4話 転移魔法を知りたい!
あれ…
何時…?
「ん、もう6時…」
お昼から寝てるから5時間ぐらい?
結構寝ちゃった…
天使はまだおねんね中だね、かわいいぃ…
なでなで。
「ルナは…いない」
寝ている私達を見ているわけにもいかないからね。
休憩部屋にいるかな。
ルナがいないと話し相手もいないし…
起こさないように、起こさないように、そーっとね、そーっと…!
よしっ、なんとかテーブルに手が届いた。
出来るだけ紙の音も鳴らさないように…
イブちゃんは…
起きてないね、大丈夫。
なでなで。
さてさて、このまま二度寝しちゃってもいいんだけど、それはそれでもったいないからね。
だってほら、もうお外もオレンジ色になってきてるよ。
見える?
うーん、皆さん見えないのかな?
まいっか。
さてさて、これが200万デウスの資料…
本当に200万デウスなのかな?
たったの、1、2、3、4、5枚、たったの5枚の紙なのに200万デウスってどういうことなの?
そんなに上級魔法って価値があるのかな?
それともお母様が嘘を言ってるか。
やっぱり、流石に嘘だよね?
お母様がこんな高価なものを私に預けるとも思えないから嘘のはず。
ただそう思っても、この紙の束は紙の重さ以上の重みが…
慎重に、慎重に読んでいこう。
ちょっと眠いけど、読んでいったら目も覚めてくるよね。
えーっと、
「本資料は『転移魔法』と呼称される、移動を目的とし、物体の連続性を無視した移動系の魔法についての資料である。
また、転移魔法はノーデン魔法省の評議会により上級魔法に認定され、悪用を防ぐためにA級魔法科ライセンスの所有者のみが所有を許可される極秘資料となる。
A級、S級魔法科ライセンスを所有していない、もしくはS級魔法科ライセンスの所有者による使用許可を得ていない者はこれを閲覧する事を禁ずる。
この規則を守らない者は処罰の対象となる」
と。
うんうん、なるほどなるほど。
…
これ読んでいいの!?
なんか難しいこと書いてあるけど、AでもSでも私は魔法科ライセンスなんて持ってないよ!?
そもそも魔法科ライセンスって何!?
それか、もしかしてお母様がS級魔法科ライセンスを持ってるとか?
私、そんなこと一回も聞いたことないけど!?
えっ、えっ、これ本当に読んで大丈夫なの…?
ちゃんとお母様は魔法科ライセンスを持ってるんだよね?
というかお母様はどうしてそういう説明もしないで、200万デウスの話だけをしたの!?
優先順位違うでしょ!
ちょっと寝起きで大丈夫かなって思ってたのに、いつの間にかお目々ぱっちり!
すごい!
これから目覚ましはこの資料にしようかなって思っちゃうぐらい!
ふぅ、心の中で叫んだら大分落ち着いてきた…
イブちゃんなでなで。
髪がサラサラ、お肌もぷるんぷるん、かわいいぃ…
うんっ、そんな現実逃避をしても仕方ない、私には読む以外の道は残されてないからね。
覚悟を決めてヒトミ、仮に処罰の対象になってもお母様が庇ってくれる、そうでしょ?
お母様は私に厳しくて甘やかしてくれないけど、私のことを思ってはくれてる、はず、だから…!
とりあえず、このページは注意事項とか、権利関係のあれこれ、いつに作られたのか、製作者と責任者の名前、他にも色々とあるけど、転移魔法については何も書かれてなさそう、かな。
じゃあ、音は立てないようにゆっくりと…
あれっ、このページは文字が少ない。
やったね!
「評議会により実用性を認められた3種類を記す。
物体転移型を3頁に、空間連結型を4頁に、空間置換型を5頁を参照」
と。
ふんふん、なるほどなるほど。
ぺらぺらぺらり。
絵がある!
3ページとも絵がある!
優しい!
