5話 ルナとアリアを探したい!
「ヒトミおねーちゃんのかみ、たのしかった!」
「お姉ちゃんも楽しかったよ」
なでなで。
もう外もしっかりオレンジ色の夕焼けだね。
「それじゃあ、ルナかアリアを探しに行こっか」
「いこー!」
イブちゃんの小さくてぷにぷにの手を握って、イブちゃんの狭い歩幅に合わせて。
姉たる者、これぐらいはしてあげないとね!
「2人はどこにいると思う?」
「うーん、イブのおへやかなー?」
「じゃあ、最初はイブちゃんのお部屋だね」
「うん!」
イブちゃんに連れられるように、牛歩で、ゆっくり、ゆっくりと。
それでイブちゃんの部屋について、イブちゃんが頑張って扉をあけて中を見る。
「アリアおねーさん?うーん、いないねー」
「残念、ここにはいなかったね」
アリアも掃除以外でいる必要ないから、いないかなとは思っていたけど、となるとどこだろう?
休憩部屋、これが1番ありそうだよね。
あとは料理のお手伝いとか、お屋敷の掃除とか?
「おトイレさんかなー?」
「あるかもねー」
あんまりトイレの所をお邪魔するのもいけないけど…
妹の自主性を尊重して、お姉ちゃんはただついていくのです。
お姉ちゃんだからねっ。
ゆっくり、ゆっくり、イブちゃんにエスコートされてトイレの前につく。
「鍵かかってないからいないね」
「あのー、えっとー、ヒトミおねーちゃん」
「どうしたの?」
そんなにイブちゃんもじもじして、トイレ行きたいのかな?
「おトイレさん行く?」
「いってきていいー?」
もしかして、ルナとアリアを探すためじゃなくて、トイレに行きたかったのかな?
「うん、ゆっくりしていいからね」
「えへへ、ちょっとまっててー」
恥ずかしそうにイブちゃんがトイレの中に入っていく、かわいいぃ…
音が聞こえないように離れて待っておこう。
これは淑女としてねっ。
2人がトイレにいなかったら、やっぱり休憩部屋かな?
ルナとアリアは仲良しさんだからね、2人でお話とかしてるのかも。
あっ、イブちゃん終わったみたい、あとちょっとしたら出てくるね。
「おわったー」
「終わったー?ちゃんと手は洗ったー?」
「うん、あらったよー!」
「そっか、偉いねイブちゃん!」
「えへへー、でしょー?」
偉い!
なでなで。
「ヒトミおねーちゃんはいかなくてだいじょーぶ?」
「うん、私は大丈夫だよ」
お姉ちゃん、体質的に体が全然トイレを求めないんだ。
でも、イブちゃんにどうしてって言われても説明できないから、これは言わないでおこう。
イブちゃんのお手々、握ったらちゃんとしっとりしてる。
しっかり洗ってそうだね。
「トイレにいなかったら、どこにいると思う?」
「うーん、うーんと、きゅうけーのおへやは?」
「いるかもね」
「じゃーいこー!」
えへ、もっとお姉ちゃんをエスコートして!
妹にエスコートされるのって、ちょっといいね。
皆さんはどう?
妹ちゃんにエスコートされて街の中とか歩きたくない?
歩きたいよね!?
ねっ!?
って、お母様が前から歩いてきてる…
「おかーさま!」
「相変わらず仲良いのね」
「うんっ!おかーさまもいっしょにいこー」
「行けないわ、まだ仕事が残ってるの」
「そっかー…」
あーあ、イブちゃん悲しがってるよ!
こういう時に頭を撫でたりでもしたらイブちゃんにまた笑顔が戻るのに、お母様は何をしてるの!
ほら、撫でて!
ついでに私も撫でて!
「ところでヒトミ、資料は読んだかしら?」
…え?
「ところで」ってどういうこと?
「娘の1人が悲しがってるところで」ってこと?
「お母様、その言い方はいくらなんでもイブちゃんが可哀想!流石に今のは怒ったよ!自分の子供でしょ!?」
私がわがままを言って「撫でて」っておねだりしたのを、流すのはまだ許してあげる!
お母様もしっかりとした人だから、子供を甘やかさない人なのかもしれないから!
でも!!!
「自分の子供が悲しんでるのに『ところで』って言葉で片付ける人は、いくらなんでも私は嫌いになるよ!」
何その顔!
そんな目を細めてこっちを見てもダメだよ!
悪いのはお母様なんだから!
って、お母様?
「ごめんなさい、イブ。言い方が悪かったわ。忙しいのは嘘ではないの。それでも、イブは大事な私の娘よ」
お母様がわざわざ屈んで、イブちゃんを抱きしめて撫でてる…
あのお母様がっ…
一度も私を撫でたことないお母様が、イブを抱きしめて撫でてる…
「うんっ、イブもおかーさまだいすきだよっ!」
「えぇ、私も好きよ」
お母様に、1回も好きって言われたことないのに…
あっ、泣いちゃダメ。
お姉ちゃんだから、イブちゃんの前で泣いちゃダメなのに、涙が止まらない…
やだ、やだ…
「おねーちゃん」
「あっ、なんっ、でもないっ…」
イブに見せたらダメ。
でも、なんで私は今泣いてるの?
どこも痛くないのに…
あっ。
「ヒトミも」
お母様…
お母様に、抱きしめられて…
「ごめんなさい、全て私が悪かったわ。もちろんヒトミのことも好きよ、大事な娘よ」
お母様に初めて、撫でられて…
やだ、また涙が止まらない…
「本当に貴方のわがままには応えられなくて、辛い思いをさせたわ。でも本当に今は忙しいから、後で少し話しましょうか。寝る前に私の部屋に来てくれるかしら?」
「…っ、うん、わかった…」
「ごめんなさい、私、もう行くわ」
お母様、もう行っちゃうの…?
「寝る前に来なさい、約束よ?」
あぁ、お母様…
「おねーちゃん、だいじょーぶ?どこかいたいのー?」
「っ、イブちゃん、ありっ、がとう。大丈夫、だよっ」
イブちゃんがお母様に代わって撫でてくれる。
でも、お母様とは違う撫で方、手の大きさ、柔らかさも。
とりあえず、私はお姉ちゃんだからっ!
ずっと泣いてたら、イブちゃんが心配するからね!
「イブちゃん、好き、だよ」
「イブもすきー!」
なでなで。
あと、涙も拭いて、っと。
「ごめんね、もう大丈夫だから、2人を探しに戻ろっか」
「うん!」
イブちゃんにエスコートされる。
お姉ちゃんなのに。
でも、私はお姉ちゃんだから、イブちゃんにエスコートされたい。
別に悪いことじゃない、甘えるのは、悪いことじゃない。
そうっ、悪いことじゃない!
お母様だって今、私を甘やかしてくれたから!
悪いことじゃない!
…さっき涙を拭いたから手が濡れてるけど、イブちゃん気にならないのかな?
「…?えへへー」
私が見てたらイブちゃんは私に笑ってくれる、本当にかわいいぃ…
「イブちゃんかわいいねっ」
「えへー、そうかなー?」
「うんっ、お姉ちゃんの次にかわいい!」
「やったー!おねーちゃんのつぎだー!」
ちょっと、冗談なんだから、恥ずかしくなってくるでしょ。
まぁ、いっか!
イブちゃんにかわいいって言われるのも、いい気分になるから!
それにお母様も初めて、私を甘やかしてくれたから!
でもでも、あれじゃ足りないよね?
次はもっと!
お母様になでなでさせるんだからっ!




