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転生オタクの落第騎士、異世界フリースクールの院長になる  作者: 沓子
第三章

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19/33

3ー5




〝ちょっと、何よこのイケメン。言ってくれてればおしゃれしたのに!〟

〝キリッとしていい男ねー〟

〝姉さんは手を出すなよ! 先生だぞ! 母上まで!〟

〝背の高い子も優しげでカッコいいわ。みんな顔面偏差値高いわね!!〟

〝歳下だからな!?〟




 長閑な家族の会話は他人には伝わらない。アデル一家だけに通じるハンドサインだからだ。

 けどなー、転生特典であろう『言語理解』が働いちゃってるんだよ。



 俺たちは今、アーサーの故郷へ向かう途中にあるドワイエ侯爵領に立ち寄っている。アデルの実家だ。

 父親は王都におり不在で兄は文官で王都住まい。領地を守る母親と姉が出迎えてくれた。ふたりとも凛とした美人だ。



「急に申し訳ありません。すぐ発ちますので」

「いいえ! 我がドワイエの流儀は〝客が降参するまで饗する皿を絶やすな〟ですの。数々の素晴らしいレシピの発案者をお迎えして料理人が大層張り切っておりますわ」

 お、おう。わんこそばかな?

「フォーサイス様は婚約なさってますの?」

「母上!」

「いえ、女性には全く好かれないもので」

「まあまあ! 王都の女性の目は節穴かしら? こんなに素敵な殿方なのに」

 勝てない。だが不快さはない。ついこの間、ひでー女に会ったばかりだから心が洗われる。



 ドワイエは侯爵家と思えない、飾らないさっぱりした気風のようだ。古い名家に時折見られる大らかな余裕がある。

「アデルの家族だなあ。思った通りのいい人たちだ」

「久々の帰宅で『この屋敷は燃やさないでちょうだいよ!』が第一声で?」

「おまえが気に病んでたらいけないから笑い話にしてるんだろ」



 「格好いい」「美形!」「野生味が素敵」「気品がある」「賢そう可愛い」「ひたすら可愛い」「みんな違うカッコよさと可愛さで眼福!」と一通り褒めちぎり母娘は楽しそうだった。

「貴族らしくねえだろ。まあ人を見てはいるよ、信頼のおける相手には腹芸なしで接するんだ」

「落第騎士なのにか」

「評判に左右されないで自分の目で確かめてる。……俺はまだまだだけど」

 少し気まずげにしているのは、最初に会った頃を思い出したからか。



「アーサー様はとても強いとお聞きしました。あの子が手紙で色々教えてくれますの」

 ティータイム、姉のエレーナがアーサーにガンガン行っている。最近はしっかりしてきてるし爽やかイケメンだしな。

 照れながらもちゃんと会話してる。アーサーには姉さん女房が合うかも知れん。

 母君は他の四人に慈愛の眼差しを向けながら色々な菓子を勧めている。さすが侯爵家、高級店の出来映えだ。

「美人だな、お姉さんも母君も」

「そうか? 俺はさ、うちのがアレだから清楚で可憐な子がタイプだったんだ。それこそあのクレア嬢みたいな。───でも中身がああだったろ。もう女が怖い」

「あれはレアだから。だが可愛いらしい系は要警戒かな。猫被りの確率が高い」

 ひどいのを見てきたから、きちんとした家族にホッとする。



 歓待は夫人の言葉通り盛大なものだった。俺のレシピが一通り使われより洗練された一品となっている。さすが一流シェフ。

 歓待のお礼としてレシピをいくつか譲ると申し出たら喜んでもらえた。

 俺が作る場合は使用料なしが条件だ。調理法は分かるが面倒であまり作りたくないものにする。

 バウムクーヘンとかコンソメスープとかな。

 丁寧に数時間煮込んで卵白を使ってアクをとるの、俺はまとめてやってるが大変だ。レシピは非公開で日本のやつみたいに製品化している。

 シェフに具材で変わるので色々試してくれと伝えた。まずは何も言わず具なしスープで飲んでみてくれとも。



あのハリーにお替わりを断らせるほどご馳走はたくさん残ってしまった。

「余らせてしまい申し訳ない」

「使用人が楽しみにしておりますから」

 残り物はきちんと下げ渡す、そういうところも好感が持てる。アデルは家にいたかったろうに。

 家族はかれを排除したりはしなかった。問題の人物さえいなければ魔力制御の教師をつけ終わりだったのだ。




「そういえば、スタンレイ様はジルベルト殿下と同窓でいらしたとか」

 食休み後、俺以外はアデルに連れられ風呂に行った。屋敷には大浴場がありみんな楽しみにしていたのだ。

 母娘とブランデーを垂らした紅茶をいただいていると、母君が切り出した。

「はい」

「では突然のことで驚かれたのでは。よく陛下がお許しになられたと思いますが……」

「?」

「話によれば殿下からお願いしたらしいですわね。身内……とは言いたくない人からの情報ですが」




「奥様、前侯爵夫人がお見えです」

 執事がそう伝えてきて夫人は眉を顰める。気になる話の途中だったのに。

「まあ……、噂をすれば。スタンレイ様、申し訳ありませんがお部屋へお戻りを。決して気持ちのいい人物ではありません」

 姑とはいえ他家を訪ねてよい時間ではない。気分は良くないが家族の問題だ。

「夫人、お待ちを!」

「わたくしの屋敷よ、何が悪いの」

 だが俺がその場を辞する前にそれはずかずかと現れた。

 


