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第三話

「3……2……1……ファイヤ!」



 その瞬間、私達の目の前がが真っ赤に爆ぜた。三挺分の5.56ミリ弾と、コウスケの9ミリ弾、それぞれの鉛弾達が一斉にカゲロウの頭目掛けて殺到して行った。


 熊並みに硬いというカゲロウの頭蓋骨を一点射撃で粉砕し、脳天まで貫いていく。が、カゲロウは少しよろめいただけでまだ生きていた。


 カゲロウはそのまま大口を天に向かって開け、耳を震わせる甲高い声を発した。青黒い光がカゲロウを中心にパッと光り、エリア全体を揺るがす。


 それが続く前に、カゲロウが生きていると分かったマリーは脳天の血が吹き出している場所目掛けて数発連射した。撃ち出された5.56ミリ弾は傷をえぐるように殺到していき、とどめを刺した。



「誰よ外した奴は!!」



 私はそう言って毒づいた。どうやら仕留めきれなかったのは、誰かが弾を外したかららしい。



「この際誰でもいいだろ!それより全員が起きちまったぞ!早く撃ちまくれ!」



 ローラの言う通り、辺りにいたカゲクロとカゲトビが全て目覚め、こちらを認識してしまった。


 こうなれば戦闘は避けられない、私達がここにいるモンスターを全て倒すまで奴らは襲いかかり続けるからだ。


 私もそれを分かって、416を撃ち続ける。狙いは遠距離型のカゲトビ、奴らは銃ほどの威力ではないが、それなりに攻撃力のある光弾を次々と放ってくる。


 遮蔽物でそれをかわしながら、私は厄介な敵を1体づつ仕留めていく。幸運にも奴らは身を隠す事をしていない。光弾を放つ器官は頭部にあるため、身を隠すと斜線が通らなくなるから隠れられないのだ。


 そのかわり、常に移動しながら光弾を放ってくる。が、その程度の動きならマリーの腕で仕留められる。



「リロード!」



 私の416が弾切れになった為、弾倉を交換する。空になったマガジンはしっかりとポーチに戻し、新しいマガジンを416に入れてボルトリリースボタンを押す。


 最近の銃は手際がいい、ボタンを押す動作だけでボルトを装填できるのだから。



「ッ、右側、階段の方からきてるわよ!」



 リロードが終わった時に、私は右側の階段から叫び声のような奇声を聞きつけて、そちらに銃を向けた。何体かのカゲクロが爪を立ててこちらに向かって登ってきたのだ。



『僕が援護します! マリーさんも撃って!』

「いちいち命令しないで!」



 コウスケが近くの岩に身を隠しながら私を援護し始めた。コウスケのUMP9はこういった近距離戦ではめっぽう強い装備だ。


 だが私は彼に命令されるのが爵に触る。彼のようなナヨナヨしい奴に命令されるのは、私にとっては許しがたいからだ。


 その間にも、私とコウスケの弾丸は適切にカゲクロの脳天を貫いていっている。二人分の掃射は、弾丸の口径は違えど、適切な箇所だけを狙って片付けていく。


 すでに、目の前にはカゲクロの死体が山のように連なっている。カゲクロはその死体の山を乗り越えて迫ってくるが、まだ被害を受けているメンバーはいない。



『こいつら何体いるんだ!?』

「近くの部屋からも湧いて出てきているのよ! 愚痴言っていないでさっさと片付けて!」



 ここまで無秩序にモンスターが湧かれると、そうとしか考えられない。私はローラに毒づきながらも、数発の指切り射撃でカゲクロを仕留めていく。


 一方のローラの方は、マシンガンの制圧力を生かして遠距離型のカゲトビ達を仕留めている。いまだに再装填をしていないところを見ると、それなりの効率で倒せているのだろう。


