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転生オタクの落第騎士、異世界フリースクールの院長になる  作者: 沓子
第二章

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11/32

2ー4




〝キャンプの主旨を変えましょう。最初の予定より少し危険な場所に行って実践を。教会にいても狙われるのは同じなら、おびき寄せるべきだ。〟

 ディーが言ってきた。



「いやそれは危ない。おまえらを巻き込むのは御免だ」

「もう巻き込まれ済で当事者ですが。いつ来るか知れない襲撃に気が休まらない子がいるのが分かりませんか?」

「あ、───」

「少しは私たちの力を信じてください」

「信じてるさ。強いと信じてるからこそ諾とは言えない。汚すのは俺の手だけでいい」

 なんて強情な、と呆れた風情のディー。俺の台詞だわ。



「では言い訳を差し上げましょうか。私の真名で命令を?」

「勘弁して」



 教会長始め神官にも総出でお守りを作ってもらう。幸運、防御、回避、状態異常耐性。 

 俺は俊敏に全振り。複数の効果を持たせると、どうしでも一つ一つのレベルは落ちる。

 レベルCの前者四つとAの俊敏なら俺は一択だ。場合によるが今回はこれだ。



 森に行く前に、何をどれだけを出来るか俺との一対一で確かめる。戦闘には向かないと申告してきたハリー、最年少のリンは除外。

 次にペア相手を変えながら二人一組で敵から身を守る術を考える。最後に総力戦で大きめな獲物をやる。これは見つかればだが。

 説明を受けた生徒に緊張と期待が入り混じる。不安感が大きいのがジョーイだ。



「実際の襲撃に遭ったら無理に倒そうとはするな。必ず助けに行く。持ち堪えて安全な逃走が第一だ。目と脚を狙え。できたら両方潰せ」

「アデル君のこの魔封じ弄っていい? 身体強化できる魔力を解禁するわ」

「やった!」



 ルベルの探知で探り、魔獣を発見したら訓練開始だ。

 ディーは魔狼を結界で覆うと中で火をつけた。酸欠と火責めの二段構えだ。

「水でもいいですが、派手なのが分かりやすいかと」

「とどめはいらない。俺とルベルがやるから」

「横取りですか」

 珍しく不満そうだ。

「実際相手にするのは人間だ。大人の仕事だよ。ただしいざって時は躊躇うな」

「では人間の時にお願いします。私も経験値は欲しい」

「それもそうか、了解」



 次に遭遇したのは魔猪だ。

「ルーは出るなよ。ギル、ひとりでできるか」

「───」

「無理そうなら隠蔽魔法の練習だ。その後でルー、出てくれ」

 ザシュ、と投げナイフが数本、魔猪に刺さる。傷は浅いが痙攣した魔猪は暴れ、やがて息絶えた。

「ルー」

 少し咎める調子で呼ぶが悪びれず笑っている。ルーは表情が豊かだ。

「出ちゃった。ギルはおれから学ぶって言ってるし」

「会話できるのか?分かってるだろうが毒の取り扱いには充分注意してくれ。素材採取にも付き合うから」

 毒は手製だろう。リリサイド近辺の森には素材がある。それにしても互いに意思疎通が可能というのは二重人格らしくない。

「おれが出てもギルの意識あるからね。逆も。それと毒にはかなり耐性あり。採取の手伝いはヨロシク」

「───二心同体ってことだな。ギルがそう俺に伝えてくれたらいいんだが」

