インスペクター少女 シエナ
二作目になります。読んで頂ければ幸いです。
小鳥のさえずりが聴こえるような平和を私は知らない。毎日当たり前のように携帯端末には通信音が鳴り任務の書かれたメッセージが送られてくる。
それでも私は剣を取るこの世界の平和を守るために。
「♪ーーーーーーーーーーーーーーーー♪」
「うーん……?」
耳を劈くようなアラートが、朝を迎えた部屋に盛大に鳴り響いた。
眠い目を擦りながら起き上がる少女、シエナは轟音の元凶である携帯端末を探し出す。
生憎と、これだけの音を出していれば、嫌でもすぐに見つけてしまう。
シエナは携帯端末を掴むと電源を入れた。携帯端末に明かりがつくと直ぐに送られてきたメッセージが表示された。
「シエナ捜査官、E地区の倉庫で終末派の怪しい動きが確認された、至急現場に向かってくれ。事件の詳細は……」
メッセージに目を通す。ゆっくりと身体が覚醒し始めた。
時刻は朝の7時を告げていた。
シエナは身支度をすませると、ハンガーに掛けてあった隊服に袖を通した。
左胸には、金色のバッチが付いてる。
NEO直属の監査官 通称インスペクター。
それを証明するバッチだ。朝の光に左胸のバッチが輝いていた。
「よし行こっか。」
スイッチを入れると、今日も任務へと向かった。
朝の丁度良い風が小型の飛行バイク、スカイジェットに乗るシエナの紅い髪を揺らした。
上からの指示によれば、OFFの隊員を除けば、他のメンバーは朝から任務で出払っているらしい。なにやら都市方面で事件があったとか、一応非番の捜査官には通達しているらしいが……
「今日も一人でやるしかないのね……」
いつものこととはいえ、危険な任務を請け負う以上命の危険に晒されることも珍しくない。たが、インスペクターに選ばれた以上弱音を吐いてばかりではいられない。
「皆んなのために頑張らなくちゃ。」
もう一度気合を入れメッセージを確認する。
「この先が目的地ね」
GPSがE地区を示している。向こうに開発途中で止まっている建設物が剥き出しになっていた。
まだ開発中の地区だからだろうか、周りに人の気配はない。
一つ深呼吸して、付けていたゴーグルを外した。
この先に悪意が待っている。それでも進まなくてはならない。
人々を守るために。
E地区への入り口は静寂に包まれていた。
コツコツとシエナの足音だけが響いたいた。
クレーン車や大型の重機がそのまま放置されていた。
一歩奥に進むたびに、空気が張り詰めている。
遠くに、指示された建物が姿を現した。
「あれよね?」
身体が引き締まった。
無線機を取り出すと指令官に繋げた。
「指令官。こちらシエナ、ただ今目的地を確認。作戦を開始します。」
「了解。新人の君に任せきりにして申し訳ないが、今立て込んでいる。非番の隊員を1人向かわせた、現場での判断は君任せる。健闘を祈る。」
無線はかなり慌ただしかった。都市の方での事件に追われているのだろう。
「…………」
左胸のバッチに手を当てる。
それから前を向いた。
刹那、右側から陽光を纏ったナイフが一閃した。
「!?」
シエナはギリギリの所で回避すると、ブレードを抜きすぐさまカウンターを入れる。
「あが!?」
声を上げてナイフを持った男が倒れた。
「これって!?」
見ると、横たわる男の子額には黒い禍々しい刺繍が入っていた。
「終末派の証……」
「おいおい嬢ちゃん、そんな物騒なもん持って何してんだ?」
見ると大男が髭を触りながらシエナを見下ろしていた。
いつの間にか周囲には多くの視線がシエナに向けられていた。
周りを囲まれている。
「情報にあった終末派のテロリスト」
シエナは大男に向き直ると、ブレードを構えた。
「ふぅん」
大男はにたりと笑う。
唐突に着信音が鳴り響いた。
「あぁ?なんだ?」
それは大男の携帯だった。
大男は怪訝そうな顔で携帯を見る。
それから、
「おいお前らこの女を片付けろいいな?」
そう言って大男はシエナに背を向けると、建物の方へ歩いて行く。
「!?待ちなさい!」
シエナが慌てて走り出す。
「おっと、俺らのことは無視かよ?」
横からテロリスト達が獲物を見つけたかのような目でシエナの前に割り込んできた。
手にはナイフを持っている。
