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可憐な罠  作者: さばこ
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第一話

初めまして。初心者で至らない点もあるかと思いますが、少しでも暇つぶしになれば幸いです。



“一日一善”がモットーだと言ったか、言わなかったか。


さかき 善治ぜんじ、御年二十歳。家が割と由緒ある花屋なので、とりあえず園芸学部に通う適当な大学生だ。

花や土は嫌いじゃない。でも命かけてまでやるかって言われると困る、そんな感じ。

このままいけば、多分家を継ぐのだろう。就職難と言われるご時世だからそれもありかな。


親父が聞いたらはったおされるようなことを、夏の夜長につらつらと考えていた。







今日も焼けるような日差しだ。蝉の合唱も嫌になるくらい耳につく。

どうせ同じだ、と言う俺の言葉に絶対耳を貸さない妹の善美よしみは、今日も甲斐甲斐しく日焼け止めを体中に塗っている。

「おーい、善美サン。白粉おしろいその辺にしてワコの餌やって」

「うっせ!ニート」

「阿呆、学生だコラ」

「チャラ男はニートと一緒だい」

「なんだと?このスポーツ刈りのどこがチャラいんじゃい」


持ってたジョウロから水がこぼれないように、慎重に振り替返ると、もう妹の姿はなかった。

何だってこんな酷い扱いを受けなきゃいけないのだ。

大声で抗議したいが、うちの大黒柱が女に甘いので泣く泣く我慢するしかない。





「親父、朝飯」

広い背中を小さく丸めて、遺影を見つめる父に声をかける。

今日は母の月命日だ。振り返った親父の目は真っ赤で、いつになっても変わらないとため息をついた。


「おお、善。悪いな。もう5年と8カ月が経ったと思うと」

ぐすん、と大きく鼻を鳴らす。

「ああもう、うるせーな!記念日みたいに数えてんじゃねーよ」

母が亡くなって5年。お兄、お兄と纏わりついていた妹もすっかり思春期を迎えました。




家族揃って、朝食をかき込む。朝の当番は俺で、夜は善美。休日は親父という仕組みになっている。

「お兄、これ美味しい」

見事な半熟オムレツに庭のバジルを混ぜた、得意の一品だ。

「おう、美味いか。もっと食え」

「お父さん!だから太るの!どうにかして」

「こら、善。美味い飯もほどほどにしろ」

「俺の所為かよ?!」

いつもの嘆きにワコも元気よく「ワン!」と返事をする。まるで『元気出せよ』とでも言うように…。




まぁこれが、母がいなくなってからの朝の風景だ。

善美はそのまま駆け足で学校へ向かう。陸上部は朝錬が大変らしい。

俺も片付けもそこそこに、大学に行く準備を始めた。


「善、お前今夏休みだろ」

親父に声をかけられる。何故行くんだ、という含みを持っているように聞こえたので答える。

「ああ、畑見に行くんだよ」

大学の植物を栽培しているビニールハウスは、膨大な広さなので、そう呼んでいる。



「お前、それ今日から休め」

「はぁ?」

「仕事だ。ついてこい」


決めたことに有無を言わさないのが親父だ。いくら反論したところで、一向に聞く耳はもたず(父娘そっくりだな!)引きずられてトラックに乗せられた。


「おいおい店はどうすんだよ」


母がいた頃は、花屋として今の倍稼働していた。フラワーコーディネーターの顔を持つ母がいなくなった今は、店も半分ほどに収めている。親父は元々は植木職人で、傍らに造園業も営んでいたのだが、同じく今はお得意様専用になっている。

よって家族とパートの井出さんだけでシフトを何とかこなしているのだ。

いくら何でも、井出さんだけに押し付けるのはどうかと抗議した。


「今日から2週間は休みだ」

「ええ?!」


初めてのことに驚きを隠せない。


「ど、どんな大型な仕事引き受けたんだよ…」

答えが全く読めず、恐る恐る聞くと、親父はあっさり言い放った。



「馴染みの屋敷の一掃整備だ」








それ、二人で出来んの?!




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