⒋精霊に学友が出来る④
写真撮影はあっという間に終わった。
「へぇ?綺麗に写っているね?」
「はい!お花が素敵です!!皆さんにお見せーーー…。えっと…」
カンナ嬢は出来上がった写真を見てすぐにみんなに見せようと目線を向ける。
そして、表情を曇らせた。
………あぁ、すぐにみんなが来なかったわけだ。
少し離れた場所でゼフィやコデマリ嬢、サルビア、ルドベキア、サザンカ嬢達は雑談をしている様子。
その面々に加えてヒロインの姿があった。いつの間にやってきたんだろうね?呼んでもないんだけどね?
ヒロインは確か、最近、ゼフィと再会を果たし、ゼフィの周りをうろちょろしているんだったかな?
…………どう見ても、良い雰囲気には見えないね?
もめているようにも見えるけど。何があったのかな?
「………カルミア嬢?とりあえず、行こうか?」
「…はい。」
カンナ嬢に声をかけるとカンナ嬢は表情を曇らせたままうなづいた。
そこまで遠くにいたわけでもないため、少し歩み寄るとヒロインの悲壮感にあふれた声が聞こえてきた。
「こ、コデマリ様…すみません…その、私、庶民の出だから、コデマリ様は私が気に入らないんですよね?」
涙をいっぱいにため、おびえたような表情をして震えているヒロイン。
笑みを浮かべているとはいえ、呆れたような反応のコデマリ嬢とサザンカ嬢。
両者からは温度差が感じられるね?
「コデマリ様がいつ、そんなことをおっしゃったんですの?言いがかりはおやめなさい!自身の立場をわきまえたらいかがですの?」
「人の前で涙を見せるのはいかがですの?貴族としての身の振り方を覚えたほうがいいですわ。みっともないですわよ?」
2人はヒロインを叱咤する。
ヒロインはこれから貴族として生きるんだ。卑下するようなセリフも人前で涙を流す姿もコデマリ嬢にもサザンカ嬢にも気に入らないんだろう。
貴族のご令嬢としては正しくないからね。2人はしっかりとした教育を受けているからこそ、そのことをわかっていて、ヒロインに注意している。
2人がヒロインより年上であり、かつ、身分が上であるからこそ、若干、高圧的にも見えなくもないけど。
とはいえ、貴族として生きていけるようにするための言葉だ。
2人は優しいからね?ヒロインを思っての事だ。
「そ、そんな言い方…」
弱々しくつぶやき、ヒロインはブルブル震える。
その姿だけだとコデマリ嬢やサザンカ嬢が2人をいじめているように見える。
庇護欲を掻き立てられるような光景になっている。
でも何でだろうね?彼女はとんでもなく胡散臭い。
それに注意を受けているのにイジメられているように振る舞うって被害妄想はいかがなものかな?
「2人は君を思って話してるのに、その態度はどうなのかなぁ?」
サルビアが珍しく嫌悪感を露わにしている。
まぁ仕方ないか。
ヒロインの態度が被害者ぶっていて堪に触るのだろう。
「私を思って…?前も……な、馴れ馴れしく…ゼフィ様と話すのをやめろって…そそ、その、身の程を知れって…庶民だから、泣く姿も…みっともない…って。」
震えながら訴える彼女からはとうとう涙が流れ出た。耐えきれなくなり、泣き出してしまったと言う流れだね?
弱々しい姿はイジメられていると訴えているね?
コデマリ嬢やサザンカ嬢を悪者にしたいように見えるのは何でかな?
「確かに、私は庶民として育ちましたが…今は、同じ貴族で…皆様と仲良くしたいと…なのに…なのに、コデマリ様はっ!ぅう!」
泣きながら訴える姿に周りの野次馬達がざわついている。
コデマリ嬢達を責めるような声すら聞こえてくる。
何でこんなのを庇護するような声が上がるか、理解できないんだけどね?
同じ貴族というならば貴族には上下関係があることもわきまえるべきだね?
1番身分が低いのはヒロインだっていうのに、コデマリ嬢を確たる確証もなく悪者として扱うなんて、身分を知れと言われても仕方ないよ?
「コデマリ様をひどく言わないでください!コデマリ様はお優しい人なんですよ?」
泣く姿にオロオロしながらもカンナ嬢はなだめるように言った。
「コデマリ様が貴方に言ったのはこれからは貴族として生きるのだから、貴族として振舞わなければならないってことです。貴族には貴族の礼儀がありますからーーー」
「私だってそれくらいわかってます!!ちゃんとお勉強してますもの!庶民の育ちだからとバカにしないでください!!ひどいですわっ!貴方なんかに言われたくもない!」
優しく説明するカンナ嬢にヒロインは叫ぶ。泣いていたはずなのにキッとカンナ嬢を睨むなんてどうなんだい?
