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転生オタクの落第騎士、異世界フリースクールの院長になる  作者: 沓子
第二章

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13/32

2ー6




 ルベルが最後の力で転移可能な範囲まで飛び、教会に辿り着くと夜明け前だった。

 午後に戻る予定を切り上げたので、朝の勤めをしていた教会長に簡単に経緯を伝えておく。

「騒ぎがあったので向かおうとしましたが、ジルベルトから来てはだめと伝令鳥が来ました。すぐにまた、もう大丈夫と来て安心しましたが、、しかしまさかドラゴン討伐……」

 驚かせてすみません。




 早朝だが眠気より空腹が勝っていたので、朝からテマタマソースでナポリタンぽいパスタにした。動いて魔法使って、みんなかなり腹ペコだ。

 気が張ってたせいか誰も寝ようとはしないので、談話室に集まり作業を始める

 みんなが見守るなか、アーサーがナイフで跡をつけたのを身体強化して手でパキッとしていく。形が違うのもなかなか乙だ。怪我しないようヤスリをかけるのはリン。紐を通す穴を空け崩れないよう補強するディー。




「ほんとにいいの? 逆鱗使って」

「うん。ひとりじゃ逃げてた。助けられたのは僕だ」

「大きいから半分でいいわ。スタンにも返すわね」

 アーサーが差し出した紅の逆鱗もペンダントにする。

 普通の鱗はランダムな形にしたので、逆鱗は葉っぱにしてみた。リンとこつこつ削っていく。粉も薬になるので取っておこう。あ、リンの作った方が出来がいい。仕方ないから俺の作ってしまったのは自分用とルベルのにしよう。しかしリン、身体強化もなしによく削れるな? もしかして力強い?

 形と色合いの違う二枚をセットにしてややずらし重ねれば見栄えがいい。青緑を主に複雑な煌めきを見せる鱗に赤い逆鱗、とても綺麗だ。

「え、あたしのもあるの?」

「もちろん。俺とおまえのは小さいやつだけどな。ギル、これおまえの」

 真っ先にアーサー、子ども全員に配り終えてからルベルに手渡す。

「ギルのは少し重くなるが逆鱗を一枚増やしたよ。ルーの分だ」




「…………、ありがとう」

 キェアアアシャベッタァァァア!!? と騒ぎたくなったが絶対ダメだ!!

 微笑んだ顔が可愛いなギル!?

