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転生オタクの落第騎士、異世界フリースクールの院長になる  作者: 沓子
第三章

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16/33

3ー2





「よく考えたら、表沙汰にはせずに弁護士を介して話したいと言っていた……悪評があるから身に覚えもあると踏んだのかもな。すんなり金を払うと思われたのだろう」

 教会に追いやったのに、女騎士が夜に部屋まで来てうだうだ言っている。謝罪お代わりは要求してないぞ。

「分かったよ、もういいから。そういう話しならじきに来るかもな」

「編集長、客人が」おっと。噂をすれば。

「こんな時間に? もう来たのか」

 廊下を走る音がした。真っ直ぐにここに向かっているようだ。小さいリンや早起きアーサーは寝る時間だし静かに話をしたいもんだ。ん? でもヒールの音じゃなく……。




「とにかく談話室に───」

「スタンレイ、久しぶりだな」

 ディーの後ろからぬっと現れたのは。

 え! 父上!?




「───という訳です」

 父、俺、女騎士に教会長。何故かディー。

「そうか。私もまさかスタンレイたん……ゴホゴホっ、おまえがそんな真似をするとは思わなかったが」

 スタンレイたん!? スタンレイたんって言ったよこの人!?

 噂の真偽を確かめる為にわざわざ来たのか仕事どうした。父のイメージがガラガラ崩れスタンが驚愕している。

「ご心配をおかけしました」

「ふ、副団長。私の早とちりでご子息には大変ご迷惑を──」

「ミュラー君はいつも言っているように少し深呼吸して考えなさい」

 顔見知りか、だよな。養成校では見なかった顔だが。

「副団長、これはとばっちりかも知れません。例の件で趨勢が変わりましたよね」

 ディーが切り出した。

「はい。王宮では現在──」

「待ってください。ミュラーさん、ですね」

「イザベル・ミュラーだ」

「席を外して頂けますか。機密事項です」




 イザベルを部屋に帰し話の続きをする。

「……貴族の支持がジルベルト殿下に傾いています。サウザー公爵の意思表明が大きく」

 父上からの情報、ディーは既に把握してそうな顔だな。教会長が頷く。

「あやつは脳筋だからな。ドラゴンスレイヤーが付いているとくれば乗るだろう。あの装飾品には飛びつくと思った」

「殿下が身に付けていて嫌でも目に入りましたよ。デザインも秀逸ですし」

「それに、ここにはギルが居る。条件は揃いすぎていますね」

 ディーが口を挟み俺と教会長がはっとして腰を浮かせる。

「ディー! きみは知らん筈だ」

「教会長、潮時でしょう。様々なことでリリサイドは注目されている。主に編集長のやらかしですが」

「うっ、なんかごめん」

「副団長、他言無用で。ここの院生のギル、本名ジョシュア・ハミルトンはガーランド一族の末端に名を連ねる者で、現〝キングメイカー〟です」

「!!? ……まさか実在したとは……」




 リリサイドの、いや、王国最大の秘匿事項。国王と僅かな側近、高位貴族の一部そしてガーランドのみが実在を知る存在、キングメイカー。

 その名を知る者にもお伽話のように捉えられている。




 神から賜るスキルであり称号だ。勇者と違い通常の鑑定では見えない。

 キングメイカーが指名すれば誰でもが王位に就ける。そしてそれには王家ですら逆らえない。これまで何人も抗おうとした国王がいたが、いずれも雷に打たれて死亡している。

 まあこれまで王族以外を指名した例がないのだが、そこら辺はガーランド家との協定でもあるんだろう。

 こういった詳細は後からルーに追加説明された。称号がつくと情報が直接なだれ込むという。王が何人も雷で死亡なんて初耳だったが、いかにも天罰っぽいから隠されたんだろうな。

 表向きは現王が天啓を受け、王族内の承認により決まるとされている。

 そしてガーランドは十中八九、今のメイカーが本家の者ではないのを秘匿している。

 



