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転生オタクの落第騎士、異世界フリースクールの院長になる  作者: 沓子
第二章

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10/32

2ー3




「大人しく帰ってくれないかな? 私に野心はないと伝えてくれ」

 崖っぷちに追い詰められた形になってしまった。油断したなとジルベルトは内心舌を打つ。

 魔物の跋扈する森を抜けて来たらしい。人数もかなり減らしているのではないか。

 決死の覚悟を持つ相手に説得など意味はない。

(魔法の発動が阻害されてる。厄介な。でもこれは一帯に干渉するから向こうも使えない。まあ私から魔法を取れば赤子も同然か)

「お命頂戴する、第一王子殿下」

 リーダーらしき人物がゆっくりと片手をあげ、合図をしようとした時だった。



「うわあああ!?」

 ジルベルトを取り巻く一人が悲鳴をあげながら崖下へと落ちていく。

 内へ作用する身体強化は阻害の影響を受けない。敵の一人に狙いを定め瞬時に近づいたスタンレイが、その男の頭に何かを振り回しぶち当てて体当たりしたのだ。




「必殺完売御礼アタックだ」

 勢いのままルベルの隣に駆け寄る。

「何それ、締まらないわね」

 長細い袋にぎっしりとピザの売り上げ金が入っている、振り回せば立派な凶器だ。雇ってる子どもが体に巻き付け運べるようにこの形にした。これならスられないからな。

出掛けに思いつきで引っ掴んできた自分を褒めたい。

「魔法は使えないから注意ね!」

「おまえはとにかく避けろ」

 ジルベルトのローブはワイバーン革で防御に優れる。あと二人、なんとかなる。なんとかする。



「邪魔をするな、騎士のなり損ない」

「生憎と実技と喧嘩で負けたことねえんだわ」

 俺のことも調査済みか。携えた剣の他にナイフを隠し持っている。十中八九、毒が塗ってあるだろう。



 斬り掛かってくるのをいなしつつ崖から離れるように動き、丸い塊を投げつけた。

「っ!? いっ、痛い! げほっ、うええ」

 球を斬りつけた男の前で粉が舞い散り、顔面を襲う。耐えきれず蹲る襲撃者。

 キャンプ用の獣対策、唐辛子と胡椒の詰め合わせだ。高いんだぞそれ。

「そいつ拘束しろ! なんならその売上袋で殴れ、気をつけろよ」



 言い捨てて残る男と対峙する。魔術師のようだが魔法は使えな───。

「ファイアランス!」

「うお!?」

 すぐ横を炎の槍が掠めていく。

「おい魔法使えないんじゃ!?」

「崖から落とした奴が阻害してたみたいメンゴ!! こいつ魔法抵抗強くて手こずる、そっちは無理!」

 見ればジルベルトは魔法で男を捕縛している。早く言え! 結界は期待できず、なら。

「受けて立つ」

「ふん、落ちこぼれの魔法など。ウインドラン───、」

「巨大洗濯機!!」

「っ!? あぶばばばぼ!??」



 数十人分の訓練服を洗う、大量の渦巻く水が男を引き込みぐるんぐるんと洗う。生活魔法舐めんなよ! スタンの魔力はデカいんだぞ。発動も速いからな!

 養成校で罰としてよく洗濯やらされてたんだよな。

 売上袋に体当たり、獣避け、生活魔法。我ながら騎士見習いを経験したと思えない。前世の俺が出てしまったのか。

 佩いていた剣はあまり意味なかった。




 数分後、溺れて気絶したのと縛られた奴。襲撃者の横に何故か血の付いた歯が散らばっている。怖いんだが?

「抜歯を魔法でやってみたかったの、歯に毒が仕込まれてたし。これで舌も噛みきれないわ。魔術師の場合、詠唱が不明瞭だと発動は……? あの爺さんは歯があるし……。ええい、魔術師も実験台!」

 なんて恐ろしい魔法だ。ちょっと可哀想だな、任務に失敗して総入れ歯とか。ん、入れ歯ってあるの?

「自白はせんだろうなあ」

「引き取りに来てもらうわ。少し置かせて

ね」

 帰った所で雇い主に消されそうだ。歯の心配は要らないか。



 賊を縛ったまま連れ帰り警戒の解除を告げた。不満そうな生徒に後で説明するからと襲撃者を物置きに連行する。腹いせに亀甲縛りで捕縛し直したから動くのは無理。食い込むよ。

