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転生オタクの落第騎士、異世界フリースクールの院長になる  作者: 沓子
第三章

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22/32

3ー8

 



 議会の開かれる日、運命の分かれ道だ。俺たちは乱入して婚約をぶっ壊しルベルを王にする。打ち合わせは入念にした。

 ギルの様子がずっとおかしいがキングメイカーの覚醒に関わるかも知れないのでそっとしておく。間に合うといいんだが。

 俺もいまだに迷っていた。こんな状態で婚姻を止めるようルベルを説得できるだろうか。衆人環視のなかで拒否されたらもうなす術はない。



 俺を好きだというルベルに答えを返せなかった。俺もスタンも確かにあいつが好きだ。

 けれど「今の俺」が応えてしまっていいのか。

 以前と今の自分が同じか確信できないせいで、スタンの想い人を取ってしまうような気分になる。それ以前に、俺の気持ちは本当に俺のか?

 スタンの感情と混ぜこぜになっているのではないか。

 自信がない。友人としての助けは拒絶された。このままだとまた拒まれるしかない気がする。

 どうしたら───。




「スタンレイ」

 議場の扉前で立ち尽くしていると、いつもの声に常と違う呼び方をされ戸惑いながら振り向く。

「どうした、ハリー」

「スタンレイでもスタンでも。ハリーでもハーランでも」

「うん」

「同じ」

「!!」

「スタンはスタン。ここに固まったのがあるだけ」

 ハリーが俺の額に指をあてると、何かが弾けたような気がした。




 思い出した。




 俺は昔から前世記憶を持っていた。剣の腕があり少々いい気になった。日本の倫理観が通用しないことに憤りを感じた。大体はルベルについてだ。笑いながら独り耐えるあいつを見るのが辛かった。

 王位に就かせないため、本人の意思とは関係なく将来男と娶せられると知り絶望した。

 もちろん相手は俺じゃない。

 自棄になりケンカも増えた。



 叶わないなら忘れてしまいたい。

 転生したてに戻りたい。心が折れる前の自分に。そうしたら想いを忘れて良い友人でいられる。純粋に友達として助けになれる。



 そうしてルベルへの気持ちに関わることを綺麗に封印した俺は、自分を自分と思えなくなっていた。

 ただ素行の悪い、騎士になれないスタンレイを他人のような気持ちで俯瞰していた。どんな気持ちでそうなったか、自身の思いを知りもせず。



 忘れてた、俺が忘れてたんだ。

 俺はずっとスタンだった。



 だからこの気持ちも俺のもの。騎士を志したのは父に憧れたから。

 騎士になりたいと願ったのはただひとりのため。

 もう迷いはない。

「ハリー、ありがとう。おまえはすごい」

「ん。ポトト付きオムライスで。」

 ぶれないな。

 見回せば頼もしい子どもたち全員の姿。笑いながら、緊張しながら、頷きながら俺を励ましている。

 俺も力強く頷き返す。

「手筈通りにな。みんな無事に終わらせよう」

 みんなに助けられてばかりだが、そんなところも落第騎士らしくていいじゃないか。

 さあ、乗り込もう!




