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転生オタクの落第騎士、異世界フリースクールの院長になる  作者: 沓子
第三章

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3ー7




 邸の裏手、建物から離れた場所にある雑木林にリンとデーデはいた。



「みんな、苦しくて悔しかったね。早く生まれ変わっておいで。ぼくはリン───、リーンハルト。仇は取るよ」

〝おお、リーンハルト様!〟

〝迎えに来てくださるとは〟

〝素晴らしい魔力……、〟

〝なるべく早くお側に参ります〟

〝リンさま、とっても嫌なことされてすごくすごく嫌だったよ。それからママに殺されたの。ママは泣いて嫌がってたのにかわいそう。また生まれるのこわいよ〟



 リンの魔力が一段と高まる。



〝わあ、リンさまの魔力気持ちいい。リンさまがいれば怖くないね〟

「うん、大丈夫。悪いやつはぼくがやっつけるからみんなは安心して。よく眠って元気がでたら目を覚ましてね」

〝うん!〟

〝お目もじできる日を心待ちにしております〟

「人間全部が悪いひとじゃないから。ぼくのお父さんになってくれたひとはすごく優しくてぼくを大切にしてくれるんだ。いっしょに悪いやつへ仕返ししてくれるよ」

〝リーンハルト様を大事にして下さるなら人間でも構いません〟

〝できればお会いしたいものです。ああ、魂が随分と楽になりました……〟

〝ありがとうございます〟

 喜びを口にしながら霊たちが眠りにつく。




 リンとデーデは魔族の魂の共鳴により、かれらに起こった惨劇を追体験していた。

「……リン様」

「……ぼくは間に合わなかったのに。なんにもできなかった」

「違いますよ」

 デーデが優しく否定する。



「みな、リン様の言祝ぎに包まれて癒されました。じき生まれ変われます。辛い目にあった魂は通常なかなか次に行けません。かれらは今この時は幸せなのです」

「───」

 リンに流れ込んだかれらの記憶は悲惨の一言だった。

「仕返しするよ。力を貸して」

「お命じくだされば如何様にも」

「……みんなにはああ言ったけどお父さんには知られたくない。怖がられたらいやだよ」

「お言葉を返すようですが」

 珍しくデーデがリンの言葉に逆らう。

「かれはリン様がどうであれ遠ざかることはありません。リン様が望むのであれば従いますが」




「リン」

 戻ったふたりの表情が強張っている。

「……おとう、さん」

「───! だめだハリー、閉じて! 読んだらダメだ!」

 ディーが慌ててハリーに駆け寄った。ハリーは四男に任せよう。

「おいで、リン」

 リンの顔がくしゃりと歪む。駆け寄ってきたのを受け止め抱きしめた。



「……お父さんがあやつられて、ぼくを殺せって命令されたら、ぼくは抵抗できない。ぼくが命令されたらもっとやだ……、みんな、すごく苦しんでた……」


 そう言って静かに涙を流す。全身の血がぶわっと煮える気がした。あいつはそんな事までしていたのか。畜生以下の下郎が!

「……リン、そうなれば誰かが止めてくれる。ディーの拘束やキースの圧縮や。俺自身も死ぬ気で抵抗する。大丈夫だ」

「死なないで、おねがい」



 亡くなった魔族の無念はどれほどか。同じ立場に立ったなら、俺はきっと生きていられない。

 奴には死すら生温い。



「あれの始末は任せていただきます」

 表情の抜け落ちたデーデが有無を言わさぬ口調で宣言する。

「頼む。地獄を見せてやってくれ」

「得意分野です」

「まず人目があるところで罪を暴いてからだ。社会的にも殺す」



 リンが落ち着いてからデーデに任せ、エレーナをアーサーに送らせて残りの面子で邸内に踏み込もうとしていたときだった。

 中からいきなりルベルが現れ意表をつかれた。

「……スタン?」

「ルベル!!」

「───なんで来たんだ」

 意外な言葉に固まってしまう。やがてくしゃりと顔を歪めたルベルが苦しげに俺に告げた。



「私は。わたしは、───きみが好きなんだ」

「っ、───! ル、ベル?」

 哀しみに満ちた口調には苦い思いしか見られない。

「だがきみは違う。もう期待させないでくれ。こうするのが一番いい。キースとディーの心配がなくなるからギルだけの守りに徹することができる。きみからの友情は痛いんだ。もしかして、と希望を持つのはもう───」

 女言葉じゃない、素のルベルだ。違うんだルベル、俺はおまえを。

 そう言いたいのに喉に引っかかって言葉が出ない。



「助けてくれてありがとう。けど結局どうしようもない。結論を先延ばししただけだ。余計に辛いよ───きみは私を好きなんじゃない。友情から差し伸べられた手なのに、違う想いで縋るのは惨めだ」

「───せめてその首輪を、アーサーなら外せ、」

「また着けさせられるだけだから」

 そう言い残しルベルは邸内に戻って行った。



「───」

「スタン」

 その場に残り遠慮がちに声をかけてきたのは騎士養成校の同期だった。

「……シュバルツか。おまえが護衛なら当面は大丈夫だな」

「なんでおまえ、肝心なことを伝えないんだ」

「とりあえずルベルを連れて王都に戻ってくれ。プラントはしばらく帰らない」

「いざとなれば殿下を連れて逃げると言ってたくせに。後悔しても知らんぞ」

「何も知らないで口出しするな」

「───正騎士になれずともおまえはあの人の騎士であり続けると思ってたんだがな。見込み違いだったか。来週の議会で婚約と婚姻が同時に承認される」

 相変わらず耳ざとい。その家業ゆえか、おおかたの事情は把握しているようだ。



「殿下にとっての地獄の始まりだ。おまえなら、おまえたちなら覆せたのに───おまえを買い被ってたぜ、スタンレイ」



 シュバルツの捨て台詞に心を抉られる。子どもたちの気遣いと疑問の視線が痛い。

 俺がルベルを好きなのはみんな知っているから、返事を言い淀むのを不思議に思ってる筈だ。

 けれど今は何も言わないでくれ。



「───父上、帰りましょう。急いで準備しないと間に合わない」

 ディーが俯く俺の背中を押し手を引いた。

「……そうだな」

 アーサーの里帰りは取り止めるしかない。リリサイドにも帰らない。王都に向かう。

 



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