「誰かと思えば子爵家の出来損ないね」

「お祖母様! なんて失礼な、謝ってください!」

 のっけからこれ。強烈なの来たな。

「カトリーヌ、このような悪評高い男を引き込んでエレーナに何かあったらどうする気? わたくしが纏めた公爵家との縁談が台無しになるわ」

「その話はお断り致しましたでしょうお義母様。お疲れですの? 夫が出入り禁止を言い渡しましたよね? ボケ……、お年のせいかしら」

 母君がキレている。

「こんなに良い話を断るとは言わせません」

 離席しそこねた。困ったな。



「お父さん、お風呂すごかった! ねえ一緒に入ろうよ」

 間が悪くリンが興奮して部屋に飛び込んでくる。抜け出して俺を誘いに来てくれたのか。

「まあ! この躾のなってない子供は? それでも貴族かしら!」

「え、ぼくはリン。貴族じゃないよ」

「平民をあの浴場に!? この屋敷に招いたの!? なんて穢らわしい! ……、ひっ、い、痛い!」



 扇を振り上げ打擲しようとした手首を掴む。てめえ俺の子に何すんだクソババア!!

「俺の子に手ぇ出すんじゃねえよ、死にたいかババア」

「な、な、な、」

 ガクガク震えて失禁でもしそうだ。アデルには悪いが見過ごせない。

「おいそこの。奥様はお帰りだ」

「ゆ、許さないわ!! お前達、早くこの無礼ものを捕えなさい!」

 命令で一歩を踏み出す騎士に強大な圧がぶつけられ、がくりと膝をつく。リンだ。

「お父さんに何かしたらゆるさない」

「リン、ありがとう。ばっちいから触ったらだめだよ」



 わざとゆっくり顔を近づけて囁いてやる。

「婆さん、俺は命の恩人だぞ」

「な、な、にを」

「リンにその扇がかすりでもしてたら今頃あんたは八つ裂きだ」

 デーデを顎で指し示す。こいつリンの怒ったの見たくて控えてたな。

「手を振り上げただけで死に値します。おい女、リン様の母君は尊いかただ。這いつくばり赦しを乞うた後に死を持って償え」

「デーデ、そういうのいいから」

「差し出がましい真似をお許し下さい!!」

「こ、この屋敷に破落戸を入れるなんて! あなたは離縁させますよカトリーヌ!」

「お帰りはあちらです、前侯爵夫人」

 氷の微笑で母君がドアを指し示す。




 腰を抜かしながら逃げてった後ろ姿を見送り、固まった母娘に深々と腰を折る。

「───申し訳ありません」

「………」

「やはりすぐ出立します。恩を仇で返すような所業をお詫びし」

「か、かっこいいーー!!」

「スッキリしましたわ!!」

 うわびっくりした!



「あの人は本当に我が家のゴミく、恥ですわ! アデルの事で腹に据えかねてましたの!!」



 家族に恵まれたアデルがリリサイドに来る羽目になった元凶。

 魔力暴走をヒステリックに咎め母親の血筋まで貶める祖母に、神経が参ってしまったからだ。

 当然のごとく王妃派である。



 風呂からわやわや出て来たみんなに状況を説明した。苦虫を噛み潰した表情のアデルがため息をつく。

「あれはなあ、災難だったなリン」

「だいじょうぶ。お父さんカッコよかった」

「ワイルドでとても素敵でした。リン様、祖母がごめんなさいね」

「へいき。ぼく強いから」

「まあ頼もしい! 威圧とっても格好良かったですわ!」

「スタンレイ様、リン様はお風呂を途中で出てらしたようです。ご一緒にされては」

「わーい!」

 これは断れないな。頭洗ってあげよう。



 風呂上がりにリンと絞った果汁をいただいた。子どもたちは一部屋に集まっている。ディーが母君に断りを入れベッドを大集合させ大部屋にしたのだ。

 修学旅行みたいでいいな。早寝の子は勝手に寝るだろう。

 お父さんも一緒! とリンが引っ張るので俺も雑魚寝だ。

 ドアを開けたら枕が飛んできたのでキャッチして投げ返す。

 それからは大乱戦。ディーの結界にハリーが入って中から枕を投げてくる。卑怯な!



