⒊精霊は何かを知っている③
それにしても。カンナ嬢が口走った内容は中々に気になるね?
小説って言葉を何度も言っていたね?小説の中の僕というのはどういうことかな?
「それで、カルミア嬢?さっきも小説を読んだって言っていたけど、どういうことかな?」
素直に話をしてくれるのはありがたいんだけどね?
カンナ嬢、さっきから話があちらこちらに飛びまくってしまってはじめの質問の答えが聞けてないよ?
結局、何で2人がここに来ることが分かっていたのかな?
「あ、えっとですね!ここ、前世で読んだ小説の世界なんです!私、小説の中に生まれ変わったみたいなんです!」
うん?どういうことかな?
本当にカンナ嬢の話は突拍子がないね?退屈しないから良いけど。
もう少し、しっかりと説明してくれるかな?
「前世で好きだった小説があるんですが…精霊として産まれて、あっちこっちを見ているうちに気がついたんです!ここはあの好きだった小説の中だと!!今日、ゼフィランサス様とサイネリア様が出会う日だったので、あのシーンを生で見たくてここに来たんです!生で見れて幸せです!!」
再び興奮し始めるカンナ嬢。嬉しそうなのは何よりだけどね?
この世界はカンナ嬢の前世に存在した小説の中で、彼女はその小説を読んだことがあるから、今日、2人がここに来て出会うことを知っていた、と。
今までの話から察するにその小説というのがゼフィとさっきの女生徒との恋愛話なのかな。
さっきの女生徒を第2王子の妃にするには教養が足りないと思うけどね?こんなとこで1人で水遊びをするような子だからね?
事実だとすれば中々にゼフィの未来が不安になってくるね?ゼフィがあの子に恋をするような気もしないしね?
「この世界がカルミア嬢が前世で読んだ小説の中でカルミア嬢は大体の未来を知っているということかな?その小説はゼフィとさっきの女生徒との恋愛小説、かな?」
事実確認のために聞くと、カンナ嬢は嬉しそうにうなづいた。
そっか。当たりなんだね?理解はできるけど。納得しがたい話だね。
恋愛話とか、カンナ嬢が好きそうなのは分かるから、カンナ嬢がその手の話を読むっていうのは納得できる。
好きそうだよね。
「それはどんな話なんだい?」
現実として考えるならば嫌な予感しかしないけど。聞いておかなきゃいけないよね。
あの子が僕の弟の妃になるっていうわけだしね?
もし本当であるならば、対策をねる必要がある。これからいろいろと起こりうるだろう問題の数々。面倒でしかないね?
さて、どうようかな?
「気になりますか?気になりますか!?聞いてくださいませっ!」
カンナ嬢はキラキラと目を輝かせながら話し始めた。僕の気持ちなんて気づいてないね?君らしくて楽しく語る姿は好きだけど。
本当に実に楽しそうだね、カンナ嬢?よほど、小説とやらが好きなんだね?語りたくて仕方がないんだね?
僕の了承を待たずに語り出すくらいには好きなようだね?
カンナ嬢曰く。
物語は少し前から始まるらしい。庶民として暮らしていた少女の物語。
少女は裕福ではないけど、優しい両親に恵まれ幸せに暮らしていた。
ある日、両親が事故で亡くなる。両親の親戚なんか、知らない少女は途方にくれるも、周りの住民にも恵まれていて、何とか助けられて生活していた。
そんな生活をしばらく続けていると、突然、貴族がやってくる。
何と。少女の父親が実は貴族の出で、母親と駆け落ちしたんだとか。次男が家を継いでいたものの、後継者に恵まれず、少女の父親を探しており、やっと、少女にたどり着いたそう。
少女の父親が死んでいたことに悲しんだものの、忘れ形見である少女を養子として迎い入れる。
そして少女は学園に貴族として入学し、この国の第2王子と出会う。
第2王子には兄がいた。この国の第1王子である。第1王子は文武両道の天才であり、第2王子にとって、優秀な兄は誇りであり、憧れであった。
しかし。ある日、第1王子は旅に出てしまい、行方不明となる。第2王子は国王となるべく努力しているものの、兄には敵わず。
兄がいなくなった喪失感。自分の不甲斐なさ。第2王子は揺れに揺れていた。
少女もまた、元庶民であり、幾多なる困難に見舞われていた。
お互い惹かれあった第2王子と少女はお互いを励まし支えつつ、困難を乗り越えていく。
といった内容らしい。
ん〜…中々に夢見がちな物語だね?
庶民が王妃にって言うのは夢があっていいかもしれないけどね?庶民に夢を与える内容かもしれないけどね?
夢物語として売り出すなら、ある程度は受けそうではあるけど、これが現実だったらどうだろう?
実際、王妃としての教育をまともに受けてない子を王妃にっていうのは無理があるかな?王妃だって遊びじゃないからね?
ゼフィが王となるならゼフィを支えつつ、サポート出来るような家柄的にも能力的にも優れたご令嬢にすべきだよね?
ゼフィが王としての役割を果たしつつ、王妃のサポートは難しいだろうからね?自分の世話すらしきれず、王妃としての役割を果たせない子に王妃となられるのは、ね?
臣下たちの心労が絶えなくなってしまう。だけで済めば良いんだけど。国が傾くよね?
「む〜…夢見がちなのも、実際そうなったら、国政が成り立たないのも分かりますよ?お二人が結婚し、ゼフィランサス様が王になって話は終わりましたが、未来が怖いですし…困難だって、運良く何とかなっていましたが…。」
僕のリアクションに頬を膨らませるカンナ嬢。まぁカンナ嬢も現実的ではないと考えているんだね?
というか、困難を乗り越え、王として覚醒したとかじゃなく、運で乗り越えたの?それは余程の強運なのかな?
どんな困難かも知らないけどさ。
カンナ嬢が運良くって言うくらいなんだから、実力でどうにかしたわけじゃないんだよね?
「運だけじゃ末恐ろしいね?それに、その話通りならすでに僕は国から出てるはずでしょ?僕、今はまだ国から出る予定はないよ?」
まぁ、その話は何より、僕が国に残っている時点で食い違いがあるよね?