表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生オタクの落第騎士、異世界フリースクールの院長になる  作者: 沓子
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/32

2ー5




 敵と同じく樹々の間に身を隠す。人数は……、七人ほどか。殺気の度合いが先日とは異なり肌にピリピリ来る。

「!!」

 森の奥から多数の魔獣が向かってくる気配がした。トレインで引き連れて来たな畜生。


 

「ギルを守るんだ!! ギルを中心にしろ」

 ルベルを殺りに来た連中とは違う感覚。

 指示を出すとすぐ移動。遅れて吹き矢らしきブツが居た場所に刺さる。敵を見つけ盾にしたいが、まず戻ろう。魔獣も厄介だ。



 テントの前でみんなが戦っていた。

 魔獣が周りを取り巻いていたが、さして強いのはいない。

 ディーは高度結界を展開し、ハリーが横に付き何やら囁いている。ゴーレムが顕現し辺りを威圧する。

「リン、一番高い木の上に一人」

 ディーの言葉に巨木を引っこ抜き遠くへ放るゴーレム。

 クロスボウを構えたキース、炎を剣に纏わせるアデル。二人は魔物を減らしていく。

「師匠! 枷を外してくれっ」

「ダメ。今のあんたじゃ制御できない。冷静を保ちなさい、頼れる仲間がいるんだから」

 ルベルが俺に一通り補助をかけてくれている。攻撃に回らず生徒を守っているのがありがたい。

 そしてジョーイはあらゆる方面からの攻撃を剣で斬り飛ばす。結界に響きそうな時だけ一歩踏み出し、魔物も魔法も物理的攻撃も寄せ付けない。魔法を斬るには魔力を纏わせるんだが無意識にやってるみたいで、本当に規格外だ。

 合流する寸前、後ろから襲ってきた暗殺者に刃を返した。

「うちの子は凄い。貴様らなんかには負けない」

「その余裕も今のうちだ」

 切り札があるかのようなセリフだ。嫌な予感がする。ランクCの魔獣に任せるような半端はしない筈だ。何かを待っている?




 ふと、覚えのある匂いに背筋が凍る。どこで嗅いだ? 確か───、

「強力な魔物寄せだ!! Aランク以上が来るぞ、結界維持のまま避難を最優先!!」

 テントを背に最大限の警戒を森の奥に向ける。

「……スタン、あれは……」

 ルベルが悲痛な声音で呟く。




 Aランクどころの話じゃなかった。

 遠くからでもその巨体は見える。姿を現したそれは人間にとっての絶望だった。




「アースドラゴンだと……!?」

「やったぞ、我らの勝ちだ……!」

「くそったれ!!」

 怒りに任せ男をぶった斬るとそいつは満足そうに頽れていった。頭がおかしい。ドラゴンを怒らせれば辺り一帯不毛の地になるんだぞ。

 本当にやばい。ドラゴンブレスや体当たりを結界が妨げてもそう保たない。アースドラゴンのブレスには鉱物系の毒や砂礫混じりで長引けば全滅しかない。

 リンが大きなゴーレムで気を引いてくれているうちに考えろ!




「子ども連れて転移は可能かルベル!?」

「今はふたりが限界だ! ドラゴンに安全圏なんてないけど!!」

 いつブレスがくるか分からないし結界は解除できない。

「だから俺の枷を!!」

「傷は与えても倒せない! 凶暴化するぞ」

 倒すしかない? 無理だ。しかしやるしかない。

「なんとか足止めする! 少しでも遠くに逃げるんだ!!」

 覚悟を決めた俺の前に立ち塞がる者がいた。青褪めたジョーイだ。

「先生、一番丈夫な剣を僕に」

「ジョーイ、無茶だ!」

 少し無理してニコッと笑うジョーイ。

「僕が先生を信じるように、先生も僕を信じてください。できます」

 いつになく強い言葉。

 逆らえない何かを感じ、収納から一番いい剣を取り出した。十五の時の褒賞として王に賜ったものだ。あれが褒賞とは記録に残せないと疲れたように宰相が零していたっけ。そういえばあの人が副教会長だったかとどうでもいい事を思い出す。

