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第十一話

ローラの死体はここでは焼却することが出来ない。そのため、目蓋を閉じさせて袋に入れ、そこに瓦礫で十字を作って墓とした。



「ローラ……仇は取るから……」



 マリーはそう呟いて墓に十字を切った。そして立ち上がり、仲間の方へと向かう。



『さてさて、やっと繋がったよ。君たちやっぱり凄いじゃないか、あの新種のキュウビの狐を倒すなんて、やはり君たちには期待した甲斐がある』

「お褒めいただきどうも」

『さて、仲間の供養より先に進んでくれないか?この先の第四層がどうなっているのか気になるんだ」

「…………行くわよ」



 その言葉にメンバーが頷くと、マリーはキュウビを倒したことで解除された扉を開けようと手を触れ──



「!!」



 いきなり、鉄の塊がぶつかり合うような凄まじい轟音が、目の前の扉から響き渡った。同時に重圧な扉が揺れ、歪んだのではないかと思うほどの衝撃音が響き渡った。



「な、なんですか今の……?」



 歪んだのは扉ではなく扉を支えている壁だったが、それでもかなりの衝撃だった。この扉は明らか重圧で特に何もない。しかしそいつは乗用車が追突してもびくともしないであろう程分厚かった。


 そんな分厚い扉が揺れるほどの衝撃とは、一体どういうことなのだろうか? 得体の知れない恐怖がマリー達に襲いかかる。



「……開けるわよ」



 そして、マリーは恐る恐る扉を開き、そして困惑した。



「嘘でしょ……」



 その先は狭い階段だった。とてもじゃないが、先ほどの轟音を放つほどのものが通れるとは思えない。



「なんなんだったんでしょうか……今の……?」

「分からないけど、一つだけ分かったことがあるわ」



 マリーは深呼吸をしてSCARを持つ手を握りしめた。



「ここから先は、かなりやばくなるわよ」



 その言葉に全員が頷く、そして階段を下る。その下は、第四層だ。



──第四層。



 第四層には何もいない、とにかく真っ暗で暗い洞窟のような通路が続いている。その通路には、扉が左右に展開されているだけだ。モンスターの声は聞こえないため、マリーはそのままライトを付けて探索していく。



「何もいないわね……」



 本当に何もいない、第三層での戦闘が嘘だったかのような静けさで、全く何もない。全体は古い廃墟のような外観で、ホラー映画に出てきそうであった。


 最も、今自分たちは戦場の真っ只中にいるかも知れないので、ホラー映画以上に油断ができない。


 暗い部屋の中をひとつづつ探索し、クリアリングしていく。その道中で弾丸を拾うのはいつもの事だった。


 しかしあまりに静かだ、そしてほとんどめぼしいものなどない。先ほどの戦闘が嘘であったかのような静けさに、余計に神経が逆撫でされる。


 中央を通る通路からは風が何故か吹いており、あたりは静けさで埋まっている。風の音に耳を澄ませて次の部屋を探索しようとした時──



「フフフフ………」



 どこからか、そんな笑い声が聞こえて来た。反射的にメンバー全員が銃を構えるが、どこにもその元凶がいない。



『フムウ、今のは良い声だったね。背筋がぞくっと来たよ』



 突然通信を繋いできたのは、ドクター・コウスケであった。



「どうやら恥ずかしがり屋がいるみたいだけど、何か知らない?」

『いいや、何せこの層までたどり着いたのは君たちが初めてだからね。僕は何も知らないよ』

「チッ、分かったわ。この役立たず」



 マリーはそう言って通信を切り、扉に手をかけ少しだけ開いた先に銃を突きつける。目線を部屋の中に配らせて、内部をクリアリング。


 マリーは扉をバタンと開くと、やはり中には何もいなかった。赤い部屋の中に小さな椅子がひとつだけあるだけで、特にめぼしいものはなかった。


 部屋を探るのも面倒なので、そのまま退散しようとしたとき──バタリ。反射的に扉を開ける。椅子が一人でに倒れていただけだったが、マリーは背筋に氷のような冷たさが漂った。



