⒋精霊に学友が出来る①
暖かな日差し。涼しい風。ゆっくり過ごすには持ってこいな昼下がりな今日。
僕は街に来ていた。
比較的に治安の良い学園近くの街中。当然、少し離れた場所には護衛がついていたりするけどね。さすがに護衛なく出かけたりは出来ない。
まぁそれでも。街に出るのは中々良いね?
今まであまり興味もなかったし、街に出ても思うこともなかったはずなのに。
はしゃぐ君がいると今まで白黒に見えていた街に色がついたようで。一気に鮮やかな価値のあるもののように感じるから不思議だね?
街はおしゃれな建物が多く、人もいっぱいいて賑やかだけど。花々が多く、道端には等間隔に結構でかい花壇がある。
花壇には生き生きとした植物が植えられていた。
花壇の中にちょこんと植えられた植物といった印象ではなく、植物達は自己の存在をアピールするかのように花壇からはみ出さん勢いでそこにあった。
香りも強く、そんなに近づいたわけじゃないのに、甘い香りが花を刺激する。街中を花の香りが包んでいる。
緑豊かな姿も圧巻だけど。赤、黄、紫、青と、様々な色の花が街を色鮮やかにしていた。
風景から浮くことなく風景と一体化し、美しい光景を作り出していた。
ある所には花壇の周りのふちの部分に石で作られた額縁のようなものが作られており、生き生きと花開く花々をまるで一枚のキャンパスかのように魅せていた。
そんな中、カンナ嬢はあちらこちらを見てははしゃいでいる。好きそうだと誘って見たけど、正解だったようだね。
「見てください!綺麗ですよ!」
笑顔で花々を見ているカンナ嬢。あんまりはしゃぐと転びそうだね?
まぁ、今日は周りに人が結構いるから大丈夫かな?みんな、何気なくフォローをしてくれているし。
今日はサルビア、ルドベキアに加えて、ゼフィやコデマリ嬢、サザンカ嬢も一緒に来ている。
いつだったか、カンナ嬢が見ているだけで寂しいってぼやいたことがあった。
本来なら、精霊は人間にはめったに見ることができない。それが普通で、精霊にとっても人から見えないことが普通だ。
でも、カンナ嬢は違う。前世の記憶があるからこそ、人から見えないことが当たり前とわかりつつ、寂しかったようだ。寂しいという感情をもってしまった。
僕にかかわり、サルビアやルドベキアとかかわるようになった今の生活がとても楽しいと話してくれた。
その話をする中で、学園に通えたらもっと楽しいでしょうねとカンナ嬢はもらしたことがあった。
そんなことをいう姿を見たら、すぐに父様に頼んで学園に通えるようにしてもらうよね。カンナ嬢がそうしてくれとおねだりしてこなくても、すぐに父様たちに通えるように手配してもらうだろう?
善は急げという言葉に従い、カンナ嬢と話をしたその日のうちに父様におねだりに行ったんだ。
執務室には父様がいて、そばにはライラックもいた。ライラックは父様の片腕的な存在で父様のサポートをしている。
「父様?お願いがあって伺いました。」
「お前が何かをねだるなんて、珍しいな?」
部屋を訪ねた僕に父様は探るような視線をよこして来た。
息子がおねだりに来ただけなのに、その腹のなかを探ろうとしているなんて、どういうことだろうね?
何を企んでいるんだって視線はおかしいよね?いくら国王だからって、ね?
「精霊が学園に通いたいと望んでいるんです。父様なら、手配するなんて簡単ですよね?」
僕はにっこり微笑んで、父様に言う。
手を回すくらい出来なくもないけどね?父様に頼むのが1番早い。出来るだけ早く手配してあげたいからね。
「…ーーーほう?お前が他者のために動く、か。」
ん?
それはどういう意味ですか、父様?何で目を見開き、探るようにこちらを見ているんですか?
僕だって、人のために動くことくらいありますからね?
ライラック?何を企んでいるんですかと疑わしげに見るのをやめてくれるかな?単純に通わせてあげたいだけだからね?
ん?何で驚くんだい?
単純に喜ばせたいと動くのがおかしいのかい?
そんな人らしい感情があるわけないって、ライラックの中の僕は一体どんな子なんだろうね?
後で僕の部屋に来てくれるかな?話し合おうか。
「………最近のお前は益々楽しそうだな。良いだろう、手配しといてやる。」
ライラックに視線を向けていた僕に父様は呆れたような表情で僕を見ながら言う。
そんなに僕は楽しそうにしていたかな?まぁカンナ嬢が楽しませてくれているからね?
とりあえず、これでカンナ嬢を学園に通わせることができる。学園生活が益々楽しみになって来るね?
「………我々と仲良くしてくれる精霊の存在はありがたいものだ。大切にしろよ?」
目を細めて僕を見つめる父様。
国王を務めるだけあって、表情から情報は読み取らせない。
カンナ嬢の語った話の中じゃ、体調管理もできずに倒れて、無理がたたってライラックを死なせてしまって。国王であるにも関わらず、そのまま落ち込んで国を守れずに死んでいく。
体調管理が出来なかった。その上、ライラックが死んで倒れた。ライラックが死んでも何とかして国を守るべく動くべきだったのに、それが出来なかった。
物語の中の父様は王としてどうなんだろうって思うような王にしか聞こえないよね?
だけど。
実際の父様は国王として可もなく不可もない。歴代に比べ、特別優れているわけじゃないけど、国王として不可もないからね。
父様の体調さえ崩さなければ、カンナ嬢が話したような未来は簡単には来ないはず。
自身の意図を簡単に読み取らせるような真似はしない。どんな意図を持って大切にしろって言っているかは分からない。
僕が飽きっぽいからかな?何かに熱中自体しないけど。カンナ嬢の事は大切に慈しんでいくよ?
………いじめちゃダメですよってライラック?僕がいつ、他者をいじめたって言うんだい?僕はいつでも、だれに対しても優しく接しているだろう?
君の楽しみにしていたオヤツをカンナ嬢にあげたことを未だに根に持っているのかい?男だというのに、いつまでもねちっこいね?
君がちょうどカンナ嬢が喜びそうなお菓子を持っていたのがいけないんだよ?それに、君に可愛らしい見た目のお菓子なんていらないでしょ?
え?楽しみにしてたって?カンナ嬢が喜んでくれたんだ、良いでしょ?
むくれているけど一切可愛らしさなんてないライラック。
そんなライラックは落ち着いたグリーンの髪に空を思わせる水色の瞳をしている。整った顔立ちをしていて、好青年といった見た目をしている。性格は妻に尻に敷かれそうな気弱な性格をしている。
目に涙を浮かべてキッと睨んで来る姿は全く怖くない。どちらかと言うと益々いじめたくなるような雰囲気がある。