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3.ノートの一ページ目はキレイにしちゃう症候群

「まあ待てよヒゲジジイ。もう少しなんかあるだろ」

「いや?」


 心底不思議そうに首を傾げるなよ。選択肢なしのバッドエンド直行かよ。いくら俺がおさなかったと言えど、そんな歪んだゲーム作った覚えはねえよ。


「そうさな、全く期待はしていないが、やれるならやってみろと思うことはある。ああ、貴様のような世間も何も知らなそうな子供風情に出来るのならな!!」


 いちいち若者をイラッとさせなきゃ気が済まんのかこのご老体は。


「われら一同、創造主たる貴様が飽きて適当な結末を用意したこの世界を憂いている。早く結末を書き換え、希望ある未来を創れ。さもなくば身一つで魔物が跋扈する世界に放り出すぞ」


 被造物にイジり倒される創造主がいるらしい。

 つかさ、根本的におかしいと思うわけですよ。


「じゃあ言わせてもらうぞ。さっさとゲーム寄越せよ。召喚とか面倒くせえことしやがってよ。そうじゃなくて向こうに乗り込んできて、一言そう言えば良かったんだろうが。俺をこっちの世界に呼んだら意味ないだろ。だって向こうのゲームで異世界(ここ)作ったんだから」


 王宮が、むしろ王国が、シーンと静まり返るのをひしひしと感じる。


「………………」


 王様黙っちゃったよ……黙っちゃったよ!


「え、まさかマジで言ってんの? 俺が世界作ったってことまでわかってんのに、こっちじゃリメイクなんてできないってこと、まさか本当に気づいてなかったの? ダメじゃん。魔物が跋扈する世界に身一つで送り込んで俺死んだらダメじゃん。早く向こうに戻せよ。たぶん、部屋のどっかにしまってあっから。ひっぱりだしてやっから――売ってなければ」

「無理だ……」


 苦虫を二千匹くらい咀嚼したような顔で、王様が呻く。


「勇者として異世界の人間を召喚する力はこの世界のマナを大量に消費するため、一人しか呼べない……そして還すこともできない。そう、お前が設定したのだ」

「あー確かに。子供のくせに妙にそういうつじつま合わせたがったんだよなー俺。風花に『それって救いがない』とか言われたような記憶あるわ。でもほら、どいつもこいつも次々召喚されてたら特別感ないなーって。いやあ仇になったなあっはっはっ」

「わっはっはっ」

「なにわろとんねん。笑いごとじゃねえよ! どうすんだよ!」

「貴様が言うな! とにもかくにもこの世界を平和にしろ! そうしたら世界のマナが活性化する! そういうふうになってるのだろう!?」


 上から目線でご都合主義を振りかざされるのってこんなにうぜえのな。主人公に説教される悪役の気持ちがちょっとわかったわ。


「結局そうなんのか……勇者ポジションか……ほれ、じゃあなんか寄越せよ、チートとか」


 俺が物乞いのように伸ばした手は、ハジマリーノ王によってバシッと弾かれた。感じ悪い。


「はっはっはっ、最初から超強い《つよくてニューゲーム》なんて、そんなゲームを創造した覚えがあるのか?」

「ではでは、旅支度は? まさかまーさーかーの、て・ぶ・ら?」

「じ・ば・ら、だな。せいぜい汗水たらしてモンスターを狩るがいい!」


 何もかもゲームのシナリオどおりってか。くそっ、わかったよ。


「ほいじゃ、世界、救ってやりますよ。俺が死んだら諦めろよ」


 どんなエンディングにしたかはもう覚えていないけどな、と吐き捨てるように言葉を叩きつけ、王様に背を向けてせっせと広間から出ていく。


「……世界を救う、勇者さま。これは便乗のちゃーんすっ、ですわ!」


 背中を向けた遥か後方からそんな声を聞いた気がするが、気にも留めなかった。


 何故なら、今の俺は広間が本当に広いせいで、かっこつけておきながらなかなか彼らの視界から姿を消せないことがちびっと恥ずかしかったからだ……


 素知らぬ顔を作りつつも、俺の頭の中では一つの疑問が渦巻いていた。

 彼らはいったい誰から、俺がこの世界の創造主だって話を聞いたのだろう……?


