転生落第騎士のこれから
───という経緯を夕食後、エグい描写と気恥ずかしい部分を除き伝えた。
騒動から一日、ドワイエ邸からヘルマンさんの邸に移動している。つまり公爵邸、めっちゃ広い。昨日と同じメンツで変わらずむさ苦しい。
朝に父上は騎士団に出勤、ルベルは王城に出向き護衛のシュバルツも従った。なのに何故戻って来たんだか。ルベルだけでいいよ。
「こんなのに子どもを教える資格はない。だから礼拝堂で暴れた」
「礼拝堂で?」
元副教会長マイヤーさんの眉がピクリと引き攣る。
「壊す気はありませんでした。ディーの、リヒトの覗き見に気づいてたからわざと乱暴に叫んだだけです。そうしたらコケて頭を打った」
「……クビになろうとあれを?」
「ああ、傭兵にでもなってこの国を、というか王室を攻め滅ぼそうかと」
「イカれてんな」
「そしてルベル関連とか、色んな記憶が歯抜けの状態で目覚めたんだ」
「それより転生だって? スタンた……、は御使いなのかい」
御使い。神の声を聞く者だ。転生の話はしばしばあり、生まれ変わるときに神と会った逸話が残っている。異世界からの転生は少ないが、総じて神と話したと語っているそうだ。
御使いではない。神には会ったり話した覚えは、───どうだろう。
「違います。マンガも料理も前世からの趣味で、普通の事務員でしたし」
「先生、あの怪談の異世界って実際にあのまんまか?」
キースが食いつく。
「全部本当。俺がいた世界だよ」
「い、行ってみたい。空飛ぶ機械に人を運ぶデンシャ? 映像が繋がり他の場所での出来事が分かる、、、女の子は足を見せて、し、下着のような服も!」
煩悩が口からダダ漏れだが本能に忠実でよろしい。アデルもうんうん頷き同意している。怪談も順次コミック化していて、異世界のは俺が描いた。女子の服装で危うく発禁になりかけた。ミニスカニーソの為に果敢に戦った俺に悔いはなし!
リヒトやジョシーに冷たい目で見られたけど。
アデルとキースのコンビは普通に少年してるのが可愛いんだよなー。
「高度な魔法を施したみたいな世界だね」
ルベルが感嘆の息をつく。みんな疑わないのか。
「不思議そうだけど、みんなきみを知ってるから。おかしな嘘はつかないって」
なんとなしに照れ臭くなり話を変えた。
「そうそう、百物語ってのがある。蝋燭を百本灯して怪談を語るんだ。ひとつ終わるごとに消して全て消えたら───、待てリヒト! 魔法は向けるな! 縄なんか出してどうすんだよ」
「どうなるのお父さん!」
「めっちゃ気になる、言えマヌケ」
「耳塞げリヒト。ジョシー、父だから! 何か、が起こるんだよ。誰にも分からない。何かが召喚されるか、話し手の誰かが消えるか。全員異世界に飛ばされ行方不明になるか。或いは何も起こらない───だがそうして帰った家は以前と同じ家か、周囲は同じ人間か。右利きの筈の家族が左利きになってやしないか。仲が良かった筈の友人がただの知人になってはいないか。少しだけずれた世界に行っているかも知れないんだ」
「……こわい」
やば、リンが泣きそう!
「おのれ、よくもリーンハルト様を!!」
「うるさいデーデ」
「すみません!!」
「ぼくは今がいい。お父さんやみんなが違ったら泣いちゃう。こわいからぜったい百物語はしない!!」
「んじゃ希望者でやりたい!」
「アデル、みんなだめ。ぜったい! に!」
おお、魔王の威圧。
「……わ、わか、った」
いかん、空気変えよっ。
「そ、そうだ。あっちの俺の国は美味しい食べ物がたくさんあるぞ。ラーメンや寿司、たこ焼きにカツ丼、焼き鳥にそれから」
「食べ、こと無!!」
相変わらず食に食いつきのいいハリー。
「醤油とかソースがないとなあ、あと生で食える新鮮な魚介類。ケーキもミルフィーユ、シュークリームにフォンダンショコラに」
「だから! 食べた、事無い!!」
今度はハリーが泣きそうだ。
「父上……子どもを泣かせないでください」
「悪い……。ケーキはいくつか作れる」
「ショーユ? なら東のヤマトにあると聞いたよ。国は知っているだろう」
「えっ!? ヘルマンさん、行きたいです!!」
「馬車で二カ月だねえ」
遠っ。そんな資金はないし……。
「行ってくれば? もう誰からの襲撃もないんだし」
「いやお金が」
「口座見てる?」
「先日、代理で確認してきました」
リヒトが差し出す紙を見て言葉に詰まる。
「こ、こ、こ」
「なんだこりゃ。城と軍艦でも買うのか」
勝手に覗き込んだシュバルツが呆れ顔だ。
「印税にレシピ収益。マンガも怪談や絵本も重版を重ね海外にも翻訳されています。王国史は教科書として採用もされました」
「絵本と原作付きマンガは作画と原作で収益を分けてます。私は宰相になる前は財務が専門でしたから」
「俺、表紙と挿絵だけでえれー貰ったぞ、歩合制だとかで。依頼も来るから受けてる」
ハッ。一瞬気を失ってた。
リヒトにキース、ジョシーはいいが残りの子にお小遣いあげないと!
