Episode1『レッド・スカルズ』
2097年。世界が混沌となってから、約70年が経った。
70年程前、隕石の衝突とともに、一度地球はまっさらになった。
建物は全て崩壊し、人類はまた1から作り始めるほか手立てはなかった。
そして、一部の国は以前までの発展と、近しい発展をすることかまできるところも出てきた。
それだけなら良かった。以前の生活を取り戻せると、最初こそ皆が喜んでいたが、ある力によってそれは妨げられた。
その力は、古来の言い方で言うと、超能力。スーパーパワー。
そう言った力が世界にはびこるようになってしまった。
それが原因で、世界すべてを復興することが困難のなった。
能力を手に入れた者たちは、自分こそが頂点だと言わんばかりに暴れまわったのだ。
そのため、そういう輩を退治しようと立ち上がった団体が出た。
その団体は非能力者はもちろん、善意を持った能力者も参加する大きな団体だった。
団体は拡大を広げ、やがて暴れまわる輩を次々と倒していった。
月日が経つにつれ、彼らは正義のヒーローと言われるようになり、新たに誕生した組織は、『対能力戦闘部隊』と呼ばれるようになった。
その組織は、世界でわずか五カ所にしか存在せず。
優秀な人材しか入ることができない、超エリート部隊となった。
そして、『対能部隊』が結成されて、約15年が経った。
相変わらず、世界では能力者の脅威がはびこっていた。
彼らが存在している限り、世界を完全には復興できない。
現在復興が完了している街(旧称)は、ロサンゼルス、サンティアゴ、モスクワ、東京の四カ所のみ。
後少しという街(旧称)は、北京、大阪、マイアミ、オタワなど、後少しで完了するところもある。
しかし、それらの都市でも安全というわけではない。
能力者がその街を壊してしまえば、また一からとなってしまう。
もともと、もっと多くの都市が完了するはずだった。
しかし、能力者の暴走のせいで、今の数だけしか完全な復興は成されなかった。
復興が完了した都市にはすべて、先ほどの部隊が配置されており、かつて復興を目前にしたところにも、しっかり配備していた。
その復興目前だった都市は、能力者の猛攻を受け残念ながら復興は成し得なかったが、その分強い部隊が形成された。
そして、その部隊に配備された中に、彼の名はあった。
無月キラ。アルズ支部唯一の、無能力の人間。
『大人しく投降しろ!』
「黙れぇ!世界はこれを望んでいるのだぁ!!!」
炎を振りかざし、『対能力戦闘部隊』に向け放つ。
対能力用の盾でそれを防ぎつつ、前へと進む。
『このままやっても意味がないぞ!大人しくしろ!』
スピーカーで説得を試みていた隊員が、どんどんと荒い口調になっていく。
「お前ら全員ぶっ殺してやる!!」
そして、能力者は地面に両手を当て、そのまま地面を爆発させた。
隊員達は足元から飛び出してきた火柱に驚き、盾を手放してしまった。
それを狙った能力者は、すかさず炎を隊員に向け放った。
「まずい!」
隊員は死を悟り、目をつぶった。
しかし、痛みはいくら待っても来ず、目を開けてみると、盾を構えた普通の警察官格好をした青年が防いでいた。
盾は高熱の炎により、だんだん赤くなってきている。
それでも彼は、盾を構え続け、炎を完全に防ぎきった。
能力者が片ひざをついた瞬間、盾を放り出し駆け出した。
焦った能力者は、必死に能力を使用しようとした。しかし、それは叶わず、青年によって取り押さえられた。
「能力炎専用の手枷を!早く!」
呆気にとられていた隊員たちは、その言葉に反応し、持ってきていた手枷を能力者にはめ込んだ。
能力者が輸送車に詰め込まれるのを見届けた青年は、警察車両に乗り込み、去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待ったー!」
走り出そうとした車の前に、先ほど助けた隊員が飛び出してきた。
「…危ないですよ。」
「それは、すまない。だが、名前を聞こうと思って!」
「今から大事な用があるので、この辺で…」
再度車を発進しようとすると、また前に出てきた。
「…だから」
「すまない!だけど君のような優秀な人材は、スカウトせずにはいられないだろ!?」
「スカウトされなくても、また会いますよ。…では」
その言葉に困惑している隙に、彼は車を発進させ、その場を去った。
「ああ~…。また会えるって、どういうことだ?」
隊員は頭を抱えるのだった。
ーーー
「紅茶を一杯、貰えるかな?」
「かしこまりました、すぐお持ちします。」
デスクで資料をまとめながら、白髪の男は秘書に頼んだ。
秘書は署内にある台所へ向かうと、そこで紅茶を丁寧に作り、カップに淹れた。
