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可憐な罠  作者: さばこ
3/9

第三話

無事トイレを済ませた俺は、屋敷に戻るのも気が引けて車のある場所を探した。

門の中に入ってすぐ左に行くと、どうやら駐車場になっているようで、親父の車や既に到着していたのか、業者の車も何台かあった。



今日はどこまでやんのかな?そんなことを考えていると、視界の端っこにブルーの布地が入った。

思わず眉を顰める。正体を見ようと奥を覗くと、淡いブルーのワンピースを着た女の子が身を乗り出してトランクの中を見ていた。


そよ風にのって、ふわふわとワンピースが泳ぐ。


トラックの数々には、植木の作業に使う道具がたくさん入っている。

俺の存在には気付かないのか、女の子はそおっと大きい断ち切り鋏に手を伸ばし始めた。

「ちょっと!」

慌てて声をかける。

するとびくっと肩を揺らし、こちらを振り向いた。


透き通るように白い肌に、大きい瞳。

少女と呼ぶには大人びていて、成人と言うにはどこかあどけない。

どこかの中学生か高校生か?言葉に迷いつつも、きちんと注意した。


「それ、危ないから勝手に触らないで。きみ、どこの子?」

ポインセチアのような真っ赤な唇を真一文字に結んで、その子はキッと睨みつけてきた。

謝る様子もなく、こっちがたじろいでしまう。


「あの、」

言い方がきつかったか?そう思って話しかけた。

すると、女の子は面白いくらいに、つんと顎を空に向けて背中を向け、走り去ってしまった。

「あ、おい!」

俺の言葉には振り向きもせず。



なんだ、あれは。あんな子どもっぽいことして、高校生が。

普通、謝らないか?善美でもあんな態度しないぞ。

途中で行き場を無くした手で、寂しく頭を掻く。



そして、思い立ったのだ。


まさか―“お嬢様”か?あれが?


今度は無意識に手のひらが口元にくる。

やばい、俺さっき『どこの子?』って言わなかったか?(言った)

子どもとは言え、相手は客だ。見るからに上客で、不躾な態度は許されがたい。

これは、先に謝っておかないと…!


そうして俺も慌てて屋敷に戻って行った。




「こら!どれだけ時間かけてんだお前は」

玄関に着くと、親父のかなり抑えたお叱りを受けた。

「和華様、ご子息の善治さんです」

鳥居さんに促されてこちらを見る瞳は、やはりさっきのものと同じだった。

しかし、相手は思いもよらなかったのか、また大きく見開いた。


「あ、さっきは…」

「初めまして、娘の和華です。このたびは学業の合間にお手伝いくださるということで、心よりお礼申し上げます。両親がいない間で不備があるかと恐縮ですが、何かありましたらお気軽にこの鳥居までお申し付けください」

ぺらぺらと、それはもう素晴らしい舌回りでお嬢様は言った。

その堂々たる様子に、鳥居さんも親父も見惚れているかのようだ。


言いきったあと、さっきは直線だった唇をふんわりと上げ、『淑女の微笑み』と言うのを目の当たりにした。

なんだ、ちゃんと(?)挨拶できるじゃないか。そう安堵して、口を開く。

「あ、こちらこそ」

「それでは」


くるっとワンピースが回り、お嬢様は階段を上って行った。

その華奢な背中には『話しかけるな!』と大きく書いてあるようで…。

おい、俺の話分かってぶった切っただろ。



よくよく見れば態度も、線が細すぎる体も小学生そのものだ。

それに加えてあの負けん気の強さ。どこが深窓のお嬢様だ!

と思ったら、先ほどのような大人顔負けの立ち振る舞いを見せたり、彼女のアンバランスさに、俺は目をいつまでも白黒させていた。

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