「どどどういたません!!」

「先生、動揺しすぎ。ギル気に入った?」

 キースに向かいこくりと頷くギル。

「ぼくのとなり」

 リンのと合わせてみれば確かに割った隣。

「オレもいつかドラゴン倒す!」

 それぞれを比べ、はしゃぐ様子にほっこりした。




「まて」

 後ろの方で何かしていたハリーが声を上げた。横で何故かアーサーが剣を手に震えている。

「これも付。」

「げ、魔石割ったのか!?」

 割れるのか。あ、それでアーサーか。ちいさい欠片や粉を回収しよ。

「この欠片を鱗と?」

 こくこく頷く。

「逆鱗もあるし魔石まで、ふむ。殿下」

「なーにディー」

「それを着けて殿下にはドラゴンスレイヤーが後ろ盾にいる、と見せつけたらいかがですか。周囲は勝手に編集長のことと考えます」

「アーサーの手柄横取りはやだなあ」

「どっどうぞ!! お願いします」

「ここにいる間に本当にドラゴン倒せるようになればー?」

 簡単に言うな。ドラゴンがそうそう彷徨いててたまるか。

「洗濯機はヤベェよな」

「ドラゴンを固定して顔部分にあれを掛ければ死ぬのでは」

「なんで洗濯機させたいんだよ。そもそも固定できねーよ。おまえの結界で酸素抜けば死ぬよ」

「あれだけの魔物を倒すには長い時間がかかりますよ、魔力量が足りませんし結界破られます。編集長ならば魔力は豊富、洗濯機は魔力消費が少ないでしょう」

 いや流石にドラゴンには通用しないよ。



……このアクセサリーは牽制になるな。誰が討伐したかなんて分からないし、ある意味アーサーの隠れ蓑にも。



 この世界でのドラゴンは勇者か剣聖、賢者にしか倒せないと言われている。

 ひとりで撃破できるのは勇者のみ。

 よってスレイヤーは神の恩寵を受けし者と呼ばれるのだ。それがルベルに付くならば下手に手を出せなくなる。普通ならば神の怒りを畏れるから。

 あのイカれた王妃ですら禁忌を躊躇う。玉座は神により保証されている。

 ……メイカー殺しのガーランドを放置している神はどうかと思うが。遠い昔の一族との誓約にでも縛られているのか。




「よし採用。ルベル、堂々と着けて帰れ。聞かれたら王族スマイルで返せ。ハリー、一番大きな欠片をあげていいか」

「ん。まだある、し」

 真っ二つになった半分が残っているな。

「これも穴空けて一緒に紐を通そう。できるかジョ……、アーサー」

「た、多分、道具があれば」

「そうするともう一味欲しいな」




 最終形態がかなりオシャレになった。主にディーとリン、ルベルのおかげで。

 ルベルは持参した銀の皿を装飾に提供し、ディーが魔法で器用に切りリンが仕上げに彫刻刀で蔦のように彫った。逆鱗の一部に這わせるように接着すると、これがまあカッコいい。鳥籠のように銀で魔石を囲んだデザインもあり各自好きな方を選んだ。

 縦長な魔石の欠片にアーサーが穴を空け、リングを通しペンダントトップを付けてある。直接革紐通すのはダサいって言われた。。。センスないんだよ、すまんな。

 魔石と鱗二枚を重ね付ければ、高級ブランドショップにあってもおかしくない出来だ。




「アーサーに称号ついてるんじゃないか」

 鑑定なら副教会長だが。

「あたしもできるけど魔力がもう無い」

「パーティー扱いでステータス上がってるかもな」




「──────、」

 副教会長が石になってしまった。

「い、院長。私の目がおかしいのでしょうか。事があればあなたに精神操作の痕跡がないか鑑定をかける約束をしましたので実行したら……。この称号、ど、ドラゴンを粉微塵にせし者、とは」

 アデルとキースのコンビが大ウケして爆笑。ディーとルベルが笑いを噛み殺している。似てるぞちくしょう推定親戚め。

 間違ってはいない。いないんだが。



 称号は俺とアーサーについていた。アーサーは勿論、勇者&『ドラゴンスレイヤー』。 

 神様の基準わっかんねえな!

 副教会長が卒倒しかけた。宰相って引退しても気苦労が付きまとうね。

 褒賞の件でもご迷惑おかけしまして。顔忘れててすみません。名前は思い出せない。




 隠せないかとの本人希望でステータス偽装というのがあると教え、アーサーが試したらできた。称号は消え『孤児:リリサイド修学院生』の肩書きのみだと副教会長。

「僕は勇者よりこの方が誇らしいです」

 アーサーは嬉しそうだ。かわいいので撫でると照れ臭そうに微笑った。将来は年上お姉様にモテまくるな。




 みんなのステータスもかなり上昇していてわやわや喜んでいる。いい加減限界だろと眺めてたら、糸が切れたようにアーサーが俺に倒れ込んできた。

 慌てて確かめれば寝息を立てている。その場で全員クリーンを掛けた。

「ここでみんなで寝る。キャンプのつづき」

 リンの言葉で談話室が片され、キャンプで使う敷布が敷かれる。

 横になった順にすやすや寝息を立てていく。気絶に近いな。

「お疲れ。みんな、俺にとっちゃ英雄だ」

 上掛けをかけて周り、誇らしさを胸に俺も横たわる。隣でルベルも倣った。

「おつかれ……おまえがいて助かった」

「少しだけお返しよ。受けた恩はこんなもんじゃないわ」

 髪に触れる優しい感触がしたがもう意識が沈みかけだ。深く考える間もなく眠りに引き込まれた。

 


「スタン、きみは私の英雄だ。───昔からずっと」

 少しだけ躊躇してからジルベルトはスタンレイの髪に唇を落とす。

「おやすみ、私の騎士様」




 思い出した! あの時の匂いだ! とガバッと飛び起きれば既に昼近く。子ども半分はまだ寝ている。




 スタンの隠していたこと。死にかけた時のことだ。

 命を狙われたジルベルトは魔物寄せを使い、刺客を道連れに死のうとした。奴らは事故を装う計画を立て、暗殺に級友を巻き込むつもりでいたから。

 計画を即座に悟り、それを阻止するためジルベルトは咄嗟に走り出した。一人で刺客を引き付けて魔物を喚んだのだ。

 ジルベルトが暗殺者の存在を隠したがっていたから、スタンは誰にも話さなかった。魔物寄せの匂いを風魔法でなすりつけられた暗殺者たちは、次々と喰われていった。

 冒険者に擬装していたので、不運な身元不明の犠牲者とされた記憶がある。

 だがスタン、それを俺にまで隠すのはどうかと思う。




 スタンが、俺が心底怒っていたのは。




「おまえが自分の命を粗末にしたからだ」

 帰り支度を終えたルベルに詰め寄る。

「───」

「魔物寄せを使ったからじゃない。おまえは意味なくそんなことをする奴じゃないと知ってたからな」

「……スタンくんには敵わないなあ」

「頼れよ。周りに頼れ。王子だからじゃない、ルベルだから助けたんだ。おまえを大事に思う人を悲しませないように自分を大事にしろ。おまえには味方がたくさんいる筈だ、俺と違って」