それを持ち、台所を出ようとした時、けたたましいエンジン音が遠くから聞こえてきた。
秘書は少し早足で署長の待つ、署長室へ向かった。
部屋の扉を開き、署長に先ほどの音を話そうとした。
しかしその必要はなさそうだった。
「ありがとう、千里くん。どうだい?君も一緒に飲まないかい。」
署長は優しく微笑みかけ、秘書を誘った。
「…私は秘書ですから。どんな命令でも従います。」
そう言うと、少し嬉しそうに、もう一つのカップに淹れた。
「千里くんはどう思う。」
「はて、何のことでしょう。」
「以前話したことさ。…ギャングの手を借りるっていう話。」
「それでしたら以前も聞かれましたね。」
秘書と署長は紅茶を飲みながら、話を続けた。
「正直、私は反対でございますね。」
「そうか…。普通はそうだろうね。」
署長は外を見ながら、少し物思いにふけった。
やがて、外からは騒音とともに、バイクが来たことに気付いた。
「来たようだね。」
その言葉に、秘書はやはりと思いながら、紅茶を飲み干した。
「では、ご案内してきますね。」
「あぁ、頼むよ。…いつもありがとね。千里くん。」
秘書はボソッと言ったその言葉を聞き逃さなかったが、あえてスルーして、入り口へ向かった。
ーーー
俺は車両をガレージにしまい、署長室へ向かおうとした。
その時、大量のバイカーが入り口へと集った。
一人のバイカーが署内へ入ると、入り口の前で待機をするメンバーは談笑を始めた。
少しうるさかったため、俺は彼女らに近づいた。
「お前ら、ここをどこだと思ってる?」
優しく注意したつもりだったが、バイカーには挑発に聞こえたらしい。
彼女らは俺を睨みつけた。
「あんだぁてめぇはよぉ!?」
マスクを付けた女が近づいてきてが、それを一人の少女が制止した。
「…ごめんね。でも、リーダーを待つところが無いからさ。
ここで許してくれない?」
少女は申し訳なさそうにそう言うと、両手を合わせて、
「お願い!」
と言ってきた。なので、少し悩みもう少し静かにすることで認めた。
俺は彼女らの隣を通り、署内に入った。
「あぁー!!さっきのやつじゃねぇか!?」
とまた面倒なことになった。
「…なんで先に戻ってんすか?」
「ま、ここは俺の地元だからな!」
ハハハ!という男を置いて、俺は署長室へ向かった。
後ろから呼び止められたが、時間が迫っていたので、スルーして進んだ。
そして、ようやくついた俺は、一度呼吸を整えると、ノックをして室内へ入った。
「よぉ、お前がアタシのパートナーか?」
真っ先に話しかけてきてのは、先ほどのバイカーのリーダーであった。
署長は微笑みながら、紅茶を飲んでいた。
俺はそいつを避けるように、秘書の隣に立った。
「…無月くん?どうしたのかな。そちらに座りたまえ。」
署長が手引きした長椅子は、やはり女の隣だった。
女は俺が座れるスペースを作り、来なと言わんばかりに長椅子をポンポンと叩いた。
「…署長、お言葉ですが、なぜこのような者がこの部屋に居るのですか」
少し不機嫌そうに、署長へ問うた。
署長は笑って、事情を話してくれた。
「すまないね。でも、今回の任務は彼女の、彼女達の力が必要なのだよ。」
「今回の任務ですか…」
俺は任務という言葉に弱いところがある。
渋々納得した俺は、女の隣に座ると、署長の話に集中した。
「今回の任務は以前にも話した事と、大きな結びつきがあるんだ。」
「…能力者の、『暴徒化』、ですか」
「そう、『暴徒化』は、どんな良い人であろうと、なぜか暴走し始めると言った現象だったね。
その『暴徒化』なんだけど、もしかしたら、今回の件と何らかの繋がりがあると見たんだ。」
署長は資料をテーブル上に広げ、これまでの『暴徒化』の資料と、おそらく今回の為にまとめたであろう資料。
俺と女は同じ資料に目を留めた。
「この時の『暴徒化』ってさ、目の前で突然なったんだよな?」
「俺もその時直ぐ側にいたから分かるが、普通の暴走した能力者とは違った。」
「…この『暴徒化』の時、周りに何か落ちてなかった?」
そう言われ、俺はあの時の光景を思い出した。
「…後輩が何かを拾っていた。…何かの薬莢だったか…」
それに女は反応した。
「それだよ。…きっと、その薬莢は犯人の物だ。」
「つまりは、それを撃ち、能力者であった彼を強制的に暴走化させたということか。」
署長は険しい顔つきになり、頭を抱えた。
「…まさか、僕の署に裏切り者がいるということか?」
「とりあえず、お前の後輩に薬莢を持ってないか聞いてみよう。」
「そうだな、署長はここでゆっくりしていてください。」
署長は静かに頷くと、資料を眺めていた。
少し心配だったが、俺と女は部屋を後にした。
ーーー射撃訓練場
ドォンッ!ドォンッ!