 一瞬言葉に詰まる。過酷な生活が嫌でも毒耐性を与えたんだ。

 くくっと脈絡なしにルーが笑顔を深めた。

「ギルが喋ったらきっと驚くよ。けどあいつが話すこと自体が信頼の証だから引かないでね」




 謎っぽい台詞が気になるが訓練を続けよう。しかし魔獣が見当たらない。

「せんせい、ぼくの番は?」

「リン、無理はするな。行動を止めればいい。リンは走るの速いから逃げられる」

「……にげる?」

「ハリー、おまえも隠蔽を鍛えよう。俺のポトト盗み食いする時を思い出せ」

「ない。盗んで。」

 ふたりは不服そうだが(ハリーのは意味が違うな)九つと十一歳。守られてくれ。



「ジョーイ。無理はするな、おまえは強いが不安や躊躇いは危険を招きかねない」

「は、はい」

「キース、ひとまず弓をメインにしよう。おまえは目がいいし反射速度に優れる。後衛が欲しい。落ち着いたらまた剣もやろう」

「……了解」



 魔獣がいないのでアドバイスのみ。

「編集長」

 ディーが傍らに来て小声になる。

「詳細は話せませんが、ハリーは対人で役立ちます。今はいいですが実戦は私の補佐に」

 ハリーの能力をディーは把握しているんだな。



 ルベルが鳥の形に水球を操り的にする。攻撃が当たると赤くなる親切仕様だ。

「アデル、右」

「了解」

 キースが左の翼を狙いクロスボウを放ち、避けたところにアデルが斬り込む。

 ふたりは息が合っている。日頃の訓練の賜物だろう。

 周囲を警戒しつつ訓練を見守った。



 ジョーイとディーは誰と組んでもうまくやれた。相手を見てフォローに回れる。

 周囲を気にせず存分にやらせれば二人で片がつきそうだ。

 外されたリンが不服を隠さないので後で話そう。



「───と、今までの教えは余裕がある場合だ。次のは緊急時」

 干し肉と堅パンで簡素な昼食を終え、改まって話し出すと空気が引き締まる。

「本当に危険に陥って戦わざるを得ず、俺がいない時はディー、指揮を取れ。できれば結界でみんなを守ってほしい。ハリーが必要ならそうしてくれ。ジョーイは前衛で頼む。アデルは補助。どちらも前に出過ぎるな。キースはディーたちの近くで弓で警戒」

「なんで補助なんだよ」

「ジョーイが一番強いからだ。本気なら俺は多分負ける」

 まあ搦手を使うから勝敗は不明だが。以前のスタンなら卑怯な手は使わない! と言いそうな事もやる。



「ジョーイ、おまえ闘うの苦手だろ。それでも頼む、みんなを守ってくれ。俺が行くまで守れればいいから無理はするなよ」

「───はい」



「リン、おまえは」

「ぼくもやる」

 俺を遮りきっぱりと言い放った。

「みんなを守る。ゴーレム作れる」

「……いいのか」

 こくりと頷くリン。

「あのときもぼくはじぶんを守っただけ。そうなんでしょ」

「ああそうだ。リンはカッコいいな」

 襲撃犯を殺めてしまった事を消化できている。異世界の子は心を強くしないと生きられないもんな。わしゃわしゃと撫でれば誇らしげに胸を張った。

「ギル、ルーに頼んでもいいが奴ができることはおまえも可能なんだ」

 少し驚いた表情をしてるが当然だぞ。

「ルーはおまえを守るため動く。つまりおまえが自分自身を守ろうとしてる。優秀だ。ただおまえが狙われるケースが最も多いだろう。ディーの傍で自衛してくれ、ナイフと弓を持って」




