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第九話

第六話



「コンタクト!右側よ!!」



 シンジュク・ダンジョン第三層、高い天井に向かって銃声が木霊していく。第三層は天井の高い、だだっ広い部屋が一つだけの構造であった。


 赤い柱が一列に乱立したその部屋は、災害時に洪水を防ぐための巨大施設に近い見た目をしている。ただし、天井と床は木でできている。



「流石に多いな! 部屋が死体で埋まりそうだぜ!」



 マリー達は、この第三層に来てからすぐに戦闘に入った。と、言うのも第三層へ続くくねった階段の途中から既にモンスター達が襲ってきたのだ。どうやらこの部屋自体が巨大な決闘場のようになっていて、とにかくモンスターを倒すしかないようだった。


 マリーは右側から向かってくるカゲクロの頭部を狙ってSCARを連射する。5.56ミリより威力と貫通力共に強力な7.62ミリ弾は、そのまま頭部を抉って生命を断つ。



「ちょろいわね」



 この武器に変えてから、モンスターを倒すスピードが上がった気がする。気がすると言うより、事実上がっている。弾丸の威力が上がった分、立ち回りや戦闘がしやすくなっているのだ。


 アリーサも417に変えてからは、カゲトビの頭部を的確に狙っては一撃で倒している。遠距離型のカゲトビへの対処は、アリーサに任せていた。


 ローラが近づく雑魚を制圧し、アリーサが遠距離型を倒し、コウスケが近づいてきた敵を倒す。マリーはその中間、指揮を取る立場にある。


 モンスターの内訳はカゲクロ、カゲトビ、ネコマタなどのオンパレードだ。カゲロウやアカオニはまだお目見えしていないが、ここまで激しい戦闘をしているとなると、注意を配らざる負えない。



