Episode5『急襲』
銃声が聞こえ、私はその場所へと急いで向かった。
炎が見えてきたところで、もう一発銃声が鳴った。
その瞬間、その炎はぱっと消えた。
「メル!キラ!?」
炎から現れた二人に駆け寄ろうとすると、キラに手で制止された。
私は彼がライフルを構えていることに気付き、ホルスターからピストルを抜く。
「キラ、仕留めたのか?!」
「いや、確認ができない…。だが危険なことに違いはないだろう。」
ライフルを構えたまま、震えるメルの背中を押しながらこちらへと移動を始める。
私は、彼の目線の先を見てみるが、どこにいるのか全くわからなかった。
「見えるのか?」
キラはスコープを覗いたまま、口を開かない。
「…くび、首に痛みが走ったの…」
ようやく落ち着いたのか、メルが話し始めた。
彼女の首をしっかりと確認を始めた。
「…ここに跡がある!」
項に穴のように点ができていた。
血は出ていない。しかし、その穴から黒いモヤが漏れ出すように出てきている。
そのモヤを指ですくってみる。
それは溶けるように、指を伝う。
「リオ、確認に行こう。」
ライフルを下ろした彼は、敵がいるはずの方向へと向かおうとした。
私は彼を呼び止めようとしたが、メルにそれを止められた。
「…確認に行こう?」
「……そうね」
少し気を落ち着かせ、私は彼のあとに続いた。
500メートルほど進んだところで、銃痕を見つけた。
キラはライフルを構え直し、遮蔽物の裏を確認した。
キラの合図で、私とメルはそこへと向かった。
「…お前!?」
そこに血を流し倒れていたのは、ギルマだった。
「…やぁ、まさかやられるとは思わなかったよ。」
キラは彼から銃を取り上げた。
ギルマは血を吐きながら、懐から煙草を取り出した。
「…すまない、火をつけてくれないか…?」
「……」
キラはその要求に応えるように、ポケットからマッチを取り出した。
煙草に火をつけたキラは、一度ふかすと、ギルマに手渡した。
ギルマは目一杯煙草を吸い込むと、ゆっくりと吐き出した。
煙でむせる彼を見ながら、私は何も言えずにいた。
彼はこちらを見ると、いつもの笑顔を見せてくれた。
「……悪いな、リーダー…、俺は、…負けちまったよぉ…」
そう言うと、彼はカクンっと頭をうつむかせた。
「ギルマ?………ギルマ、さん…?」
彼に触れようとするが、その時に写った自身の手が、震えていることに気づいた。
必死にその震えを抑えようとするが、収まることはなかった。
その手を、メルが握りしめてくれた。
「…キラ、ギルマさんのこと、お願いします…」
メルは震える声で、キラにそうお願いした。
彼は、ギルマの口から煙草を外し、火を消した。
そして、ギルマを抱えた彼は、アジトの方へと歩き始めた。
メルはそれに続き、歩き始める。
その場に取り残された私は、自身の無力感を感じ、視線を下に落とす。
その時、ギルマのいた所に何か落ちていることに気づいた。
私は確認するため、それを拾い上げる。
「…チップ?」
ーーー
ギルマをベッドに寝かせる。
一応、彼の脈を取ってみるが、やはりもう止まっている。
メルは能力を発動しているが、傷が塞がる以外には何も起きなかった。
そこへ、少し遅れて戻ってきたリオは、死んだギルマの服を弄りだした。
「リオ!何してんだ!?」
俺は彼女の事を引っ張るが、それを振り払いその行為を続ける。
メルは呆然とその光景を見ることしかできなかった。
俺はメルを部屋から出すと、リオに怒ろうとした。
その時だった。
「……あった…」
彼女が小さくそう呟いたのだ。
俺は彼女に近づき、手に持っているものを見た。
「なんだよ、これ…?」
それは、あまりに小さく、意識しないと気づけないほどの針があった。
俺が彼女からその針を受け取ると、彼女は他にないかを探し始めた。
「…この針、これが能力を暴走させるためのものなのか?」
「わからないな、私も今気づいたんだ。」
それから、俺もギルマの身体を調べたが、結局その一本しか見つからなかった。
「……ギルマは、私たちにあとを託したんだ…。」
「だが、なんで攻撃をしてきたんだ?」
リオはジャケットの内ポケットから、小さなチップを取り出した。
「これが、ギルマのいた所に落ちてた。
…おそらくだけど、ギルマはすでに、敵に操られていたのかもしれない。」
操る、という言葉に、俺は身に覚えがあった。
それを確認するために、その日の夜、アジトから数キロ離れた場所で署長に連絡をした。
その事を聞いた署長は、一人だけ調査員を派遣してくれることになった。
『…無月君。くれぐれも、油断はしないようにね。
君は、私にとって一番に信用できる男なのだから。』
「分かってます。何度も聞いてきたので、それは安心してください。」
その答えに署長は満足したのか、電話を切った。
俺は端末を鞄に入れると、夜空を見上げた。
