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5.酒は昼から飲むと十倍美味い

「クセになるわアルティメットスイートデラックスマークⅡ。五千ユキチやべえ……」


 その差額分のサービスが一体何に使われているのか。それを確かめるため取材班は実際に宿泊してみたのだった――


 で、その結果だが、一泊過ごしただけでもはやとりこの域に達している。無一文になってもいいからもう一泊しちゃおっかな♪ とイケナイ衝動に駆られるくらいには堪能してしまった。ベッドはトランポリンみたいにふっかふか。飯は見たことも聞いたことも『ある』食材をふんだんに駆使した超美味コース料理。いやあやっぱりライオンの口からお湯が出る風呂っていいよね。まあなんていうか生きてるライオンだったけどね。どういう構造だ。ま、風呂上がりのコーヒー牛乳を飲み干せば、細かいことなんてどうでもよくなるってもんですわ。マッサージチェアに揺られ、ボインバインのおねーさんにマッサージされ、極楽の贅を尽くした感がある。高校生が体験するアトラクションではないね。もうオトナよオトナ。


「そうでしょうそうでしょう。ここはハジマリーノでも一番の宿ですから、本来なら庶民が泊まることなどないほどのハイクラスな宿なのですわ。わたしのおかげですわね?」


 お前その庶民から借りた金で泊まったんですけど。


 ラミアも心なしか肌ツヤに磨きがかかって、ひとまず異世界一日目はつつがなく終了したと言ってもいい。


 ちなみにだが、アルティメットの名前は伊達ではないので、部屋数もアホみたいに多かったため、おひとり様二組みたいな、なんと贅沢なホテル内別居生活。ゆえにラミアの巨乳にスイートデラックスするようなイベントは起きず仕舞いだった。せいぜいがっかりしろ。してねえよ。してねえったら。よく考えるとコイツホントに人の金(借金だけど)で贅沢しただけなのな。さすが王族だわ。


「それで、これからどうするんですの?」

「むしろ俺が聞きたいくらいだが」


 ラミアは『ハァ?』とでも言いたげな憎たらしい顔をして、


「この世界を創った勇者のくせに、何をするかさえ知らないんですの? もしかしてあなた、役立たずじゃありません?」

「この世界に住んでる王族のくせに、何をするかさえ知らずに家出してきた役立たずに言われたくないわ!」

「自慢じゃないですがわたしは王であるお父様に蝶よ花よと甘やかされ尽くして育ったのですわ! よって無罪!」


 何が無罪なのかまったく意味がわからない上に、本当に自慢にならない話だった。


 まあ甘やかされてそうな雰囲気はムンムンと振りまかれている。大体コイツ、服のデザインが明らかに旅向きじゃない。異世界ツクールの中から適当に選んだ姫っぽいデフォルトデザインだからと言えばそれまでだが、それにしたってこのツルッツルで肌触りよさそうなドレス調のワンピはなんとかならんのか。家出するつもりだったんだろ? ちょっくら舞踏会に行くんじゃないんだぞ?


 ラミアはファサッ、と相変わらず鼻につく髪のかき上げアピールをしながら、やけにキリッとした表情を見せ、


「とりあえずわたしは魔王を倒して、あの頭頂部が割と残念めなお父様をこき下ろし、ハジマリーノの実権を握って放蕩の限りを尽くすという偉大な野望のため――あなたを手下に迎え入れてあげてもいいですわ」

「ここに白昼堂々クーデター企んでるヤツがいるぞー。憲兵さーん、族ですよー。髪はたっぷりあっても極めて頭の中身が残念な不届きものですウボァッ!」


 正当な主張をしている途中で、げしっ、とラミアに蹴飛ばされ、軽く五、六メートル吹き飛ばされる俺。あっという間にHPが減少し、腹筋に力を入れてかろうじて開いたステータスウィンドウは瀕死を知らせる真っ赤な色に。ていうか残り1って。せっかく宿に泊まったってのに、早速毒の沼地で人知れず溺死するレベルじゃねえか。


「あら? かなり手加減しましたのに。本当に弱いんですのね」

「こちとら召喚されたてのレベル1だぞ! 魔法だ特殊技能だ世界観だの説明すらないまま放り出されてるかよわい勇者なんだよ!」


 主にお前のオヤジのせいでな!


 例えHP1の瀕死でも、動きが鈍くなったり朦朧としたりせず、当たり前のようにすっくと立ち上がれるのは、さすがはゲーム世界。デジタルの恩恵は素晴らしい。死ななきゃ安い、を体現している。


「レベル1……ということは、シャナトゥンもいないんじゃありませんの! 本当、役立たず」


 ナチュラルに人を見下すゲス姫が国家転覆を狙っている国があるらしい。もう滅べこんな国。


「じゃあまずはそのシャナトゥンとやらが何かを説明させてやってもいいぞ」

「酒場にでも行きなさいな」

「悪いが俺はチュートリアルは眠くて飛ばす派だ。あと未成年に酒場を勧めんな」


 未成年が飲酒してはいけない、なんて世界観をメイキングした覚えはないが、まあそこはセルフレーティングみたいなもんだ。


「大体、自分より弱い勇者に懇切丁寧に説明をするメリットがどこにあるんですの?」


 最高に見下した視線を寄越してくる。ドM界隈じゃ国宝級かもしれんが、あいにく俺はそういう趣味は持ち合わせていない。


 くそう、この女、意地でも教えないつもりか。


 何とか記憶の奥底をほじくり返して思い出そうとするも、正直どんな話にしたんだったかまではぱっと思い出せない。そもそも、俺はゲームシステム周りをメインで作っていて、ストーリーを考えていたのは当時大の仲良しだった(強調)風花なわけよ。男の子ってのはそういうモンで、バトルをバカスカやるのが楽しいとか、魔法を考えるのが楽しいとかはあっても、物語を最後まで書ききろうみたいなガッツはあまりないじゃん? 適材適所、実質許嫁だった(超強調)風花が最終的にどんな話にしたかなんて、思い出すも何も最初から知らないんだわ。


「とりあえず主人公(俺)に必殺技を設定した記憶はある。だが、それがレベル1から使えたんだったか……そもそも戦闘したことないから戦闘システムをどうすればいいのかもわからんし……」

「さっきからぶつくさと、まるで病気みたいですわよ。割とヤバめの」

「うるせえぞチュートリアル機能もないくせに」

「八つ当たりはみっともないですわ」


 くそういつかコイツ毒の沼地に沈めてやる。


「酒場か……えっとどっちだったっけな」

「あちらですわ。わたし常連ですもの。昼間っからエール。最高ですわね」


 仕方ない。俺の主義には反するが、背に腹は代えられないな。そしてコイツ本当に放蕩王族だな。誰かクーデターしろよ。このバカ姫は五千ユキチで容易く売り飛ばしてやるからよ。


「俺の目的はさておき、とりあえずお前は借金を返すために金を稼げ。オヤジのコネでもその無駄にエロい身体でも何でも利用して、毎日コツコツ俺に返済するんだぞ」

「それが勇者のセリフですの……?」


 ゲス姫のくせにドン引きしてやがる。言っとくけどお前も大概だからな。


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