 剣を受け取る指先が震えているのに、瞳には力があった。




「僕は弱いし臆病だけど、みんなを守るためなら戦える。誰かに頼ることでしか闘えない、でもそれでいい」

 剣を構えたジョーイの体から静かな覇気が立ちのぼる。




 ドラゴンが警戒を露わに、近づくジョーイをじっと見る。圧に負けじと目を逸らさず踏ん張るジョーイに、こちらが手に汗握ってしまう。




「ジョーイ、頑張れ!」

「がんばって」

「でかいトカゲに負けるな!」

 誰も逃げようとしない。嬉しくも腹立たしいな!

 誰の魔法だろう、ジョーイに補助魔法が飛んでいく。ルベルだけではない複数の。

 いや、これは───、祈りか。祈りを力とできる存在。ジョーイ、おまえは。





 あまりにあっさりと決着はついた。ジョーイが走り出し跳躍すると、ブレスの為に開いた口を真一文字に切り裂き、返す刃で首を落とす。

 そのまま着地しごろごろと転がり、距離を取る。

 あまりに速く流れるような一連の動き。CGを見ている気分になった。

 ドラゴンは固い鱗に覆われている。普通ならば刃は通らない。

 やがて木を薙ぎ倒しながら巨体が倒れ伏していく。重い音が夜の森に響いた。




 歓声もなく、静寂が支配する。

 ドラゴンを単体で倒せる存在はただ一人。




「ジョーイ、おまえ、───勇者か」

 なんとか振り絞って声を出した。




「僕は、天啓から逃げています……でも追いかけて来るんですね」

 ドラゴンを屠った英雄は哀しげに微笑んだ。もう責務から逃れられないと悟ったように。




「うわっ、えっ!?」

 突然、ドラゴンの死骸に向けて火魔法が放たれジョーイが慌てて離れる。ルベルの仕業だった。

「逃げろ逃げろ、好きなだけ。やりたくないんなら逃げていいのよ! こんなもん証拠隠滅しましょ!! 魔王もいないのに国に縛られる謂れはない!」

「王子殿下の言葉とも思えませんが同意です」

「ルベル、ディー、」

「……師匠! もうちょっとだけこの魔封じ緩めて」

 アデルが参戦し炎を放ち、ゴーレムが力の限りとばかり躯を破壊する。

 少し考えてディーが「火を止めて、離れて」と指示した。

 一気に全体を凍らせると俺を振り返る。


「編集長、水なしの大洗濯機を」

 いやいやそこまでデカいの無理だから。つかそれただの竜巻だよね。




 結局リンのゴーレムとルベルのストーンバレットで地道に崩していくしかない。ジョーイが加わり冷凍切り身にしていく。

 周辺に散らばっていくドラゴンの残骸でとても物騒な地獄絵みたいな絵面だ。




「あ、そうだ」

 キースが思いつき「圧縮」と呟くと、元の七割くらいになってたドラゴンが1メートル程の球体に変化した。え、すごい。

 一瞬シーンと静寂が支配する。できるなら最初からやれよとみんなの心の叫びがひとつになった。

「いや……、こんなデカいのできるか解らなかったし」

 キースは誰にともなく言い訳している。

「先生、水なし大洗濯機石礫入りで」

 だからなんで締めに生活魔法。




 リクエストに応えればわぁっと声を上げ喜んでいる何名か。

 この血塗れサイクロンが面白いの? 君らの服も洗うことあるのに?