「……スタン、あたしたち親友よね?」

 俯いて表情の見えないルベルが俺に問いかける。

「え」

 友達と思ってくれてたの? 俺は腹パンの記憶が強いんだけど。

「親友って言わないと後悔する事聞かせるからね」

「何その脅迫。いや、親友と思ってもらえるなら俺は嬉しいが」

「親友はあたしだけよ! いい?」

「そんな物好きは他にいないだろ」

「───ありがとう。ちょっと残念だけど」

「待てよ、後悔する話ってなんだ」

「あんたは難を逃れました」

「気になるんだが!?」

「アデルに謝っておいて。あまり教えられなくて。次に来たら、ね」




 騒ぐスタンレイを置き去りに、門に転移したルベルをディーが待っていた。

「殿下、」

「いい男でしょ、あたしのダーリンは」




「女だったらって何度も考えたけど。でも、親友だからいいの。あいつの親友はあたしだけ。繋がりは一生よ、贅沢は言わないわ」

「……編集長は鈍そうですからね。学生時代、全然好かれてなかったみたいに話してますが、そんな訳ないんでしょう?」

「そりゃそうよ。怒りっぽいけど公平で正義感の塊だもの。嫌ったり煙たがるヤツの声がデカかっただけで普通に好かれてたわ、特にかれに助けられた平民や下級貴族にね」

「女性に全然モテなかったとか」

「女嫌いだって周知されてたからねー誰かしらねえそんな噂しだしたの」

 悪びれない様子に、やはり王族だなとディーは思う。




 ねえスタン、きみだけだった。私を王子でなく一人のクソガキと見ていたのは。

 女みたいに振る舞おうと、変わらずにいてくれたのも。




「彼の傍にいるとすごく呼吸がしやすいの。悪人を除いて誰に対しても否定も肯定もなく、ただそういうものだと思っている。悪い事は悪いと言って怒る。それがどれだけ救いになるかあのバカちんは知らないのよ。あなたにも分かるんじゃない? ディーおじ様」




「……知ってたんですか」

「面白くない? 二十三のあたしに四十五歳と十三歳のおじがいるのって」

「教会長と異母兄弟というのが地味に痛いんですよね……」

 心底嫌そうに天を見上げる〝叔父〟にルベルがころころと笑う。




「まだ諦めるの辞めようっと」

「え?」

「祖父だって好きにしてあなたが産まれた。あたしも好きにしていいわよね!」

「王子なのに決意が軽い」

「どっかの女が近づいたら邪魔してよ! 可愛い甥っ子のために!!」

「嫌です」

 ずっと昔、離宮の片隅で見た顔と全く違う。年端も行かない幼い身体に諦観を纏わせた子どもとは、全然。

 あの頃の私たちは合わせ鏡だったね、ディー。互いのなかに同じ鬱屈を抱えて全てを諦めていた。

 かれに出逢い、私たちは変わった。そうだろう?




「さて、帰るとしようか。ディートリヒト叔父上、息災で。また会おう」

「ジルベルト殿下もお元気で。いつかまた」

 ふっと微笑むと優しい目で歳下の叔父を見つめる。

「君もあの単細胞に影響されてるね。生きる気力が湧いている」




 だって今死ねば続きを描けない。読む方も辛いだろう。楽しみにしている読者は今ではたくさんいる。新しい料理はまだまだあるようだし、スタンレイのマンガももっと読みたいしアシ作業は興味深い。ここの仲間のことをもっと知りたい。