「…まだうまくいかないなぁ…」
ショットガンに弾を込める。
そして、再び構えた時、後ろから話しかけられた。
「モモ、聞きたいことがあるんだが…」
その声を聞きた瞬間、驚いて暴発してしまった。
暴発したせいで、反動を抑えることができなかった私は、指を痛めた。
声をかけた大好きな先輩は、焦りながら冷静に私を抱き上げると、治療室へ運んでくれた。
「すみません先輩。お手数おかけしました。」
火傷した手に氷を当てながら、先輩は優しく説教をしてくれた。
「…まぁ、今回は俺が突然話しかけたからな…俺も悪かった。
すまない、モモ。」
「いえいえ!!今回は完全に私の不注意ですから!」
頭を下げる先輩に、必死に訴えた。
そこへ、一人の知らない女性がやってきた。
「この子が?」
「あぁ、例の薬莢を見つけた本人だ。」
女性は私の前で目線を合わせると、名乗った。
「私はリオ。リオ・アナスタシアだ。よろしく頼む。」
優しいその笑顔に、なぜだか私も、名乗っていた。
「私は、天宮モモって言います。よろしくお願いします。」
リオさんと握手を交わすと、先輩が質問してきた。
「モモ、五日前の暴徒事件で拾っていた空薬莢を、今も持っていないか?」
「空薬莢ですか?」
それならといい、私は胸ポケットからそれを取り出した。
「…これだな、間違いない。」
「だとすると、これから何らかの物質が取り出せるかもな。」
私は二人が何を言っているか分からなかったが、何かの役に立てたという事実に、少し喜んだ。
空薬莢を先輩に渡す、二人は感謝し、医療室を出ていった。
ーーー研究棟
突然やって来た男女二人に、空薬莢を調べろと言われた。
「どうしてこれを?」
ボクは、先輩に聞きながら作業を始めた。
「『暴徒化』の原因が、そいつから分かるかもしれないんだ。」
「『暴徒化』ですか。あれは確か、能力の多用で起きることだと結論づけたはずですが…」
先輩はボクの隣に来て、耳打ちした。
「もしかしたら、以前お前が言っていたように、人的な要因があるのかもしれない。」
そう言うと、ボクの背中を擦った。
「お前ならできるよな。」
「…それ、セクハラ、ですよ。」
そう言われた先輩は苦笑いして、少し離れた。
「でも、その期待には答えて見せますよ。」
久しぶりに、全力を尽くして、その空薬莢から様々な情報を取り出し、そしてようやく、知らない成分を見つけることが出来た。
その情報を端末に入れ、空薬莢も一緒に先輩へ手渡しした。
「この端末の中に、それについていた成分など諸々をまとめました。役立ててくださいな。」
そう言い、ボクは先輩の背中をポンと叩いた。
「ありがとな、リリネ。」
そう告げた先輩は、少し早足で研究棟を出ていった。
ボクは触ってもらったパーカーを脱ぎ、ジップロックに慎重に詰め、個人的に保存しているところへ収めた。
「……先輩…。うへへ」
ーーー
「あれでセクハラだってな。冗談なのは分かってるが、最近はセクハラの範囲が広がってるから生きづらいよな。」
リオはそう言うと、俺が持っている端末に手を伸ばした。
「触るな、俺はまだお前を信用したわけじゃない。」
冷たく突き放したつもりだったが、リオはムスッとし、本気で取りに来た。
俺はその猛攻を避けつつ、質問した。
「お前は嫌じゃないのか。警察に協力するのは…」
その質問に対し、リオはハッと笑い飛ばした。
「そんなの嫌に決まってんじゃん。それでも、こっちに利がありゃ話は別だろ?」
「利か。つまり、お前らも俺達を利用して、利益を得ることができるってことか。」
「そゆこと。それに、お前は知らないみたいだけど、私らは…」
そこまで言ったが、部屋に着いたため、仕事を優先することにしたようだった。
俺もそれを望んだから、ありがたかった。
部屋へ入ると、署長とその端末を確認した。
「…この成分は、『キリューディー』という、新鉱石の成分だな。」
署長はそう言うと、その成分の特性を記した書類を取った。
「…どうやらその成分には、能力を増幅させる効果があるようだ。」
「「増幅?」」
俺とリオは同じように頭を傾げた。
「あぁ、現在この鉱石を使って、力を制御できないかの実験を行っているらしい。」
そこまで聞いて、俺達はようやく分かった。
「…能力を無理やり増幅させ、力の制御をできなくさせていたということか?」
「そして、その成分を多く取り込んだ男の例がここにあるように、脳を刺激し理性を一時的に飛ばす効果もある。」
