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第二話

改めて、この場所を見渡す。辺りは一面に紅色や黄色に輝く紅葉のような植物が生えている。


 シンジュク=ダンジョン、それが私たちのいる場所の名前だ。五年前、第二次関東大震災と呼ばれる東京で起きた大規模震災の後、シンジュクの地盤は突如沈下して蟻の巣状の地下構造物が出来上がった。


 構造物の深さは約一万メートル以上はあるとみられ、最深部に続く道は中央の直径約3キロの縦穴を中心にいくつもの蟻の巣に広がっている。それぞれの部屋を攻略をしないと、下の階層に行くことができない結界が貼ってある仕組みだ。


 まるでRPGゲームの『ダンジョン』のようだ。そこから、これらの特徴を備えた人知で説明できない場所は『ダンジョン』と呼ばれるようになったのだ。



『さて囚人君たち? 全員揃ったかい?』



 看守に蹴り入れられた後、私達四人の通信機に、調子に乗ったムカつく声が聞こえてきた。



『知っての通り、ここがスタート地点だ。君たちにはこのダンジョンの最下層まで行って、攻略してもらう』

「随分と他人事な言い方ね、ドクター・ユウスケ」



 通信機の向こう側の相手はユウスケ・テラダ博士。彼は、私達にこのダンジョンでのチャンスを掴ませた張本人だ。



『まあまあ、そう言わずに。僕はここから君たちの事をモニタリングしているよ、途中で得られたデータとかを研究に使いたいからね』

「おいおい……私たちは捨て駒かよ」



 思わずローラも呟く。つまりは結局捨て駒か、ボスを倒せるかどうかなんて気にしてないのか、そう言いたかったのを私は舌打ちだけで我慢した。


 他の三人も彼にうんざりしているのか、顔を顰めている。



『君たちがいるのは第一層だ、ここは今まで沢山の探検者が調査して来たから、大体どんな構造をしているかは大体分かるよ。まあ、前回の探索から地震が起きているから、多少構造が変わっているかもね』

「多少? 地図を見たところ、かなり変わっているみたいだけど?」

『うーむ、どうやらそのようだねー。まあ、とりあえず頑張ってねー』



 事前情報は全く役に立たないのか、とマリーは毒づきたかった。このダンジョンでは定期的に『地震』と呼ばれる現象が起きており、それが起きるとダンジョンの構造が変わってしまうのだ。


 私たちのような犯罪者がこのダンジョンの探索に入ったことは、何も今回が初めてじゃない。今まで何回か行われており、その度に犯罪者が送り込まれて来た。


 犯罪者だけではない、腕のいい探検者がこのダンジョンを攻略しようと意気込んだ。そして、誰も帰ってこなかった。


 その事前情報が役に立たないと言うことは、あとはもう、手探りの探索をしながらボス部屋を目指すしかない。



「いくわよ、まずはここから探索しましょう」

「ああ、そうしよう」



 私がそう言うと、ローラも頷いた。もうこの不幸を嘆いても仕方ない。私達は改めて、この層を探索をすることを決めた。


 にしてもここは空気がジメジメとしている、居心地が悪い。それに、さっきの花からは光る花粉のようなものがふわふわと浮いており、綺麗ではあるが吸ってはいけない気がする。


 改めてここが、外の世界とは違う場所なのだと実感する。私は自然と緊張が走り、M416を握る手が脂汗で滲む。


 そんなことを考えながら私達はまず自身の持ち物を確認し始めた。手元の装備にはマガジンポーチと、腰に括り付けた手榴弾。弾薬は三個入るポーチが四つ。三十連マガジンが三個×四つなので、三百六十発はある。


 だが、これは節約しなければならない、ここから向かう先では弾薬が手に入るものの、何がどれだけ手に入るかは分からないからだ。



「舐められたものね……」


 一方のバックパックの中にはいくつかの食料と水、銃の整備キットがあった。だが、それだけ。


 そのことについて、私はそれについて毒づく。あまりにも最低限、帰還のことを全く考慮していない内容だったからだ。



「ここは広いわ。けど、二手に分かれるのは危険よ、四人で探索しましょう」



 私の意見に全員賛成のようで、反対意見はなかった。ちなみに、今回の探索では私が一応リーダーを務めていることになっている。なので、全員多少の不満があっても付き従ってくれている。


 まず私達は辺りを見回す。この植物のトンネルの中にはいくつかの通路が分かれており、それぞれ別の部屋に続いているようだ。それが左右に二つ、正面に一つある。それを一つづつ調べて行く事にした。



