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2年2組ショートショートストーリー製作委員会!

作者: 沢渡進次

「ホーホケキョ」と鶯が鳴く。春一番と思わせる風が吹き、着ている服をガシッと掴み吹き飛ばされないようにする。

「あー寒い。昨日はポカポカ陽気で温かったのに。この風は何だ?」

そんな独り言をぼそぼそと呟きながら、僕は学校へと続く坂道を登っていく。現在時刻は6:55。少し早く学校に来てしまったな。まあいい。昨日やっていなかった予習をやっとけば暇つぶしになるだろう。

坂を上っていくとだんだんと校門が見えてくる。いつもと変わらない、見慣れている、さびた鉄製の門。

その隣には大きな木がそびえたっている。春、桜を見せ。夏、緑色に輝いた葉を見せ。秋、枯れてもうすぐ木から落ちそうな木の葉を見せ。冬、葉が何もない丸裸の木を見せ。と、四季の変化を見せてくれる学校の象徴の木だ。今は春なので桜が満開とばかりに咲いている。

そんなしょうもないことを考えながら歩いていく。

しかし、校門の全貌が見えた瞬間、僕はしょうもないことを考えている暇など無くしてしまい、目の前の光景に目を奪われた。


満開の桜の木の下で、あの子が桜を見ながら全身に光をまとい、満面の笑みを浮かべて、こちらを向いていた。

その後直ぐに僕の脳内でバチっと線が切れる音がし、意識が途切れた。・・・・・

-----

「という感じですけどどうですか?ストーリーはどうですか?」

ガヤガヤ、ザワザワという音が走る教室の中で学級委員が僕らに尋ねていた。

「悪くない」「いいじゃない?このストーリー。なんか青春劇みたいな感じがしてさ」

と、賛成意見が沢山上がってくる。

ここは桜井ヶ丘町立第一高等学校2年2組の教室内だ。

僕たちはあと、9日で文化祭がやってくる。

僕らの学校の文化祭は、毎年この町の3大行事と数えられているイベントの一つだ。

なので、毎年どのクラスもが凝った作品を作り出し、観客を大にぎわいさせている。

なぜ、僕たちがこんなにも用意するのが遅くなった理由は、このクラスの99.9%の生徒が中間テストで1教科でも赤点を取って再試験を受けていたからだ。

1年生の時は歌の発表だと縛りがあるのだが、2年生と3年生は自由になる為、早くから準備を始める。

そんな文化祭で、僕たちが行う劇の内容は、「中学2年生の片思いの男子が、好きな女の子に告白し、OKをもらい付き合い始めるが、ある日、彼女から【私は未来から来た人です。残念ながら、未来に帰らなくてはいけなくなりました。だから、別れてください。】ろ、言われ。別れることになる。しかし、次の日学校に来ると、彼女がいた。彼女は未来に帰ったはずじゃないのか?と思い、彼女を放課後呼び出して聞くと。あれは嘘と言われた。なんで嘘をついた?と聞くと彼女は、エイプリルフールだったから。と舌を出して答えた。」

という、明らかにどこかおかしい、何かを見失った物語をやることになっている。

文化祭をやると最初に行った時には「はー」「だるい」「イミフ」とか散々暴言はいていたのに、今になるとなぜかクラスは殆どがやる気になっていた。まあ、それはそれで嬉しかった。


なぜかって?その行き先を見失った変なストーリー、僕が考えたから。


「静かにしてください」と、学級委員長が皆を鎮める。「このストーリーでいいですか?」と、学級委員長が「もう決まったな」という顔でみんなに聞く。そんな顔するならもう聞くな。分かっているのだろ?

まあ、予想通り俺が書いたストーリーは賛成意見が多数で可決され、次に待っていたのは役決めだった。黒板にかかれたものは。・主人公・ヒロイン・友人ABCDE・先生・照明担当・大道具小道具・監督・・・と、沢山の分担があった。

「ねぇねぇ、何やる?」「あれにしよう小道具」「照明やりたい」など、早速希望の声がクラス内に響いている。

「うーん。俺何にしようかな」

まだ、自分の役を決めていない僕は悩んだ。役割の数はクラスの人数分あるため、何かに入らないと。

そんな中、クラスの中が前よりもより一層騒がしい。先ほどから話題が、なにかヒロインがあれや、これやと言っているようだ。そんな論争しなくてもヒロインはいるじゃないか。まあ、みんな僕の隣の席の女子生徒のことを言っていると思うけど。

隣の席の女子----神崎結奈は下を向いていた。きっと恥ずかしいのだろう。

暇だから話しておく。俺の隣の席の神崎はとても学校内で人気がある美少女だ。まるで天界から降りてきた少女と言われるほど美貌の顔を持っている神崎は、転校してきた日から美貌、成績優秀、品行方正、大企業の令嬢という話題で全学年に広まり、翌日からは付き合ってくださいという告白やラブレターが殺到したが神崎は転校してきて10か月目の今、500件以上の告白があったが誰とも付き合っていない。そういう事には興味がないのだろう。おそらく。モデル雑誌の人にもよく街中で声をかけられるらしいがそれも全て断っている。そもそも、そんな神崎にはいつもボディーガードがついているので力ずくで奪おうと思っても無理だ。普段は余り喋らず、女子とはちょくちょく喋るものの、男子と喋っている所は誰も見たことがないという。

