表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生オタクの落第騎士、異世界フリースクールの院長になる  作者: 沓子
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/32

転生落第騎士と新事業




「アデル、新しい事業をやらないか」

 独り身で時間があるだろうと持ち掛けた。コイツ結局、イチャラブ本出しやがったからな。こき使っても良心は傷まない。

 侯爵が新たな土地に購入したタウンハウスに住みしょっちゅう俺の家に来てるし。



 そう、結婚を待たずに王都に屋敷を購入した。貴族としては中規模だがセキュリティは最高だ。

 二階に子どもらの個室があり、三階は書斎や執務室を設けた俺とルベルの聖域。来るけどねみんな。進展? 超忙しいんだよルベルが。帰れる日も少ないし戻れば気絶するように寝てる。大人しく待てをする俺は偉い。



 リンは従者部屋付きにしたらデーデが感涙してた。

 キースとアデル用の部屋も無論ある。父上のも一応。

 シュバルツは毎回護衛としてやって来てはタダ飯を食らう。友達だろって? はて。

 部屋は余ってるがその辺のソファで寝かす。が、気の利くメイドさん(人間)がいつも部屋を整えてしまう。居着いたらどうすんだ。



 リリサイドにはきちんとした聖職者が派遣されている。聖地巡りのスポットだという。勇者やマンガのファンに魔族が混ざってる。

 学園長たちまで来たと噂が……なんの聖地と思って行ったのかは知りたくない。

 安全な方の森に花を捧げて「バフ……」と祈る人までいるそうな。

 街限定勇者クッキーやポッポー印のキャラグッズが売れ行き好調である。



 アデルとの商談だった。絵を描いてたジョシーも呼ぶ。大規模発注するからな。

「元のタウンハウス、あのままなんだろ」

「壊すにはもったいないし金かかるしな」

「こういうの作ろう」

 屋敷をそのままお化け屋敷に、広々とした庭に劇場。資料を広げプレゼンだ!



「お化け屋敷? 劇場??」

 キースの彼女さんを見て思いついた。タカ◯ヅカやりたい。

「いきなり歌い出す? コメディ?」

「全部女がやんのか。いいじゃん」

「うん、むさい男より全然いいね」

「歌劇だよ。心情は歌で表す。そうだいいだろジョシー、ルー」

「ス、スタンレイ殿。何故私が呼ばれてこのようなナリを」

 俺に多大な借りのあるイザベルを召喚しモデルにした。レースで華やか目にした軍服を着る女子、いいと思います。

 リンが好きすぎて庭にこっそり住み着いた四天王ヴィヴィには、離れの使用人棟に部屋をやりメイドをさせている。イザベルの支度を手伝わせたらぶつくさ文句言ってたが、働かないなら強制送還だ。

 ホームレス魔族とか困るよね。

 使用人は最低限の人数でドワイエ家に紹介を受けた。秘密も貴重な品(ドラゴンの魔石とか鱗とか生原稿とか)もあるので下手なのは入れられない。

 チャリティオークションでポッポー生原稿出したらえぐい事になったんだよな。



「なんか歌って」

「歌? まあいいが」イザベルが歌い出す。

 意外にも上手いし急に振られて歌える度胸も買いだ。

「採用!」

「??」



 俺とふたりでアデルたちに見本を見せる。台本はポッポー先生のロマンス大河の一部。偶然にもヒロイン名はイザベルだ。 

「まずこうして普通に演じる。始めるぞ」

 俺の台詞からだ。

「イザベル、ここでお別れだ」

「!? わ、わ、わ、私はい嫌だ!」

 おい、凛とした女騎士役なんだぞ。スパルタでしごいてやろう。

「私は革命に身を投じる。愚王を廃し正統な血の王子殿下を生涯支えるつもりだ。あなたを幸せにはできない」

「っ、それでも! 思い続けるのは自由なはず。心は縛れない!!」

 急に良くなってきた。感情が乗ってる。よし、俺も集中だ。

「……なあジョシー、ルー」

「へたれマヌケ鈍感」

「反論できない」

「何故あのようなうつけがリン様の養父なの……」

 なんでだか悪口言われてるみたいだが放置。



「私はあなたを思い続ける。例えあなたが他の人と結ばれても、この胸の灯は消えない。永遠を愛剣に誓おう」

「………」

 イザベルの真摯な瞳と切なくも強い言葉に気圧された。

 ───天才か。マヤだ、北◯マヤがいる!! 負けないわよマヤ! 気分は亜◯お嬢様!

「……私も、あなたを愛し続けると誓う。イザベル」

 そして近づき、ここで歌を───。

「結婚前に浮気ですか」

「「!?」」

「想い続けるんだ? へー、健気なんだね。他の人と結ばれても、ねえ」

 リヒトにルベル、最悪な組み合わせが姿を現す。誤解だから!!



