第三章 3ー1
「アリーたん、私たちの息子すごくない? なんか◯◯◯◯粉微塵にしたらしいし! この怪談本なんかさいこわで夜中にトイレ行けなくなっちゃうよ。マンガという新しい文化生み出したんだよ! すごいよね。昔からお絵描き好きだったしね。今度絵本も出るみたい。料理のレシピもサイコーだし、ヘルマンさんによれば難しい生徒もスタン君を慕ってるらしいよ。とにかくすごいよね、カッコいいし優しいし多才だし、君の息子だな。……愛しい君にそっくり。撫で撫でしたいけど無理っぽいよお」
机上の妻の肖像画に延々と話しかけているのは王率騎士団副団長、モリス・フォーサイス。
今年五十歳になる騎士団の要である。
副団長に仕える者には慣れた光景。かれは亡き妻と息子をとにかく溺愛している。
緊急時、寝室に入った事のある騎士は固く口を閉ざしているが、どうせふたりの肖像画で埋め尽くされているんだろうと皆が察している。息子の前では格好をつけてそんな素振りは微塵も見せない。
愛息子が遠くに行ってしまったので、ここ最近は禁断症状が出ている。スタンロス症候群だった。
「副団長、ご子息の事で少々問題が」
「ん? 可愛い可愛いスタンたんがどうしたって」
「───それが」
「ギル、今のはいいぞ!」
「良くて当たり前だマヌケ。崇め奉れ」
「普通に褒めさせて!?」
剣術の稽古は好き嫌いが別れるので、弓をやる子もいる。どちらもやりたくないならスリングもある。
剣術はアデル、アーサー、キース、ギル、ディー。キースとギルは弓もやらせる。俺の手製クロスボウがあるし。
ハリーとリンはやスリングが気に入ってる。ゴムに似た素材があるのは便利だな。
短剣は護身のため、みんなに一通りやってもらってる。ナイフの扱いはギルたちが上手いので講師役もさせる。教えるのはもっぱらルーだ。
ギルが話すようになったのはいいが言葉遣いは少し直していきたい……。
「リーンハルト様、お飲み物を」
「ありがと、みんなにも。ぼくはリンだよ」
「失礼しました。まずリン様に」
レモンに砂糖、塩の俺手製スポドリを配るのは執事みたいな格好のデーデ。俺が外せない用事で一日だけ留守にして帰ったらいた。
警戒心バリバリの俺にリンが「デーデは大丈夫」と言い切った。母に仕えていたらしくリンを探していたんだとか。
母親は平民だと思ったが裕福な家なのかな。
最近のリンは急に大人びてきているのに魔力量は極端に低く感じる。ディーは絶対色々知ってる筈だが口を割らない。情報共有っておまえが言ってたよな?
「ん? なんだあれ」
休憩を取っていると馬が丘を登り走ってくるのが見えた。あれ王立騎士団の鎧だよな。緊急事態でも?
馬から降り兜を取ればファサーっと金髪が靡……かない。汗で湿ってるからな。女騎士は珍しい。
「スタンレイ・フォーサイス! 貴様に決闘を申し込む! このクズが、恥を知れ!!」
言い放つと抜剣しこちらに向けてきやがった。
「あ゛?」
いかん、ピキッとしてキースに圧縮命令しかけたわ。落ち着けスタン。
「どういう訳か説明してくれ」
「とぼけるな! 貴族令嬢を孕ませ捨てておきながら知らぬ存ぜぬで済ませようとは。噂通りのカスだな! 騎士に成れぬ訳だっ」
「は!? 待て待て本当に知らん!」
「やるじゃん!」
「え、先生? 子どもが出来る?」
「せんせいパパになる?」
「編集長?」
「えっと、えええ!?」
子どもらに誤解されちゃうだろ!!
「その令嬢は既に妊娠三ヶ月だ! 責任を取れっ」
「………あの、俺がこの教会に来たのは半年前なんだが。それから王都には行ってない」
「──────は? う、嘘をつくな!」
「私が保証します」
教会長いい所に!! ありがとうございます。
「それにかれは清い体です。教会に入る訳ではありませんが検査はしております」
「んな!? い、いつの間に!?」
「き、清い───、二十二にもなって?」
「二十三になりましたよ」
いらん情報ありがとうディー!! あと失礼だからな女騎士!!
「王都では話題になっていますからね。怪談と教育マンガ、流行本の著者にしてマンガの伝道師、数々のレシピが大人気。おおかた集り目的でしょう」
ディーのまとめが全てな気がする。
「そ、そんな。彼女は社交界でも評判の清楚な淑女で」
「最近騒ぎになっているのはクレア・ゴーダ伯爵令嬢ですか。彼女は裏の夜会の女王ですよ、父親は自分でも分からないんでしょう」
「それで悪評高く金を持っている先生が狙われたんだな」
「悪評ってなあ。女性関係は綺麗なもんだぞ」
「清い体だもんな! っいててて暴力反対!!」
しばらくこれで揶揄われそうだ。とりあえずアデルにアイアンクロー。
「王室入りを目指していたようですが、あれでは到底無理です」
相変わらずディーの情報網ってすごい。女騎士は黙って俯いてる。
「清い体って?」
「リン様、要するに彼はどうて」
「何でもかんでも説明すんなデーデ!! リン、えーと、お、俺はエッチじゃないって事だよ!」
「じゃあアデルは清くない。ディーにえっちな女のひと描いてっておねがいしてた」
「うぉいリン! 言うなし! キースだって描いてたよな!」
「巻き込むなこの野郎!」
それは健全なんだよリン。だからみんなに「清い?」って聞き回るのやめようね。
「で、俺は謝罪してもらってお帰り願いたいんだが?」
うちのリンに変なこと聞かせやがって。あれ、教会長か。いや原因はコイツだ。
「っ、すまない! クレアから聞いて頭に血が昇ってしまい……」
「結構。では」
「先生、この人は疲れています。休ませてあげてください」
「アーサー」
うちの子は優しいな、仕方ないか。教会の方へ泊まらせよう。