そんな人が俺の隣にいるため、俺の席の隣はいつも賑やかであり、彼女を見るのを目当てに俺の席に来て、俺に喋りかけてくる奴もいる。厄介だ。(俺の寝る時間(10分)を邪魔するな。)なので、席替えでこの席に決まった時、始めて神崎が男子と隣になったのでその時は、「俺と席変わってくれ!河石様ぁ」と男子生徒が殺到したのを鮮明に覚えている。しかもこの席は2学期最後まで続くので俺は全校の男子生徒からとてもうらやましがられている。本当にこれも厄介だ。この席を学校内のオークションに出したらすごい金額で売れるだろうな。

そんなことを説明していたらいくつか役の分配が決まっていた。

「今、決まっていないのは・・・主人公・友人CE・道具・機材。だけ!うわ。残り少ない。どれにしようか。でもな、俺はもう省いて欲しかったな。もうスクリプト考えたから。」

そんなことを俺はぼやいていた。正直残っている役で俺が出来るのは機材しかない。さて、困ったぞ。そもそも、何故友人Dが決まってCは決まってないのだ?英語に役割の影響なんてないだろCもDも。

そんな中、ヒロインが予定通りの神崎に決まったので、主人公をどうするかで男子数十人が言い合っていた。おそらく全員主人公希望だろう。パット決めてくれよ。と願う。早くホームルーム終わらしたい。

そんなことを願ったときだ。いきなり担任の街並先生がこんなことを言った。

「主人公、出席番号10番で決まりね。異論、反対意見言ったら、反逆罪で生徒指導呼ぶから。」

と言った。街並先生は、容姿は可愛いが、言うことはそれなりにグサッとくる。

クラスがざわつく。だれだ10番と思い、壁に貼り付けてある名簿を見てみた。

「8番大西、9番梶織、10番・・・河石・・・え」

俺は絶句しながら担任を軽くにらんだ。担任はニコリと笑っていた。

周りからの視線が集まる中、俺と俺の隣の席の神崎は二人とも机に顔を突っ伏せていた。

多分、こんな俺と共演しなければいけないからだろう。そりゃショックだ。

先生、神崎さんかわいそうですよ。こんな美少女、好青年と共演させてやってくださいよ。

そもそも、何故、俺なんだ?何の策略だ?

--------------

放課後

俺は職員室に行き、担任に迫った。

「何故、あんな状況で俺を選んだのですか?あの後、俺無茶苦茶大変でしたよ」

実際、学活の時間が終わった後、俺はたくさんの男子から質問攻めされ苦労し、神崎と共演することになったのでそのことはすぐに学校中に広まり、沢山の下級生や上級生から注目され、その上学校新聞の記者まで来た。なんて厄介なんだ。

「何故って?そりゃいきなりあんな美少女と共演することになってビックリしたでしょ」

「そりゃそうですけど。話題をそらさないでください。何故、俺を選んだのですか?」

「・・・」

「答えないつもりですか?」

「・・・このことは少し事情があって言えないの。ただ、魔術師があなたを選んだ策略だっていう事だけは教えておくわ」

「はい?【先生何言っているのですか?そろそろ頭おかしくなりましたか?最近、残業続きですか?救ってもらってもいいですか?】状態ですか?」

と、俺はおかしなことを混ぜて先生に聞いた。

「私は、ふざけてないわよ。ただ、魔術師の言うことを聞いただけ。これ以上迫ると・・・分かっているよね?君なら」

「は、はい」

それ以上俺は聞かなかった。何かそこから先に踏み入ると危険な気がしたからだ。

疑問を残し、俺は職員室を後にした。

魔術師・・・一体、誰なんだ?

----------

今日から放課後を使って練習が始まった。

俺が主人公枠で出るとママ友からのメールで知った親は、「観に来る」と言った。「来てほしくない」と言ったが多分来るだろう。

今は2年2組の教室内で監督からやることを言われているところだ。

まったく。なんで俺なんかを選んだ?もっと違うやつがいるだろう。

「じゃ、河石君と、神崎さんはセリフを全て覚えて。で、できたら二人で確認し合っといてOK?」

「OKです」

「分かった」

そんな返事を返し、俺は神崎と二人で練習場所に向かった。


「俺、自分でこんなにもセリフかいた覚えがない・・・」

監督から渡された台本を見たが、そこには文字文字文字文字文字の羅列状態で流石に覚えろと言われても一瞬で覚えれる量ではなかった。

「暗記○○があればなあ」

と、無駄な発言を口にし、渋々と台本を覚える。背けたいが、現実がこうなってしまった限り背けることは出来ない。

一方で神崎は、ペラペラとページをめくっていく。まさか、こんなスピードで覚えているわけないよな・・・。

そもそも、俺は神崎とはあまり喋ったことがない。授業中の活動で喋るくらいだったから、いざとなっても何をしゃべったらいいのか分からない。そんな自分だけど、今は覚える気になれなかったので喋りかけてみることにした。何をしゃべったらいいのかわからないが。