「つまり、この効果を巧みに使った犯人が、今回の任務の目標と同一人物かもしれないということだな。」
三人の意見は、すぐに一致した。
「んま、とりあえず今回の目標をぶっ飛ばして聞き出せばいいんだな。」
「そういうことですか?」
「うむ、そういうことになるね。頼んでも良いかな?」
リオは俺の肩を掴み、大きな声で宣言した。
「あったりめーよ!私らにかかれば、こんな任務ぱぱっと終わっちまうぜ!」
署長は満足そうに笑うと、「頼むよ」と言った。
ーーー
「リオ、俺はお前を信じていない。…だが、今回の任務はお前たちの得意な場所だと聞いた。だから、今回だけは手を貸せ。」
正直なところ、俺はまだ署長の考えに賛同はしていない。
しかし、目標がいる所は彼女達の縄張り内であることも事実。
俺は自分のプライドよりも、任務の遂行を優先することにした。
「意外と素直なんだねぇ~。ま、任せなさいな。
私らがいれば、絶対に成功すっからさ。」
親指を立て、仲間たちのもとへと向かった。
バイクに乗ったリオは、俺を手招きした。
「なんだ?」
近づいた俺に、リオはバイクの後ろにつけてある鞄から、袋を取り出して渡してきた。
「来週、こっちに来るんだろ。その時は、これを来てくると良いぜ。少なくとも、今のその格好よりもかっこよくなるぜ。」
「別にかっこよくなくてもいいけど…」
「まあまあ、警官だってバレたらいろいろとめんどくさいからさ。」
そう言うと、リオはバイクのエンジンを付けた。
「……お前たちはなぜギャングをしているんだ?」
その問いに、リオは笑った。
「なんでって、そりゃ楽しいからさ!
それと、お前は知らないようだけど、私らはただのギャングじゃなのさ。」
俺は首を傾げると、リオは他のメンバーを先に行かせ、俺に後ろへ乗るように誘った。
それに従い、後ろに座った。
すると、急発進したバイクはあっという間に80,100キロとスピードを上げた。
「おい!スピード違反だぞ!」
「まずはノーヘルにたいして注意しな!」
「くっ…!!」
俺はリオにしがみつき、振り落とされないように踏ん張った。
そして、ようやくバイクが停まった。
フラフラとしながら、俺はバイクを降りる。
「…見てみろ。」
「うあっ?」
なんとか顔を上げて、その景色を見た時。ここに来るまでの道のりをすっかり忘れるくらいの景色が広がっていた。
「これは…。すごいな。」
そこに広がっていたのは、少し荒廃しているにも関わらず、ライトアップが綺麗にされており、荒廃した地を魅力的にしていた。
「あそこが、私らの住んでいる場所なんだよ。」
リオは語り始めた。
「最初は嫌だったなぁ…。なんでこんな汚ねぇ所ですごさないけないんだって、そう思ってさ。
でも、過ごしてるうちに、好きになっちまって。それで、私はあの街を守りたいって思うようになってな。
それで始めたんだよ、私らのギャングを。」
そして、リオは俺の手を取った。
「お前はどうして、警官になったんだ?」
「……どうしてか」
「私はな、悪いやつをとっちめる為に、ギャングやってんだ。」
「…それしか、手がなかったのか。」
「そゆこと。…あの街に警察は愚か、まともな人間なんて居ないからね。」
握られた手は、少しずつ熱を増してきていて、まるで彼女の感情を表しているようだった。
「……そうだな。俺も、この街が好きだから警察になったんだ。
…この街を、悪い能力者から守るためにな。」
そう答えた俺に、リオは笑いかけた。
「やっぱりお前は、私に似てるかも♪」
そして、リオは再びバイクにまたがり、俺を警察署へ送り届けた。
「なぁ、お前の名前は何ていうんだ?」
その問いに、最初は応えようと思っていなかったが、彼女について知ることが出来た今、俺はそれに応えることにした。
「俺は無月キラだ。」
「無月、キラ。いい名前だね。改めて、私はリオ・アナスタシアだ。
そして私は、レッドスカルズのリーダーだ!」
眩しいほどの笑顔を見せると、バイクでその場を離れた。
残った俺は、もらった袋から服を取り出すと、軽く笑った。
「…これがリオの、レッド・スカルズの服ってことか。」
服を収め、俺は準備を始めるのだった。
無月キラ
『対能力特別作戦部隊』に所属する、無能力者でありながら、特隊の中でもトップクラスの実力を持っている。
周りから慕われており、上からも下からも頼られている。
リオ・アナスタシア
『レッド・スカルズ』の初代リーダーを務める、炎の能力を使うことができる能力者。
リーダーらしく、皆を従える能力が高い人物である。