「何故知っているんだい。私は教えていないが」

「黙秘します」

「えーと俺はルーに無理矢理聞かされました。不可抗力です」

 教会長は溜息をつき諦めた顔をしている。

「……教会長、これも天の思し召しでは」

「どういう事かね、モリス」

「私やスタン、本来知るはずもない者が知り得ている。最もディート…」「ただのディーです、副団長」

 笑顔の圧がうまい。

「ディー、それも今更だ。本名呼ぼうか」

 俺の横入りにも表情を崩さない。

「建前というのがあります」

「いや、私が悪かった。しかしあなたにも関係してくるでしょう」

「しません」

 父上は苦笑していたが、話を続けることに決めたようだ。

「何かが大きく動く、そんな気がします」




「なあディー、なんで『メイカー』なんだろう。指名役だよな」

「変な所に引っ掛かりますね。苗字がベイカーでも皆がパン屋ではありませんよ」

「おまえはホント頭の回転が早くて賢いな。なんで?」

「………知能指数が計測不能な質問やめてもらえます?」

 いやルベルやおまえがこんだけ優秀なのに第二第三王子がアレなのが不思議でさ。

 



 翌日帰ると思われたイザベルだが、昼になってもまだいた。父上と帰ればよかったのに、仕事あるだろとやんわりあて擦っても「ご心配ありがたいが休暇を取っているので」とずれた答えを寄越した。

 ご心配してないから帰って欲しい。




 人数増えて困った昼当番の俺はメニューを変えシチューを作る。

 オムライスを楽しみにしていたハリーが頬を膨らませていた。

 イザベルはしっかり食った。なかなか神経が図太い。仕方ないからデザートも出したら感激していた。

 ホールのアップルパイを切り分けたので、取り分面積の減ったハリーが恨めしげに睨んでも気づかない。




「スタンレイ殿、貴殿と剣を交えたい」

「なんで」

「……強者だと聞いた。私は辺境で騎士となり王都で入団試験を受けたから、スタンレイ殿とは会う機会もなかったし」

 気乗りせんなー。脳筋だろコイツ。

 テーブルの隅でハリーがディーに何か囁いている。アップルパイかオムライスの恨みか?



 

「ミュラーさん、失礼を重ねるつもりで?」

 徐にディーがイザベルに言い放つ。

「なんのことだ」

「目的を隠して編しゅ……、院長と闘うのがです」

 目を見開き、ややあって俯き加減に告白した。

「───私の、スキルではないがそれに近い能力なんだ。剣を交えると人となりが感じられるというか、本質的なものが分かる……」

「成る程。それを隠して俺を見極めようとしたのか」

 たしかに失礼だ。腹立たしくはあるがバカで憎みきれないな。

「まあいい。やろう」

「!! っ、 感謝する、」




 みんな見学すると言うので全員を引き連れて外に出た。イザベルは精神統一している。

「いつでもいいぞ」

「───では」

 東の辺境か。剣の構えからして、あれか。

「いざ!!」




「!?」

 キン、と硬質な音と共に剣が宙に舞う。

 おお、と子どもたちの声。イザベルは呆然としている。

「防がれた……?」




 抜刀術に似た技だ。東には召喚勇者の興した国がある。たしかイザベルの故郷に面していたと思い起こし予想した。通常は剣を抜き構えるがやってなかったし。

 だがいかんせん、騎士の剣は重く機動性に欠ける。技の強みを活かしきれてない。

 鞘があまり自由に動かないので動きも限られてしまう。やるなら刀でやらないとダメじゃないかな。




「予想が当たったんだ。さあ、普通にやろう」

「初見で防がれたのは、辺境を出て以来だ……」

「決まらない時の次を考えとかないと。強い技だと忘れがちだが」

 弱くはないし見どころはあるが頭の固さがネックになる。せっかく良い感じに正統派の剣から逸れているのに勿体ない。




 それからは指導剣だ。この真っすぐな気性ならばルベルの側に立ってくれるかも知れないと思い、自然と気合いが入る。

 