「なあ、神崎?」

「何?台本を覚えるのに苦労している河石君?」

「・・・まあ、そうだけど・・・」

神崎ってこんなことを言うやつだったんだと初めて知った。

「こんなくらいでくたばっててどうするの?本番まであと2週間しかないのよ。しっかりしないと」

「じゃあ、神崎は全てセリフ覚えた?」

「・・・」

あーーやっちまった。女の子にこんなこと言っちゃダメだった。やばい。どうしよう・・・

そんなことを考えながら、恐る恐る顔を上げると、

「えっ」

困惑し、頭を抱えている俺を神崎はとても笑っていた。

「なんでそんなに俺のこと見て笑ったんだ?」

俺は素直にあいつに聞いた。なぜ、俺が頭を抱えて悩んでいたところをそんなに

笑ったのか?少し分からなかった。

「いや、ちょっと昔のこと思い出したら・・・。」

そんな意味不明な返答が返ってきた。

「まあ、いいわ。それよりも練習しましょ。河石君」

「あ、ああ」

そう言って僕は、神崎さんの台本を奪い、

「1ページ目から2ページ目までどうぞ」

「・・・」

「もしかして、覚えてないとか?」

「・・・(コクリ)」

「じゃあ、一緒に読んでいこうか。」

「そうね」

暖かい日差しが降りそそぐ教室で僕たちはセリフを読み合っていた。

最初は嫌がっていた主人公の役がいまでは少し楽しみになった。

-----

練習が始まって3日目、そろそろ、セリフを全て覚えておきたいところだ。

しかし、そう簡単にうまくいかない。

夜中、徹夜したって簡単な、「好きです、付き合ってください」とか、「一緒に帰ろっか」と菓子顔の得られていない。「君が好きだったのは・・・」とか難しいのが頭の中に入ってこないので困難している。

「今日は、飲み物でも買って持っていこうか。」

いつもは働かない親切心が今日は不意に自然に働いた。いつの間にか僕は自動販売機の前に立ってジュースを2本買っていた。神崎が好きな飲み物は知らないがコーラを買った。

自動販売機の前から立ち去ろうとしたときに、

「おーい。河石ぃ」

と、声をかけられた。誰だと思い、後ろを振り返ると全力でダッシュしてくる俺の友達がいた。

俺は、慌てて自販機に金を入れて新しくジュースを買い、残りの2本はカバンにしまった。


「こうやってゆっくりお前と話すのも久しぶりだな」

俺が今買ったサイダーを開け一気に半分くらい飲みほした彼---日田秋介はそう言った。

「そうだな。4月にクラス替えをして別れた後、会う機会がなかったもんな」

この学校は、一学年5クラスしかないのに無駄にクラスとクラスの距離が長い、というよりかクラスとクラスが隣りあわせではない。そもそもフロアが違うのだ。なので、会う時間がなかなかない。

「秋介の方は文化祭でやること決まったのか?」

文化祭でやることは別に劇と縛られているわけではない。去年と同じ合唱でもいいし、コント、演劇(同じか)とにかくふざけたことでなければ何でもいい。ただ、毎年ほとんどのクラスが劇をしているので、劇をやるという固定構築が出来てしまっているだけだ。

「ああ。俺の所は合唱と、寸劇だ。劇はやりたくない。歌を歌うならいいという意見が多数上がってそうなった」

「へー」

「そういや、諒太郎。お前、もう学校で凄い話題になってるけど、あの神崎とヒロイン×主人公のラブコメで共演するんだろ」

「うん。先生の鶴の一声で俺が主人公に決まった。」

「それはすごいな」

「実際、自分が何で主人公に選ばれたか自分でもわかってないんだ」

「誰が決めたんだ?」

「担任の街並先生」

「あーあの人か」と、日田は何かを分かったような顔をし、

「あの人、何を考えてるか分かんないからな。もしかして、お前を何かの策略に落としているかもしれないぞ」

「まあでも、先生が【お前を主人公に選んだ理由は魔術師の策略だ。】とか言ってたんだよな」

「じゃあ、余計わかんないな・・・!いや、俺は魔術師のうわさを聞いたことがあるぞ。なにか、この学校の7不思議で魔術師の策略に引っかかると、何処かに飛ばされて危険な目に合うらしいぞ」