「リン様には魔国から予算がついておりますので。また空き時間にアクセサリー製作を受注生産されております。人気過ぎて一年待ちですよ。魔国オークションで高騰しています。私は一番に手に入れました」
そう言って胸元のブローチを大切そうに触る。
リンはすごいがやたら自慢げなデーデにイラッとする。
「ハリーは私の頼み事が多いのでこちらで出してますよ父上、具体的には私の収入から三割ほど」
……リヒトの情報網の大部分を背負ってるなこれ。だから普段喋るのが億劫なんだ。休ませながらで頼むよ。
リヒトはキャラグッズに舞台化の収益もあるし、俺より稼いでるんでは?
「アーサーにはドラゴン退治の褒賞が出てるから。逆鱗半分は買取したし、小さい額じゃないよ」
「え、ルベルいつの間に?? じ、じゃアデルに小遣いを」
「俺はそもそも侯爵家だぞ、小遣いに不自由はない。まあ四コマで稼いでるけど」
「え!?」
「コメディ四コマとエッセイマンガです。……父上の」
「あっこらリヒト!」
「は???」
知らん知らん!! アデルがマンガ描いてるのすら!!
「雑誌に掲載せず本にしてますからね。次は殿下との馴れ初めイチャラブでしたか」
「爆売れするだろうねえ」
「がががが、やややめろ!!」
「センセー、洗濯機はやめてくれっ!」
「スタン冷静に!」
混乱した俺にハリセンの一撃がお見舞いされた。つ、作り方教えなきゃよかっ……。
「ケーキ。早、作れ父!!!」
ハリーにハリセン。ひとりでウケたい為だけに伝授した自業自得。
「なんかすげえな色々……」
シュバルツ、だからおまえなんでシレッといんの? ルベルの護衛? うちでは不要だと思う。
気を取り直しチーズケーキとフォンダンショコラ作りまーす。アデルは後で〆るよ!
「混ぜ混ぜ~。アーサーは生クリーム泡だてて」
「はい」
「あれ、レモンの果汁だけでなく皮も丸ごとすりおろし?」
「お父さん、これこのくらい入れたほうがおいしいってぼくのカンが言ってる」
リンが言うならそうだな。しっかりやれよデーデ。
「おい食うなら卵白泡立てろ情報屋」
「旧友に厳しくねえ? 俺も陰に日向に殿下助けてたんだぞー」
「それが仕事だろうが」
「てかさっきの話じゃ俺が騎士になった後も名前うろ覚えだったんだな? 薄情者」
「うるせえ」
「寡黙だと思ってたのに、シュバルツよく喋るんだね」
こいつは話し過ぎてボロを出さないよう仕事中は無口になるだけだよ、ルベル。
「チョコケーキの中にショコラ!? 背徳的ですねえ」
ヘルマンさんの目がキラキラしている。今度チョコレートファウンテンやるかな。
……俺たちの結婚パーティーとかで。
「い、匂い、はや……」
「すごい。羨ましいなあ。私も王宮で食べられたらいいのに」
「ルベル、届ける?」
「ん?」
「デーデが転移できる。ぼくはまだ未熟だから多分お城壊しちゃう。魔王城壊した」
「みんな喜んでいました! なんて魔力なんだろうと。リン様の壊した瓦礫が土産として大人気です」
「魔国大丈夫か」
「何がです?」
「いや、分からないならいい」
リンは魔王にしてアイドルだな。
「まあなんだ。結婚したら王都の外れに家買うか」
「けっ───」
こらルベル単語だけで赤面すんなしそんなんでやってけるのか王様チクショー恥ずい!
「師匠とセンセーまさかまだ……」
「二十三と二十四だっけ」
「スタン、赤くなっ、……か、かわい、」
父上、いや親父! 変態的溺愛パパムーブやめてくれるかな!
「これからは寂しくなるねえ、マイヤー君」
「使命は終えましたからお役御免では。私たちも戻りましょう」
なんの話だ?
