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第四話

第三話



 私は一つ目の棚を開けた。ふんわりとした木製の棚には、植物が絡み込んでいて、このダンジョンの雰囲気にマッチしている。その中に入っていたのは、一挺の銃器、それとその弾薬だ。


 アメリカ製ライフルM16、持ち運びに便利な持ち手とアイアンサイトが一体化した特徴的な銃で、M4やM416がアメリカ軍に採用される前に使われていた。


 それが、何故か日本のダンジョンの中にある。その理由は、このダンジョンの特性にあった。


 シンジュク・ダンジョンでは、ありとあらゆる武器。それこそ人間が武器だと認識した物が、こうしてダンジョン内の棚やロッカーの中に生成されるという特性を持っている。


 そう、『生成される』。今までなかったのに、ある日突然ポンと出てくるのだ。そのおかげで、私たちは弾薬の補給を行うことができるのだ。


 だが、銃本体は使い物にならなそうだ。大体の生成される銃器は、どこかしらが壊れていたり、状態が良くなかったりする。程度の差はあれど、弾薬しか使い物にならない。


「これも弾薬だけね」


 私が見つけたのも、やはり弾薬だけしか使い物にならなそうな物だった。


 M16の特徴的な持ち手サイトはひしゃげていて、銃本体もハンドガードに凹みがあった。おそらく、内部のバレルも歪んでいるだろう。


 その傍らには、代わりにM16で使える5.56ミリ弾丸がマガジン詰めで落ちていた。数は30発ほど。M416とはマガジンを共有できるのでこれはありがたい。


 先程別の場所で合わせて百発は見つけたので、これだけで先ほどの戦闘で使った分の弾薬は回収できた。



「そっちはなんかあったかしら?」



 いったん探索を止め、ローラに声をかける。彼女も辺りの棚や木箱を漁って中身を見ている。



「いや〜めぼしい物はないぞ〜」



 やる気があるのかないのか、よく分からない言い方で返すローラ。その手には大量の箱がぽいぽいと捨てられている。



「新しい武器は無いわね、出来れば手頃な狙撃銃が欲しいところだけど」

「全くよ」



 アリーサの言葉に頷くマリー、彼女的には得物が貧弱である事がこの攻略の難点であった。


 先程の戦闘で分かった通り、このダンジョンのモンスターに対しては5.56ミリでは火力不足である。


 アカオニに対して頭蓋骨を割れたのは、近距離での弾丸の応酬だったからだ。そして、カゲロウに対しては一人が外しただけで仕留めきれなかった。


 もっと火力が欲しい。それができるのはマリーのデザートイーグルだけ。出来ればもっと安定した、7.62ミリ以上の弾丸を使うアサルトライフルが欲しいところである。



「入れておくか」



 この先また都合よく5.56ミリが手に入るとは限らない。マリーは黒色のスカートベルトを引いて、丸いクリスタル状の形をした機械を持ってきた。


マリーは黒いパーカーと黒いスカートを下に羽織り、不釣り合いなマガジンポーチで武装している。


 その腰の機械を弾丸の箱にかざすと、光のようなレーザー光が飛び出す。それが弾丸の箱に当たると、蒸気のような、湯気のような光り輝く煙になって消えていった。



「相変わらず、こいつは意味不明な代物ね」



 『ストレージ収納装置』、それがこの意味不明で摩訶不思議な機械の名前だ。こいつは、シンジュクを含めた世界中のダンジョンの内部にある鉱石やその土地特有の素材を組み合わせて作られた、バックパックである。


 この小ささの中に、先程のレーザー光で煙と化した物体を収めることができるのだ。いわば、ゲームで言うストレージと一緒だ。


 これはこのダンジョンを探索する人間のほとんどが身につけており、おかげでメンバー全員が重たいバックパックを背負わずに済んでいる。


 容量は機種によって違う。容量が大きければ大きいほど装置は嵩張り、重くなる。マリー達がつけているのは軍用の比較的中間のものである。


 この装置のように、ダンジョンの摩訶不思議な技術や素材は、人類の発展に大いに貢献している。おかげで、人類はもう嵩張るバックパックや鞄を持たずに済むようになったのだから。


 しかし、こいつは取り出すのに時間がかかる。いちいち装置を起動して、メニューから内容を選ばなければならない。それが面倒で時間がかかるため、弾倉や手榴弾は各所のポーチに括り付けている。



「コウスケ、そっちはどうだ〜?」



 ローラがコウスケに投げかけるように話しかける。コウスケは何か見つけているわけではなさそうで、まだ探し続けている。



「いえ、まだめぼしい物は……」

「弾丸も見つからないか?」

「弾丸は少しだけしか……」

「えぇ? 嘘つけ〜もっとよく探してみろよ」



 そう言ってローラはコウスケの元に向かって行き、探し物の手伝いをし始める。すると、幾つか物が見つかり始めたのか、コウスケの探し物が順調になっていった。



「ほら、9ミリ弾があったじゃねぇか」

「ほ、本当だ……」

「これ奥のところに隠されているから、くまなく探せよ」



 その様子を見ながら、「はぁ……」とため息をつくマリー。さっきは機転をきかせていたのに、探し物はろくにできたいのか?