「これ罰ゲーム? 隠してたの根に持ってる?」

 ルベルに修道女服を着せた。ちなみにこいつに女装癖はない。

「女の子を守る方がそれっぽいだろ。守られながら偽魔獣の操作よろ」

「スタンくんが怒ってるぅ」 

 しくしく泣き真似をする。わざとらしい。

「それそれ。おーいみんな、か弱い女子を守るぞ」

 テンションは微妙だがみんな真剣にやってくれた。ルベルが要所要所で微妙にイラッとする足手纏い感を出してくれ、いい訓練になった。




「俺のスキル、なんか役立つことあります?」

 キースの「圧縮」はある程度硬くないと効果が出ず人体は無理。レベル差があると魔物にも効かない。死んでいたら別だと。

「使い所なくって」

 めっちゃ使えるじゃないか。

「いいやキース。鎧なら可能だな?」

「中の人間もぐしゃっとなりますね」

 ディー、俺そこまで言ってない。キースが引いてんだろ。

「手足部分を狙えば行動不能だ。狙いを絞り強度も調整できるよう練習だな」 

「全身鎧を私が凍らせキースが圧縮する。編集長の大洗濯機・強に石を混ぜれば跡形もなくなるのでは」

 殺意高っか。



「その訓練もするぞキース」

「え、鎧ごと圧縮……?」

「ディーは無視しろ。例えば指輪一つでも指が千切れる。冷静でいられる奴は少ない」

「甘い。甘いですよ。ああでも結婚指輪で命を落とす結果になるのはウィットに富んでいてよいですね」

 ディー。何か鬱屈があるのかな? 後でお話ししようね。





「スタンのご飯、野外でも美味しい!」

 昼よりマシだが簡単なやつだけどな。ホットドッグテマタマソースがけに干し肉と野菜のスープだ。

「おまえ王子だろ、もっと美味いの食ってるだろうに」

「毒見済みの冷めた料理なんかマズイわよ」

 毒見が必要な時点でなあ。

「スタン。ポトト……。」

「揚げるのは無理。これで我慢しろ」

 ハリーが文句言うと予想してたから、準備はしてた。

 ポトトは切ってあるからささっとガレット的なのを焼く。フライパンで油も使ったし塩だけでもおいしい。

 人数分を焼くとまたハリー用。きりがないから強制終了だ。

 収納があるから作り置きもできたが、野外メシにはまた違う良さがある。




 夜。生徒を寝かせて俺とルベルは交替で不寝番をする。まだ眠くないと不平を漏らしても、みんな昼の疲れですぐ夢の中だ。

「丸くなったわねえ、楽しそうだし」

 火に枯れ枝をくべながらルベルが感心したように言う。

 スタンと比べればな。前の俺からすればむしろ気が短くなったと思う。言葉遣いも荒いし思考も割と物騒だ。

「学園出てから七年だからな。たしかに今は楽しい」

「随分最近まで暴れてたみたいだけど?」

 それ言われたら辛い。

「いいから先に寝ろ。交替で起こす」

「大丈夫よ」

 枝の爆ぜる音と夜に活動する生き物の気配だけのしんとした森。昔と同じだ。



「眠れないのか」

「ちょっとねー」

「また抱え込んでるだろ。進歩ねえな」

 第一王子は出来が良過ぎる。第二や第三よりずっと、誰の目にも明らかな程。



「ヒルデが死んだの」

「───」

 ルベルの愛馬だ。学園時代からずっと可愛がっていた。俺にも懐いてくれた鹿毛の美しい穏やかな牝馬だった。

 与えられる馬も弟たちには大きく勇ましげな牡馬、しかも白馬ときた。だがルベルは平凡な見た目のヒルデを大層可愛がり自ら世話もしていた。

「脅しのためだけに殺められたのよ、許せない。けど追及したら泥沼よ。もう全部燃やして終わらせたい」

「ルベル」

「楽になりたいって思っちゃうの。大切なものは壊されるし傷つけられる。あたしのせいであの子が、いずれまた誰かが」

「ルベル!」

 肩を掴み揺さぶるとルベルがはっとして正気を取り戻す。



「向こうの思う壺に嵌るな。いい加減正当に反撃しろよ」

「あたし、王位なんかいらない……」

「それと自分を守るのは別だろうが───、っ!!」

「!」


 同時に感知した気配に身構える。

「どうする? あの子たちに結界張りたいけど、相手に気づかれる」

 焚き火の音に合わせた囁きに声を落として返す。

「俺が囮に出る。用意ができたらすぐ結界を。ディーを起こし引き継ぎ。加勢頼む」

「……了解」



「ちょっと周辺を見回ってくる」

 立ち上がりわざと大きめの声で告げる。

「あらオシッコ? 行ってらっしゃ~い。あたしは子どもたちを見てくるからごゆっくりー」

「デリカシー! おまえ王子だよな」



 ここらは昔からの阿吽の呼吸。俺が囮になるのは気に食わないらしいが、すぐに通常運転で軽口を叩き相手を油断させられる。

 相方が平常心だと助かる。ルベルはその点信頼できる。だからこそあの時は意表を衝かれて───。



「、っと」

 咄嗟に身を屈めれば何かが頭上をかすめていく。矢か、飛び道具は厄介だ。

 スキルなし。スタンレイが貶される材料の一つだが、これはスキルと同じだと思う。

 危険に対する約2秒前の感知。

 それにこの身体能力が加われば攻撃をほぼ避けられる。

 平凡なリーマンだった俺が冷静に対処できるのもスタンの持つ力と経験のおかげだ。

 誇ってくれ、おまえが俺を助けてるんだ。

 


 この矢を無視するのは不自然だから、テントに向かって大声で叫ぶ。

「敵襲!」



 結界が張られた。今の声で起きる奴、気配に気づいた奴もいるだろう。正しく動いてくれよ、みんな。

「反撃と行こうか」



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