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2.最初の街の王なんて、実態はこんなもんよ

 目が覚めると、いかにも王宮然とした広間の中央だった。赤を基調とした重厚な絨毯が一直線に伸びた地面の上、ご丁寧に台座までこしらえてある。


 その台座の上で、豪奢なシャンデリアの煌びやかな光に照らされつつ、スクワット中みたいな中途半端な格好で立ち尽くすアホ面の男こそ――この俺、賢次さんだ。


 俺を取り囲むのはまるで好奇を隠そうともしない人、人、人の囲い。神官っぽいとか魔法使いっぽいとか戦士っぽいとかモブ兵士っぽいとか差異はあれど、みな一様にファンタジックな装いをして、そして一様に俺をじろじろと眺めている。


 足元には、AIに『魔法陣』って言えば描いてくれそうな模様。たった今何かを呼びました、って感じに煙だか霧だかわからない蒸気っぽいものが漂っている。


 この状況、天才賢次さんは圧倒的な閃きによって看破する!


「なるほど、俺が召喚されたってわけね」


 まあ自分の服がゲームにありがちな主人公とか勇者っぽいファンタジー衣装になっていた時点でお察しというところ。しかし何か見覚えあるんだよなあこのマント服……


「いかにも!!!」

「うおあぅ!」


 突然鼓膜の張力試験でも始められたのかと思うほどの豪声に素っ頓狂な声をあげてしまう。


「常にビックリマーク付きみたいなデカい声しやがって……ナニモンだよ?」

「貴様っ! 召喚物よそもののくせにその口の利き方はなんだ! 不敬な!」

「そうだそうだ! ハジマリーノ王の御前なるぞ! 恥を知れ!」

「そうよそうよ! 最近娘が反抗期でしょぼくれている王の心労を増やさないで! 童貞!」


 誰も彼もが俺をじろじろと無遠慮に見つめる視線の筵の中、そしてみなさんあまりにも敵意むき出しすぎませんかね……あと童貞は関係ない。関係ないってば。


 いっそ清々しいくらいアウェイな空気なので、一言くらい文句も言いたくなる。


「娘との距離感も掴めない王が、果たして臣下と心を通わせることが出来るのだろうか?」

「ぬを貴様言ってはならぬことを――!!!」


 やはりバカデカい声でキレる王様(?)と、召喚から二分後には台座の上で取っ組み合いのケンカを始める異世界転移があるらしい。どうも俺、賢次です。


 ぜぇぜぇと肩で息をしながら、まるで仇敵のように睨み合う俺と王様。冠なんかとっくにずりおちて、贅沢の極みみたいなマントはよれて毛羽立ち、つやっつやのローブも皺だらけになっている。威厳も何もあったもんじゃない。


「と、とりあえずだよ。わざわざ召喚したってことはだよ? 救国の英雄とか、そういうあれなんじゃないですかね? そちらこそ俺にちったあ敬意払っても、バチは当たんないんじゃ?」

「たわけ!! うつけ!! でれすけ!!」


 な、なんか方言交じりにすげー罵倒されたんですけど。ちなみに最後のは『だらしない』みたいな意味だったりする。田舎の敵は田舎。なるほど、俺とはソリが合わないわけだ。


 王様は王族というよりDQNみたいなメンチを切って、心底見下した顔をする。顔芸枠か?


「貴様ごときが救国の英雄とは冗談が過ぎるわ!! むしろ亡国の アーックション! よ!!」


 某国のハクション? ちょっと意味がわからないです。てかバカでかいくしゃみの散弾銃が八割がた俺にヒットしてんですけど。それもうアサルトライフルじゃないですかね。


 だが分からないなりに真逆の評価を受けているらしいことは伝わり、驚きを禁じ得ない。

 こうなってくると、ふつふつと湧き上がってくるだろう疑問が、これである。


「じゃあ何で呼んだんですかね……? 俺、有馬賢次さんですよ? まさか人違いですか?」

「ふんっ、しょせんはたわけ。何も知らぬようだなアリー・マッケンジー」


 誰がマッケンジーだよ。有馬賢次だよ。まあいいけど。そういうあだ名つけられたこともあるけど。昔マ〇ジンにそんな漫画あったよね。


 ぐっ、とここは我慢して、グッド我慢賞に甘んじる。クールに行こうぜマッケンジー。


「ここはハジマリーノ王国だ」


 は? 急にどうしてモブ村人みたいなセリフを言い出すのか。


「ハジマリーノ王国はアン・ポン・タン共和国とヘノヘノモヘジ連邦と隣接しており、これら三国と空白地域である『賢者たちの墓標ロストウィズダム』を合わせてデカチン大陸を構成している」


 突如として『横文字ばっかりで眠くなる症候群』が俺を襲う。一話前にバラしている気もするが俺は英語が苦手だ。3以上の数字を通知表でみたことはないし、トマトがトメイトゥならラクダはレイクダだろ? と言ってクラス一同に嘲笑された凶状まである。だが変な単語や語感だけでネーミングをするのは嫌いじゃない。つーかよく考えると英語じゃないっていうか適当極まりないセンスだったというか、最後単なる下ネタだな?