 アリーサも倍率サイトが取り付けられた416で、左側から登ってこようとするカゲクロ達を狙い撃ちしている。射撃は的確で、単発の射撃で確実に倒している。



『左側の火力が薄いわ! 奴らが壁を這いつくばって登ってきてるわよ!』



 アリーサが言う、私に指示を求めているのだ。だが、右側もかなりの数のカゲクロ達が登ってきている。


 丁度ローラを見ると、彼女は全てのカゲトビを仕留めたのか、M249のバイポッドを仕舞ってた。



「ローラ! あんたは左側の援護を!」

『りょーかい!』



 仕舞ったバイポッドを再び展開し、這いつくばって迫るカゲクロ達に向けて5.56ミリの嵐を吹き込んだ。


 先ほどよりもさらなる豪華の如き、凄まじい火力が、カゲクロ達に襲いかかる。5.56ミリの弾丸は、確実に肉を削いでいく。


 その時だった。いきなり耳を震わせるかのような、甲高い叫び声が聞こえてきた。その方向にマリー達が銃を向けると、吹き抜けの反対側から巨大な肉体を持った巨人が現れた。


 3メートルはあるかと思われる巨体。


 日本の文化圏における『鬼』を連想させるような、二本角。あれは……



「アカオニタイプよ!」



 アカオニタイプ、カゲロウタイプに次ぐ危険度を誇るモンスターだ。このシンジュクダンジョンではかなり危険なモンスターの一つである。


 と、ふとみれば、アカオニが来た方向の扉は無残にも食い破られていた。おそらく増援が無尽蔵に来ていたのはこの為だったのだろう。


 モンスターはダンジョンの結界を無効化するから、このような荒い芸当もできる。


 その食い破られた扉から、さらに沢山のカゲクロとカゲトビが湧いて出てきた。無尽蔵、と言うほどではないがそれなりの数はいる。



「ローラ! マシンガンで雑魚を倒して!」

『りょーかい!』

「アリーサは狙撃でカゲトビを仕留めて!」

『了解!』

「コウスケは近づいてきた奴らを仕留めて! あいつは私が仕留める!」

『わ、わかりました!』

 それぞれに指示を出し、マリーはアカオニの相手をすることに決めた。

「っ!!」



 416の5.56ミリでアカオニの骨を貫けるか不安だが、それでもやらないよりはマシだ。アカオニの弱点は二つの脳味噌、頭部と腹の光って膨れている部分だ。


 私はとにかく、見えている頭部を攻撃する。指切りで射撃し、頭を狙う。弾丸はほぼ全て頭に殺到していき、血飛沫を吹き出す。


 だが、倒れる気配がない。それどころかのっそりのっそりと私たちの方向へと歩いてきている。おまけに、周りの取り巻き達も数が多い。一体何体いるのか見当もつかない。



「マリーさん! 手を貸してください!」



 コウスケの情けない声に舌打ちしながら、マリーは彼の指す方向に銃を構える。夥しい数の取り巻き達がマリー達を囲おうとしていた。


 迫りくるカゲクロの群れに、416の弾丸が殺到していく。一発一発が脳天や体を貫き、確実に生命力を蝕んでいく。


 だが、倒しても倒しても迫ってくるのはカゲクロの方であった。このままではジリ貧である。



「全員下がるわよ、前の部屋に戻りましょう」

『了解!』



 マリーのその指示に従い、四人は順番に下がりはじめた。まずアリーサが先頭に立ち、前の部屋への先陣を切る。


 次に私が真ん中に立ち、後方と前方を警戒しながら指示を出す。最後にコウスケとローラが後方から迫りくるモンスターを倒しながら、互いをカバーする。


 そのまま順番に元の部屋に戻ると、近くの岩に銃を固定して奴らを迎え撃つ。コウスケとローラは前衛に、私が中衛から指示を出しながら応戦。アリーサは後方の階段を登った高い位置から、狙撃で敵を相手する。


 それぞれが細かな指示を出さなくても互いをカバーしながら応戦する。まるで、お互いがテレパシーで繋がっているかのように。


 相変わらずの連携度だ。ローラはただM249を乱射しているように見えて、実際は敵の頭蓋骨を狙っている。銃身もオーバーヒートしないように管理をしている。


 アリーサは弾幕から漏れて出た敵や、扉の向こう側にいるカゲトビを的確に狙撃している。


 一方のコウスケは近づいてきた敵の集団に近距離から弾幕を浴びせている。連携からは外れていて、オドオドしているのが私からすれば気に入らないが。



『アカオニが来るぞ!』



 ローラからの報告に、全員の身が引きしまる。コウスケが時間稼ぎのつもりか、傍のスイッチで扉を閉めた。が、アカオニは閉められた扉を蹴り付けて突き破ろうとしている。


 さらには取り巻きのカゲクロ達も一斉に扉を叩き始めた。ついには薄い木製の扉が耐えられなくなってだんだんと歪み始めている。


 その間に、私たちは残弾数を確認して弾倉を交換をしておいている。コウスケが扉を閉めたのは、それをやる時間稼ぎの意味があった。



「扉が突き破られたら、一斉射撃でアカオニの頭を撃つのよ! 良いわね!」

『わかった、その作戦乗った!』

『了解』

『りょ、了解です!』



 私が指示を出したその瞬間、木製の扉が突き破られた。弾け飛んだ木片が爆発のように飛んでいき、あたりに散らばる。そして、中から3メートルの大きさを誇るアカオニの巨体が、その堂々たる姿を表す。