「……コウスケ、アリーサ」

「は、はい……」

「何?」

「後ろを警戒して、何が来るか分かったものじゃないわ」

「たしかに……こんな調子じゃクリアリングしても安心できませんね……」



 例え、先ほどの部屋をクリアリングしたところでも変わらなかっただろう。あの椅子を倒した本人は、こちらを弄んでいる。


 目に見えるモンスターとはまた違った脅威を目の前にしながらも、マリーたちは闘志を燃やした。



「上等よ……ここまで来てやられてたまるものですか……!」



 今は第四層、こんな場所まで来たチームは今まではいなかった。ここまで来て、のけのけとやられるわけにはいかない。そう、ローラの分の為にも。


 マリー達は前をマリーとコウスケが警戒し、後ろをアリーサが警戒する形で前へと進む。もうクリアリングしても一緒なため、左右の部屋には足を踏み入れない。


 そして一行が少し大きめのホールに立ち入ったときだった──ダンジョン内の僅かな明かりを灯す電源が全て落ちたのは。


 一寸先が闇に染まる。薄暗くとも照明があったさっきまでのボールが、何も光を通さない黒に包まれた。



「!?」

「な、何?」



 マリー達は反射的に銃を構える。そして気づいた、フラッシュライトまでもが消えていることに。



「嘘……!」



 慌ててフラッシュライトを付けて落ち着こうとするが、3人は目にした物に固まった。


 フラッシュライトの光によって球状に切り取られた闇の中、そこに先ほどまでは間違いなく存在していなかった人影が居た。


 それらは、人の形をしているナニカである。黒い影のような物体で、足元に影を照らしている。


 当然それに顔はない。だがそれでも間違いなく、奴はこちらを見ていた。



「こいつは!?」



 三人は悲鳴を上げる前にそいつに弾丸を浴びせた。お互い背中合わせのため、誤射はしない。


 銃弾は当たったのか、すり抜けたのか不明だが、弾の大半は『ナニカ』の背後の壁へと着弾し、甲高い音とともに火花を散らす。


 すると、その火花を合図にまた電源が灯り始めた。赤い赤い薄暗闇の光だけが。


 真っ赤な明かりに照らされたホールの中は、先ほどまでの景色と一変していた。


 そこには文明らしさと清潔感は欠片も無い。上の階と同じく、そこは異形の棲家と化していた。


 紅いホールのそこら中に影を伸ばす無数のナニカ、ナニカ、ナニカ、ナニカ、ナニカ、ナニカ、ナニカ、ナニカ。


 通路の前、遮蔽扉の前、扉の前、天井に何の前、自分たちの目の前。そこに居た全てが先の『ナニカ』だ。


 彼らは一様に顔のない顔をこちらに向け、2人の侵入者を見据えている。そして、一斉にジリジリと近寄ってくる。



「撃って!!」



 マリーはとにかく撃ちまくることを命じた。無数の弾丸達が『ナニカ』に向かって襲いかかる。


すると、それらに弾丸が当たると穴が開いていき、次第に糸の切れた操り人形のようにドロっとした液体に崩れていった。



──こいつは亡霊じゃない、モンスターだ。



 マリーはとっさにそう悟った。ならば倒せるだけの余力はあるはずだ、ととにかく撃って撃って撃ちまくる。


 しかし、数があまりに多いのか全く減る気配がない。それどころか増殖してこちらにジリジリと迫っている。



「逃げるわよ!!」



 マリーはコウスケとアリーサに退散を命じた。そして、二人は銃で応戦しながらマリーに着いてくる。


 案の定、マリーが進む前方にもその『ナニカ』は居た。マリーはそいつの頭を狙ってSCARを連発、前へと小走りで進む。



「もう少しよ!!」



 巨大な扉まで、あと少しと言ったところ。そこでアリーサが何かに足を引っ張られたかのように転んだ。



「アリーサ!」

「くっ……しまった!」



 アリーサは足を掴まれたようで、足の先には黒い手ががっちりとアリーサの足を掴んでいる。


 とっさにコウスケがスラッグ弾を込めた弾丸を『ナニカ』の頭に向けて放つ。が、その途端に分裂したかのように増えたそいつは、さらなる腕となってアリーサの足を掴んだ。



「引っ張るわ! コウスケは戦闘を!」

「はい!!」



 マリーはアリーサが引きずられる前にアリーサの手を掴む。引っ張り上げようとするが、その途端にはアリーサの上半身は闇に飲み込まれていた。


 強烈な力に引っ張られて全く拉致があかない。それどころか、アリーサの腕がメキメキと嫌な音を出している。



「リーダ! 私の腕を離して! あんたも引き込まれるわよ!!」

「離すもんですか……!」



 それにしても強烈な力だ。おそらく二人がかりでないと引っ張ることはできないのか?


 そう思ってコウスケに手を貸すように指示をしようとしたそのとき──



「あ」



そんな音と共に、掴んでいた手の抵抗が突如として消えた。突然の事にマリーは後ろに転倒しながら事の顛末を理解した。


 マリーは一瞬で起き上がり、自分が握っていたものを見る。それは、千切れたアリーサの腕だった。



「あ!!」



 アリーサは俯いた状態で引きずられ、そのまま闇の中に消えていった。そこでムシャムシャと言う嫌な音が響き渡る。



「コウスケ! 行くわよ!!」

「は、はい!!」



 マリーはアリーサの腕を仕方なく放り投げ、コウスケに声をかける。彼はショットガンの弾切れを感じてUMP9で応戦していた。


 後ろでは、アリーサが闇に飲まれながらもなんとかもがいていた。そして──爆発が影達を照らして蹴散らした。アリーサが死に際に使った手榴弾であった。


 それに目も暮れる暇もなく、そのまま長い通路をズンズンと進んでいく。


 途中で邪魔してくる奴らは銃で蹴散らす。黒い影は長い通路の先にある重圧な扉をすらも黒く覆い尽くすが、マリーはそれに向かってSCARの弾丸を浴びせまくる。



「ギャァァァァァ!!!」



 すると、扉の影が蹴散らされてゆっくりと自動で開く。それを好機として、マリー達はそこに飛び込んだ。



「クソッ! クソクソクソクソッ!!!」



 マリーは毒づく。ここまで来て仲間を二人も失った。その不幸と理不尽さに嘆きたくなって来た。


 涙を流しながら向かうその先は、シンジュク・ダンジョンの最深部、第五層である。




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