「異議がないようですのでこの婚約を承認し、続けて婚姻手続きを───」

「異議あり!!!」

 バン! と派手に音を立てて入場した。

「スタンレイ!?」

「待たせてごめんな」



 ずかずかと歩み寄り、プラントをルベルから引っぺがして転がした。

「な、な、何を!!」

 喚く罪人は無視しルベルに向き直る。



「俺は! 怪我した俺に取りすがり泣きじゃくるおまえを見て! もう絶対泣かせないくらい強くなって護ろうと騎士を目指したんだ!!」

 鳩が豆鉄砲を食らったような間抜けた顔。そんなのも愛しく感じてしまう。

 目指したものは父の背中だけじゃない。すごくシンプルな感情。

 好きなやつをこの手で護りたい。



「そ、そんな誤解を招く台詞やめよう?」

「王子様とどうこうなんて考えてない、せめてそばに居たかっただけだ」

「だから紛らわしい! やめてくれ……」

 かぶりを振り後ずさるのも構わず、しっかりと掴まえてずっと秘めていた想いを口にする。

「愛してる、ルベル」

「………!!」



「……、リン、スタンが泣かせる……、」

 近くに来たリンに泣きそうな顔を向けるルベルが可愛い。

「泣かないでジル」

「とても感動しました父上。ところでここはどこかお分かりですか」



 はいディーくん、議会の最中ですね。ど真ん中にルベルと変態がいて注目の的でした。裁判所の被告席みたいなとこ。

 集まる視線に今更気づいて腕から逃れようとするルベルをしっかりと抱き直す。



 結婚に関して出来レースの多数決で審議が通る寸前だった。その後婚姻届もここで出し、変態はルベルをお持ち帰りする気でいた。変態仲間を連れてパーティーを開く予定で。全員のあそこを切り落としてやろうか。

 何も知らない貴族の皆さんが呆気に取られている。むしゃくしゃしてやった。後悔は後でする。

 変態には沈黙の魔法がかけられ転がされてた。フゴフゴと豚みたいだ。

「全くもう。こいつが殿下に隷属を発動しかけてたんですよ。慌てて魔法をかけたんです」

「ディー先生、助かります」ありがとな。

 でもルベルにちゃんと伝えないとだめだったから、、いえ、ごめんなさい。

 アーサーがルベルの首輪に手を当てるとぱりんと砕け散った。

「え!? これプラントにしか、───ああそうか」

 勇者の光魔法なら、とルベルが呟く。豚は驚愕の表情をしている。

 さあ、これからだ。覚悟を決めて議場を見渡し名乗りをあげる。




「スタンレイ・フォーサイスだ。俺には六人の子がいる。この婚姻はその子らを人質に交わされたものだ。命を助ける代わりに殿下は我が身を犠牲にしようとした」



 しっかりと王妃を見つめ言い放つ。俺の凶悪顔の本領発揮だ。

 強張った表情だが踏ん張っている。震えているが。ホント怖いからなこの顔は。



「子の誰にも継承権を与えないと誓約するから殿下との婚姻を認めてほしい」

 ルベルが息を呑む音が聞こえる。抱き締める腕に更に力を込める。



 一拍置いてからざわりと人が話し出す内容にコケそうになった。

「なんと! マンガ伝道師のあの人か!」

「彼のマンガも良いが、私はポッポー氏の作品が」

「教えたのがフォーサイスらしい。彼なしではポッポーもマキナもマンガ文化もない!」

「マンガは分からんがレシピは素晴らしい」

「ハンバーグ、カレー、……いかん腹が」

「マンガ王国史で息子が歴史好きに」

「怪談怖かった……」

「感動もしたがとにかく怖いな」

「実録マンガによれば養子を溺愛する愉快な人物だとか」

「え、で、殿下とフォーサイス……? これは夢?……わたくしの昔からの推し、、ゴホン!」



 最後の声は公平だが超厳しい学園長のミス・バーバラでは? なんかうっとりしてないか。その節はお世話になりました。

 あと実録マンガってなんだ。



 そんななかディーがすっと進み出る。途端に静かになり注目を集めるのはやはり統べるものの血筋だ。

「お集まりの皆様、私は三男……、いや四男のディートリヒト・フォーサイス。離籍しましたが前王の庶子でした」

 驚きの声が議場を埋める。

 存在は囁かれ、だが明確には語られた事がない。



 以前、ディーは言っていた。

「幽霊みたいなものです」。

 自己の存在に否定的な言葉を、たった十三の子どもが。

 俺はその時、有無を言わせる間を与えずにぐりぐり撫でて頭を抱きしめた。

 