「兄貴はボスの所に用事があるみてぇだから、代わりに俺らと遊んでくれれよぉ」
男達の目は異常なまでに瞳孔が開いていた。
「痛い目にあいたくなかったら今すぐ武器を捨てなさい!これは命令よ!」
「ふん、それはこっちのセリフだぜぇ!」
ナイフを片手に一人の男が突っ込んできた。
それをよそ目にに四方からテロリスト達がシエナを強襲する。
「正義を執行します。」
瞬間、テロリスト達が宙を舞った。
そのままなす術なく地面に叩きつけられる。
シエナの手には赤い剣が握られていた。
「なにを……しやがった……?」
テロリスト達はなにがも起きたか理解出来ていない。
1人の男のがシエナの左胸のバッチに気づいた。
「テメェ、そのバッチ……インスペクターか?」
見れば向かって来たテロリストを達は全員瞬殺されていた。
「……そうよ、銃刀所持違反と禁止薬物の使用、それから職務妨害で逮捕します。あなた達どうするの?あまり抵抗はお勧めしないけど。」
「………………」
残りの数人も顔を見合わせてから両手を上げた。
「直ぐに捜査隊の人が来るからここで大人しくしてなさい。いいわね?」
テロリスト達は不満そうに小さく頷いた。
さっさと行け、とでも言いたげだ。
遠くからサイレンの音が聞こえたのを皮切りに大男の向かった建物を目指した。
建物の中は驚くほど静かだった。廃墟のような建物の奥には、倉庫が併設されていた。
「少し時間が経ってる……早く追いかけないと……!」
「来たね、捜査官のお姉さん」
「!?」
突如降り注いだ声は、倉庫入口の正面、積み上げられたコンテナの上からだった。
「……あなたは?」
「人に名前を聞くときは、自分から名乗るのが筋じゃないのかな?」
コンテナに居座る少年は不敵な笑みを浮かべてシエナを見下ろしている。
年はシエナと同じぐらいで17.8といったところか。
「……私はシエナ。監視官よ」
「ふうん?なら僕も名乗ってあげないとね、
僕はレオ、只の一般人だよ」
レオと名乗った少年の声音には、僅かに憎悪が宿っていた。
「どうして一般人がこんな所にいるのかしら?」
「……迷い込んだだけだよ」
「任務内容には、終末派に協力者がいると書かれていたわ。あなたのことね」
「さて、それはどうかな」
レオは笑いながら倉庫の奥の方を促す。
シエナは咄嗟に腰に刺したブレードを確認する。
「おいレオ!準備は終わったぞ!」
先程大男が奥の扉から入ってきた。
「終わったのかい?なら次の仕事はあっちだ」
「あぁ?……なんださっきの嬢ちゃんじゃねぇか。待てよここにいるってことは……」
シエナの姿に大男は目を見開いた。
「悪いけど、あなたの仲間は全員逮捕させてもらったわ。そして、あなた達も今から逮捕します」
「だってさ、それじゃ僕はここで楽しませてもらうよ、後はよろしく」
レオはコンテナの上から2人を見下ろしている。
「なら、そうさせてもらおうか!」
すると大男は自分の身長程の斧を担ぎ上げた。
「こいつはジオの技術を使った一級だぜ」
「最後の警告よ、今すぐに武器を捨てなさい。」
「悪いがそんな脅しには乗らねぇぜぇ」
そう言うと大男は刃を光らせた斧を片手にシエナへ向かって行く。
「……正義を執行します。」
「おらぁ!」
大男は斧をシエナに叩きつけた。
轟音ともに倉庫の床が砕け散った。
「いっけね、やり過ぎちまった……あれ女がいねぇ?」
「残念、こっちよ」
「な!?」
大男の斧を躱したシエナがブレードを展開する。
そのまま大男に向かって斬撃を放った。
「がぁ……!」
防ぐ間も無く大男は、そのまま地面に倒れこんだ。
「後は……」
直ぐにレオのいた方に向き直る。
レオは少し驚いた表情をみせた。
「へぇ……君の実力は本物みたいだね。だけど、僕の……僕の復讐は終わらない……!」
常に笑顔だったレオの表情から打って変わり今度は怒りの眼差しでシエナを睨んだ。
「君も知っているだろう?アークシティビル事件をね!」
「アークシティビル事件……終末派が起こしたテロ事件……!」
「そうさ、あの日ビルを占領したあいつらに僕の両親は殺された。あんたらがもっと早く対処していれば両親は死なずに済んだはずだ!」
レオは激昂していた。
「たがら僕は、壊す事にしたんだ。怠惰だった君達と……家族をね!」