製作者の…
えっと、ミオさんとカミラさん、本当にありがとう!
えーっと、絵で見た感じ、絵で見た感じでだよ?
皆さんのために分かりやすく言うと。
物体転移型は、人や物を直接、魔力だけで転移、みたいな。
空間連結型は、空間と空間を繋げて、そこを通って移動、みたいな。
空間置換型は、転移前の空間を特殊な空間に置き換えて、その特殊な空間を転移先の空間に置き換えることで移動、みたいな。
えっとね、ちょっとだけ斜め読みもしてみたけど、これだけは言える。
空間置換型は難しい!
こんなやり方しなくても、前2つで絶対に大丈夫だよこれ!
評議会の人!
3つ目のこれ、全然っ実用性ないよ!
そもそも、特殊な空間を用意するのがもう大変!
それって世界を作るってことでしょ?
魔力切れになっちゃうよ!
「えぇー?これ、これはダメでしょ…」
「んっ…」
あっ、小声ではあったんだけど、イブちゃん起きちゃった。
イブちゃんが眠そうな目をゴシゴシしてから、私を見て嬉しそうな笑顔を見せてくれる。
「えへ、イブちゃんおはよう」
「おはよー」
イブちゃんが頑張って起き上がって体を伸ばしている間に、資料はテーブルにまた置いておこ。
「ヒトミおねーちゃん」
「どうしたの?」
「うんとねー、えっとねー……」
イブちゃんが話しながらまたうつらうつらと、頭がこくこくと動いている。
それにちょっと寝癖もついてる。
かわいいぃ…
「イブちゃん、起きなくていいの?」
「あっ、えへへ、そうだったー」
目は開いてないけど、首が座ってないみたいに首を傾けながら嬉しそうに笑顔を浮かべている。
かわうぃ…
イブちゃんが私の体の上をハイハイで越えていって、ゆっくりとベッドから降りる。
「そういえば、さっき何言おうとしてたの?」
「んー、さっきー…?あっ、えっとねー、夢でねー… なんだったっけ、あれー?」
上手く思い出せないみたいで、頑張ってイブちゃんは思い出そうと上の方を見ている。
「そっか、夢のお話なら忘れててもしょうがないね」
「うん、おもい出したらいうねー」
「楽しみにしてるね」
なでなで。
「そうだイブちゃん、寝癖ついてるから直してあげる」
「ほんとー?どこー?」
「ほら、ここ」
「わー、ほんとだー」
「ほらイブちゃん、その椅子に座って」
「うん!よいしょ、よいしょ」
えーっと、クシは引き出しの中に…
うん、あった。
「髪を直したら、私のお世話係のルナか、イブちゃんのお世話係のアリアを探そっか」
「うん、いいよー!」
そろそろ夜になるからすぐに夜ご飯になると思うんだけど、お昼を食べてすぐ寝たから、少しはお屋敷の中を歩いた方がいいよね。
はぁ、それにしてもイブちゃんの髪、触ってて楽しいなぁ。
私も自慢出来るぐらいにはサラサラだけど、イブちゃんの髪もサラサラで気持ちいいんだよ。
って、これじゃあ私がイブちゃんを甘やかしちゃってるじゃん!
いや、それが姉である私の務めだけど、それとは別に私もイブちゃんに甘やかしてもらわないとね。
「これ終わったら、お姉ちゃんの髪も梳かしてくれる?」
「するー!ヒトミおねーちゃんのかみ、とかすの好きなんだー」
「そっかぁー、えへへ」
うんうん、知ってるよ。
これでも私はイブちゃんと甘やかし甘やかされの関係だからね。
イブちゃんが楽しそうに私の髪を触ってるのを知ってますとも!
お姉ちゃんですから!
とりあえず、イブちゃんの寝癖が直るまでちょっと待ってね!
そういえば言ってなかったけど、イブちゃんは6歳の私の妹で、それはそれはかわいくて素直で私と相思相愛な天使ちゃんだよ。