「キシャァァァァ!!!」



 と、噂をすれば奴の鳴き声が聞こえてきた。独特の奇声を上げ、壁伝いに触手を貼り付けて立体的な移動をしている。



「コウスケ! 作戦通りに!」

「了解です!」



コウスケはサブウェポンと化したレミントンを用意し、散弾をあらかたの敵に撃ち尽くして処分する。そして、ショットシェルに括り付けられた新しい弾丸を一発ずつ装填する。


 その間にも迫ってくるカゲロウは、その巨体を触手で飛び上がらせ、チームの後ろ側に着地した。そしてその着地の時には、大きな隙が出来る。



「集中砲火!!」



 その途端、ローラとマリーから火山の噴火のような火線がカゲロウに降り注ぎ、肉を抉り始めた。触手で弾ききれない弾幕が次々と体に着弾し、触手も千切れていく。


 奇声を上げながら痛み悶えるカゲロウ、しかし奴は弾幕を意にもせずに突進してきた。それを迎え撃つは、コウスケのレミントン。



「今よ!」



 その言葉を受け、コウスケはサイトを覗いたレミントンを撃ち出した。銃口から出てくるのはショットガン特有の散弾ではなく、巨大な一発の弾。


 12ゲージに収まるそれは、銃口から出てくると同時に矢の羽のようなフィンを展開する。弾丸はかなり正確にカゲロウの頭部を狙って向かっていく。


 近距離なので少しのズレもなくカゲロウの脳天を貫いた。壊れた機械のような声を出しながらよろけたカゲロウ、その生きている頭部に向かってまたも弾丸が撃ち砕く。



「カゲロウを倒しました!」



 コウスケがカゲロウに撃ち込んだのは、一発の巨大な弾丸を発射する、所謂スラッグ弾である。


 熊などの大型獣を仕留めるために作られたこの弾丸は、一発の大型の弾丸を撃ち出し、分厚い皮膚や頭蓋骨を貫通できるのだ。


 ライフルの方が貫通力は高いだろうが、化け物相手には威力のあるこいつの方がいい。



「作戦通りに行けば、カゲロウでも怖くねぇな!」



 マリー達は、事前に対カゲロウ用の作戦を決めていたのだ。カゲロウの触手を削ぐために集中砲火を浴びせ、触手が少なくなったところで頭部にスラッグ弾をぶち込む。


 コウスケが考えついた作戦だったが、どうやら上手く行ったようだった。



「脅威は居なくなったわ! 雑魚を殲滅するわよ!」

「よし来た!」



 マリー達は目標を切り掛けて雑魚達に銃口を向ける。明るいマズルフラッシュが薄暗闇を照らす。


 モンスター達はマリーに恐れを抱き始めたのか、死にたくないとばかりに逃げ出していく者もいる。


 敵前逃亡をしても捕まらないのは、モンスターの特権だとマリーは心の中で皮肉を思う。



「よし、殲滅完了」



 やがて、このフロアのモンスター達はほとんどが殲滅された。



『やあやあ凄いじゃないか』



 突然通信機が繋がれ、ドクター・ユウスケが通信を繋いでくる。



『まだこの層を攻略したチームはいないからね。君たちが初めてだよ、おめでとう』



 そう言ってドクター・ユウスケは乾いた拍手を送った。全く潤っていないそいつは、こちらにエールを送っているのか、期待外れだと思っているのかは心外だ。



「あんたに褒められるほどじゃないわよ。まあ、あんたの言う通りにはならなかったから良いけど」



 ドクター・ユウスケはこの層へ入るとき、『ここでは沢山のチームが突然全滅していたから、君たちも死ぬだろう』と勝手に決め付けて通信を切っていたのだ。


 それもそのはず、今までの攻略はこの層で止まっていた。いきなり謎の電波障害が起こったかと思うと、チームは全滅していたのだ。そう言うことが何遍も起きている。



『僕的には何か強烈な存在がこの層にいるんだと思うけどね、まあ良いさ次の層へ行きたまえ』

「言われなくとも」



 マリーは通信を切り、そのままの勢いで第四層へ続く扉へと向かう。



「やっぱり結界が貼ってあるよな」



 ローラが思わず呟く。彼女の言う通りの結界がそこに張り巡らされており、重圧な門が聳え立っている。



「こいつを解除するには……」



 マリーはその扉に触れる。



「!!」



 すると、後方からいきなり何かの遠吠えらしき声が聞こえてきた。



「後ろです!!」



  コウスケが叫ぶ。全員がその方向へ向けて銃を構える。その奥から、ズシンズシンという大きめの足音が聞こえてきた。

 目の前に白みがかかった黄色の獣が現れる。九本の尻尾に、ふわふわとした毛並み。まるでキュウビの狐だ。しかしその顔は穏やかではなく、凶暴で血に飢えていた。



「キュル───ッン!!」



 その声を聞く前に、そいつが新たなモンスターだと気付いた四人は、一斉に銃をそれぞれ撃ちまくってマズルフラッシュを焚く。


 しかし、そのキュウビの狐は銃弾をひらひらと何発かを避け、ジグザグに突進してくる。しかも、数発が当たっても意にも返さない。



「散開!!」



 マリーは四人にそう指示し、左右へ二手に分かれる。マリーとローラは右側に、コウスケとアリーサは左側に避けた。



「なんなんだこいつ!?」

『なん……! こいつは……見たことない……ぞ!!』



 通信機がいきなり故障したのか、ザアザア音と共にノイズが走る。が、ドクター・ユウスケが狼狽しているのが分かった。



『そ……! こ……が通信障害を……して今……のチームを全滅させた……!! これは……しい!最高だ!!ブラボー!!!』



 その言葉を最後に、ドクター・ユウスケの通信は途絶えた。キュウビは扉に衝突する寸前で壁を蹴り、一回転して反対側に着地した。


 そして、二手に分かれたチームを見据えると、またも遠吠えを繰り出した。



「な!?」



 すると、遠吠えと共に何かの火の玉が九つ浮かび上がり、一気に飛んでいった。マリーの方へ5発、コウスケの方へ4発のアンバランス。しかし、そいつらは確実にこちらを狙って飛ばしている。



「くっ!!」



 マリーは走ってそれらを避けようとするが、その方向に合わせて火の玉が追尾してくる。速度も速く、追いつかれそうだ。


 マリーとローラへ咄嗟に近くの柱に隠れて火の玉をやり過ごす。火の玉が柱に当たり、爆発を撒き散らした。


 どうやらあの火の玉にはかなりの威力、それこそ第三層でローラが撃ったグレネードランチャー並みの威力があるらしい。当たった柱や壁が、焦げてひび割れている。



「チッ!!」



 マリーはそれに小さく舌打ちをすると、各々の判断でキュウビに向かって射撃を開始させた。


 7.62ミリ、5.56ミリ、そして9ミリの弾丸達がキュウビに襲いかかる。マリーはSCARの銃身を制御してフルオートで撃ちまくった。


 しかし、奴は銃弾が当たっているのにもかかわらず、意にも返さずにこちらを見据える。そして、弾丸を撒き散らすローラ達に向かって突進していった。



「来るわよ!!」



 ローラに通信で声をかける。



「来いよ! 獣野郎!!」



 マリーの挑発通り、飢えた獣のような形相で突っ込んでくるキュウビ。それに向かってマリーはわざと囮になり、弾丸を浴びせる。

 その隙に地面に伏せたローラや、狙われていないコウスケとアリーサが横や後ろから射撃を加える。



「こいつ……!」



 しかし、やはり全く効いていないようだった。弾丸を浴びせる周りには気を配らず、こちらにばかり意識を向けている。


 マリーはSCARを腰だめで乱射しながら柱の影に隠れる。すると、キュウビはマリーの左側に滑るように現れた。



「なっ!?」



 その前足で蹴飛ばされ、マリーは吹き飛ばされる。前足はふわふわの体毛で覆われていおらず、代わりにトゲトゲとした針金のような体毛で覆われていた。


 マリーは倒れ伏し、その間にキュウビは距離を一気に詰めて、マリーの目の前に立った。マリーは懐からデザートイーグルを取り出して、顔に向けて発砲するが弾かれる。


 そして、後退りしていたマリーの目の前へ向けて鉤爪が振り下ろされた。



「危ない!!」



 

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