「まさか、そんなことある訳ないでしょ。悪魔でも噂だよな」

「そうだな。まあ、策略は何だとか地道に考えず頑張れよ。お前ならそんな策略なんて蹴っ飛ばして出来るはずだ」

「そうだな。秋介有難う。」

「おう。劇、頑張れよ。俺楽しみにしてるぜ。」

「分かった」

そんな会話を繰り広げている時、「おーい。秋介ぇ。練習さぼるんじゃねぇ」と声が聞こえた。

どうやら、秋介のクラスメイトが秋介を呼んでいるようだった。

「ごめん。今行くー」

と、秋介は元気な声で返答し、

「じゃあな諒太郎。サイダー有難う」

と、手を振りながら校舎へと消えていった。

俺は、もう一度ベンチに深く腰掛けスマホをいじろうとしたが、

「あっ、やばい俺も練習行かないと。神崎に何言われるかわかんないな」

と、思いダッシュで練習場所に向かった。


「遅い!今まで何やってたの!」

練習場所に着いた途端、俺は説教をくらった。理由はただ、来るのが遅かっただけだ。秋介と喋ってたからこうなったんだけど、まだ、ここが教室じゃなくてよかった。と思う。クラスだと、「うわー神崎に叱られてる。いいなー」とか思う奴らがゴロゴロいる為、めんどくさいことになるからだ。

「悪かったよ。だからこの通り許してください。神崎様」と、俺は神崎に拝みながら言った。我ながらバカバカしかった。しかし、こうやるしか手段はなかった。

「分かったわ。今回だけね。次やったら私の言う事聞いてもらうからね」

と言い、説教は終了した。意外と早かった。

「お詫びの代わりに、どっちがいいか?」

と、俺はコーラとサイダーを取り出し、神崎に見せた。

神崎は、

「じゃあ、どっちも頂くわ」

とか理不尽なことを言い出し、本当にどっちも奪った。怖い。

神崎はサイダーを開け、一気に半分くらい飲みほした。秋介と同じだ。

「はー生き返った。有難う。河石」

「ああ」

「じゃあ、練習を始めましょうか」

「そうだな」

現在時刻は4:30練習時間はあと1時間だ。さて、今日はどこまで覚えられるのか・・・。

*****

私が、役決めでヒロインに選ばれた時、みんなが分かっていたような目で私を見。そして、私と共演したいという気持ちだけで、数十人の男子が集まって騒いでいた。でも、私はその中の男子とは誰一人ともやりたくなかった。私は隣の席のこと一緒に劇で共演したかった。

そんな願いが叶ったとき、私は嬉しすぎて下を向いて泣いていた。0%の確立だと思っていたのが逆転勝利だった。先生はなぜ彼を選んだか知らないけど。

だから、今こうして彼が来るのが遅かった時に、何故か心の中で「彼は大丈夫かな?」という心が芽生えていた。

こんな心が芽生えたのは人生で初めてだ。こんなにも自分以外の誰かを心配することは、自分でもなかなかないなと思っていたのに遂に私にもその日が来たようだった。

青春という名の輝きの日々が。

*****

「はい。じゃあ、今日の復習15ページ~20ページ全部行くよ」

「OK」

ヒ「放課後話があるの。少し時間をもらってもいいかな」

主「ああ、いいよ。待ち合わせ場所は?」

ヒ「学生寮の屋上で」

主「分かった」

ヒ「あっ、もう授業始まっちゃう。急がないと。じゃあね。また、放課後屋上で」

主「うん。じゃあ、放課後」

ナレーター「放課後、彼は奈落の底に突き落とされるなど思ってもいなかった」

「はい、ストップストップ」

「え、もしかして、セリフ間違ってる?昨日、徹夜したのに・・・。」

「いや、セリフが間違ってるとかじゃなくて、諒太郎はセリフ一つ一つに心がこもってないから、劇の登場人物になりきってる感じじゃない。今の諒太郎は機械音声とか、棒読みみたいな感じだったから、キャラクターに息を吹き込んで。声優さんになったみたいに。セリフは完璧だから」

「分かった」

俺はふと時計を見る。時刻は5:45分だった。あと、15分で最終下校だ。

「そろそろ終わりにしないか。最終下校も近づいてるし」

「そうね学校じゃ練習の時間がなかなか取れないわね」

「そうだな。・・・そうだ、神崎。LIMEやってる?」

「やってるよ。だけど、それがどうしたの?」

「俺のこと友達登録してくれないか?俺、劇って初めてでさなかなか分からなくて、最初主人公に選ばれた時も大丈夫かなって思ってたけど、こうやって神崎が丁寧に教えてくれて俺、少しだけれども上達してると思うんだ。だから、これからももっと教えてもらいたいし、劇のセリフ練習だったら電話でも出来るかなって思って・・・ダメか?」

