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神様の学校  作者: 村井
3月
1/5

プロローグ

これは、一体何だ?何が起きているんだ?

ほぼ、現実逃避に走る思考を何とか現実に戻す為に、鵜川 勇希は頭を振って目を瞑った。

勇希がいるのは閑静な、付近に誰もいない住宅街だ。

夕方過ぎで暗くなっている時刻だというのに、近隣の住宅に光が灯っていないが、ただの住宅街だ。

勇希は自分にそう刷り込むと、薄く目を開けた。

恐る恐るといった様に、だんだん目を開けていくと、大きく見開いた。


「………」

「………」


やはり、いる。

勇希は、大きく溜息を吐いた。

何度見ても、彼女は確かにそこにいた。

見間違いだったらだったで、そんな白昼夢を見る程自分は夢見がちな人間だったのか、と多少落ち込むだろうが、その方が何倍もマシだ。

夢であれば、覚めれば終わる。これも、終わる類であればいいのだが。

いっそ見なかった事にして横を通り過ぎようかと、勇希は少女から不自然にならないように目を逸らして地面を見ると、少女を無視して歩きだした。

少女は特に何も言わずに、無表情でそれを見送る。


…見送った。

少女は何もせずに勇希を見ただけ、であったはずだ。

しかし、勇希は少女を追い越して歩いてから、一切その場を動けていなかった。

確かに歩いているはずなのだが、それが足踏みになってしまっている。

勇希は前に進もう、という意志を持って足を運んでいる。

いくらなんでも、歩くことが出来ないという事は無いだろう。

それに動じる事は無く、最後にゆっくりと一度、明確な命令で持って前に足を置いた。置こうとした。

やはり、それは失敗に終わる。


勇希は、再度溜息を落とした。

今日は厄日か何かだっただろうか。

朝にチラッと見たはずの、ニュース番組の星座占いで自分の星座の順位を思い出そうとしてみる。

…何位かまでは覚えていなかった。

確か、良くもなく悪くも無く。

1位や最下位というものは意外と覚えているものだから、実際に中間程度の順位だったのだろう。

今日を厄日というのであれば、自分より下の星座の奴等は、一体どんな酷い目に合っているのだろう。合っているはずだ。

たかがテレビ番組の星座占いで判断しようとは思わないが、順位が中間だったからといって、もしかしたら、という予感を忘れるな、というお節介な、有難迷惑な親切なのかもしれない。

