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3話 イブちゃんに甘やかされたい!


「てんてんてん てーんいー てんいーまほうー♪」

「何の歌?」

「うーんとね、あれ?なんだったっけ…」


 どこかで聞いた気がするんだけど、どこだったっか思い出せない…


「思い出せないの?」

「うーん… どこかのお店?」

「お店?吟遊詩人じゃないんだ〜」

「うん、お店だった気がする」


 確か、そのはず…


「それにしても、転移魔法なんてすごいよヒトミちゃん」

「えへ、でしょー?」


 やっぱりお昼の後はルナのお膝の上でギュッてされるに限るね!

 ルナの暖かさと食後のポカポカ感で、体がとろけそう。


 なんて幸せも束の間、扉が開かれそこには紙の束を持ったお母様が。


「ヒトミ、受け取りなさい」

「はーい」


 お母様に渡された紙の束はだいたい5枚ぐらいで、1枚目はぜーんぶ文字。

 こんなの読んでたらお昼を食べた後だし寝ちゃうよー。


「難しそうだね〜」

「ねールナ、やっぱり中級魔法は全然違うね」


 この場ではルナは私の味方みたい、よかった。


「いえ?転移魔法は上級魔法よ?」

「上級!?中級すら覚えてないのに?」

「仕方ないでしょう?貴方がワガママを言うから聞いてあげたのよ?」

「むー、それはそうだけど…」


 上級って知ってたらもう少し考えたのに、お母様は出来るだけそういう事を言わないズルい人だったのを忘れてた…


「それと入学まで1ヶ月、ただ正確には寮の申請諸々を考慮すると、あと1週間で覚えるといったところかしら?」

「1週間?えっ、1週間!?」

「そうね」

「聞いてないよそんなの!」

「えぇ、聞かれてないもの」


 ズルいズルい、本当にズルい、そうだそうだー!


 でも魔法を覚えるって言っちゃったから、もう覚えるしか…


「では、仕事があるから私は戻るわ」

「お仕事頑張って っね"!」

「……ちなみにその資料、200万デウスはするから」

「200万デウス!?!?」


 えっ、全然無理!

 200万デウスの物なんて触れないよ!


 テーブルの上に置いておこ…


「くれぐれも汚さないでね?お父様が泣いて悲しむことになるわ」

「わ、わかった…」


 200万デウスの物は汚せないよ!

 だって200万デウスって、いいお馬さんが買えるぐらいだよ?

 お母様もそんな物を渡して見張りもせずに部屋を出ていっちゃダメでしょ…?


 えっ、お母様、本当に?

 本当にあの紙の束で200万デウスなの…?


「ふふ、すごい物を渡されちゃったわね」


 ルナはどうして笑っていられるの?

 確かにルナが使う訳ではないけど、心配にならない…?


「何か、すごい大事に…」

「そう緊張することないのよヒトミちゃん。ヒトミちゃんは出来る子だから、すぐに覚えてすぐに奥様に返しましょう?」

「うん、そうする…」


 いくらなんでも何日も私の所に置いていられないもん。

 もうびっくりしすぎてさっきまでのポカポカも冷めて、目もすっかり開いちゃってるから、今のうちに読んじゃおう。


 そう思って置いた資料に手を伸ばそうとしたら、


「ヒトミおねーちゃん、入っていいー?」


 部屋の外からイブちゃんの声が聞こえてくる。


「えーっと…」


 イブちゃんに部屋に来てって約束しちゃったし、今は資料に目を通すよりも妹と遊ぶ方がお姉ちゃんとしての務めだよね?


「うん、入っておいでー」

「わー、お邪魔しまーす」


 イブちゃんが小さなお手々を目一杯に伸ばしながら扉を開けて、嬉しそうに私のもとに駆け寄ってくる。

 あぁ、我が妹よ!

 かわいすぎるぅ…!


「もー、おねーちゃんくるしーよー」

「えへ、ごめんね、ちょっと強かったね」


 私としたことが、自慢の妹を強く抱きしめ過ぎた。


「ルナさん、こんにちは!」

「イブちゃんこんにちは、挨拶出来て偉いね〜」

「えへー、ほめられちゃったー」

「褒められちゃったねー」


 よーしよしよし、偉いねーイブちゃん!


 って、私としたことが。

 私が甘やかされないといけないのに、妹を甘やかしてしまっているではないかっ!

 策士、イブちゃん!

 この甘やかされるために生まれてきたお姉ちゃんすら凌駕する、天性の甘やかされる才能、思わず嫉妬しちゃうよ…


 部屋の隅にある椅子にルナが移動するのがチラッと見える。

 気を使わなくていいのに、ルナはいいお世話係さんだよ…


「それでヒトミおねーちゃん、なにしてあそぶのー?」

「どうしよっかぁ、本当はお姉ちゃんになでなでしてほしいんだけどねー」

「えー?イブなでなでするよー?」

「なでなでしてくれるの?」

「うんっ!なーでなで、なーでなで」


 はぁ、イブちゃんのちっちゃい筋肉っぽさのないお手々…

 それにちっちゃい子特有の甘々な香り…


「どおー?」

「すごくいい感じ、好き」

「えへー、イブもヒトミおねえちゃんすきー!」


 きゅん。


 お姉ちゃんにあるまじき威厳のない顔を、きっと妹に見せているだろうけど、その恥ずかしさよりも多幸感と満足感が全てを塗り潰していく…


「えへっ、えへへ」


 自分で嫌になるぐらいに笑顔が止まらない。


「えへへぇ、ヒトミおねえちゃんたのしそう!」

「うん、すごく楽しいよ」

「イブもね、おねえちゃんをなでなでするの、すきなんだー」


 きゅん。

 お姉ちゃん、その笑顔は効いちゃうよ…


 そう、この妹、人に甘やかされる才能を持ち合わせていながら、お姉ちゃんを甘やかす才能にも長けている。

 その幸せしか感じていないんじゃないかと思わせるほどの天使の笑顔は、瞬く間に私を幸せにしてのける。


 そんな幸せを噛み締めていたら、さっきまでの緊張が解けて、眠気が私をベッドに誘い始める。


「ねぇねぇイブちゃん」

「なーに?」

「このままお姉ちゃんとお昼寝しよっか」

「するー!」


 二つ返事のイブちゃんを抱き抱えて、優しくベッドに寝かせてあげる。


「ヒトミおねえちゃん、こっち!」

「うん、一緒にくっついて寝ようね」

「えへへぇ、やったあ!」


 寝かしつけるようにイブちゃんの肩の辺りをトントンと優しく一定の間隔で叩くと、お返しとでも言うように天使の手が私の頭に伸びて、優しく撫で下ろしてくれる。


 もう、寝る時もお姉ちゃんを甘やかしてくれるの…?

 いい子過ぎる…


 目を開けたら、イブちゃんが嬉しそうにこっちを見ていた。


「えへへぇ、おやすみなさい、ヒトミおねえちゃん」

「えへっ、うん、おやすみイブちゃん」


 こんなにかわいい妹と一緒に出来るなんて、お姉ちゃん、本当に世界一の幸せものだよ。

 呼吸をすればイブの甘い香りと、触れ合って感じる暖かさが体に染み込んで…


 徐々に、


 眠気は深い物となり…



 もう…



 起き上がる力と、考えは…



 ……

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