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第10話 トラジ(桔梗)湖水競艇場編 その3(AI併用)

展示室でのドタバタ劇

常時公開されていた時期もあるが、展示品を壊される、

盗まれるなどの事件が起きた。コントロール室のすぐ

近くにあることからセキュリティ上の懸念も指摘された。

現在は事前に予約・承認を受けた個人または団体は別として

イベントでもない限り一般客は見学ができなくなっている。

彼らの場合は、取材のため許可が下りた。

 トラジ湖水競艇場の展示室は、競艇の歴史と熱気が詰まった空間である。

壁には競艇場の設計図や建設工事中の貴重な写真が飾られ、

往年の名選手の写真や色紙も。

ガラスケースには過去に使われたヘルメットや優勝旗が並んでいる。

ココを作る際に視察した、日本のはなまこ競艇場の写真、

モデルになった某競艇場から贈られた青写真(青焼きコピー)の複製も。

ただ、そこはピットを展示と本番で分けているのに対して

ココでは第1、第2と呼んで基本的に交互に使うという違いがある。

「原本は保管してあるし、複製は容易に作れます。

 不要になったら破棄していただいて結構です」

という条件だった。変色がひどくなってきたため

現物は処分したが、デジタル処理で復元したものを展示している。

いまならCAD(注)で作図するところだが、

競艇場を着工した頃はそんな便利なツールはまだ存在しない。

(注)CADとは、コンピュータ上で製図を行うためのツールのこと。

 「Computer Aided Design」の頭文字をとった略語で、キャドと読む。

手描きの図面や方眼紙に書かれた設計図なども見ることができる。

「韓国と日本で、選手の交流はないんですか?」

「日本では日本国籍を有する者でなければ競艇選手になれないそうです。

 韓国でも短期滞在者には資格がないし『言葉の壁』を考えると

 父親が外国籍だから在韓外国人だが、生まれも育ちも韓国という

 人でないと難しいかと」

「あと、周回方向が逆のため、逆走事故も懸念されます」

「それでは実現は難しそうですね」

「以前、日本の競艇選手の1人が元在日コリアンと分かって

 打診したことがあります。でも、帰化前は北韓(北朝鮮)籍だったと

 判明して没。韓国語もほぼできませんでしたしね。解放前から

 日本に住んでいた人の子孫で、いわゆる脱北者ではありません」

 そんな中、ソヨンたちはガイドの職員の説明を聞きながら、

マークシート式の投票用紙について学んでいる最中だった。

ミンギュ、ジフンらの一行は先に見学していたようで、いない。

だが、ソヨンの頭の中はすでに「ナニソレ?」でいっぱいになりつつあった。

ガイドの男性が、落ち着いた口調で説明を始める。

挿絵(By みてみん)

 日本の投票用紙

「少し前に、日本から団体さんがいらっしゃったんですけど、

 競艇場の所在地にあまり詳しくなくて『芦屋は神戸のすぐ近くだろ?

 大阪の住之江や兵庫県の西宮にも競艇場があるのに、競合しないのかな』

 と言われたので『福岡県の芦屋ですよ』と説明したことがあります」

「日本ではね、競艇場が全国に24か所あるんですよ。

 だから、マークシートの『場』欄は1から24まで対応しています。

 ただし、複数の場や式別、レースを同時に買うことはできません。

 フォーメーションとボックスの同時購入もできません。

 これは韓国でも同じルールです。金額欄は30、20、10、5、4、3、2、1。

 単位は万、千、百円なので、最大で30万円まで賭けられます。

 ウォンに換算すると、だいたい300万ウォンくらいですかね」

ソヨンはマークシートを手に持ち、数字の羅列をじっと見つめる。

漢字をドンソン、ピョンワド、サムグクなどと韓国式に読んで

「キリュウ、ヘイワジマ、ミクニですよ」と注意される。

「ふーん、30万円かぁ。結構な金額だね。でも、300万ウォンって聞くと、

 なんかすごい大金に感じる!」と、ちょっと興奮気味につぶやく。

すると、隣にいた女性職員がニコニコしながら話を引き取った。

「実は、韓国の競艇のマークシート、

 昔はちょっとした騒動があったんですよ」

彼女の口調は軽快で、まるで面白い昔話を披露するかのようだ。

「以前の韓国のマークシートは、金額欄が0から9まで、

 単位は万、千、百ウォン。で、金額は2個までマークできたんです。

 たとえば、6と4をマークすれば10、7と8で15、みたいな感じで

 金額を指定できました」

ソヨンは目を丸くして首をかしげる。

「え、2個マーク? それ、なんかややこしくない?」

女性はくすっと笑いながら続ける。

「そうなんです、複雑だったんですけど、もっとすごいことが起きたんです。

 ある日、金額欄で0と単位(万、千、百のいずれか)を組み合わせると、

 0ウォンで投票できてしまうことが発覚したんです!