どこからの、と自然と自分で考てみると、即座に目の前の少女に直結する答えが返ってきたので、その考えは直ぐに廃棄処分することになったけれど。

勇希は、短い間に本日3度目になる溜息を零した。


「…溜息、ショック」

「………喋れるのか」


頭上から聞こえてきた声に、勇希は少し目を見開いた。本人から言われた訳ではないが、いや、本人が何も言わないからこそ、勇希は少女を喋れないと思っていたのだ。

もしくは、感情が無いか。

少女は先程から一切表情を変えていない。

感情が無いと言われても、勇希は恐らく驚かなかっただろう。

まあ、勇希もそこまで表情豊かに変えている訳ではないのだが。


「喋れる。感情もある」

「…人の気持ちでも読めたりするのか?」

「まさか」

「じゃあ、なんで俺の考えている事が分かったんだ?」

「よく言われるから」


質問にだけ答えていく様は、感情があるようには思えない。

それでも普通に喋っているのだから、何も感じない少女という訳ではないのだろう。

勇希が小さく苦笑いを浮かべると、少女はこころなしかしょんぼりと俯いた。


「…よく言われる」


小さく呟く。

先程から端的に、質問にしか答えない様子から考えると、もう一度自分の答えを繰り返す動作は少し変だ。

恐らく、自分に何か伝えたい事があるのだろう。

暫く間をおいて、少女の意図を考えてみる。

そして、まさかな、と思いながらも、少女の淋しげに見えないことも無い無表情を見上げた。


「別に、無表情とかいう事は無いと…、思うぞ?」

「そっか」


少女は依然として無表情のままで頷いた。

どうやら、勇希の選択は間違っていなかったらしい。

無表情、と言われることは、少女にとってある程度嫌なことではあるようだ。

特に嬉しそうにもしていないところを見ると、やはり感情が無いと思われても仕方がないと思うのだが。

少女が真剣にやっているのか、自分をからかっているだけなのか、勇希には判断が付かなかった。


「いや、それよりも。アンタ、一体何なんだ?」

「何、って?」

「何でそんな羽根があって、空に浮いてるんだ?」

「羽根も、空に浮いてる理由も知らない。生まれた時からだから」

「いや、自分の体のことだろ?」

「興味無い」

「興味ない、って…」


少女の3対の、純白の翼を見た。

少女は天使の姿をしていた。背中には羽根が生えている。頭に天使の輪は無いが、それでも羽根があるだけで天使像としては十分だ。

その羽根を使い、少女は宙に留まっている。バサバサという羽根の音が一切せず、翼を動かしていないことから、どうやら翼の力で空を飛んでいる訳ではないらしい。

勇希は軽く指先を動かした。

自分の体がどうして動くのか、何故地面を動けるのか。

全て理解しているとまでは言わないが、ある程度は学校で学んでいる。

天使に学校は無いのだろうか。あったとしても、何を教えているのかがまた気になる所だ。


「アンタ、天使なんだよな?」

「信じる?」


目を細めて、少女の翼を見る。

偽物には見えない。

けれど本物だと断言する事も、遠くから見ている今は難しい。


「…正直微妙、だな。今現在、宙に浮いて、背中に翼が生えている事は分かるが、それがトリックじゃない保障も無いだろう?アンタが天使と言った所で、信じる事は難しい」

「触る?」

「……は?」

「羽根」


言うが早いか、少女は地面に降り立った。

そしてそのまま勇希に背中を向ける。


「………」


確かに、勇希は少女の翼に触りたいとは思っていた。

それを言ったらセクハラな上にロリコン疑惑をかけられそうだったから何も言わなかっただけで。

金色の、肩にかかる程度の髪から、うなじが覗く。

少女は金髪碧眼の、明らかに日本人では無い容姿をした美少女なのだ。

まだせいぜい6、7歳であろう少女の異様な色気に、勇希は『俺はロリコンでは無い、断じて無い』と言い訳の様に繰り返すと、勇希はそっと少女の翼に優しく触れた。

触られた瞬間に、少女の体が一瞬震える。


「ちょっと、びっくり」

「え、悪い!触っちゃまずかったか!?」

「突然だったから」


あぁ、そういうことか。

勇希は急いで離した手を、握ったり閉じたりを繰り返した。

確かに、触っていいと言ったものの、暫くして突然刺激が来たら、驚くものかもしれない。


「触るの、いい」

「そ、そうか。じゃあ、触るぞ」


背中越しに聞こえた声に勇希は頷くと、初めに宣言をしてから再度翼に手を伸ばした。

なんだか触る、と実際に言うのは気恥ずかしかったのだが、そのことには敢えて触れないでおく。

1つの根元から6つにわかれている内の、左側の真ん中にある翼の先に触れる。

ふわふわとしている、羽毛の様な感触、というよりも、まさに鳥の羽根のそれだ。

翼からは、1枚1枚羽根が生えている。

これは、確かに偽物の翼とは到底思えなかった。

ここまで精巧な物を作る事はほぼ不可能だろう。

翼を触らせてもらっているだけで十分なのだが、更に欲を言えば羽根の付け根の部分が見たい。

少女はゆったりとした白いワンピースを着ているのだが、何故か翼は服を突き抜けている。

その仕組みが分からないのだ。


わざわざ翼を出す度に服が破けていてはどうしようも無いし、洋服に翼の分スペースを開けていたら背中が大分開いて目の毒だろうとは思うが、余りにも都合のいい設定ではないだろうか。

天使に常識を求めても無駄な事は分かっているが、どうしても理詰めで突き詰めたくなる。

それはもう勇希の性分なのだ。

今更それをどうこう言われても治し様が無い。

勇希は大きく溜息を吐いた。

それを指摘しても、先程の様に知らない、という発言が返ってくるだろう事は目に見えている。

勇希は溜息を吐いた後で、ハッと我に返ると、恐る恐る少女を見やった。

表情は変わっていない。

しかし、どこかしょんぼりと落ち込んでいる気がするのは、勇希の思い違いでは無いだろう。


「信じられない?」

「いや、えっと…」

「方法、もう無い、から。信じられないのであれば、仕方無い、ね」


少女は俯いた。

泣き出してはいない様だが、今にも泣き出しそうだ。


「し、信じる!信じるぞ!アンタは天使、そうだよな?」

「正確には天使じゃない」


勇希が慌てて引き攣った笑顔を浮かべながら少女の顔を窺うと、少女はアッサリと顔を上げた。

表情が変わっていると思った訳では無かったが、泣きだしそうな雰囲気は霧散している。

どうやら自分はからかわれた様だ、ということを理解すると、勇希は脱力して肩を落とした。

色々と適当です。


思いっきり個人の趣味でやっていくつもりですが…。誰か楽しんでくれる人がいらっしゃったら幸いです。

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