「まずはこの部屋ね」



 自分たちが放り込まれた巨大な部屋の正面にある部屋から調べることにした。部屋へ続く扉は、古臭い見た目をした木製のお城の入り口のような巨大な扉でできていた。


 入ってくる時の鋼鉄の扉とはえらい違いである。しかし、私達はこの扉が銃では簡単に開かないことを知っていた。



「結界です」

「あーあ、こりゃあかなり重圧だ」



 アリーサとローラがそう言った。自分たちは、この結界について事前にレクチャーを受けていた。


 結界、それはここシンジュク特有の超常現象で、ダンジョン内のオブジェクトの強度を飛躍的に高め、壊れなくしてしまう現象だ。


 結界は主力戦車の徹甲弾でも壊れない強度を誇り、貼られたオブジェクトを破壊不能にする。これを解除するには特殊な方法が必要である。



「まずは結界を解除する方法を見つけましょう」



 おそらくこれは次の層への入り口だろうと予測できる、シンジュクは意味のないオブジェクトには結界を張らないからだ。



「次はこっちの扉ね」



 私達は部屋の右側にある扉から調べて行くことにした。この扉は先ほどの扉ほど大きくはないが、それでも大型のトラックが二台も通れそうな大きさをしている。



「結界はなし、開くわよ」



 私が扉に手をかけ、扉の左右に私とローラ、アリーサとコウスケがそれぞれ付いて警戒する。何が出てきても良いように。


 扉が金音を立ててゆっくりと外側に開く。銃を向けて中を確認する、手元のライトはまだ付けない。


 内部は意外と広く作られている二層構造だ。銃撃戦が出来そうなほどの大きさで、近くには遮蔽物らしき結界が貼られた壁や倒された椅子などが散らばっている。


 下の層には近くの階段を使って降るようで、その層からは生き物の息の声が聞こえてくる。人間ではない、どちらかというと獣の声だ。


 独特の唸り声を上げる、ナニカはぐるぐると腹の音を鳴らして獲物を待っているように聞こえる。これが、私たちの敵だ。



「いるわ、カゲクロタイプが十体ほど、カゲトビタイプが八体ほど。そして……」



 私の視線の先に、唸り声の元が見えている。人間サイズで、二足歩行。だがそれは決してマリー達の同類というわけではない。



「カゲロウタイプが一体」



 言葉の通じない化け物、つまりは敵だ。



『やあ、みんな見えてるかい?アレが君たちの敵、モンスターだ』



 こっちの事をまるで他人事のように嘲笑う、調子に乗った声が聞こえてきた。ドクター・ユウスケの声だ。



『まず、カゲクロタイプは近づいて来て爪で攻撃してくるタイプのモンスターだ。近づかれる前に倒して欲しいね、サンプルのためにも」

「まるで私たちを実験の一部にしかみていないかのような発言ね」

『次に、カゲトビタイプは遠距離型のモンスターだ。別に銃を撃ってくるわけじゃないけども、遠距離攻撃にどれくらいの威力があるのか、アーマー越しにデータを取ってみたいね』

「…………」



 とことん無視されたことに対して呆れつつ、私は改めて敵の様子を上から探る。


 見える範囲にカゲクロタイプは十五体。カゲクロタイプは人間サイズより一回り小さいが、両手に付いた爪と、頭がパックリと割れてできた牙は強力だ。


 カゲトビタイプはカゲクロタイプと大きさは同じだが、頭の部分が薄暗闇に光っている。アレがエネルギーを一方向に放出して、遠距離攻撃をしてくるのだ。


 そして、中央に居座るのは2メートル前後の大きさを持つ巨人だ。頭から触手のようなモノを生やしてグルグルと唸っている。



『そしてアレがカゲロウタイプだ、何本もの触手を使って遠近距離の両方が得意なタイプでね。うーむ、実に素晴らしいフォルムだ。参考にだれか一人触手で串刺しにされて……』



 そこまで言われて、私は通信機をミュートにした。隊のメンバーにドクターの声が聞こえないようにしたのだ。奴の他人事のような言い草にはメンバーのイライラが募りそうだからだ。



「あのカゲロウがこのエリアの親玉ね。多分、倒そうとすると奇声を発して仲間に知らせるわ」

「でもよマリー、あいつは強力らしいから先に倒しておきたいぜ」

「私もそれに賛成、どのみち戦闘になるなら、あいつを放っておくよりはましよ」

「…………」



 私の意見には、ローラとアリーサは賛同してくれなかった。たしかに、あのカゲロウタイプは事前のレクチャーでもかなり危険な個体だと知らされていた。


 だが、だからといってやり過ごせるとは思えない。戦闘の際にあいつを放っておくのは得策ではない。



「あ、あの……」

「何?」



 と、私達が議論していた時にコウスケが割り込んできた。今更怖気付いたのか、とマリーは声音を上げて答えた。



「一斉射撃で頭を狙うのはどうでしょうか?四人分の弾丸で頭を狙えば、倒せなくはないはずです」

「…………根拠は?」

「熊並に固い頭蓋骨でも、一点を狙った一斉射撃のストッピングパワーには耐えられません。うまくタイミングを合わせれば、の話ですが……」

「なるほどね、たしかに一斉射撃なら倒せるはずよ。私はこの子に賛成」

「私もだ」

「…………」



 たしかに、熊並に固いと言われるカゲロウの頭蓋骨でも、一斉射撃で一点を狙えば固い頭蓋骨でも貫けるはずである。


 アリーサとローラがコウスケに感心する中、私は黙ったままであった。多少頭が切れることは言ったが、私の意見が握りつぶされたかのようで気に入らなかったのだ。



「おいマリー、お前もそれでいいただろ?」

「…………はぁ、分かったわよ。それでいくから、配置について」



 それぞれ了承すると、途端彼らは弾き出されたかのように散開。近くの塀や柱に銃を固定してカゲロウタイプを狙った。それも、ピタリと頭を狙ってだ。


 狙われているとも知らないカゲロウタイプは、触手をウネウネと伸ばしながら周りを探るように呼吸をしている。



「いくわよ」

『オーケー』

『こっちも準備完了』

『いつでも行けます……』



 ローラ、アリーサ、コウスケの順番で了解の返事を出す。マリーは全員の準備が完了したのを見計らい、通信機越しにカウントダウンを始める。



「3……2……1……ファイヤ!」

 

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