  集計上は1票としてカウントされるけど、的中しても払戻金はゼロ。

 もう、大混乱ですよ!」

ソヨンは完全にポカンとした表情。

「ナニソレ。意味不明! 0ウォンで投票して何の意味があるの?

  タダで賭けて、タダで負けるってこと?」

「そうそう!」女性は楽しそうに話を続ける。

「どうも、テストの答案用やアンケート、キャッシュカードの暗証番号

 みたいに0が必要な場合のテンプレートを流用してマークシートを

 作っちゃったみたいで、システムが0ウォンでも弾かなかったんですよね。

 この『0ウォンでも投票可能』問題は、タッチパネル式でも起きて、

 すべての舟券が最低1000ウォンに統一されるまで、しばらく

 続いたんですよ。競艇場はもうパニックで、ファンの間でも

『0ウォンで的中しても意味ないじゃん!』って大騒ぎでした」

ソヨンは頭を抱えながら、

「いや、ホントに何それ! 0ウォンで賭けられるって、

 まるでゲームのバグじゃん!」と笑い出す。

 女性はうなずきながら、現在のシステムについて説明し始めた。

「今はね、そんな混乱を避けるために改良されて、

 金額欄は1から10で1つだけマーク可能。単位は十万、万、千ウォンなので、

 最低1000ウォン、最大100万ウォンまで賭けられるようになりました。

 シンプルで分かりやすいでしょ?」

ソヨンはマークシートを手に持ったまま、ちょっと考え込む。

「100万ウォンって、聞くとめっちゃ大金っぽいけど…

 日本円だと10万円くらい? 日本の30万円よりは少額だね。

 なんか、あり得ない金額でもないかも!」と、

ちょっと安心したように笑う。

「でもさ、ウォンだと数字が大きく見えるから、つい『うわっ!』って

 ビックリしちゃうよね!」男性ガイドが苦笑しながら付け加える。

「まあ、確かにウォンの桁は大きいから、最初は驚くかもしれないけど、

 慣れれば大丈夫ですよ。それに、競艇は金額よりも

 予想の精度が大事ですからね!」

ソヨンは目を輝かせて、

「よーし、じゃあこのマークシートでバッチリ当てて、

トラジ湖水競艇場で一攫千金狙っちゃうぞ!」と意気込むが、

すぐに「あ、でも0ウォン投票はできないよね?」と女性にウインク。

展示室は全員の笑い声で一気に和やかな雰囲気に包まれた。


発券機でのドタバタ挑戦

 ガイドの男性と韓国人女性職員の話に「ナニソレ!?」と

目を丸くしていたソヨンだが、話はさらに次の展開へ。

女性職員がニヤリと笑いながら、ソヨンに提案した。

「ここには日本式のマークシートや日本円に対応した機器はないので、

 日本の舟券を買うことはできませんが、

 韓国の発券機なら新旧どちらの様式でも現行通貨に対応してますよ。

 せっかくですし、試しに舟券を買ってみませんか?

 どの競艇場のどのレースでも選べるように設定されてますし、

 払戻機に投入すれば全額返ってきます!

  ただし、記念に舟券を持ち帰りたいなら話は別ですけどね。」

ソヨンの目はキラリと光った。

「え、舟券買えるの? しかも返ってくる!? めっちゃ面白そう!

  やるやる!」と、勢いよく手を挙げる。

だが、その瞳にはどこか「何かやらかしそう」な予感がチラつく。

女性職員は展示室の隅にある発券機と払戻機を指さし、

デモンストレーションを始めた。

「たとえば、こんな感じです」

彼女は現在は改装工事中のため、実際にはレースが開催されていない

寿城スソンアカシア湖水競艇場」の第1レース、2連単1-2、1000ウォン

のマークシートを用意。1000ウォン紙幣と一緒に発券機に投入すると、

シュッという音とともに舟券がスルリと出てきた。彼女はその舟券を

払戻機に投入する。ピッと音が鳴ると同時に1000ウォンが戻ってきた。

「ほら、簡単でしょ?」

ソヨンは「へえー、めっちゃハイテク!」と感心しつつ、

挿絵(By みてみん)

作者注:ハズレ舟券なのでセーフ

日本からの団体客の誰かが置いて行ったらしい

日本の舟券を手に持ってジロジロ眺める。

「でも、ちょっと待って。これ、どういうルールなの?

