第十三話
これにて最終回です。
「行きましょう」
「はい、最後の時まで」
シンジュク・ダンジョン第五層、いよいよマリーとコウスケは目の前の扉に向き直った。その扉は最初の階層にあったあの巨大な隔壁に似ていて、重圧で巨大だった。
すっかり息の合ったコウスケとマリーは二人でその扉をゆったりと押して、扉を開かせた。
「「……」」
もう何が来ても驚かない。それこそ巨大な化け物や恐ろしい幽霊の類が現れようと、強靭な精神力を持った自分たちなら倒せるはずだ。
「第五層のボス……」
第五層が今判明している最深部、このダンジョンの主は意外にも呆気ない姿をしていた。
「これは……」
小さい箱、それもいろいろな模様が描かれていた小さい箱。ミニサイズのそいつは至る所に札が貼られていた。
「これを開けなくちゃいけないみたいですね」
「ええ、でもその必要はないわ」
マリーはコウスケからレミントンを頂くと、スラッグ弾を詰め込んでポンプを引いた。そして、10メートルほど離れた所からレミントンを放った。
発砲炎と共にスラッグ弾が撃ち出される。柔な箱に向かって弾丸が殺到、一発で砕いて粉々にした。
「…………来るわよ」
「……はい」
するとやはり、それが合図だったかのように全てが動き出した。粉々に粉砕された箱から、黒い影のような物体がいくつも伸び、煙となって天井へと続いていく。
ガスのような煙が伸びていて、気味が悪い。その色は先ほどの第四層で見かけたあの影に似ている。
「グロロロロロロロロロ!!!!!」
それらが天井に展開した時、黒い影のような顔を作って恐ろしい表情でこちらを見据えた。
「撃て!!!!」
それに負けないくらいの大声で叫ぶマリー。その瞬間から二人の銃から7.62ミリと9ミリの弾丸達が、影に向かって殺到していく。
しかし、効いているのか効いていないのか、全く分からない。そもそも当たっているのかすら、影に消されて不明である。
しかしそれでも、影に向かって全力で射撃をしまくるマリーとコウスケ。それこそ弾丸の出し惜しみはしない。
「全く効いてない……」
コウスケが愚痴を叩いていると、影が膨張をして天井全体を飲み込み、やがて壁をも飲み込み始めた。その影達からお札のような物体が降りてきて、紐で吊るされる。
「ッ!!」
その時、真横から足音もせずに何が近づいてきたのをマリーは感じ取った。すぐさま振り向き様にナイフを取り出し、影の人型の首を切りつけた。
「チッ!!」
いつの間にか、影の人型達がマリーとコウスケを囲んでいた。いつの間にか増殖していたようであり、ジリジリと迫りくる。
彼らの相手もしなければ、アリーサの二の舞になる。彼女は身を挺してマリー達にこのことを伝えたようなものだ。死ぬわけにはいかない。
「コウスケ! 任せたわよ!」
「はい!!」
コウスケにその相手を代わり、マリーは影に向かって射撃を続ける。とにかくこいつを倒さなければ、自分達まで影に飲み込まれそうである。
鬱陶しいほどの黒達が、マリーに手を伸ばした。その腕をバックステップで避け、仕返しに7.62ミリを叩き込む。
しかし、それでも痛む様子はない。全く悲鳴もなにも上げずに影は天井に佇んでいた。そして、マリーの顔を見てニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「こいつ……!」
明らかな挑発、今の今までマリーがモンスター達にやってきた挑発そのものだった。
「マリーさん!」
と、マリーの背中に衝撃が加われ、その後ろを黒い腕が過った。コウスケが退かしてくれなかったら、マリーは影に掴まれていたことだろう。
しかし、第二の拳が転げ回ったマリーの元に殺到して、マリーを殴り飛ばした。コウスケも吹き飛ばされ、痛みと共に転げ回った。
「こいつ……」
痛む全身を抑え、マリーはなんとか立ち上がる。影はマリーを見据えて静かにニヤリと笑っているだけだった。まるで、この状況を楽しんでいるかのように。
何か、何か方法があればこいつを倒せるのに……マリーが再びSCARを拾ってマガジンを交換して構えた時、不意に影からぶら下がっている札が見えた。
「あれは……?」
それを考える暇もなく、マリーの横を影の腕が通過していく。コウスケも立ち上がったようで後ろに下がり、柱の陰に隠れた。
「またこいつら……!」
その柱の陰に向かって先ほどの影の人型が迫ってくる。それを7.62ミリでいなしながら、懸命に考えを巡らせる。
「コウスケ……」
「はい」
隣の柱に隠れているコウスケに、マリーは語りかける。
「あの札が多分キーよね?」
「はい、僕もそう思います。あれをどうにか潰せれば、影を倒せるかもしれません」
「ははっ、あんたと一緒にいるとこっちまで勘が良くなりそうよ」
「ありがとうございます」
マリーとコウスケは、この状況下でも笑っていた。
「行きましょう」
「ええ!」
二人は柱の陰から飛び出す前に手榴弾を全て取り出し、そこら中に投げた。タイミングよく投げられたそれらは、煙や破片を撒き散らし、陰の視界を一瞬だけそらさせた。
「ゴー!!!!!!!!!」
それを合図に、マリーとコウスケは柱から飛び出す。とにかくSCARを構えて、あの札を撃ち抜く。移動しながらは射撃しづらいが、何故かマリーの感覚がスローになって狙いがつけやすい状態になった。
「!!!」
なんの状態かは分からないが、これがチャンスであることに変わりはない。そのままの状態でSCARを1発づつ発射する。
7.62ミリ弾はそのまま札を貫き、そして燃やした。弾丸の熱量を持ってして紙製の札が燃えたのだ。
──行ける!!
そうして何発もの弾丸達が札に襲いかかる。2発づつの弾丸達が札に殺到していき、次々と燃やしていく。
その間に襲いかかる腕や拳はなぜか感覚が研ぎ澄まされたように避けられた。そうしていくうちに、全ての範囲内の札達が消えた。
「後は……!」
マリーはスライディングでブレーキをかけ、再び影に向かう。それらはマリーに向けて一斉に腕を放った。
「はぁぁぁぁ!!!」
それをむしろ飛び上がるかのように飛び乗り、マリーは影の腕を登っていく。狙う先はただ一点、影の顔から伸びている一枚の札!
腕から次々と新しい腕が出てくるが、それすらもデザートイーグルで吹き飛ばしていく。
「行っけぇぇぇぇ!!!」
そうして、目の前に影の顔付きがデカデカと見え……そして……
止めの弾丸が、デザートイーグルから放たれた。
シンジュク・ダンジョン
第五層 攻略
攻略者4名
犠牲者2名
生存者2名
◇◆◇◆◇◆◇◆
帰りの鉄の棺桶の中。ダンジョンの攻略をした後に戻った第一層の扉を開けてもらい、帰りの電車に乗せてもらった。
最初の冷たい対応は何処へやら、彼らの態度はまるで英雄を扱うかのようなそんな態度だった。
「これで……終わったんでしょうか?」
コウスケは向かい側の席で寝ているマリーに声をかける。
「さあね。ここを攻略しても、結局はダンジョンは無くならないわけだしね」
マリーは最初の時のようなぶっきらぼうな態度でそう呟いた。しかし、その声根はコウスケに対しての優しさで溢れている。
「ダンジョンって……一体何なんでしょうかね?」
「さあね……でも、一つ言える事があるわ」
マリーは座席に座るのをやめ、立ち上がる。
「ここは人間の手で攻略できる。決して人類未開の地ではないわ」