「都市襲撃は陽動だよ、本来の目的は君達の庁舎の破壊だからね」
レオは自慢げに動機を語った。
シエナは最後まで聞くと再びレオに向き直った。
「……あなたの言い分は分かったわ。だけどそれで罪のない人々を傷つけるのは決して許されることじゃない」
「……」
「たがら私は、あなたを逮捕します。話は向こうで聞かせてもらうわ」
シエナの正義感は揺るがなかった。レオはその返答に以外にも満足気な表情を見せた。
「そう言うと思ってたよ、だから君には生贄にでもなってもらおうかな?」
レオは積まれていたコンテナを見るように促す。それからパチンと指を鳴らした。
刹那、コンテナを突き破りそれが姿を現した。
それは重力を無視し、両腕にそれぞれはブレードが一本ずつ煌めいていた。
「これは……戦闘用AI!?」
「そうさ、これは僕が8年間かけて作った最高傑作"オメガ"さ。 ふふ、成功だ……これで僕の復讐は約束された! こいつで全てをぶっ潰してやる!」
白い機体がガスを撒き散らしながらゆっくりと上昇した。
「それじゃ君の正義をへし折ってやるよ」
レオの合図と同時にオメガがブレードを振り下ろした。
「!?」
とっさにシールドを展開し受け流す。シエナもブレードを起動するとオメガの背後に回り込む。レオは後ろで目を輝かせている。
「さぁ、"オメガ"その力を見せてよ!」
何かに取り憑かれたように興奮するレオ、それを横目にシエナはオメガの攻撃を躱す。
「このままじゃ埒があかない……!」
切り返したオメガが二本のブレードをシエナに叩きつけた。
「フン、終わりだ」
「シフトブレード……殲滅モード移行」
瞬間シエナの持つブレードが斧の様な形に変わっていた。
「なんだ!?」
シエナのブレード、否、斧がオメガのブレードを弾き返しそのまま強烈な一撃を叩き込こんだ。
「被害甚大、継続不能、機能停止シマス……」
シエナの攻撃を受けたオメガはまもなく機能を停止した。
「あなたで最後ね」
「く……!」
レオが腰から拳銃を取り出すとシエナに銃口を向けた。
「それ以上積みを重ねてないで、まだやり直せるから……」
シエナはレオの説得を試みる。だが、それでもレオの意思はまだ形を保っていた。
「やり直したところで僕の両親は帰って来ない」
「復讐以外に僕の生きる意味はないんだ。今更普通に生きようなんて思えるかよ!」
復讐以外考えられないとレオは被りを振る。
「だったら作ればいい、あなたの生きる意味を、あなたのご両親の意思を継ぐ事だってできるはず」
「!?」
「あなたのご両親はジオの研究者だったはず、あなたにならその意思を継ぐ事が出来るはずよ」
「……僕は罪を犯した罪人だ、そんな資格はないはずだ」
「確かにあなたは罪を犯したわ、でもそれを償ってやり直すことが出来る。それが人なの。だから……その銃を下ろして。」
レオは押し黙った。
それから。
「……分かったよ、僕は研究者になる。それで2人の意思を継ぐ……いや継がなきゃならない」
レオの瞳に一つの意思が宿っていた。それからレオは両手を差し出した。
「連れていけよ、それが君の仕事だろ?」
こうして事件は収束した。
「あら、シエナちゃんお疲れ様。今日は大活躍だったらしいじゃない?」
唐突に背後から呼びかけられた。
「レミルさん。お疲れ様です。」
シエナの先輩レミルだ。
「レミルさんの方は……大丈夫だったみたいですね。」
「えぇ、都市襲撃の方は割とすぐに済んだわ。援護に間に合わなくてごめんなさいね」
「いえ、気にしにないで下さい」
紫の長髪を撫でるレミルが携帯を取り出した。
「後のことは捜査隊の人たちがやってくれる見たい」
「はい、私も報告が済んだら上がろうと思います」
「そうね、また今度甘いものでも食べに行きましょう、どうやら私も呼ばれたみたいだし」
「はい!」
シエナは頷くとレミルは嬉しそうに「それじゃまたね」と言って歩いて行った。
携帯端末を確認する時刻は12時に差し掛かろうとしていた。
「報告が終わったらお昼にしないと」
スカイジェットのエンジンを入れゴーグルを掛けた。
シエナは犯罪に挑み続ける、その先に望む未来があると信じて。
「♪ーーーーーーーーーーーーーーーー♪」
今日も指令室から着信音が鳴り響く。
ご拝読ありがとうございました。




