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転生オタクの落第騎士、異世界フリースクールの院長になる  作者: 沓子
第三章

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転生落第騎士のこれまで



 どうしてこうなったんだ。

 見知らぬ教会の一室でかれは途方に暮れていた。



 かれが転生に気づいたのは幼い頃だ。漫画を描けないのは残念に思ったが、今世では剣の才能があったのでそちらに夢中になった。

 転生デビューという感じで言葉遣いも男らしくし、憧れていたかっこいいイメージを実現してみた。

 そうすると友達が作りにくくなる。平凡だった前世では容易かったが、今のスタンレイは顔が怖い。表情筋が仕事しないのは母譲りらしい。鏡で練習をしても、笑顔で睨んでい

るようにしか見えず断念した。



 学園に入学する事になり入寮初日、同室者とうまくやれるのかと緊張していた彼は簡単なトラップに引っ掛かる。

 ドアを開けたら顔にカエルが張り付いてきたのだ。

 大笑いする同室者をまずアイアンクローした。

「カエルにゃ微毒があんだよ! 腹壊したらどうしてくれる!!」

「痛い痛いごめん、ごめんって!!」



 手を離してみたらすごく綺麗な少年がいた。涙目なので可愛らしくもある。

「ジルベルト殿下?」

 それが出逢いだった。



 付き合いが長くなると王族の内情が見えてきて、ジルベルトの危険を防ぐのが増えた。

 ジルベルトは自身を軽んじている。それが何故かスタンレイの心をじりじりと灼く。



「何故あれを褒賞に望んだのかね」

 ジルベルトを殴ったあと、陛下とふたりきりにされた時に問われ正直に答えた。

 ルベルが自分を犠牲にしようとするのが許せなかった、と。 

「犠牲にとは……、そうか。今回の一件も聞いているのとは違うのだな」


 当たり前だろと口に出さず毒づく。この王は見たくないことは見ずにやり過ごし、解決した気になる種類の人間だ。面と向かって言われないと気づかない、否、気づこうとしない。結果として良識ある者は損を、声デカ非常識が得をする。

 とにかく波風立てたくない系、穏やかな賢王の皮を被った愚者。内臓をじわじわ腐らせる病原体だとスタンレイは思っている。



「私が諌めれば王妃には逆効果だ。ジルには苦労をかけてしまっている……」

「俺が護ります」

 陛下を詰りたかった。大事な息子を守れよと叫びたかった。

 だが叫んだ所で何も変わらない。



 そうして頑張り続けたがうまく行かない。魔術学校へ進んだジルベルトとは離れざるを得ず、陰で囁かれる噂に苛立つだけ。

 また毒を盛られたらしい、こそこそと遊び回っている、侍女をすぐ首にする我儘な王子だ、狩場で危なかったらしい。

 侍女は王妃の回し者だったし遊び歩く余裕なんてない。そんな真似をしていたら暗殺者が狙い放題だ。

 虚実交わるなかで中傷めいたものにはひとつずつ反論したが、鼻で笑われ終わりだ。

 子爵家ごとき何が分かる、と。



 少しずつ溜まったものがかれを蝕む。ケンカが増えた。自分は何を言われても構わないが父とルベルのことは別だ。



 気づいた時には騎士の資格は到底望めない有様だった。実技も筆記も優秀だが素行点が悪すぎる。それでもなんとか見習いまでは漕ぎつけた。飼い殺しのような状態で、後輩が次々に騎士となる姿を見つめながら。

 休みにはあちこちに魔獣を狩りに行き鍛錬の代わりにした。

 騎士団から抜けたあと一年ほど、あてもなく放浪しながらそれをやり続けた。





「……紅の守護者」

 俺の語りの途中でシュバルツが呟いた。

「なんだそれ」

「おまえさ、ついでみたいに盗賊団潰したり旅人や村を助けてない?」

「あー、そんな事もあったか」

 うんうんと一人納得顔だ。

「噂になってましたね。冒険者や村人を助け名乗らず去っていく赤い髪の男。いつしか人はかれを紅の守護者、そう呼ぶようになりました」

 リヒトの情報収集力おかしいな。これはハリー関係なさそうな話だし。しかしなんだその厨二感溢れる二つ名。



「いやースタンレイだったのか! 劇にもなっているぞ。それによればどうやらおまえは亡国の王子らしい! 荒んだ目つきが亡き国を憂いているとか!」

 ゲラゲラ笑うシュバルツの後頭部をスパンと叩けば大袈裟に痛がっている。



「お父さんカッコいい!!」

「さすが僕らの父さんですね」

 純粋で可愛い末っ子と長男に褒められて悪い気はしない。

「……くっ、紅の守護者、ぷぷぷ」

「に、似合わねえ、うひひっ」

 なんか文句あるかアデルとジョシーよ。キースとルーと、お前らの違いはそこだぞ。

 思っても言わない賢さがお前たちにはないんだよ!



「なぜ名乗らないんですか」

「いや恥ずかしいし」

「そのせいでより恥ずかしくなってますね。『紅の守護者』様」

 仰る通り。

「漫画化の依頼が来ていましたから、本人がいるからこちらでやると断りましょう。他と利益を分けるとか冗談じゃない、あとで詳しく聞き取りしますから。とりあえず話を続けていいです」

「……ハイ」リヒトには全然勝てないわ。

 回想入りまーす。

  



「おまえを煽っていたのは第二と第三王子の関係者だ。講師にもいたな。ジルベルト殿下と引き離すために騎士への道を閉ざそうとした。おまえクソ強いもんな」

 お節介で情報通な元見習い仲間の話に耳を傾ける。進退極まってからやっとそうする気分になった。たしかスタイナーという男だったか。一足もふた足も先に騎士になっていた。

 今ではよく分かる。そんな企みに乗った自分を殴りたい。

「……でもまあ、護衛騎士になるのも辛いぞ。王妃は殿下の芽を摘むために男を伴侶に宛う気だ」

「!?、な、……んだそれ、」

「あの見た目だ、欲しがるオヤジが多いんだよ。あの女に都合のいい、金払いのいい奴になるだろう。第一候補はプラント子爵だ」

 目眩がしてくる。美しい男が好きで壊れるまで調教するという悪評持ち。愛人を客に気前よく貸し出すので薄暗いコネクションがある。男娼紛いとなったルベルが王となるのは絶望的だ。

 売るのか、ルベルを。



「───スタン、顔で人が殺せそうだぞ」

「ああ、あのオバサンを暗殺する方法を考えてた」

「本当に止めろ!? さすがに陛下が食い止めている。余計なことはするなよ」

「あの人は最後は流されるんだよ。俺は陛下を信用していない。ルベルの助けになるのは隠棲してる王兄殿下だ」



 今は何をしているか不明、そもそも昔から人前にほぼ出ない。なんでこの王家は優秀な人ほど身を引くのか理解不能だと苦々しく思う。



「婚姻が実行されたら俺は奴を連れて逃げる。ついでに王宮に嫌がらせでもするか」

「だからー、怖いこと言わないでくれ!」



 足掻いて足掻いても、できるのはその場で守るだけだった。今ではそれすら叶わない。殺意を抱くほど王妃を、ひとを憎むのが初めてで心が軋んで止まない。

 ルベルの中傷に怒りを抑えられず結局はかれの評判を落とす羽目に陥った。

 いっそ全て忘れたいとも願った。



 リリサイドに送られたのはそんな折だった。そしてルベルへの気持ちを忘れ、初めて転生を思い出した気になっていた。




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