「・・・」

沈黙の神崎

「いいわよ」

「よっしゃー一人目のLIMEの女子友達が出来たー」と、俺は心の中で叫んだ。

「やったー一人目のLIMEの男子友達が出来たー」と、私は心の中で叫んだ。

「じゃあ、校門出てから木陰でしようか。二人で居てて、バレルと噂で広まってやばくなりそうだし」

「そうね」

僕たちは足早に教室を抜け、学校を退散した。

冬にだんだんと近づいてきたせいなのか、身に寒さが染みる季節となってきたことを夕方の外に出て実感した。

帰る途中、神崎が

「さっきのサイダーもう要らないから、あげる。炭酸が抜ける前に飲みなさいよ」

といい、俺にサイダーを投げて渡してきた。っていうか俺が買ったものなんだが・・・。これだからお嬢様は・・・。

投げ渡されたサイダーをよく見ると、まだ中身が100MLほど入っていた。

「えっ」

これを俺に飲めというのか?でも、これ飲んだら神崎さんと間接キスしてしまうんじゃないのか?

「なぁ、神崎。このサイダー本当に飲めって言ってるのか?」

「うん」

「あれは大丈夫だよな」

「あれって何?」神崎はニコニコとした顔で聞いてくる。分かっているくせに。この悪魔め。

「あれって、あれだよ間接○○だよ」と、俺が言うと、神崎は「プッ」と、吹いていきなり笑い出した。なんなんだ?俺が言ったのがそんなにいけなかったのか?

「うん、いいよ。ティッシュで飲み口拭いたから間接キスの心配なんてしなくても大丈夫だよ」

「分かった」

俺はふたを開け一気にサイダーを飲み干す。美味しい。疲れが取れていく。

だが、俺が飲み終わり、ゴミ箱にポイっとボトルを捨てた直後に神崎が

「あっ、そういや、さっき飲み口拭いたって言ったけど、あれ嘘だよ。勘違いしてたみたい。ごめーん。関節キスしちゃったね。てへぺろ」

と、少し舌を出して俺に言った。

俺はさっきのサイダーを吐き出したかったが、出なかった。

「間接キスしてしまった・・・」

俺は、オオカミのように満月の空を見上げて「わーーーーー」と吠えた。

その時、俺は神崎を叱ることが出来なかった。

彼女が「てへぺろ」したときの顔が可愛かったから・・・。情けない。

////

「で、どうだ。あの後の状況は?うまく行ってるか?」

「まあ、順調っていえば順調ね。1週間前よりも大分進歩した。あることもやっちゃったし。もう少し何かした方がいいかしら?」

「まあ、そこらへんは自分で考えてやってくれ。お前の方がよく知っているはずだ。何しろ、お前は魔術師(・・・)だからな。俺は眠いから寝るぞ」

「じゃあ」

プープープープー。あいつは相変わらず自分勝手だな。

/////

練習開始から4日目。本番まであと、4日間に迫ってきた。

今日から吹奏楽部以外の部活は全て停止で、「文化祭に専念しよう期間」である。

俺たちのクラスは役割決めの時よりも、テンションが上がっていた。日頃、勉強や部活に追われ苦しい日々が一旦(1週間だが)無くなるから、みんな楽しみだ。自分もだが。

ちなみに、今日からクラスでの合同練習となる。体育館の舞台の5分の1ぐらいの大きさでの練習となるので、少し派手な演技が出来ない。まだ、セリフも覚えきっていないので、少しヤバい状況です。