 実際にするのは初めてだよ? ギャグの場面で使いたくて調べただけだから。検索履歴を都度消すのはもはや習性。



 ひとまずはこれでよし。物置きの鍵をしっかり掛けて、向き直りルベルを睨みつける。

「ゴメン、解ったろうけどあたしちょっとまたマジっぽく命狙われてんだわ」

「───」

「身を隠すために来たんだけどもう見つかったみたい」

 テヘペロをした所に無言でアイアンクローをお見舞いする。

「ちょ、痛い痛い、いたたた!」

「報告、連絡、相談。何故真っ先に言わない」

「分かったわかったから!!」

「なんで一人で飛び出した!?」

「狙いは私だからだ、みんなに危険が、ったたた!?」

「知らんとおまえだけでなく生徒を危険に晒すだろうが! どっちも護るがまず情報寄越せ! 一人でなんとかしようとすんのいい加減よせ!!」

 オネエ語じゃなくなったので止める。繕う余裕が消えた証拠だ。涙目王子様ざまあ。



 礼拝堂からみんなを連れて教室へ移動する。

「じぶんも行くってアデルがさわいだ」

「チクるなよ!」

 リンは賢いなあ。撫で撫で。

「チクリじゃなく報告だ。他に何かあったか」

「特には。編集長からも報告いただけるんですよね」

「今日のはおまえたち絡みじゃない。狙われる奴が増えた」

 ため息と共に情報共有開始だ。



「なんと、そんな事がまだ続いてるのかね」

 教会長が驚いている。

「あたしが優秀過ぎてゴメンなさい」

「軽っ」

「王妃は荒事で解決したがりますから」

「ディー、それは一応秘密に」

「教会長、現時点で私たちは巻き込まれています。情報共有は絶対です。背景を知れば対処できる場合もある」

 ディーは賢いなと撫でようとすると全力拒否された。それスタンによーく言い聞かせてもらいたい。

「あたしは王になんかなりたくないのに」

「存在が目障りなんでしょう。第二王子と第三王子は、その」

 アデルが丁寧語なの初めて聞く。

「学園で平民出の男爵家養女の取り巻きをしてるわねえ」

「えっ、乙女ゲー?」

 思わず声が出る。王子様なにやってんの。

「おとめげ? 聖女の噂もあるけど眉唾よね。王子が侍る理由が欲しいみたい」

 騎士になりたかったがこの王家に仕えたくないなあ。

 後ろ盾が弱く優秀な第一を排除し、選択肢を自分の息子だけにする。王妃は昔から一貫してる。怖い女だ。

 命を狙われる立場はギルと一緒。ギルの嫌な記憶がフラッシュバックしないだろうか。



 ルベルは第一王子だが側室の子。生母の実家は伯爵家だ。正妃がなかなか子に恵まれない中で側室の懐妊は面倒な事態を引き起こす。

 妊娠中には流産を画策され、誕生してからもルベルは常に命を狙われていた。母親はやつが幼い頃に『事故』で亡くなっている。

『王の胤ではない』、そんな中傷も付き纏った。三代前の王にそっくりなのにな。

 むしろ王妃のが怪しい。ルベルが生まれてから六年後、続けて第二と第三が出来たのは不自然だ。



 生徒で危険度が高いのは圧倒的にギル、そしてディー、リン。

 ディーのファイルには抜けが多く、とある高位貴族の婚外子と記されている。家の問題で以前は命を狙われたが、今のようにひっそりと生きるならば見逃されるらしい。

 ふざけんなって話だが解決策が見つかるまでは保留。誰なのかなんとなく見当はついてるが、正体を明言してくれないと動きようもない。



 リンの場合、いつ誰が加害者となるか分からないのが悩ましいところ。


 リンは魔族と人間の子。親は既に亡い。

 孤児院に向かう途中に襲撃され人を殺めてしまっている。

 話し方がやや幼いのは育ちにあるんだろう。長く生きる魔族にとって、二十歳くらいまでは幼児扱いなのだ。外見の成長も遅い。

 今は一応、互いに無干渉でいるが一般市民にも魔族を恨む者はいる。リンの出自を知った途端、可愛いねとお菓子をくれる八百屋のおっちゃんが豹変しないとも限らない。絶対に漏らせない秘密だ。



 両親を亡くしたキースは爵位を狙い家に居座った叔父夫妻から虐待を受けていた。教会長が助け出しここにいる間に片付くよう動いているらしいが、厄介な事に妻が王妃の遠縁。悪人全部アレに繋がってんじゃないのか。滅したい。

 成人までになんとかしてやりたい。



 害される恐れはないが秘密を抱えるハリーとジョーイ。ふたりの秘密に関する情報はない。ハリーは伯爵家次男、ジョーイは出自不明だが平民と思われる。

 ただハリーを知る者からの誘拐はあり得るという。その秘密は金になるらしく、味を占めていた家族は他には漏らしてないのが幸いだ。

 侯爵家のアデルは隔離の意味で遠ざけられたが特に危ない立場でもないし、家族とは連絡も取っている。魔法制御さえできればすぐにでも戻して欲しいとのこと。タウンハウスを壊した件で蟠りはないようで安心だ。




 ディーもリンもギル=ルーも身を守るのはできるが、子どもに負わせちゃいけない。相手を殺さなきゃいけない局面には俺が出る。体だけでなく心を護らなきゃ意味がない。既に傷を負っている子がいるんだ。

 スタンは本当に頼りになる。人の命を奪ったが動揺がないのはスタンの肝が座ってるからだ。

 日本にいる時の感覚でいたら俺は何回か死んでいる。専守防衛? 平和な時代ならではだよ。生徒を、ついでにルベルを害する奴らに容赦する気はない。





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