「マイヤーは御使いなんだよ」
「ヘルマン様もでしょう。使いっ走りですよ……」
「「はああああ!?」」
五年前のある日、突如神託が降りたらしい。
『リリサイド教会に向かい、やがて集う八人の子を庇護せよ。じきに守護者が現れ彼らを護る。王兄と共にその手助けを。王国の未来が彼らにかかっていることを心するように』
働きすぎで幻聴かと思ったが、王兄ヘルマンが訪ねてきて同じ神託を受けたと知る。
王族から離籍し魔術研究に没頭していた彼は教会に話をつけた。神託の真偽は判別できるので、教会は全面協力するしかない。
廃教会になっていたリリサイドを補修し、修学院を併設すると教会長、副教会長に就いた。司祭の資格はないし取る気もなかったが一通りの作法なら分かる。
───って経緯だという。
「……父上、本当に守護者じゃないですか」
あー、まあそうなるのか。
「子ども八人て、ひとり足りないなあとずっと焦ってたが、ルーがいたからだね」
「早期退職でのんびりと思っていたのに、スタンレイ君のおかげで忙しく……現宰相にいまだ助言は求められるし」
「すみません……えーと、神官さんたちは」
「護衛ですね、騎士ですよ。治癒や結界などのそれらしき魔法が使える」
「マイヤー、スタンレイ君の収益からのきみ名義にした分はもらっておきなさい。むざむざ何もしていない教会にやることはない。事務手続きを全部したんだ」
「い、いや金額が大きすぎます!」
「リリサイドを引き払ったら契約を変えればいい。ねえ?」
「無論です。お世話になりっぱなしで。えーと、褒賞をいただいた時もお世話をかけました。できたら続けて頂ければありがたいです」
いくら感謝しても足りない。助言がなければ今頃は作るのに自分のレシピ買わされてたもんな。
「私を忘れてましたよねあなた。褒賞の望みを聞きあなたがジルベール殿下を殴った時、私はこの少年に振り回されるんではと感じたのは正しかった……」
愚痴りつつマイヤーさんの頬が少し緩んでいた。良かった、喜んでる。孫にプレゼントでもあげて下さい。
「いや待った、さっきもさらっと語ってたけど殿下殴ったのスタン」
そうですよ父上。
「イカれてるからなあ」
いや理由あるからなアデル。DVじゃない!
「教会がバックだから王妃は口出しできない。都合が良かったですよ」
ヘルマンさんたちが悪評まみれの俺を最初から受け入れてたのは神託のおかげか。
「院長、いやスタンレイ君。きみが来るとなって私は神託に確信を持った。厳しい環境でジルを護り通したきみこそ、子どもの守護者に相応しいと。きみは立派にやり遂げジルを、ひいては国をも守ってくれた。護国の英雄だよ」
「いや、結局俺は何も──、」
「しっかりしろマヌケ!」
ジョシーの喝が俺に飛ぶ。
「俺らを護ると約束してやり切った。胸を張れよヘタレ父様」
「そーそー。父さんはオレの存在も認めてくれたしなー。まだいたかったし嬉しいよ」
くそ、ルーまで。また泣かせる気か。
「……俺は勇者でも魔王でもないが、みんなが強さをくれた。英雄はおまえたちだ」
「おう! 俺ら救国の七、いや八英雄だな、プラス泣き虫落第騎士センセー」
「リンは魔王で英雄だから、まおゆうか」
「アーサー兄さんはゆうゆうですか」
「なんか響きが締まらないなあ」
「あっそれ、リヒトはなんでアーサーだけ兄呼びなんだよ。俺も敬え」
「ルーだけなら兄呼びしてますよ。ねえルー兄さん」
「おう」
「ジョシー、ガキっぽ。」
「おまえもだハリー! 兄様って呼べよ」
「ジョシーおにいちゃん、ルーおにいちゃん!」
「リンは偉い!」
「アデルも練習しとけよ」
「ん? なんだキース」
「アーサー義兄さん、ってな」
長男が茹でダコになりアデルは微妙な顔。
「俺は構わんけど、アーサーほんと姉貴でいいのか。歳上だぞ? 猫被ってんぞ? 嫁き遅れ気味だしおっかねえし他にいい子がもっといるだろ」
「アーサー限定で猫じゃない気がするぞ。きっと可愛いまんまだ、なあアーサー?」
「いやいやいやまだ何も決まってないし!」
「いいかアーサー」
俺は間に合ったが、いつもうまいこと行くとも限らない。
「手を掴めるときに掴んでおかないと後悔するぞ。俺は失いかけて死ぬほど悔やんだ」
今度はルベルが真っ赤だ。
「………捕まえてくれてありがとう」
「ルベル、ルベルもお泊まりしよう! 枕なげてからお父さんを喜ばすの」
「よっ、悦ばせる!? いやそれはさすがに子どもの前ではっ」
あ、ルベルの知能指数が低下しまくってる。
「リン、今日はみんなでシュバルツおじさんをあれで歓迎しようか」
「おじっ……、同い年だろうが!」
「おまえ老け顔だから」
存分に子どもらに可愛がられるがいい。