 思えば昔、自分で好きなRPGゲームが作れるという触れ込みのシミュレーションゲームを、それなりに熱心にやっていたっけ――


「ん? チョ、マテヨ。ハジマリーノ? アン・ポン・タン? どこにでもあるゲーム的センスだけども、何かその響き、俺のネーミングセンスにビン☆ビン唸るぞ。どうも聞き覚えが……」

「ようやく気が付いたかたわけ!!」


 ああ……そうか。そうだったな。


「俺の爺さんの名前が確か若きハジマリーノの悩みとかなんとか」

「見栄を張るな純潔島国の猿が!! 文豪っぽくねつ造とは片腹痛い!!」


 オイオイずいぶん異世界の事情に通じてんな王様。伊達に召喚しようとか思ってない。あれか、就活の時に企業理念とか沿革とかしっかり覚えてきちゃうタイプか。俺は就活などしたことはないが、知り合いの二浪二留のウェーイ大学生がそんなこと言ってたっけ。ダメじゃん。


 俺の血筋に隠された異国の血というセンじゃなけりゃ、なんだってんだ。


「ふん! では『フーカ』という名前は?」

「おいばっかやめろよお前。何で俺の愛しのあの子の名前をこんなファンタジーバリバリの世界で聞かされにゃならんのだ。ハズいっての。それこそ昔作ったゲームに隠しヒロインとして風花を登場させてたくらい――ん?」


 ぴーん、と、まるでスマホがモバイルネットワークからWi-Fiに切り替わったような濃厚な電波感が脳裏を這う。


 この展開、この刺激、この適当感。

 もう一度すっかり変わり果てた姿となった己の衣装をまじまじと観察する。


「もしかするともしかして、『異世界ツクール』……か?」


 異世界ツクール――それはずいぶんと昔にプレイしたゲームソフトの名前だ。あの頃はご近所の風花ともマブダチ極まりない関係で、二人してあーでもないこーでもないといいながらダンジョン設計したり魔法作ったり、そんで散々遊んで疲れてぐったりしてたら、おふくろに『一緒にお風呂入っちゃいなさい』なんて言われて、幼馴染ならではの勝ち組リア充ライフだったものよ。――まあ最後まで入ってくれなかったけれども。断固拒否されたけれども。


 それがどうしてこうなった。異世界に来たはいいがチートも何もなしにうるさい王様とやらにひたすら罵倒されるこの時この瞬間。どうしてこうなったぁぁぁぁ!?


「そうとも!! 世界のことを何も知らぬ貴様が戯れに作り出した世界!! 貴様自身の異世界へようこそ!! クソくらえ!!」


 歓迎するか怒るかどっちかにしろよ。唾飛ばしは我慢してやるが、そろそろアンタ、血管切れんぞ……


「語感だけでハジマリーノとか名付けられた王国の悲しみがわかるのか!? 建国の由来を問われ、『特に意味はない』とか『だって始まりの国だったから』とか言わなきゃならん王の気持ちがわかるのかああ!?」

「それはまあ……申し訳ないと思っているけれども」


 だってゲームやってただけで本当に異世界作ってるとは思わないじゃん。子供のネーミングセンスに無茶言うなよ。風花が設計した物語部分はともかく、街とか技とかモンスターとかそういう要素は大体俺が適当にやっつけたからな。しょうがないよな!


 しかし、不思議なことにどうやら俺は異世界転移したことも、ここが俺の創作した異世界であるということも、何故かすとん、と腑に落ちていたりする。そう言われればそうなんだろーなー、くらいの軽いノリだが、こんな気分になること自体が、ある意味それらを裏付けている根拠、なのかもしれない。根が単純なだけかもしれんが。


 まあでも結局、結論は一つなのだ。

 ここが異世界で、俺が召喚され、転移してきた以上。


「で、いい加減教えて欲しいんだが……俺は何を求められてここにいるんだ?」


 鬼が出るか蛇が出るか。

 俺の異世界ライフを決定づける運命的な一言が。

 心底憎々しげに俺を睨み付けるハジマリーノ王から告げられる――


「死んで詫びろ」


 俺の異世界ライフは始まりの場所で終わりを告げる――

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