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転生オタクの落第騎士、異世界フリースクールの院長になる  作者: 沓子
第三章

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17/33

3ー3




「この度は友人のイザベルが失礼を致しました。急ぎ後を追いましたが準備に手間取りまして」



 クレア・ゴーダが修学院にやって来た。実に清楚かつ可憐。

 奔放な夜の女王とディーに聞いていても信じられない程、優雅なカーテシーだ。

「長旅は身体に障るのでは」

「イザベルですね。……残念ながら流れてしまいましたの」

「───それはご愁傷様でした」



「───クレア」

 イザベルが物言いたげに友人を呼ぶ。

「……言いづらい相手だったのよ。だから咄嗟に浮かんだフォーサイス様のお名前を、つい。まさか貴女が乗り込むなんて」

「私を知るあなたなら、こうすると分かってた筈だ」

「私たちの口論はご迷惑だわ。謝罪に来たの、後にして」



 冷たいな、友人じゃないのか。イザベルは傷ついた顔してるぞ。

「こちらへの謝罪は結構。友人同士、話し合い誤解を解いて下さい」




 話は続かなそうだが気まずげなふたりを置いてその場を去る。

 こちらはこちらでやる事があるので、こっそり子どもらを集めた。

 まずハリーに頼み事をし、みんなには念のための指示を与える。

 前回のこともあり、予定外の出来事があった場合のマニュアルを作ったんだ。



 夕食は簡単に済ませた。とはいえ栄養価は高い。黒パンに具沢山スープ、チーズオムレツとサラダ。

 それでも不満そうな視線が突き刺さるが今はそれどころじゃない。



 配膳や手伝い、何をするにも数人で動く子どもたちにクレアが微笑んで言った。

「仲が良いのですね」

「元から仲はいいんですが、俺の本のせいで怖がりになってしまって。トイレに行くにも寝るにも集団です」

 ぴくりと肩を震わせ物言いたげにアデルが振り返る。許せ、年頃の美少女に知られたくはないと分かってる。

「この院も最近騒がしくてね。中にいても油断はできない」

 それはお気の毒にと眉を下げるクレア。


 


「そうだわ、業務で大変なフォーサイス様にリラックスしていただきましょう。持参したお茶を淹れさせてくださいな。知人から貰った珍しい花茶ですの」

「や、俺はそういうの苦手で」

「そう仰らず一口だけでも。───ありがとうマリア」

 有無を言わさず侍女に用意させる。見た目と異なり押しが強い。

 可愛らしい風貌は舐められやすいので強くなるか、いなし上手になるか流されるしかないと思う。前世でもどれかに別れてた。



「念の為、毒味を致します」

 冗談めかして言うと完璧な作法でティーカップを口許に運ぶ。

 だが一口を飲んでむせてしまった。

「し、失礼を……、ごほっ、げほっ」

 唇から赤い筋が垂れてきた。

「毒が!」

「クレアお嬢様!」

「どいてくれ」

 指を突っ込み吐かせる。液状のものが少し出ただけだ。食欲げないと夕食はスープの具のないやつ以外断っていたしな。



「何かあったのか!? っ、クレア!?」

 イザベルと子どもたちが部屋に入ってくる。

「みんな、水を大量に! イザベル、神官を!」

 アーサー、ギル、アデルそしてイザベルが指示に従い走っていく。

 アーサーが大きな水瓶を抱えて戻った。コップから飲ませようとするが気を失って難しい。

「失礼」言うなり水を口に含む。

「スタンレイ殿! 治癒をできる方が出払って、、!!?」



 口移しに何度も水を流し込むと、横向きにしてまた吐かせる。繰り返しているうちに青かった顔に色が戻ってくる。

 よかった、副教会長が来てくれた。

「院長、いったい何が!」

「毒を少量摂取しました。もう大丈夫とは思いますが、治癒をお願いします」

 水浸しはなんとかしてもらおう。

 


 寝台に運び込まれるのを見届けて一息つく。俺も濡れネズミだ。

 談話室に行けばみんな揃っていた。

「な、慣れているな」

 何故か目を逸らしてイザベルが言う。

「ああ……、ルベルがな」

「ルベル?」

「みんなジルって呼ぶが俺はルベル」

「だ、第一王子殿下とそんなに頻繁にあ、アレを!?」

「驚くだろ? 王子がそんなにしょっちゅう毒を盛られるなんて」

「───毒。あ、毒か、、、よかっ、いやいやいや!! 全然良くない!! なんだそれは!!」

 ルベルは本当に苦労して生きてきた。何度王妃をぶち殺そうと思ったことか。



「ねえアデル」

「アーサーは分かんねえだろ」

「さすがに判ったよ」

「成程これがラブコメですか。誤解と鈍感と言い回しによるすれ違い……描けそうだ」

 なんか一部で小声で話してるが聞こえない。



「なあ着替えたら? 水で乳首透けてるし」

 ギルが指摘してきたが誰が気にする?