 そんな心残りをディーはもう無視できない。



「生きる意味って、ちいさな事でいいんですね。私の場合ただの未練の積み重ねです」

「うん、そんなものだよね。私は彼を落とすまでは死なない」

 じゃあまず死なないなあ。そう思っても口にはしない。

「健闘を祈ります」

「あっ、影響されるのはいいけど惚れたらダメだからね!? 叔父様と恋敵になりたくないわ」

「頭湧いてんのかバカ甥」







 ある晩、ルーが俺の部屋に来た。ベッドに腰掛けたので隣に座る。

「ギルは聞かないでって寝かせた」

「改まった話か、なんだ?」

「あのさ、おれギルの別人格じゃないよ」

 薄々そんな気はしていた。

「……バニシング・ツイン」

「?」

「双子だが、生きて産まれたのは一人。おまえたちはそれじゃないか?」




 意識を共有する、互いの会話が成り立つ。解離性人格ではあまりない筈だ。

「……おれ、兄貴なんだ。母さんの食事に毒が入ってて、腹ん中で二人とも死にかけて。おれはいいから弟を助けて! って祈ったら毒がぜんぶおれに来た」

「───そうか。すごい兄さんだな。尊敬する」




 おそらくそれがルーの異能だった。弟を助け自分は死んでしまったルー。本当に言葉にできないほど偉いよ。

「後悔してないよ、全然。でも時々すごく寂しい。おれ、みんなと遊びたい。……ギルと遊びたいんだ……」

 震える声が段々とちいさくなり消えて行く。俺にできることなんかない。ただ肩を抱き寄せ頭をポンポンとした。





「まだ誰にも内緒の俺の秘密を教えるよ」

「……?」

「俺は別の世界で死んで、ここに産まれた。人は生まれ変わるんだ」

「───異世界の、渡りビト?」

「そう呼ぶのか? 本当だぞ。料理もマンガも異世界でやってたからできた」

「じゃあおれも異世界に生まれる?」

「それは分からない。でも転生はきっとする。神様にお願いしておくよ。だから気の済むまでギルといてそれから上を、天を目指せばいい」

「……ギルのそばがいいけど、異世界も面白そう。どうしよう」

「いっぱい悩んどけ」




 そうしてルーにねだられて、一晩中俺と俺の世界の話をした。

 神様、見てますか。この勇敢で優しい兄に次はかれの望む幸せな人生を与えてください。どうかどうか、お願いします。






「なあギル、交換日記しよう」

「……」

「マンガの感想とか欲しい。ルーも書いて。毎日でなくても書いたら渡してくれ」

 みんなにも声かけよう。

「交換日記に参加する奴いるかー? 飛び入りも歓迎だぞ」

「ガキかよ」

「おまえらはガキだよ。何でもいいから書いてくれ。お互い急かすなよ。ハリー、食べ物の感想書かないか」

「ん」




 ギルはマンガについて感想や考察をしてくれた。これがなかなか鋭い。書く時は雄弁なんだよ。ハリーのグルメレポも玄人裸足だった。

 ふたりとも内心たくさん話してるんだと思うと嬉しかった。

 みんな、なんだかんだと目を通しているのも嬉しい。日記へのコメントを吹き出しで付けてるのはマンガ効果か。

 イラストでやり取りしてるし。

 うちの子たち色々すごい!




 悪戯心を起こして日本のオカルト話をアレンジして載せてみたら、次の日に無言で日記帳を顔に投げつけられた。

 涙目じゃなかったかディー。すまん。




 乗合馬車で居眠りしていたら、全然知らない山中の馬車乗り場にいた。馭者も馬もいない。こんな場所に居るはずもない小さな女の子が現れ、ここにいてはいけないと言う。 

 不審に思いつつ歩き出せば、向かう方向からサーカスの宣伝隊のような音が聞こえてきて───って感じのやつ。

 有名な駅の怪談に色々他のを足してみた。我ながら不思議怖く出来上がったと思う。




 他の子には好評だったので怪談で一冊書き上げた。山の怪異、不思議な偶然や心温まる話までバラエティ豊か。七人のアレを「七人兵士」としてあの世に引っ張る話とかね。

 何かに取り憑かれて祓うため教会で一夜を過ごす話はこの場所ならではの臨場感に溢れている。怪異が知人の声で「もう大丈夫だから出てきて」と囁くのを、すんでの所で踏み止まらせるのは懐いているネコの役。ネコ飼いたい。