弱々しい姿を演じていたんじゃないのかぃ?演じるなら最後まできちんと演じたらどうかな?
それにカンナ嬢はヒロインが礼節を分かってないから言ってるんだけどね?
「カルミア様がいつ貴方をバカにしましたの?カルミア様を見下しているのは貴方でしょう?いい加減になさいっ!」
目を丸くして半歩下がったカンナ嬢をかばうように立ち、コデマリ嬢が鋭い声を出す。
コデマリ嬢は怒っているみたいで、手を振り上げた。
それに対し、ヒロインはニヤッと笑ったように見える。
あの子はコデマリ嬢に殴られたかった、かな?何を狙っているのか、分からないね?
「コディ?暴力はダメだよ。」
ヒロインを叩くより先に、コデマリ嬢の手をゼフィが掴んだ。
ゼフィはコデマリ嬢を諭すように優しい声を出しており、コデマリ嬢はバツが悪そうに視線をさ迷わせた。
カンナ嬢に悪意を向けられカッとなってしまったコデマリ嬢にも非があるってコデマリ嬢は分かっているからこそだね。
「わ、私だって頑張ってますっ!なのに、バカにしたではないですか!そ、そうやって、気が強い貴方が周りの方をイジメてゼフィ様に近づけないようになさっているんでしょ!?ゼフィ様がかわいそう…。貴方がそばにいて、かわいそう。」
ゼフィが自分をかばい、コデマリ嬢を止めたことに表情を輝かせて、これ幸いとヒロインは言う。
誰もヒロインが正しいなんて言ってはいないんだけどね?この子は頭の中、どうなっているんだろうね?
「コディが誰かをいじめるような姿を見たの?」
ゼフィはコデマリ嬢の手を引き、自分の背にコデマリ嬢を隠すように立った。
へぇ?ヘタレなとこがあるゼフィが頑張るね?ちゃんとコデマリ嬢をかばうなんてね?
「え?だ、だって、今だって私を…」
ヒロインはゼフィは自分の味方だと思っていたみたいで目を丸くしている。
戸惑いを隠せない様子だね?弱弱しい演技がはがれてしまっているよ?
何でゼフィは自分の味方だと信じて疑わなかったのか、理解に苦しむ。状況からしてヒロインをかばうとは思えないけどね?
「コディは君を思って注意をしてあげてるだけだよ?さっきから君はコディを貶めるような発言ばかりしてるけど。素直に注意を聞き入れたほうが良いよ?」
ゼフィは優しく諭すようにヒロインに言う。
その言葉は優しい処置とも言える。身分が上のものに怒鳴りつけたんだ。そのうえ、貶めようとするようなことまで言っているし。
注意で済ませるなんてゼフィは優しいね?
「な、なんで…ゼフィ様は私を守ってくれるはずじゃ…身分を使ってイジメを働くコデマリ様達を擁護するなんてっ!優しい貴方が……」
ゼフィの優しすぎる対応にこの世の終わりかのようなショックを受けるヒロイン。本当に思考回路が理解できない。
自分が何より正しいと考えているようなバカなのだろうけど。
………ゼフィ?せっかく、コデマリ嬢をかばうなんていう成長を見せてくれたっていうのにチラチラ僕を見るのはどうかな?
最後まで自分で対処しないとと思わないのかな?格好がつかないよ?
ん?そんなことより事態の収拾をって?自分で何とかするとかーー諦めたんだね?
ルドベキアはルドベキアで抜刀許可を視線で求めてこないでくれる?こんなとこで良いわけないよね?
「コデマリ様ね、貴方がゼフィ様を洗脳したんでしょっ!!最低!ゼフィ様、待っていてください!必ずあの悪女の呪いを私が説いて差し上げますから!!」
コデマリ嬢の手を掴んだままだから、空いている左手をヒロインはがっつり掴む。
王家の手を取るのはどうなんだろうね?
しかも、自分より上の立場の貴族を悪女とか呼んだらまずいよね?
ルドベキアが武器に手を伸ばしたまま眉を潜めている。サルビアも不愉快そうにしてるね?
斬りかかられないだけ、マシかな?そろそろ斬っても良いかも知れない。
ん?ゼフィだけはぼんやりしている。
手を掴まれたあたりからか?頬を赤らめてヒロインを見つめている。
なんだろう、この違和感は。