「……俺がしっかりしないと…」
その時、俺は逆らえない眠気に突如襲われた。
ーーー
眠りについた無月キラを確認すると、暗闇に紛れた人影は、キラの髪を一本抜き、それを食べた。
そして…
ーーー
メルは癒しの力以外に、炎の力を手に入れた。
アジトの外で、炎を扱う練習を行なっている彼女は、いつも以上に張り切っている。
ワタシは張り切る彼女を横目に、淹れたての紅茶を嗜んでいた。
コンコンッと、アジトの扉がノックされた。
どれも反応する余裕が無かったため、ワタシは仕方なく出ることにした。
「はいは~い。どちら様です?」
ワタシはなるべく笑顔で、応対する。
「…どうも、せんぱ…無月さんの手伝いに来ました。リリネです。」
リリネと名乗った彼女は、辺りを見渡しながら、どこか挙動不審だった。
「無月の手伝いね、付いてきて、案内するよ。」
「ど、どうも…お邪魔します。」
彼女は鞄を前で抱きしめたまま、ゆっくりとワタシについて来る。
ワタシは彼女の行動を見つつ、無月のいる会議室前まで来た。
そこの扉をノックし、用件を伝えたワタシは、会議室へ入った。
「先輩!」
先ほどまでの挙動不審な彼女とはうって変わって、無月に近づく。
「……リリネか。すまないな、こんな所に呼び出しちまって。」
その少しの間に、近づいた彼女は一瞬で距離を取った。
「…すみません。…先輩はどこですか?」
「は?」
突然そんな事を聞かれたワタシは、そこにいるじゃないと指差した。
それに対し、彼女は首を横に振った。
「貴方は何者ですか?」
「……何を言ってるんだ?俺の顔を忘れたのか?」
そんな事を言う彼に向け、彼女は発砲した。
「ちょ!何してんの!?」
焦ったワタシは、無月に近づこうとして、そこで気が付いた。
「…あんた、そのモヤなんだ…?」
撃たれた箇所から、ドス黒いモヤが出始めていた。
「…なんでバレたんだろうな?」
そう言うと、腕を鋭い刃へ変化させ、襲いかかってきた。
ワタシはリリネを抱きしめ窓から、その会議室を飛び出した。
「なんだよッ、クソ!」
着地を少し荒く済ませると、ワタシはすぐに構えた。
しかし、それが遅かったのか気づけば、ワタシの左腕をヤツの刃が吹き飛ばしていた。
「グガッ!?」
切断箇所を手で押さえながら、ワタシは膝をついてしまった。
そこを狙われたワタシは、目の前まで来ていたヤツを避けることが出来ず、そのまま上半身を食べられてしまうのだった。
ーーー
銃声を聞き駆けつけた、メルの目には。
横たわるチームメンバーと、影のような黒い人形の敵が吹き飛ばされている姿だった。
「カハッ!??!」
影は何が起きたのかを理解できておらず、頭を押さえていた。
ヤツを吹き飛ばした者を見ようと、メルは窓から外を見た。
「あの子はだれ?」
影はフラフラと立ち上がると、その子を見やった。
「リリネぇ〜、なぜそんな力を持っているんだぁ!?」
リリネと呼ばれる少女は、黙ったまま影に近づく。
それを見た影は、後退りをする。
来るなと言っても、彼女はどんどん近づいてくる。
影はメルを見つけると、ニヤついた。
その瞬間、メルめがけて飛び出した影は、両腕を刃へ変化させ、メルの眼前まで迫った。
「油断したな!」
影はそう叫ぶと、刃でメルを突き刺そうとした。
しかし、それは叶わなかった。
「…へあ?!」
刃の腕を掴まれた影は動揺し、窓の縁から足を踏み外した。
「メルに指一本でも触れてみな。…殺すから。」
「きょわ!?…き、貴様!!この時間は寝てる時間だろ!?」
メルは後ろにいる彼女に、感謝を伝える。
彼女は微笑むと、その影を地面に投げ捨てた。
なんの抵抗もできず、影はものすごい勢いで地面に衝突し、意識を落とした。
一仕事を終えたかのように、彼女はあくびをしながら会議室を出ていった。
彼女を見送り、メルは横たわるメンバーの下へと向かった。
血溜まりが先ほどまであったが、その血溜まりは消えており、そのメンバーも呼吸が安定していた。
「…安心して、彼女は、死んでないから。」
それを伝えたリリネは、突然その場で倒れ込む。
メルはリリネを抱えると、アジトの医療室へ連れて行った。
後のことを、医療班に任せ、メルは気絶する影を拘束し、檻へといれるのだった。
ーーー
それから1時間後、アジトへキラが戻ってきた。
「リリネだったのか、俺の元へ送られた調査員ってのは!」
そう言うと、彼女へ近づこうとした。
「…誰ですか?」
冷たくそう言い放った彼女は、再び拳銃を向けた。
「…俺だよ?忘れたのか?」
その言い方に、彼女はため息をついた。
「……もう少し、先輩に似せてくれないと、ボクは騙せないよ…」
そしてまた、一つの銃声が鳴るのだった。
メル
炎の能力を我が物にした。
影
彼の能力は三つある。
切断された女
能力は獣系の物であり、彼女はウサギ。
今回、一度目の死を経験。