 ひと騒動してから寝床を整え直した。主犯格にはくすぐり刑。リンがぼくもとねだるからついでに全員やってやった。

 そしたらみんなに逆襲されて死にそうになった。

「ちょ、やめ、げへへへ! やめろ!」

「ここが弱いんですね」

 なんで鳥の羽根があんの!?

「拘束すんなディー! 羽根はやめ! ひょお、うひゃははは! アーサー、おまえ、」

「父さんもやめてくれなかったし」

「楽しいねお父さん!」

「り、リン、ぐぇはひゃ、そ、そだね」

「おうリン、喜んでんぞ。もっとやれ」

 アデル、ギル、キースが満面の笑顔で俺で遊ぶ。ハリーは足の裏専門で時々羽根の軸でもくすぐってくる。もう降参だから!

 上半身脱がされて子どもに散々痴態を晒した。もうお婿に行けないッ。



 解放されて気絶するように寝たスタンレイに、アーサーが毛布を掛ける。

「やり過ぎたね」

「楽しかった!」

 隣に陣取って横になるリンはご満悦だ。

「センセーも気が張ってたからこれで少しリラックスできたろ」

「俺たちの事で気苦労が多いしな」



「ギル、リンの逆側で寝たらどうです」

「……えー俺が?」

「ルーが父上と寝るの楽しみにしてました」

 素直でないギルを添い寝させるため、ディーが促す。

 渋々というポーズを保ちつつ、どこか嬉しそうにスタンレイの隣に向かうのをみんなが温かく見ていた。





 起きたら天国にいた。いや苦しくて目覚めたんだが。

 リンとギルが抱きついていてリンが俺の腹を枕にし、足の間にはネコみたいに丸まったハリー。頭上に投げ出した手を握るアーサー、俺に頭をくっつけもう片っぽの腕に手を乗せるディー。

 なんか猫団子みたいだ。

 なんとか周囲に目をやればキースとアデルは一台ずつベッドを使い気持ち良さげに寝ている。あいつらは要領がいいな。

 笑みが溢れる。愛しいと心底思う。異世界に生まれこんなに大事な存在ができるなんて不思議なもんだ。

 ここに〝   〟がいれば。

 浮かんだ名前を頭から振り払う。




 朝食の終わり、昨晩途中になった話を思い出して話題にした。

「そういえば昨日、ジルベルト殿下の話をしてましたね。どうしたんですか」

「……義母が嬉しそうに話してましたの。自分の知人と婚約すると」

「………」

 心臓が跳ねた。婚約? ……ルベルが。



「お相手のかたはお祖母様に取り入る為に宝飾品を贈っているのです。良い噂を聞かないわ」

「歳の差もありますしね。この領地の端に別荘を持っておられます。プラント子爵をご存じかしら……スタンレイ様?」



 頭がガンガンして吐き気がする。

「申し訳ありません、父の具合が悪いようなので下がらせていただきます」

 ディーが俺を立たせて部屋から連れ出す。



「どういう事です、最悪ですよ」

 ルベルの馬鹿野郎。おまえはいつもいつも。

「あいつ、自分を売り渡したな」

「───父上、まさか」

「ルベルに騙された。自ら陛下に頼んだと夫人が言った。あいつは多分、王妃次第で安全になるおまえとキースを取引材料に結婚を承諾したんだ。ギルの危険は本当だと思う」

「子爵の別荘が近いです。殿下があなたを遠ざけたならあそこに行っている可能性が」

 いかがわしい遊びに使っていると噂の。ダメだ冷静になれ。あの変態野郎になんか嫁ぐな。俺が護ってきた、おれの。



 俺のルベルだ。



「ディー、取り戻しに行く。着いてきてくれないか」

力強く頷きを返す頼もしい四男。



 継承もさせずその可能性すら芽吹かせない。あの子爵に嫁ぐだけであらゆる醜聞を抱える事になる。王となるなど論外なほど。

 させてたまるか。

「あいつが自分を要らないなら俺が貰う」




 ディーと話し、アデルとキースに助力を乞うと二つ返事だった。


「リンとアーサー、ハリー、ギルにルーは留守番な。夫人に頼んでおく」

「おとうさん!?」

「父さん、僕も」

「殲滅戦じゃないぞ。アーサーは弟を頼む。デーデもリンをよろしく」

「おれは侵入も得意なのに~」

「ルー、いいとこは俺が貰うから」

 ギルたちの危険はいつやって来るか不明だ。いくら奴らでも侯爵家にケンカは売らないだろう。

 焦ったら駄目だ。作戦を立てて、決行は明日の晩。ルベルだって易々と自分を与えはしないはず。

 激情を抑え込み自らに言い聞かせる。みんなに頼る以上は怪我ひとつさせる訳にはいかない。ルベルも息子たちも大事だ。




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