そんな中で練習がスタートした。

今日は1ページから3ページだったので助かったものの、あと一週間で本番が始まるというと少し自分でも警告ランプが心の中で灯ってくる。


監督「3.2.1.Start」

照明「カチッ(電気をつける音)」

ナレーター「長らくお待たせいたしました。次のプログラムは2年2組ショートショートストーリー製作委員会による、「桜の下でのあの君の笑顔をもう一度」です」


ナレーター「季節が冬から春に変わろうとしている頃、まだ冷たい木枯らしが吹きつける中、彼はコートの両端を握りながら学校へと向かっていた」

主「はぁ、今日も相変わらず寒いなあ。この寒さがこれからも続くとなると嫌になるが、もうすぐ終わると思うと何かワクワクしてくるな」

ナレーター「彼はそんなことを呟きながら、学校への坂道を歩いていた」

主「この街道の桜もあと少ししたら桜の花を咲かせて満開になるんだろうな」

主「カツカツカツカツ(靴の音)!」

ナレーター「彼は、校門の全貌が見えた瞬間、しょうもないことを考えている暇など無くしてしまい、目の前の光景に目を奪われた。彼の何もかもが彼女にくぎ付けになった。

満開の桜の木の下で、あの子が桜を見ながら、満面の笑みを浮かべて、こちらを向いていた。」

主「僕は、その笑顔を今でも覚えている」


主「今日は最高にいい日だ。あの子と喋れたし、あーあの笑顔可愛かった。もう一度見たい」

ナレーター「彼は、あの時の残像をもう一度脳裏によみがえらしながら、どっぷりと自分の世界に入っていた」

友A「なあ、なあおーい。起きてるか?謙太?」

主「あ、ああ起きてるぜA。俺は大丈夫だ」

Aってかわいそうだ何か名前つけてやればよかったのに。

A「いや、絶対大丈夫じゃあない。好きな女の子のことでも考えていただろう?」

主「・・・」

A「当たりだな。でもな、謙太俺は別にお前のことを責めているわけではないからな。青春っていうのはそんなもんだ。頑張れよ」

主「頑張れって何をだよ・・・」

ナレーター「そういいながら、彼は頭を抱え込みました」

ナレーターさん発音良いし、喋るの上手だな。流石、全国放送大会優勝の船橋さんだな。

ナレーター「彼はそんなことを考えながら朝を過ごし、そのまま学校の授業へと突入していきました」

監督「はい。Cut.Cut.Cut.」

3ページ分の内容が終わったところで丁度Cutが入った。さて、3日間練習をした成果はどう出るのだろうか?ゴクリと唾をのむ。


監督「・ナレーター100点・友人A90点・主人公85点」

まずまずかなーと思ったが、今練習を一緒に行った人たち中で一番低い成績だ。

「監督―。僕のどこがダメなんですか?」

と、俺は聞く。完璧な作品に仕上げたいから。

「セリフも覚えてるし、主人公になりきった感があるんだけど、もう少し動きが欲しかったかなー。見ていた中で」

「じゃあ、やってみてくださいよ。完璧に」と、言いたいが。心の中だけにとどめておいて口には出さないでおく。めんどくさいことになったら嫌だから。

「はい。分かりました」

僕は、素直に受け止めもう一回同じ部分の練習を始めた。

教室の窓から心地よい風が流れてきていた。

-----

「あー疲れた。流石に10回連続ぶっ通しで同じ場面はないし、きつすぎるだろ」

「一生懸命だったもんね。はい、差し入れ」

「サンキュー」

自販機には売っていないコーラをくれた。どこから手に入れたんだ?

ここは中庭のとあるベンチで僕らは座っている。地獄の練習から解放されて15分ぐらい経った今でも、脳裏には台本のセリフばかりよみがえってくる。

「劇の練習がこんなにも大変だったなんてな」

俺は、セリフの練習しか今までしたことなかったから、劇の合同練習がどれほどしんどいのかを味わった。

「なぁ、神崎?お前って劇やったことある?」

「うーん。私、劇は・・・あるよ。去年の文化祭で」

去年!と思ったが、こいつは去年違う学校にいたのだと気づき咄嗟に「去年!」と言おうとしていた口を閉じる。危なかった。

「ちなみに、それってどんな感じの劇だった?」

「私の前いた、学校には作家がいたからその人が作った作品を基に劇をしたなー。多分、今回やるのと同じ感じの青春劇だったと思うけど」

「そうなんだ。どこの学校でも青春劇ってやっぱ人気あるんだな」

「また、そんなこと言って。自分が書いたのは一応ラブコメじゃなかったの?」

「いや、あれは青春とラブコメがハーフハーフあって・・・、っていうか青春にラブコメは必ず存在するんだよ!」

「本当かなあ。ライトノベルの読みすぎじゃないの?」

「違う」と、そこはきっぱりと断言した。

「まあ、それならいいけど」と、神崎は「フフ」と笑って言った。

何故かは分からないが、どこか可愛かった。

「そういや、神崎はセリフ覚えた?」

「・・・10ページくらい」

台本の半分の量か・・・って、俺と同じじゃないか。成績優秀の生徒が。まあ、人には得意不得意あるよな。仕方ない。

「俺もまだ、10ページくらいしか覚えてないから、一緒に頑張ろうな」

「諒太郎ってもしかして、昨日のあの関節○○があったから覚えられないとか?キャー恥ずかしい」

「その話はもう封印してくれ。そもそも、お前が嘘ついたんだろ」

「まあね。でも、あの時の諒太郎の顔はすごかったよ」

「仕方ないだろ。だって、あんな・・・。なんもない」

「えー気になる。言うまで学校から出さないで置こうかなー」

「それは勘弁してください」

「分かってるよ。そもそも、私がそんなことすると思う?」

「思うよ」

「・・・」

「神崎が拗ねて黙り込んだー。わーいわーい」

「うるさい。本当に私の言うこと聞いてもらおうかなー?」

「それだけは勘弁してください。すいませんでした」

と、他愛もない会話がまあ、中庭のベンチでしかも神崎と男子生徒で続けているわけだから、俺の前を通っていく同級生や上級生は俺のことを敵対視している目で見てきた。学園のアイドル的存在だもんな神崎は。それでも、そんな目で見ないでくださいよ。

そんな感じで僕の文化祭の練習は続いていくと、思います。

*****

私は彼と他愛もない会話を繰り広げ笑いあっていた。誰かが私達の前を通って、彼を敵対した目で見ようが私は気にしなかった。むしろ、そんな目線などうっとうしいから無視した。