 とコウスケの能力のアンバランスさに不満を抱える。リーダとして、各人の特徴や向き不向きを見極めなければいけないのだから、面倒くさいったらありゃしない。



「リーダ、下の階層へのアクセスの方法が分かったわ」



 アリーサのその言葉に振り向くマリー、彼女は岩と苔で隠れた端末のような物体を探っていた。



 このダンジョンが出来た時、人間が使っていたと思わしき一世代前のノートパソコンだ。それに草や茎、岩や苔がまとわりついて淡く光っている。この端末は、ダンジョンの情報にアクセスできるようになっているのだ。



「それによると、あの結界のあった扉が下への階層へ続く扉みたい」

「結界の解除の仕方は?」

「解除キーが有ればあの結界を破れるらしいわ」



 解除キー、その言葉にマリーは顎に手を当てて考え始める。解除キーを探し出すしか、どうやら下の階層へ行く方法は無さそうである。一通りここら辺は探索したので、次はそれを探してもいいだろう。



『やあやあ、やっと繋がったよ』



 と、そこまで考えていたところでひらひらとした、他人事のような声が聞こえて来る。ドクター・ユウスケだ。おかしい、さっき通信を切った筈では?



「通信は切った筈だけど?」

『こっちからハッキングして通信を入れたんだよ、もう通信を切っても意味ないからねー』



 そこまで言われて、マリーは小さく舌打ちをした。



『さっきの戦闘は見事だったよ。特に滅多に見られないアカオニタイプを、マリー君のデザートイーグルで倒したところは痺れたねぇ……』

「……で、なんの用よ?」

『あー、すまないすまない。解除キーの事で役立つ情報をと思ってね』



 相変わらずこいつはメンバーが地獄に送られていることを他人事のように思っている、マリーはそれが一番ムカつく。



『前回のチームも解除キーを見つけるところまで行ったけど、解除キーの仕組みを解明したかったのにあいつら捨ててきちゃってさ。まあ、そのせいで全滅したんだけど』

「あんたの勝手な頼みを聞く奴なんていないわよ」

『そこでリーダ、頼みがあるんだけど。その解除キー、持って帰ってきてくれないかな?』



 マリーははっきり言って聞く気にならなかった。解除キーの中にはかなり重い部類のものがあるし、はっきり言って嵩張る。ストレージに入れたとしても容量を圧迫する上、重さはそのまま体にのしかかる。


 そんなデットウェイトを持ち歩く気にはなれない。戦闘が相次ぐこのダンジョンで、こんな自分たちの境遇を他人事のように思っている奴の言うことなんか聞いてられない。



「何のために?」

『もちろん、僕の研究に役立てる為さ。あー言っておくけど、持ち帰らなかったら、生きて帰ってきたとしても懲役は続くから。必ず持ち帰ってねー』



 そこまで言われてドクター・ユウスケからの通信が切られる、マリーは今度は大きく舌打ちをした。重いかもしれない解除キーを必ず持ち帰らなくちゃいけない上、此方には何の利益も発生していない。