 ディー、あの怪談覚えてるか。

『誰も彼女を覚えてはいない』。

 俺は神隠しのつもりだったけど、思いついて言ったよな。

 彼女はそこにいるけれど、誰からも忘れられて認識されないのかもなって。

 あの時のおまえの顔が忘れられない。



 いるのにいないとされ、いないのに命を狙われる。忘れられ、不要とされて邪魔にされる。

 ふざけんな、だ。おまえは言っていい。

 ふざけるな、俺は生きてここにいると。




「今の私はエヴァランド・ポッポーとして知られています」



 うぉおお!? と地響きみたいな歓声が上がった。


「ポ、ポッポー先生!? す、すきっ」

「大河ロマンとミステリーマンガで大人気の!」

「次々舞台化されチケットも取れない」

「私の娘がよんこま? に夢中だ。ぬいぐるみを集めている」

「サイン、サインを貰わないとっ」

「次の本はいつなんだ」

「こんなところで会えるなんて! あいつに自慢してやる」

「あんな少年が、あの素晴らしい物語を!?」

「わたしには分かる。あれは年下攻め」



 庶子カミングアウトより驚きと感動の声がでかい。

 ちょいちょい貴腐人が混ざるのなんでや。



「左様、私は自分の人生を選び取りました。元より王位に興味はありません。皆さんに物語をお届けするのが私の仕事であり楽しみです。───しかし、執筆の妨げになるのは家族の憂い。日常の平穏なしには描けません。私は私のためにも父の幸せを願います」 



 立派だ、四男。よく言った。

 言い終えるとディーは後ろにいたキースにひとつ頷き下がる。代わりにキースが前に出た。



「お俺、いやわたしはキース・ラヴィアン。ペンネームはデウスエクス・マキナ。養子ではないがスタンレイ氏を兄と、師と思っている」



「俺犬のマンガ作家!?」

「犬の話をマンガにした作家か……娘にせがまれて似た犬を探し回らされた」

「それぞれの道を選んだ元恋人が十年後に再会する話も良かった。結ばれないからこそ美しい思い出はわしにも───、」

「老いた元敵兵同士の語らいの話が沁みた」

「旧戦地を訪れた時、戦友の亡骸のあった場所を子どもが駆け抜けていく場面……読んだ時の感情をなんと言えば……、」

「こんなに美しい少年だったのか」

「えっマンガ作家同士で妄想できそ、ゲホゲホ」



 ミス・バーバラと同じ沼に棲息するご腐人がた、気が散るのでやめてもらえます?



 キースは叙情派で派手さはないが味わい深い良さがある。デトックスできる感じ。

 デウスエクスマキナ、この世界にはない言葉。語源を教えたら面白がってペンネームにしたのだ。

 キースのマンガは機械仕掛けの神がご都合主義で終わらせてしまうような話じゃない。

 人の心のひだをそっと撫ぜるような繊細な物語だ。

 それはキース、おまえにしか描けない物語。ディーにはディーの、俺には俺の。



「私からも願い出ます。先生に教えを受けたマンガ作家デウスエクス・マキナとして、また、ラヴィアン伯爵家当主として」



 そして次に、キースの代わりに出たのは予定外の長男。え、アーサー? 何するんだ。



「……僕は長男アーサー・フォーサイス、天啓を受けた勇者です。鑑定をお持ちの方は確認をしてください」

「アーサー!?」

 おまえは隠し通すんだったろ!?



 どよめきは殆ど悲鳴に近い。生ける伝説だ。



「ドラゴンスレイヤー!!! かれは勇者にしてスレイヤーだっ」

「あんな子どもが!?」

「あの首にかけてるのは、げ、逆鱗か!」

「……長生きはするもんだな」

「本当に? まさか……」

「なんて事だ。なんて日だ……」

「勇者───受けも攻めもできそうな正統派」

「あれは受ですミス・エヴァ」

「両刀で」

「……あなた方とは話し合いが必要ですね。譲れないものがあります」



 最後のは聞こえなかった。俺は何も聞いてないんだ。学園のオールドミ……、いにしえの乙女たちが腐だなんて気づかない。



 見れば子どもが全員、よく見えるようドラゴンのチャームを首から下げている。

 アーサー、家族を、俺を助けるためにバラしたのか。

 あの怖がりな子が。

 頑張って少しずつ成長して。



「時が来れば僕は使命を果たすつもりです。僕からもお願いします。大切な父さんの幸せを、どうか見守ってください」

「魔王が暴れたら俺ももちろん行くぞアーサー!」

 たまらず叫ぶ。

「ん」親指を立てるハリー。

「俺も。ルーと一緒に弟とマヌケ父様を守る。なあルー」

「任せろ弟」

「ぼくも!」

「え? おいリン、おま───」

「しいっ! 黙れアデル」

「あ、すまん」

 何かおかしなやり取りがあったような。

「当然私も参加します。養子ではない二名も行きたがるでしょう。フォーサイスはファミリーにして最強の勇者パーティーです」

 ディーに向けて場違いな大声が、と思ったら父上!?

