表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3


        ー1ー




 目覚めれば見知らぬ礼拝堂で大の字になっていた。同時に流れ込む「この男」の記憶と知識。


 転生したのか、とかより前に思わず出た言葉。

「こいつ世渡り下手すぎでは」

 不器用というかただ単にバカというか、とかく生き辛そうな若者。それが俺の転生体らしき「スタンレイ・フォーサイス」二十二歳だ。



 「俺」は冴えない中間管理職だった。ありがちな万年係長で結婚のけの字もない人生。

 上にも下にも気を遣いすぎて毛量も心許なかった。顔も年収も何もかも普通の中年男がまさかの転生。スタンレイの記憶からして異世界なのは間違いない。魔法あるし。 



 祭壇に掴まりなんとか立ち上がる。そこにある磨かれた祭祀用の鏡を見ながら俺は確信していた。顔だけなら勝ち組であると。



「ほんとに顔だけなんだがな……、っいて」

 打った頭が痛む。幸い打ちどころは悪くないようで、当てた手のひらに薄ら血が滲んだ。内出血ではなく血が出ている事に安堵する。念のため神官に診てもらうか。



 スタンレイは騎士団副団長子息である。養成校を出て騎士見習いとなり、二、三年ほどで「見習い」が取れ正式に叙任するのが騎士ルートだ。

 だがなんとこいつは四年も見習いでいた挙句に正騎士になれなかった。父親の地位からしてなって当然の筈が、だ。



 「俺」がしでかした数々のやらかしを回想する。頭に血がのぼりやすく、売られた喧嘩も売られてない喧嘩も買いまくっていた。決闘騒ぎも何度も起こしている。

 目つきが悪いので絡まれる事も多かったし、厳しい門限を破る常連でもあった。が。


 おまえアホだろ。

 鏡に向かって呆れる俺。



 燃えるような赤髪にダークグリーンの瞳の、ザ・外国人! という外見。鋭い目つきに精悍な顔立ちのイケメンがいた。

 つくりは良いのに眉間には皺が常備されていて、国際的に指名手配されてそうな感じ。




 門限破りの中には人助けも結構あったのに、いちいち言い訳するのが面倒でやってない?

 それ言い訳じゃなく説明なんだが? 報連相知ってます?

 喧嘩だって父親を貶されたりコネを揶揄されたのが理由だったり。

 ガンつけたな! とチンピラに挑まれるのは……、顔がなー普通に見てるのに睨んでるみたいなんだ。氷の令嬢と呼ばれた亡き母親にそっくりだと言われている。悪役令嬢かな?

 その母は穏やかな父にぞっこんだったらしい。



 見習い留年状態になればバカにされる機会も増えた。これが原因の喧嘩はまあ自業自得だ。せっかく強いのに三下感満載キャラだわ。

 そもそも俺が倒れてたのは、スタンが祭壇に八つ当たりしかけてコケて頭を打ったせい。情け無い。



 彼の父は優男で全然強そうではない。長らく戦争から遠ざかっているこの国では戦功をあげる術もなく、事務仕事とゴマすりが得意なんだと噂されていた。

 最も、父の近くにいる者は誰もそうは思っていない。書類にはたしかに強いが剣の腕だってある。

 父の剣は柔。勝てそうで勝てない、相手を翻弄する剣技を持っている。

 騎士団長のような一見して強さが判るタイプじゃないんだ。

 そしてスタンレイはそんな父を尊敬していた。自分が強くなり父を貶す奴らを見返してやるとの決意があった。

 父が誇れる息子になりたいと願いながら、空回りばかりしていた。



 で、何故コイツが腹を立ててたかと言えば───。

 騎士になれない、即ち無職である。それをこいつ、傭兵にでもなって再挑戦するか! と無駄に前向きに考えてやがった。

 日本人だった俺でも判る。品格が大事な騎士に傭兵上がりがなれるかよ!! フランス傭兵部隊からバッキンガム宮殿勤務になれるか!? 溺れてる王様でも助けりゃ別だがな!



 そんな甘さがバレてたんだろう。父親はスタンレイの仕事を見つけて有無を言わさず連れて来た。睡眠薬を盛ったのは正解だ。

 与えられた部屋で目覚めると、そこにはまとめられた身の回り品と一通の手紙。

 このリリサイド教会附属修学院の院長を務めるようにと父からの伝言が書かれていた。  

 修学院、つまり教会内の小さな学校だ。



 それでまあ見捨てられたと絶望に苛まれたスタンレイは、人を探し回り礼拝堂へ辿り着く。運命を呪い怒鳴り散らしながら神へ八つ当たりしようとし足を滑らせた。

 明らか過ぎるバチの当たり方、むしろ優しい。




 俺が思い出すタイミングおかしくね?

 もっと小さな頃だったら問題ないのに。頼むから人生やり直しさせて欲しい。色々積んでる状態でスタートって厳しすぎる。

「なあスタンレイ、考えてもみろよ。父上はそう簡単に息子を見限る人か?」

 頭を整理するために前スタンレイに語りかけてみる。



 言葉にするのが苦手なあまり問題児となった息子を、父は辛抱強く見守っていた。母は早くに亡くなっており、男手ひとつで彼を育て上げた立派な人だ。

「父上もおまえにかける言葉は少なかったが、親子だよなあ。言を弄するのは得意じゃないんだ。見捨ててないよ、何かに期待してここを紹介したと思う───だからまあ、後は任せとけ」

 元アラフォー万年係長、彼女いない歴=年齢な魔法使いのオタクにな!

 うん、自分で言っといて不安しかないわ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