた。



「おい、しっかりしろ。どうした?気持ち悪いのか」


声をかけると、うっすら目を開けて、微かに頷く。額から脂汗が出ている。

貧血か?と思い、すぐ横になれるベットを探した。


この部屋はピアノ専用らしく、革のソファしかない。

こんなところで寝られるか!と思い、隣の部屋を足で開ける。

隣は本棚ばっかりだったので、迷わず3つ目の扉を蹴破る。


すると、お嬢様の部屋らしきところに当たり、ベットに寝かせた。

足を高くするんだよな。ふわっふわの枕に舌打ちしながら、足の下に置く。



お嬢様の顔は血が通ってないんじゃないかと思うほど、不気味な白さになっていた。

苦しそうに眉を寄せている。額の汗を、首にかけてあった汚いタオルで拭ってやる。

そのとき指が頬に触れて、すごく冷たかったので、俺はまた焦った。


「おい、ほんとに大丈夫か。寒いか?」


そう言えば、この部屋もよく冷えていて、俺の汗もすっかり引いている。

お嬢様は口を開けたが、カラカラに乾燥しているのか声にならず、すぐ閉じてしまった。


「よし分かった。待ってろよ」

正直何も分からなかったが、とにかく力づけようと、安心させるように頭を撫で、とりあえず窓のカーテンを勢い良く開けた。


目を細めてしまうほどの西日が部屋いっぱいに降り注ぐ。

そして重厚な窓を開け、少しムッとするくらいの湿気のある空気を入れ込んだ。

うん、これくらいちょうど良いんじゃないか?人間にも太陽浴びるのは必要だろ。


そして、俺はもう一度裏庭に降りて、温くなったスポーツドリンクを取りに行った。

自宅なら10歩の距離がもどかしい。大きい家も考えもんだな、と走りながらぼやいた。

お嬢様はまだ寝ている様子だったが、さっきより顔色が良くなっていて、ホッと息をつく。


「おいお嬢様、これちょっと飲みな」

体が起きるのを手伝ってやり、口元に持っていく。

ビタミンたっぷりと銘打った商品だ、少しくらい取り入れてってくれ。

ふた口くらい喉を通ったのを確認して、また寝かせた。

ここまでくると善美が風邪で寝込んだのとかぶり、頬を軽く叩く。


「大丈夫、すぐ治るよ」

そうやって看病していた癖で言った。



しばらくお嬢様の顔を眺めていたが、寝息も安定してきたので外に出ようと階段を降りる。


「善くん!?」

買い物袋にいっぱいの荷物を抱えて、鳥居さんがちょうど帰ってきていた。


「ちょっと!鳥居さん、お嬢様貧血で倒れてたよ」

「うそっ今どこに?」

「お嬢様の部屋?悪いけど運んだ」

「ううん、ありがとうっ」


言いながら、買い物袋を投げ捨て走って行く。



はぁ、とため息をついて落ちたそれを拾った。


「おーい、誰かいませんかー?」


大声で言うと、奥から屋敷の人がでてきて、どうも、なんて言いながら荷物を受け取る。

なんだ、他にも人いるんじゃないか。予想していただけに腹が立つ。



広すぎる家に、重そうな扉。子どもが寝込んだって気付くことも出来ない。



この家はダメだ!急に怒りがこみ上げてきて、裏庭に戻った。


なんたって、陽の光をいれないのがダメだ。クーラーも効き過ぎて良くない。

お嬢様も、少しくらい外出た方が健康のためじゃないか?


すっかり母親の気分でぐだぐだと文句を並べた。

それでも腹からわき出る怒りは治まらなくて、なんでここまでムカついているのか、自分でもよく分からなかった。




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