「す、スタンレイ、どの。すまない、少し休憩を」

「ん?」

「三時間近くやっています」

 ノートにペンを走らせるディーは、たぶんネーム中。

 熱心に見てるのはキースにアデル、アーサーのみで他はどっか行った。

「そうか、じゃあ給水して10分程休んだら再開───」

「やめなさいこの脳筋。ここまでです」

 ディーに叱られてしまった。

「すみませんミュラーさん。先生は体力お化けですんで」

「そうか? 騎士団ではいつもこれくらいやって───」

 ん、そうだっけ? 対戦は……。

「ぼっちだからどうだったか分からん」

「か、悲しいコトを」

「なぜだ? おかしいだろう。これだけ優秀な貴殿が、騎士になれないのも……、」




「第一王子派だったから、ですよ」

「ディー!!」

 自分でびっくりするような声が出た。

「ルベルは関係ない。俺が嫌われ者だっただけだ」

「そう思いたいなら思っているといい」

「お、おいディー、何怒ってんだよ?」

 アデルの言う通りだ。訳が分からない。




「あなたが軽く見られたり嫌われて悲しく思う者がいるんですよ、かれらを蔑ろにするなら勝手にしろ。だが傷つけるなら親しくなるな!」

 言い捨てると建物のなかへ入ってしまったディー。俺は頭をガツンと殴られた気がしていた。

 振り返ると、どこか哀しげなアーサーと目が合った。




 ああそうだ。

 俺は前世、大好きな従兄弟のケンジ兄ちゃんのことで傷ついたじゃないか。

 一緒に買い物してて受け持ちクラスの厄介なモンスターペアレントに遭遇し、暴言を吐かれ放題だった時。

 いつも格好いい兄ちゃんが黙って頭を下げるしかない姿が卑屈に見えて、俺は深く傷ついた。

 好きな人が軽んじられる事に子どもは驚くほど痛みを感じる。自他の境界が曖昧な年頃には特に、まるで自分が傷つけられたように。




 俺は今、生徒には割と好かれているだろうと思っている。かれらには自分を大事にして欲しいと考えながら、俺は俺を大事にできてるか。否だ。

 猛烈に恥ずかしくなった。

「……イザベル」

「は、はい」

「俺はルベル、……第一王子の友人だった。周りは敵だらけで俺はそいつらとケンカばかりしてたんだ。でもそれが奴らの思う壺で、結局素行不良で騎士になり損ねた。講師にも指導騎士にもグルがいた。全部後から解った事だ。俺は何も見えてなかったんだよ」

「………」

「軽率だったが、後悔はしてるようなしてないような、だ。奴らを殴るのはスカッとしたしな」

 言い訳は見苦しい。自己弁護はみっともない。凝り固まった思考で、俺は俺を信じてくれてたかも知れない誰かを失望させてたんじゃないか。




 俺のために怒ってくれたディー。それは他の子どものためかも知れないが大事なことに気付かされたよ。本当にできた子だ。

 晩飯はディーの好きなクリームコロッケにしよう。

「あ、すまん。呼び捨てしちまった」

「いえ! いえ……是非イザベルと呼んで下さい……。スタンレイ殿」

「そうか。遅くなったし疲れたろう。今日も泊まるといい」

「ありがとうございます」

 花が綻ぶように笑うイザベル。美人だなと初めて思った。




「なあキース。女騎士から騎士を引いたら」

「うん、だな。口調まで変わる」

「? どうしたの?」

「おまえはセンセーの言う鈍感系主人公だから知らなくていい」

「??」

「先生自身もそれっぽいし」

「全然分からない……」




「で、今日の訓練で俺について何か分かったのか?」

 ハヤシソースとテマトソース掛けツインオムライス+クリームコロッケの夕食には誰も文句はつけられんだろう。教会長たちも好きだ。なんか俺の食事当番が増えてる気が。

「はい。スタンレイ殿は真っ直ぐで信頼に値する方です」

 口調変わってら。騎士ってより貴族令嬢寄りになってる。

「ディー、ごめん」

「何がです。内容も理解せず謝るだけですか?」

「ちゃんと分かったから。コロッケもう一個いるか」

「……いただきます」

「ぼくも」

「寄越せ」

「いる!」

 はいはい、たくさんあるから。



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