何故か、彼と会話しているだけで自分の心の中に感情が生まれてきた。笑い、楽しみ、泣き、など、感情を持ち始めた。今まで、家に縛られて苦しく孤独だった私に感情を教えてくれた。そんな彼と会話するのが、今の日常生活で一番の楽しみだった。この時間だけは誰にも邪魔されたくなかった。

*****

俺は、あの後簡単な劇の練習をして家への帰路へと着いた。

「はー昨日よりも寒さが増してくな。空に輝く星は綺麗だけどこんなに夜道暗かったら流石に毎日歩いて帰ってくるのも怖いな」

「そうね、諒太郎」

俺の家は、高校から約2KMの所くらいにある。近くの高校でそれなりに頭が良ければいいな

という所で選んだのがこの学校だ。家から近いし県内では上から10番目くらい。まあまあ、校舎綺麗だし、文句はないな。

で、さっき「そうね」って返答があった気がするんだが・・・。俺の隣にいるのは誰なんだ?

俺は横に目線を向けると、いつの間にか俺の右手からカバンを外し、手をつないでいる幼なじみ---北山雫がいた。

「って、お前何でおれの隣にいるんだよ。しかも違う学校に通ってるお前が」

「えーけち。別にいいじゃん。私だって今日学校終わるの遅かったんだし」

「しかも、なんで俺と分かったんだ?」

「17年間も一緒にいる幼馴染が君の後姿を覚えてないなんて思ったかー」

「はい、思いましたよ」と、俺は即答する。

「ガーン。酷い、諒太郎ったら。もう、毎朝起こしてあげないからね。このバカバカバカバカー」

と言って拗ねた。全く俺の周りにいる奴らは全員拗ねるじゃないか。まあそこがかわ・・・だけど。

「それは困る。ごめんなさい雫様。ごめんなさい。何でも言うこと聞きます」

「あ、いいのー。じゃあ、私の家に今から来て」

「え」

俺は時計を見る。今、PM6:30大丈夫かな?明日も学校だし。

「一回、親に連絡とってみる」といい、俺はLIMEで親に電話をかけた。


俺「あ、もしもし母さん」

母「何?今、帰ってる途中に何かあったの?」

俺「いや、帰り雫に会ってさ、今から家に来れる?って聞かれたから。どうかなーって思って」

母「別に私はいいわよ。ゆっくりしてきても構わないわ。相手に迷惑かけなければどうぞ」

俺「有難う」

母「楽しんできなさいよ」


「雫―。今から行ける。」

「じゃあ、そうなれば早く帰ろー」

「分かった。分かった。だから、引っ張らないでくれ」

「もーこれだから諒太郎は。まあ、いいわ行くわよ」

僕はここでも他愛ない話をしながら雫の家へと向かった。

-----

雫の父は大手証券会社の取締役なので、家は豪邸でとてつもなくでかい。周辺の家を20軒、いや30軒合わせたくらいの大きさだ。これじゃあもう、家の中で迷子になりそうなレベルになっている。

なになに?なぜ、俺が雫と幼なじみの関係でいれてるかって?それは、言わないでおこう。今思い出すと少し恥ずかしい。時が来たら話そう。

「おかえりなさい。お嬢様」

「もーだからその呼び方は私嫌いなの。雫って呼んで。若田」

「いや、しかし、それでは少し・・・」

「私がいいって言ったらいいの」

「はい、わかりました。では雫様。おかえりなさいませ。ちなみに、お隣にいる方は・・・雫様のボーイフレンドですか?」

「い、いや、ち、違うから。こいつは幼馴染の河石諒太郎っていうの。ボーイフレンドじゃないからね」

「はい、わかりました」

乙女的な会話が繰り広げている中を俺は無視して、

「こんばんは、先ほど雫が紹介してくれた河石諒太郎です。宜しくお願いします」

「こんばんは。河石様。いつも、内の雫がお世話になっています」

「もーそういうことは言わなくていいの」

と、いいながら足をジタバタさせる雫。どこか可愛い。

「諒太郎は今日うちで預かることになったから。空いてる部屋一つ用意しておいてあげて」

えっ、いやいやいや俺今日雫の家で泊まる気なんてさらさらないですよ。

「僕、今日ここで泊まる気なんて・・・」

「いや、これは私の命令よ。こいつを泊まらせなさい。ロックを厳重にかけてこいつをここからださないようにして」

雫さーん。さっきより言葉遣い荒くなってませんか?怖いですよ。

僕は、もう反抗しても無駄だと気づいたので文句は言わなかった。後で、親にはLIMEしておこう。

しかし、何故雫は俺を家まで呼んだのだろうか?