「あ? んなもん別に」

 あ、イザベルがいたな。

「わわわ私は見てない!! 細身だが六つに割れた腹筋や逞しい上腕二頭筋も!!」

 叫んで走って行った。騒がしい奴だ。

 さてはムッツリだな、奇遇だな俺もだ。イザベルはBカップだな! クレアはもっとだけど。

 バカ言ってないで着替えよっと。

「みんないるな、俺の部屋に来てくれ」

 


 その日はまんじりともせずにいた。深夜、子どもらの寝室を確認してから女の部屋へ忍んで行く。色めいた話ならいいんだが。



「なあ、子どもたち知らないか。何人か寝台にいない」

 クレアは既に身支度を整えていた。ノックをせず室内に入るのを疑問にも思わないようだ。

「何故私に?」

「騎士も侍女も来ないぞ」

 既に確保してあるからな。



「考えたもんだな。イザベルを嗾けて誘導し、本来の目的を隠したあんたが来ても自然に見えるようにした。さすが悪女」

「まあ、心外ですわ」

「いくら遊んでも満たされないよな。実の兄への想いは叶いっこない」

「妄想はおよしになって。迷惑をおかけした意趣返しにしては悪趣味だわ」

 中々しぶとい。

「兄の婚約者を襲わせても何にもならなかった。お兄さんは彼女を愛していたからだ」



 俺の言葉に、クレアが淑女の仮面をかなぐり捨て醜く顔を歪めた。



「なんであんたが!? まあいい、もう遅いわ! あんたがのんびり私と話してる間に、あの子は今頃は馬車で遠くに」

「圧縮」

「!? きゃあああ、い、痛い!」



 手加減しながら靴に圧縮をかけるキースが姿を現した。クレアは蹲り足を押さえている。指くらいは折れてるだろうが優しいもんだ。



「キース、無事か」

 良かった。俺が動かず子どもたちに任せたのが思ったより堪えた。心配で心配で。

 拉致を企んだ奴らは制圧済みのようだ。

「大丈夫です。圧縮を訓練していて助かりました。みんなもいたし」

「ぼくがんばった!」

「ありがとうリン。ディーとハリーも」

「過剰戦力でしたね。四名をあの縛り方で拘束してあります。片足潰してますが一応」

「つか、た。おやつ。」

 亀甲縛りか…変なこと覚えないでくれディー……。ハリーの口に飴玉を放り込んでおく。力を使うと血糖値が下がるみたいだ。普段眠っている脳の部分をフルに使用しているのかも。

「な、なんで……子どもばかりなのに。おかしな子ばかりと聞いてたけど……、」

「なあ。毒にやられたら普通、騎士も侍女ももっと半狂乱になるし俺らを疑うだろ。クレア様クレアさま~って、大根役者だなあいつら」




 キースが目的だったとはな。最初にハリーに頼んだのはクレアの読心だった。

 かれの力は自ら教えてくれていた。濫用はしないと信じているから特に注意はしていない。俺を読んでみてくれと告げ〝俺のポトトとかゼリーとか色々盗っただろ盗ったよな〟と念じたら残念な目を向けられた。



「読み、に、くい。」

 クレアの思考は固く閉ざされているという。

 ハリーの能力を知っての事ではないだろうが、魔法具によるものか余程強く隠したい事があり抑えているのか。

 なんにせよ彼女への警戒度を一気に上げた。



 疑いを無くす為に毒を飲んでみせたのは驚いたが、気を失えばハリーの能力を避けることは不可能だ。本当はその混乱に乗じてキースを捕まえる筈が、複数人で動いてたから出来なかったらしい。

 隠し事は別件だったが企みは分かったので利用し罠を張った。

 生徒は三人と四人でチームにし絶対に離れないよう言い含めた。寝る時も。

「これだけは言わせてくれセンセイ。ゴーダ嬢」

「……何」

 足をさすりながら赤くなった目でアデルを睨みつけている。もう猫は被らないんだな。

「俺たちは集団トイレにはもう行ってないし別々に寝てるからな! 今回のは演技。よく覚えておくように」

 ズッコケるだろアデル!!



「わたしを、どうする気」

「普通に誘拐犯の手先として突き出す。逆恨みしたりまたうちの子に手を出したら、あんたが兄嫁にした事も理由も全てお兄さんに

バラすからな。腹に子どもは本当にいたのか」

 知られたくない秘密を暴くのに躊躇いはなかった。うちの子に害をなす奴に同情はしない。

「ふん。ゴミの落第騎士の癖に偉そうに。子なんか邪魔だから流したわよ。ここの生徒は化け物だしゴミには似合いの場所だ、わ……、ひいっ!」



 俺の怒気を制して強大な殺気が放たれる。

「せんせいを、みんなを悪く言うな!」

「リン、落ち着け」

「でも!」

「いいか、ああいうのは自己紹介乙って言う。悪口は自分の言われたくない事を言うもんだ。この女がゴミで化け物なんだよ」

「………」

「俺はゴミじゃないしリンもみんなも化け物じゃないだろ? 全然傷つかない。リンに嫌いって言われたら死にそうになるけど」

「言わないよ、だいすき」

「俺も大好きだ。リンもみんなも」

 クレアからフガフガと動物の鳴き声みたいな音がする。ディーの沈黙魔法だな。



「口を開けば汚泥のような言葉を吐く、正にゴミですね。自己紹介乙」

 だからディー、応用力高すぎ。



 いつの間にか来ていたイザベルが呆然と立ち尽くしていた。

「クレア……、」

「役立たず! あんたみたいな女と友人でいてあげたのは私くらいなのに!」

「………」



「───それでも、今までありがとう」

 絞り出すようなイザベルの声。ここに来たのも友人を思い義憤にかられてだ。利用された悔しさも見えない。

「もう会うことはないかもしれないが、……元気でいてくれ」

 それだけ言って踵を返す。クレアには何も響いてはいないようだ。



 慰めるべきかもだが、子どもたちのアフターケアが優先。まずは温かい夜食を作ろうか。



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