「私! 私も仲間に入れてディー君! 家族だからね、私は回復魔法使えるから!」

 父上……。



「その時は私も着いていく」

「ルベル」

「家族旅行だろう」

「いや魔王討伐」

「大丈夫ですよ父上。魔王とは闘うことになりません」とディー。

「そんなの分からないだろ」

「だって、ーーーだから、」

 何かを呟いたが声量を落としたので聞こえない。



 どよめく場内にルベルの声が落とされた。

「私は、王になろうと思う」

 そっと俺の胸を押して離れ、観衆に向き直る。静かな声だった。赤くなった目からはもう涙は流れていない。



「幸い、伯父上には優秀な子息がおられる。次はかれが相応しい。その子が成人するまでの繋ぎの王になりたい。ついさっきまでは全てを諦めていた。けれどこうしてかれが、スタンレイが来てくれて───、もう一度だけ足掻こうと思った」

 眼に力が戻ってる。ルベル、格好いいな。思い切り抱き締めたいけど我慢するよ。



「弟たちは力不足だ。民のために身を粉にして働くと誓う。だから、だから……愛する人と共にいる権利だけはくれないか。他には何も望まない」

「何を! なにを馬鹿なことを!! 神聖な議会を侮辱するのですか!!」

「王妃殿下、あなたに何度も何度も殺されかけた。信頼する側近も愛馬も、全部あなたに奪われた! 自分さえ我慢すればとプラントとの婚姻を承諾したがもうやめだ。あなたの言いなりにはならない!」

「その者らを牢に! 早く、だれか!!」



「やっと準備できた」

 戸惑いながらも騎士が動き出そうとした時だった。



『当代キングメイカー、ジョシュア・ハミルトン・フォーサイスが命じる。第一王子ジルベルトを次代の王と定めよ。その道に光あれかし』



「!?!??」

「キング、メイカー、だと!?」

「伝説に過ぎないと、、、」

「なんの話だ?」

「知らない言語なのに意味が解る……?」

「フォーサイス、、彼も養子なのか!?」

「次代の!? どういうことなんだ」

 不思議な聞き覚えのない言語なのに、意味がはっきり伝わってくる。

 ジョシュア・ハミルトンはギルの本名だ。



『また、これ以降ガーランドにこの称号は齎されることはない。彼らの非道は人が裁くべし。次代のキングメイカーは無辜なる者に継がれるであろう。かの者傷つけるなかれ、支配するなかれ。かの者が王を指名するのを妨げるなかれ。さすれば国は栄える。破る者は叛逆者とせよ。ガーランドに葬られしキングメイカーたちに祈りを。刻印されし罪人に報いを』



 ギルが腕を一振りすると、一族の人間の頬にくっきりとした痣ができた。痛みはないのか互いの痣に驚きながら当人たちは戸惑っている。

 およそ十名に徴が刻まれた。ここにいない者でも、罪あるなら同じ徴がつけられているに違いない。



 神は腐敗を憂いて本家を外し継承させてきたんじゃないか。だが最悪な形で裏切ったのは本家の人間だ。



『ジルが王になるのは神様の意思な。他にお薦め候補がリストにない。正確にはもう二人いるが幼いから選べないのが一名。これ次代っぽい。もう一名は全くその気がない』


 えっ、リスト??


『本家の奴らが真のメイカー殺して指名権を奪いとってたから、王選びも歪んだって神様怒ってる。リスト見れない奴らが勝手に選んだから正しくない王が何人もいたって。ジルが王にならないとこの国はいずれ滅びるよ。俺が家族全員殺されたから言うんじゃない。神が言ってる』




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