天使のしもべは語る
私は天使の僕。天使のために、この身を捧げる者。
至上の幸いである天使に仕える仕事は、もちろん、かけがえのない喜びに満ちたものではあるが、自らを律する強い心を求められる過酷さもある。
それでも私は毎日、天使のために寄り添い、恐れ、崇め奉る。それが私の使命であり、望みであり、救いなのである。
天使には特別な食事をお供えしなければならず、私が口にするようなものをお出しするなどあってはならない。
天使の体を毒さないよう、新鮮な食材に、清らかな水。それらを清浄な器によそって供えるのだ。時には半分も召し上がらなかったり、別のものを所望されることもあるが、そんなことで心を乱してはならない。私は僕。私にとっては理不尽なことも、天使にとっては取るに足らない些事。粛々と仕えるのみだ。
天使は、芸術をこよなく愛するお方でもある。
私は日々、天使のために語り部をし、楽を奏し、歌い、舞い踊る。
天使の様子をうかがいながら、少しでも楽しんでいただけるよう心を尽くす。
天使がその汚れなき眼を輝かせ、満足そうな微笑みを見せてくださると、私は喜びで胸がいっぱいになるのだ。
天使は穏やかな面もお持ちだが、ひどく荒ぶることもある。ひとたび荒ぶれば大音声を轟かせ、大地は荒れ果てる。
天使はその心の内を、私めにお話しになることはないので、私は天使の悲しみ、怒りを解くために心を砕かなくてはならない。
時に捧げ物をし、時にいと高き場所にお祀りして、誠心誠意、その御心を慰め、鎮まっていただくのだ。
天使は日々知見を広げようと努めていらっしゃる。そんな天使をお助けするため、下界へとお連れするのも私の大切な仕事だ。
私にはありふれたものも、天使にとっては物珍しく映るご様子で、野に咲く草花や名も知らぬ虫など、いつも彼方此方へと、せわしなく目を向けられる。きっと様々なお考えを巡らせているのだろう。
たまにすれ違う人が一目お会いしようとやって来ることもある。老婆や子供たちが多いだろうか。天使をありがたがり、幸せそうな表情になる彼らを見ると、なぜか私まで誇らしい思いになるのだからおかしいものだ。
天使は心身ともに汚れることのないようにしなければならない。
御身体より出でる不浄のものを拭い去り、その御身を清潔に保つのも大切な仕事である。
不浄のものといっても、天使から生まれ出るものは、私にとっては全てが清らかなものだ。
御身体を整える時は、天使の艶やかで繊細な御髪、滑らかな柔肌を傷めることのないよう、そっと触れる。
その瞬間もまた、祝福と癒しに満ちた至福の時である。
そして、私は疲労の溜まった体に鞭打ち、一日の最後の務めを果たす。
暑すぎず寒すぎず、硬すぎず柔らかすぎない、極上の寝床を整え、微睡の中に坐す天使を、真っさらな敷布に横たえるのだ。
天使が目醒めることのないよう、そうっと、慎重に。決して起こしてはならない。
すやすやと眠られる無垢なる存在の、一点の汚れもない安らかな御顔を拝すれば、私は慈愛の心に満たされ、天に召されそうなほどの幸福感に包まれる。
私はゆっくりと顔を近づけ、天使の柔らかな頬をひと撫でして、優しくキスを落とす。
「おやすみなさい、私の可愛い赤ちゃん………………あっ、起きちゃった……!」