 夕暮れ以降に特定の森に行くと、地獄の門が開いていることがあり取り囲まれて……、とか。あの話すげー怖いんだよな。ただ禁忌とされてる行動をしなければ大丈夫なんだ。

 熊避けにとついついやりがちな行為なのが罠だな。

 日本のオカルト話はホント怖い。




「なんで書くんですか!」

 目を赤くしたディーに怒られたが、読まなくていいんだよ。

「あったら読んでしまうんですよ!!!」

 怪談あるあるだね。

「怖いなら一緒に寝るか」

「ハラスメントで訴えますよ」

 みんな交互に寝に来てるんだよ。リンはただ一緒に寝たいだけ。可愛い。ハリーも怖くはないらしいがおやつがないかと便乗してやって来る。年少組は肝が据わってる。

 アデルとキースは寝るんじゃなく他の怪談がないか聞きに来てる。トイレ付き添いもあり。分かる、怖いけど聞きたいよな。

 アーサーとギルは自分から来ないからリンに連れて来させた。

「怖いは、人。」

 ハリーのそんな言葉にしんみりしてしまう。が、同情するならおやつくれ! という圧力を感じた。逞しいなあ、可愛い。




 いつの間にか神官の皆さんにも本が回っていたらしく、何故か朝の祈りやお勤めが非常に熱心になったと教会長がお喜びだ。

 生徒の夜中のトイレにも謹んでお付き合いいたします。本気でごめんなさい。




 怪談本、出版の運びとなりました。副教会長が知り合いに売り込んだと得意顔。

 宗教的に問題は? ないですかはい。

 ポッポー先生が拒否したので表紙は俺、ではなくなんとギル。一枚絵が上手いの発覚した。油絵でこわーい素敵表紙ができたよ。




 少しずつみんなの素顔が見えて来た。いつかは巣立つ子たちだけど、それまでにもっと仲良くなりたい。

 ───え、誰か巣立っていなくなる? 考えると泣きそうなんだが。二十年後くらいでいいよ!

「スタン?」

「みんなが卒業すること考えて寂しいんだよ……、俺を置いてくなよー」

 いかん、泣けてきたわ。

「……落第騎士センセー、成人してるんだよな?」

「なんでいきなり」

「泣かないでせんせい」

「リン~、」

 リンに撫でられて余計に涙腺決壊やで!

 ん? 撫でる手が増えた。

「……ギルぅ」

「泣くなヘタレ」

 え? あれ、ギルさん?

 周囲も驚きで固まっているよ?

「泣く前にやれることがあるだろクソ虫。具体的には俺のおやつ作り。ケツ蹴られて3つに割られたくなければさっさとしろノロマ」



 ……撫でる手はすごい優しいし顔つきは穏やかだから脳がバグるね!? 涙止まったけどさ!

 そういやルーが楽しそうに「あいつが喋ったら驚くぞ」と笑ってたっけ。こういうことか。

 驚きすぎてプリンアラモード作ってしまった。教会全員の作ったら収納に買い置き作り溜めしてたフルーツもプリンもアイスも生クリームも無くなった。みんな大喜びだが、珍しくアーサーが目の色変えて食ってた。勇者はプリン好きか、可愛いな。

 二言目には可愛いと出てしまう。

 あっ、俺の分作り忘れた!! ハリーが残念そうにしてるな、ざまあ。肉を切らせて骨を断ってやったぜ! プリン……。



 あとあと教会長に聞いた所、ギルの母親は傭兵部隊の隊長だったという。父親の家に部隊ごと雇われていて、結婚後も部下が残っていたとか。

「ギルが言われた言葉でなく、夫人が部下を叱咤激励するのを聞いてたんでしょう」

 貴族と傭兵、変わった組み合わせだが夫婦仲は良かったという。

「皆さん、亡くなられましたね。ご夫妻を最期まで守った形跡がありました。強盗に見せかけるため荒らされ貴重品が持ち去られた屋敷に小さな絵がありましたよ。男爵夫妻にギル、そして傭兵たちの姿絵。ギルという偽名は、かれが一番慕っていた傭兵のものらしいです」

 教会長まで泣かせに来た。

「絵を渡したら、少し微笑んでから涙を流していました」

「───」

「院長、わたしは俗世から離れた身です。しかしながら神ならぬ身には我慢の限界というものがあるんですよ。彼らには報いを受けてもらいます」

 望むところです。全力で手伝います。ルーの仇、両親に傭兵たちの仇。絶対許さない。




 まだスタンの隠しごとがある。それは突き詰めればひとつに集約されると気がついた。

 隠していて欲しい、と思う。今を壊したくない。どうしようもない事なら、忘れたままでいい。

 自分のなかでの誓いは果たせそうにないが、別の立場から成していこう。

 ルベル、俺たちは〝親友〟だからな。





         (第二章 終)



******************





怪談本ラインナップ


・その森でそれをしてはいけない

・七人兵士の怪

・不思議な友達に助けられた

・誰も彼女を覚えていない

・乗合馬車

・「決して振り返らないように」

・礼拝堂の夜

・ここではない世界に行ってきた話

・うちの犬は俺を弟だと思っていた



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