 口を開け、二本角を光らせて大声で雄叫びを上げる。その刹那、その顔面に向かって無数の弾丸の嵐が吹き荒れた。


 アカオニの頭蓋骨に向かって二種の弾丸が迫りくる。5.56ミリは音速を超えていて、9ミリは限りなく音速に近い。そんな速さの鉛弾が頭蓋骨の一点に向かって迫られると、さすがのアカオニでも耐えられない。


 頭蓋骨が粉砕され、脳味噌が内部から噴き出す。その様はグロテスクで吐き気を催すが、私たちは怯まなかった。



『まだ腹の脳味噌が残ってるわよ!』



 すぐさま切り替え、周りの取り巻き達を片付けながらアカオニを警戒する。するとアカオニは死んだ頭部の脳を捨て、頭をパックリと割った。そこから二本の角が生えた触手を伸ばし、悠然と立ち上がった。



「くっ!」



 来る、そう確信するには一コンマ遅かった。アカオニは触手を振り回し、私を吹き飛ばそうとした。


 一回目のフルスイングは避けた。バックステップで躱すが、そこで着地の時に隙が出来てしまった。


 その隙を逃さないタイミングで、二回目のフルスイングが襲い掛かる。私は自転車に跳ね飛ばされたような感覚とともに、背後に吹き飛ばされてしまった。



『大丈夫か!?』

『マリーさん!』



 少しだけ頭がクラクラとし、仲間達の心配する声が耳に響く。その隙を逃さないように、アカオニが走って迫りくる。


 脳味噌で膨れた腹をブルブルとさせながらの大ジャンプ。3メートルの巨体が跳躍する様はかなりの威圧感があるが、私は怯まなかった。むしろ、アカオニに向かって走り出しす。相対的に互いの距離が縮まる。



──このままジャンプで頭から食らいつく!



 おそらくそんなことを考えているのだろう。アカオニのジャンプは、確実にこちらを狙っている。


 だが、私は腰から巨大な銃を取り出し、腰溜めで構えた。そして、すれ違う瞬間にスライディングをかけて相手の懐に潜り込んだ。


 3メートルの巨体のジャンプの内側を、滑り込むように駆け抜ける。そして、ぶくぶくと光る腹の脳味噌に目掛けて、.50AEの太い弾丸を三発放った。


 近距離から放たれたそれは、腹の骨を貫通して脳味噌を破壊する。命を確実に奪い、アカオニが雄叫びを上げて絶命する。


 スライディングが終わると同時に、アカオニの方向へと振り向いたが、アカオニは流石にこのストッピングパワーの高い大口径拳銃には耐えられなかったようで、全く動かなかった。


 イスラエル製拳銃『デザートイーグル』。


 それが、私のが所持している拳銃の名前だ。


 .50AE弾と呼ばれる拳銃界の中でも最強クラスの弾丸を使用し、強烈な反動とともにそれを撃ち出す大口径拳銃だ。


 マフィア時代の私の愛銃で、捕まった際に没収されたが、どういう訳かドクター・ユウスケが回収してきたらしい。昔の愛銃に出会えた喜びよりも、ドクターのニヤケ顔の方が悪い意味で忘れられなかったが。



『マリー、こっちは片付いたわ。そっちはどう?』



 淡々としてて冷静なアリーサの声が耳に響いた。後ろを振り返ると、あたりはカゲクロやカゲトビ達の死骸で山が築かれており、血みどろの床が出来上がっていた。


 新しく叫ぶ声も聞こえない。どうやら、本当にこれで片付いたようだ。



「やっと終わりました……」

「あーあ、かなりキツかったぜ……」



 口々に疲れたことを報告する二人、コウスケとローラ。彼らも私も、たった一回の戦闘のためにかなりの弾薬と体力を消費してしまった。と、言ってもこれも想定していたことだが。



「マリー、これからどうするの?」



 アリーサが思わず聞いてきた。もちろん答えは決まってる。



「決まってるでしょ、このくそったれから脱出するのよ。そのためには……」

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