 強度をあげ砕くよう意識する。グロい。



 かなり細切れに成り果てた憐れなドラ残骸を再び圧縮。出番がなくなり不貞腐れてたアデルが燃やす。

 血塗れになっている連中に盛大に水を浴びせてルベルが風魔法で乾かした。




 辺り一面のスプラッタを俺とルベルで片付けた。

 素材は勿体ないがドラゴンはもういない。

「みんなで証拠隠滅したぞ。って訳で学院生活継続だな、ジョーイ」

「え……」

「魔王が出て来たんでもなし、応えなくていいよ」

「逃げたの、笑わないの? 弱虫って」

「こわいはこわい。逃げたいなら逃げる」

「勇者、めんどそ。」

 僕同盟ナイスだ。

「俺が代わってやる!」

「先生に勝てないのに無理だろ。助けてくれてありがとうなジョーイ」

「ま、魔法が使えれば!」

「神様のご指名だから」

「朝のお祈りでかみさまにおねがいする?」

「きちんとキースのようにお礼を言わなければ。あなたもです編集長」

 ごもっとも。みんなに感謝され照れるよりも困惑するジョーイ。




 わちゃわちゃしたいつもの空気になり、ジョーイが感極まったように話し出す。

「ぼ、僕のほんとの名前、アーサーって言うんだ。似合わないからっていじめっ子がジョーイって呼んでて。あの、絵本の泣き虫ジョーイから取って。だから」

「ん。よろしくアーサー」

 ぽんぽんと頭を撫でて泣き顔を隠す。よく独りで重責抱えてたな、偉いぞ。

「長。アー」

「アーサーよろしく」

「いい名前ですね」

「アーサー。おぼえた!」

「剣教えてくれ!」

 魔術は元から無理だがマンガ、剣術までも指導者のお役御免かあ。リンはそのうち俺より料理上手になるだろうし。あれ、院長まで失格?? いや勇者だから教えられないよな、天賦の才だしな、うん。




「腹減った、帰ろ」

 アデルの疲れ切った声。

 まだ朝焼けには遠いが、今更野外で寝るのもなんだ。帰るか!

「なんかいるか、ルベル」

「……生きてる人間はいないと思う」

 ドラゴンを引き連れた暗殺者は真っ先にやられただろう。もう疲れたし色々やるのは明日にしたい。ジョーイ───、アーサーがいなきゃ全滅してたんだ。本当にありがたい。




「少し回復したらできるとこまで跳ぶから」とルベル。小休憩にして収納から大きいボウルに作ったオレンジゼリーを出す。ワッと歓声をあげ寄ってくるのに皿と匙を持たせておたまで掬って配る。お替わり早いな。

「ほい」

「ありがとう。ホント料理上手ね、嫁に欲しいわ」

 首裏がチリッとする。なんだ?

「なんで俺が嫁だ」

 その先が冗談でも口から出ない。




 油断してたら抱えたボウルから消えた一人分のゼリー。忍術? ニンジャなのか?

 俺のゼリー、と落ち込んでたらアーサーとリンが半分どうぞって。最年長と最年少いい子だなあ。一口だけ貰った。




「ん? なんだそれ」

 やたら綺羅綺羅しい大きい玉をハリーが撫でていた。推定おやつ泥棒め。

「ドラ石」

「え? 魔石?? いつの間に」さすが、全然つまみ食い現場を捕まえられんハリー。

「私も記念に」

 ディーは目玉か。瓶まで!?

「いいなあ! 俺もなんか欲しかった」

「ジャジャーン! 鱗を人数分取っときましたあ♡」

「おっ、師匠やるじゃん!」

 証拠隠滅どこいった。




「アーサー君には逆鱗。ドラゴンスレイヤーだからね」

「……ありがとうございます」

 ルベルが子どもに配り、最後に俺に渡された。顔くらい大きい。

「俺にも?」

「もちろん」

 みんなとのお揃い、俺が嬉しい。

「じゃあ俺の使ってみんなにペンダント作らないか。リン、ディー、手伝ってくれるか」

「この間なめした革を紐にしましょう」

 ドラゴン退治の後は工作の時間だ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