「お、王太子殿下、これは劇の一部で」

「そうそう!! ジョシーたちもいたし」

「やけに真剣でしたね、名前まで呼んで」

「台本に借りたおまえのマンガのヒロインだよ!」

「私のはイザベ〝ラ〟ですよ」

 あっ、キャラ名間違えるとかすごい失礼。

「お邪魔した、帰る」

「ルベル!? おまえの家はここ!!」

 


 ジルベルトの後をスタンレイが追っていく。ふたりが去り、所在なく残された四人と一魔。

「……父がすみません」

「───いえリヒト様、良かったです。打ち明けられると思わなかった気持ちを言葉にできた。たとえ演技でも愛すると言っていただけて……これで吹っ切れます」

「センセーはほんっと鈍いよなあ」

「ヘタレ間抜けだから仕方ない」

「王太子殿下しか目に入らないのでしょう。一途で、恋人として理想的ですよ」


 不器用さではスタンレイと互角だなとリヒトは思う。本当に吹っ切った顔つきなので心配はなさそうだ。

 しかし本当に父は鈍い。こちらまでイラッと来るのでまた呪おうか。



「ところで今のは?」

「ミュージカルってのやりたいんだって。全員女性キャストで」

「私も休みの日に参加したい。演技というのはいいな、歌うのも好きだ」



 これを発端とし結成された侯爵家後援リリサイド歌劇団はのちに大ブームを巻き起こす。

 作詞ハーラン・ノームコア・フォーサイス、作曲をディディエ。膨大な心の言葉を聞き続けたハリーには引き出しがたくさんあり、高位魔貴族のデーデは数百年の人生分、音楽に造詣が深い。

 キャストや裏方に魔族も採用し、華やかな魔法演出で観客の度肝を抜いた。

 マンガで根付いた〝推し〟の概念が三次元に持ち込まれ、より一層のオタク文化が花開く。リリサイド歌劇団養成校が作られ、少女の憧れとなる。

 礼儀作法にも学業にも厳しい校風だが、スターを夢見る彼女らはスパルタにも負けなかった。団員になれずとも立派な淑女へと成長した卒業生には良い縁談が来る。

 競争率は高くなる一方。



 絵の才能が開花したジョシーは舞台監督。だが劇場の隣に作られたお化け屋敷こそ本領発揮の場だ。



 壊れかけの部分を崩れないよう補強した上で必要部をまた壊した。

 外壁を火魔法で炙り、蔦を這わせる。

 アデルの部屋は内装も仕掛けも最高に怖い仕様にした。「俺の部屋が……」と呆然としたアデルだが、人気なので気を取り直す。

 絵画室も怖い。狂った画家のアトリエをモチーフにごりごり精神を削ってくる。

 当然のごとく彫刻が動く。ルートに従い歩を進めれば絵の中に続いており、絵に取り込まれそうになる。



 ここでも魔族が活躍する。様々な仕掛けや幽霊に化けたキャストは真に迫っていた。

 怖さを段階で区切り、入口を分ければ子どもでも楽しく怖がれる〝たのこわ〟コースとなる。少年らは肝試し感覚で必ず〝さいこわ〟を選択しては後悔していた。



 ジョシーとルーは怖い思いをたくさん、たくさんした。だから一番怖いのが何か、身に沁みている。



「右のボタンを押すと、あなたは助かるが大切な人が消えます。左のボタンを押すと、あなたは全ての人の記憶から消えます」



 だから〝さいこわ〟最後の脱出口にこんな選択を残した。どちらもとても怖い。けれどジョシーはいつだって迷わず左を押す。

 だって大切な人たちは、きっとまたジョシーとルーを見つけてくれる。

 肥溜めに隠れても、孤独の闇に沈んでも。



 大概は左を押すが、どちらのボタンにも救済はある。

〝過去一分間だけ、あなたは全ての人から忘れられました〟。

〝大切な人は過去一分間、この地上から消えました〟。



 ジョシーとルーは他のみんなみたいに特別じゃない。メイカーはたまたま与えられたが、すごく強い訳でもなく役立つスキルもなく、マンガも描けないし心も読めない。

 けれどスタンレイはみんなと同じようにジョシーとルーを愛している。いつもいつも鬱陶しいほどの愛を注がれているのだ。



 恥ずかしいから一生言わないけれど。〝大切な人〟で真っ先に浮かぶのが誰かなんて。

 ルーだって口にはしないが同じだ。

 いつかキースみたいに、別の大切な人ができるかも知れない。

 それでいいんだよ、と心のなかでマヌケ父様が笑っている。顔は相変わらず恐い。

 それでも大好きな笑顔はかれらの太陽だ。 

 だからもう二度とジョシーとルーは暗闇には囚われない。



 これらは全て、少しだけ先の出来事。




 ルベルの機嫌を取っていちゃついてから帰れば、お化け屋敷と歌劇団の打ち合わせが進んでた。全員で。俺の企画書で俺抜きで。キースまでいるのは何故。

 なんておそろしい子たち……!(白目)

「概算を出しておきます」

「抱えすぎだからリヒトは関わっちゃダメ」

「こんな面白い計画からハブるんですか? 虐待で訴えます」

「どこが虐待だ。逆だろ」

「では結婚後に不能になる呪いを」

「ふのう?」

「リン様、要するにせいこ」

「だから説明すんなし!! リヒト、部分的にならいい。あとリンの前でそーいうの禁止!!」

 ざわざわわちゃわちゃ、いつもの日常だ。 





「まだまだ俺から離れないでくれよ」

 賑やかな日常の真ん中で。

 聞こえないように、祈りのように呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