  ◇


 ちなみに王宮を出るまで三十分かかった。最初の街ほど気合入れて作っちゃうことってあるじゃないですか? 新しいノートの一ページ目だけやたらキレイな色使いで書いちゃったりするじゃないですか? そういうアレなんだと思います。すげー迷った。


 こんなに迷ったのはアレだ。T京に遊びに行って、S宿駅で2時間くらい行ったり来たりして、疲れ切って結局帰った時以来だ。だってさこの街、初期位置が既にダンジョンなんだよ。初心者向けじゃないんだよ。作ったときは2Dだったはずだが、こうして立体的にリメイクされると、もう全然どこに何があるか分かんないもん。


 というわけで気を取り直してハジマリーノの城下町。狭い橋を無駄に塞いでRTA走者に舌打ちされそうな兵士とかを尻目に、ひとまずは道行くモブキャラ達を眺めやる。


 とにもかくにも魔王である。魔王ってことはそれなりに強く設定してあるはずなので、やりこみ勢でも何でもない、まして素人のガキんちょが思うがままに作ったゲームバランスでは、初期ステータスでどうにかなる相手じゃないだろう。


「ていうか俺のステータスって、どんなもんなんだ……」


 RPGでは当たり前にやってるあのステータス画面って、普通の人間じゃどうしようもないことだよな。現実世界だって、俺の総合的な筋力がどれくらいって数値化するのは難しいし、『運の良さ』なんてパラメータがそもそもあるのかどうかも疑わしい。


 やはり情報収集が先決だろう。


 城を出て最初にたどり着くのは武器屋の建物だが、当然金などないのでそれをスルーして、一番近くにいた商人風のおっさんに話しかける。


「ここは ハジマリーノ の じょうかまち だよ!」


 うん、それはもう知ってる。


「ここは ハジマリーノ の じょうかまち だよ!」


 いかにも数多ある汎用グラフィックの中から適当に選んだ感のある印象を裏切らず、おっさんは定型句を繰り返すばかり。なんせこの立体化された世界において、書き割りのようにペラッペラなのだ。柔軟性がないにもほどがあった。こんなところまで忠実に再現する必要あったのかよと言いたくなる。王様はあんなにシャキシャキ喋っていたというのに。


 ええいこうなりゃ片っ端から話しかけてやるぜ!


「さいきんは ぶっそうに なったよね。まおうが ふっかつ したんだって? そんなことより おっぱい もみたいよね」

「Fカップおおぜき なら どうぐや で うってるぜ。よるの どうぐや でな」

「ゆうしゃ? そんなのうそうそ。どうせただの どうてい だろ?」

「よっ、ゆうしゃさん。 ぱふぱふなら よるにならないと できないぜ」


 どいつもこいつもロクな情報をくれない。というか本当に俺はこんなしょうもないモブを一人一人設定したんだったか……? 小さいころからエロに貪欲過ぎじゃねえか。


 ともあれいろいろ話しかけているうち、分かってきたことがある。街を行く人々は大別して二種類に分類でき、さっきの商人みたいな『ペラッペラ』な人と、王様みたいな『しっかり』人間な人が存在していて、ペラッペラ勢は定型句しか繰り返さないということだ。


 自分ではそんな面倒な振り分けをした記憶はないんだが、イベントデータ容量の節約とか、そういう事情だったんだっけか?


 しっかり勢はそれなりに会話のキャッチボールが出来るので、こいつらを中心に情報を集めるのが得策だろう。


「ステータスってのはどうやって見られるのか、知ってるか?」

「ああ、勇者さん。ステータスを見るには、『×ボタン』だぜ」


 ないよ! 人体に『×ボタン』はないよ!


 王宮同様に無駄に広い街を駆けずり回って、ようやく見つけた人間的モブキャラに話しかけたものの、返ってきた答えがこれである。


 試しに体中をまさぐってみたりしたが、やはり反応なし。


「×……×……例えば、なんだ。へそとか」


 ダメもとでおなかにぐっ、と力を入れると――ピコーン。


『ケンジ LV1 たたかう にげる ごまをする どうぐ STR:3 INT:3――』


 矩形波のようなピコピコ音が頭の中に直接鳴り響き、突然目の前に半透明のホログラフみたいな窓が出て、俺の名前と俺が取れるコマンド一覧、それから俺の能力値らしきものが表示される。おお、まさかの正解。人体にボタンを配置するようになっているのか。


 しかし能力が途中までしか表示されていないので、いわゆる『決定ボタン』を探す必要がある。てか、仮にも勇者なのに特殊コマンドが『ごまをする』ってのは……


 色々試してみたが、腹が×(ステータス表示、キャンセル)、右腕が〇(決定)、左腕が□(かっこいいキメポーズ)、顔が△(目の前のオブジェクトに対する特殊コマンド)、のような対応になっているらしい。プレ〇テ準拠なのはプ〇ステで作ったゲームだからだろう。あと、明らかに□にいらないコマンドが配置されているが、多分余ったから適当に割り当てたんだろうな、これ……


 ちなみにあまり言いたくないが、LとRは、両乳首だった。人前でやれるかっ!

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