 そんな物を持ち帰るなど、自分たちに対する嫌がらせではないか、と愚痴を言いたかった。



「ほんと……自分勝手な奴……」



 もし重い物が解除キーだったら、自分たちが生き残るかのせいまで減ってしまう。それだけは危惧したかった。


 気を取り直して、マリーは探し物を続けているローラとコウスケの元へと向かって行った。探し物はひと段落したようで、装備を整えている。


「さて、こっからどうする?」

「決まっているでしょ、まずは第二層に向かうわよ。さっきの結界のあった扉が下の階層への道みたい」

「へぇ、じゃあどっかで解除キーを見つけるのか?」

「ええ、しかもそいつを持って帰れってさ」

「うわ、まじかよ……」



 先ほどの通信はマリーとアリーサだけに向けられていた為、ローラとコウスケには聞こえていない。それを伝えると、ローラとコウスケは頭を抱えてため息をついた。



「……それ、断れないんですか? リーダ?」



 コウスケが質問して来る。「マリーさん」と呼ぶのは何かしら躊躇いが出始めたのか、彼はマリーの事を「リーダ」と呼び始めている。



「……無理よ、持って帰らなかったら減刑は無いらしいわ」

「…………軽い物でありますように……」



 その答えを聞いていたコウスケは、思わずそんな願い事を漏らす。彼の言う通り、解除キーがどんなのであれ、軽い物であることを願うまでだ。



「それでアリーサ? 解除キーは何処にあるのかしら?」

「待って……今調べてる……」



 アリーサは顔をパソコンにへばり付かせて、その内容を解読している。



「書いてあるのは本来なら人間の言語じゃ無いから、私でも解読が難しいのよ……」



 パソコンに書いてあるのは、ここのモンスター達が使っている独自の言語だ。勉強すれば人間でもわかるが、不可解な言語である事は変わりない。



「出たわ、フロア『ろ-三』にあるみたい」

「フロア『ろ-九?』 ……って、何処だ?」

「今いるのが『い-五』だから、フロア移動した先にある場所ね」



 『五』や『三』などの数字はそのフロアの部屋の数の事である。先ほどの扉には、結界の貼られた扉とこのフロアに続く部屋以外に、新しい扉はなかった。


 おそらく『ろ』のフロアはその反対側にある。扉はないため、反対側のフロアまでの近道はない、このまま探索しながら進むしかないだろう。



「よし、また四人で行くわよ。まずは、あそこの部屋ね」



 三のフロアの先にある、『ろ』フロアへ続く扉。先ほどの戦闘のゴタゴタでも全く破られなかったため、近くの範囲内に敵はいないと思われるが、用心するに越した事はない。


 先ほど拾った弾丸達をマガジンに詰め込み、416の弾倉を新しい弾倉に入れ替えて、安全装置を解除する。



「行くわよ」



 またも、扉の左にマリーとローラ、右にアリーサとコウスケがへばり付き、それぞれ銃を構える。扉に手を触れ、少し押すと、ゆっくりと『ろ』フロアへの扉が開き始めた。


 警戒して、思わず銃を構える。あたりは淡い光が漏れてはいるが、それでもライトがなければ暗くてよく見えないレベルだ。


 マリー達は手に持ったLEDライトを、それぞれの銃のレールに取り付けられたライトスタンドにくっつける。ローラのM249にはレールがないため、銃身にテープでくくりつけたライトスタンドに取り付けた。


 銃口から光が漏れ出る、強いライトの光が暗闇を掻き分ける。辺りには、木の柱に植物が何重にも巻きついていて、元の色が見えなくなっている。


 通路は狭く、死角が多いため少しづつクリアリングをしていく。まずは右側の木の通路の先にある襖の先。


 開けて、何もいないことを確認し、草に絡めとられた部屋を見て気持ち悪く思う。さらに部屋に隠し扉がないことを調べ、襖を閉じて別の部屋へと向かう。



「……何ここ?」



 その別の部屋は先ほどと内装変わらなかったが、何やら外に夜空のような広い場所が広がっていた。


 その先に出てみると、星々が煌めく夜のような空が広がっていた。ここは地下なのに、手を伸ばすと夜空が広がっているように見える。



「あ! 危ない!!」


 と、そこへコウスケがマリーのもう片方の手を直接掴んで、マリーを止めに入った。


「リーダ危ないですって! 死んじゃいますよ!!」

「は? どう言うことよ?」

「下を見てください」



 そう言われて、マリーは木の手摺りを掴みながら身をかがませ、下を見た。



「……!!」



 思わず足がすくんだ。その下には、真っ暗で何も見えない奈落の底が、マリーの足元を冷ややかに見上げている。



「これが……シンジュク・ダンジョンの本当の形……」



 そう、マリー達が見下げているこの奈落こそが、シンジュク・ダンジョンの真の姿である。マリー達が今攻略しているのは、半径6キロ、深さ1万メートル以上あるダンジョンの『支柱』と呼ばれる一角に過ぎない。


 今、この露台から見えているのはシンジュク・ダンジョンの本来の姿。深さ1万メートル以上の奈落の底へと、そのままダイブできるレベルに迫り出している。


 シンジュク・ダンジョンは、新宿から半径6キロ、深さ1万メートルの縦穴を中心に、幾つもの蟻の巣状に広がっている。『支柱』はそれらの巣穴を束ねる構造物で、あらゆる網目が絡まってできている。


 その『支柱』を一つ一つ攻略しなければ、シンジュク・ダンジョンの奥底には進めない結界が張ってあるのだ。現在では、二つ攻略されてはいるが、三つ目で手詰まりをしている。そのため、マリー達のような犯罪者が送り込まれてきたのだ。



「これが本来のダンジョンの姿か……絶景だな……」

「ええ、上に見えるのは空かしら? ここから脱出できない?」

「無理ですよ……下は奈落ですし、登れそうなツタは無さそうですし……」



 ローラとアリーサの感激の声に、冷静に否定を入れるコウスケ。彼の言う通り、このダンジョンに逃げ道などなさそうである。


 下は奈落の底、上は遥かに広がる夜空。ここまで閉じ込められた世界は他にはない。


「……行くわよ、他の道のクリアリングもしなくちゃ」



 そう気を取り直し、他の部屋へと続く道を一つづつクリアリングして行った。こんなところで道草を食ってしまっては、ダンジョンをクリアできるか不安になった。


 自分たちが受けた銃器の扱いやチームワークの訓練は軍隊式ではあるものの、やはりそれを受けたのが十代の若者であるせいで、このような呑気なことが起きてしまう。


 もっとしっかり気を引き締めなければ、そう感じでマリーはリーダとしての実感を持つ。幸いにもモンスターの類は何故かいなかったため、次の部屋へと続く扉の前に付く。



「行くわよ」



 マリーがそう言うと、周りのメンバーもそれに頷く。


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