  なんでも買えるの?」

男性ガイドが補足する。

「注意点がいくつかあります。まず、前日発売にチェックしても無効。

 今日の日付で発行されます。実際の舟券購入時と同じで、

 複数の競艇場やレース、式別、フォーメーションとボックスの同時購入は

 できません。あと、舟券には『マクドナルド・アメリカ大統領杯』

 みたいなレース名や 選手名は入らず、数字だけ。シンプルです」

女性職員が続ける。

「それと、あとで戻ってきますが、一度全額お支払いいただきます。

 たとえば、3連単の全ての組み合わせの場合、

 120×1000で最低12万ウォン必要です。あと、見た目では分かりませんが、

 この舟券には機械が読み取るコードに『この舟券は無効です』と

 入ってるんです。だから、仮に大当たり舟券を発行して持ち出しても、

 実際の払戻には使えませんよ」

ソヨンはニヤッと笑い、

「え、万舟券を作って大儲けしようとしたのに! ギクッ(^^;)」と、

わざと大げさに肩をすくめる。

女性職員は笑いながら、

「ほら、ソヨンさん、悪いこと考えましたね?

 逆に、ここにある払戻機は『無効』コードが入ってない舟券は

 受け付けないので、よそで発行された舟券で払戻や返還を

 受けようとしてもダメなんですよ」

ハズレ券を挿入して返金を受けようとする人への対策である。

「うわ、めっちゃ厳重! さすが競艇、抜け道なしだね!」

とソヨンは感心しつつ、マークシートを手に取り、意気揚々と挑戦を始めた。

「よーし、じゃあ私もやってみる! 簡単そうじゃん!」

しかし、そこはドジっ子ソヨン。マークシートを前に悪戦苦闘が始まった。「えっと、2連単だから2艇選べばいいんだよね? よし、1と2!」

とペンを走らせるが、なぜか2つのレースをマークしてしまう。

「あれ? これ、レース番号間違えた? うわ、どれがどれだっけ!?」

とパニック。女性職員がすかさず指摘する。

「ソヨンさん、1レースだけでいいですよ! それに、

 旧様式のマークシートでも今は0ウォンや1000ウォン未満の投票は

 できませんからね。最低1000ウォンで設定してください」

ソヨンは「えー、0ウォンで遊べないの? つまんなーい!」

と冗談めかして笑いつつ、ようやく真剣にマークシートを書き直す。

試行錯誤の末、彼女が選んだのは

「ヌルポ ヘバラギ<ひまわり>汽水競艇場

 第1レース 単勝 1番 1000ウォン」。シンプルかつ無難な選択だ。

「これでいいよね? 土産にするんだから、カッコいい舟券にしてよね!」

と発券機に1000ウォン紙幣とマークシートを投入。

シュッと音がして、舟券が出てくる。ソヨンは舟券を手に取り、

目を輝かせる。

「おおー! できた! なんか、①って丸で囲まれてるのが韓国っぽいね!

 日本だと四角で囲むのに、なんか可愛い!」と大喜び。

確かに、韓国の舟券は艇番が丸(①)で表示されるのが特徴で、

日本の四角(1)とは一味違うデザインだ。

さっきのレシート風の舟券では

「トラジ湖水競艇場 第9レース 2連単 6-2 1000ウォン」などと

表示されて、味気なかったので新鮮。

女性職員が微笑みながら言う。

「はい、ちゃんとできましたね! それ、記念に持って帰られてもいいです

 けど、払戻機に入れれば1000ウォン戻ってきますよ。どうします?」

ソヨンは少し考えて、

「うーん、せっかくだから、持って帰る! ヌルポ競艇場の思い出だもん!」

と、舟券を大事そうにバッグにしまった。男性ガイドも笑顔で、

「いい記念になりましたね。次は本物のレースで当ててみてくださいよ!」

と声をかけ、展示室は再び和やかな笑い声に包まれた。

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