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あの後、俺は豪華な夕食を頂いた後、用意された部屋に行き文化祭のセリフ練習をしている。

「俺、家に来て何か意味があったのかな?」

雫は特に俺に何も喋らず、特に変わったことはなかった。俺に何かを言いたいのかもしれない。それまでしばし待っておこう。

俺は台本でまだ覚えていないページを開ける。この17ページ、主人公ばっかり喋ってて覚えられないんだよな。


主「何で俺に嘘なんてついたんだ?俺何か悪い事でもしたのか?俺が気付いてなかったら行ってくれ。俺も知りたいから」

ヒ「だって・・・」

主「今目の前にいる君が本物の君じゃなかったら、俺は本当の君を探すよ。例え君が世界の果てにいようが」

ヒ「・・・」

主「だから俺は、君が好きだ」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

こんな恥ずかしいセリフ言いたくない。誰だ?こんな台本考えた奴はぁぁぁぁぁ。俺ですが。

何なんだよこのセリフ。変えてやろうか。非リア充が聞いたら、

「こんなセリフなんぞ潰してやろう」

とかいうだろうな。

「こんなセリフ、神崎と電話で練習したらどうなるんだろうな?俺、世界の彼方までとんでいきそうだな」

と、独り言を毛布にくるまり、ベットの上で寝転がりながら呟いていた。

「眠くなってきたな。今何時だ?」

俺はスマホを開くPM10:30だ。眠いけどまだ寝られない。今日覚えるつもりの18ページまで覚えきれてない・・・。

「ぐぅ。ぐぅ。ぐぅ」

寝てしまっていた。本番どうなるんだろうか?

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「ガサガサガサ」

何か音がする。布がこすれ合う音だ。俺が頭を置いている部分は先ほどのベットの感触ではない。なにか違う。

「何だ?」

目をこすり開けると、目の前の光景が映し出された。

「あー諒起きた?私が部屋来る前に寝ちゃったからもう起きないかな?って思ったから。膝枕してたの。どうだった?気持ちよかった?」

俺は寝ている間に、幼馴染に膝枕されていた。その時の俺の顔は多分茹でタコだっただろう。

「諒?ビックリした?いきなり幼馴染に膝枕されてた感想は?」

「・・・気持ちよかった」

「正直でよろしい。私、実は寝る時とっても広い部屋に一人だけで寝るのが怖かったからここに来たんだ。そしたら諒は寝てて気持ちよさそうだったから。膝枕してたの」

「それはどうも有難う」

「そういや、その紙って台本だよね?」

と、いきなり雫は俺のベッドの上に置いてあった台本を指さした。

「そうだけど。もしかして、中身見た?」

「うん見たよ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

俺のラブコメストーリーがこいつに見られただってまじかよ・・・。

「さっきの膝枕で許してね。りょうち☆」

「昔の名前でよぶなぁぁぁぁぁ」

俺は今日何回叫んだだろう?

「それにしても、あの台本のラブストーリー良かったよ。色々な意味で。方向見失ってるお話だけど」

「俺のストーリーに文句つけるのやめてくれないか」

あ、言ってしまった。俺のストーリーって・・・。

「あれ、諒が作ったの?まじで受けるー」

そう言って雫はずっと笑っている。こうなると、質問攻めが始まるだろうな。

雫が笑っている間に説明しよう。雫は、ある一定の感情をし続けると、やたらと他人に質問ばかりしてくるのだ。理由は知らない。

「あの、ストーリー作ったの諒なら、諒はあの劇に出るの?」

「うん。出る。主人公役として」

「えー。嘘でしょ。さすがにそれはないでしょ。あの目立ちがりたくない諒が?」

「そう思うだろ。だが、出ないといけないことになってしまったんだ。世界が俺に主人公をやりなさいって言って、俺の運命を改ざんしたんだ」

「また、誰が諒に主人公をやらせたの?こんな諒に。気になる」

「こんな諒って言うな。クラスメイトが主人公を決めている途中に、担任が【主人公は河石君がやりなさい】って言って、俺に決まったんだ。先生の鶴の一声で」

「へー。ちなみにぃ、どんな子がヒロインなの?」

「学校一の美少女って言われている神崎結奈。知ってるか?」

「神崎結奈・・・。あ、知ってるよ知ってる。元々同じ学校だったよ」

雫が行っている学校は名門私立学校だ。国内でも数々の実績を残している学校に神崎は言っていたのか。初耳だな。

「また、美少女と共演するなんて諒は両手に花だね」

「どこが、両手に花なんだ?ヒロインは神崎一人だけだぞ」

「神崎と共演することが一つ。そして、今私に膝枕してもらったことも一つに含まれるよ」

「そこもかよ。まあ、こんなに美少女に囲まれて俺は幸せだけどさ」

「正直だねー。まあ、君の本音が聞けて嬉しいよ」

「ちなみに、結奈ってどんな感じの子だった?」

俺は今一番気になることを聞いてみた。彼女は学校で成績優秀と言われている超スーパー転校生だ。前の学校ではどうだったか気になる。

「あー結奈は・・・すごっかたよ。成績は首席で、スポーツは万能だし、とにかく何やらせてもすごいずば抜けて出来た。音楽でも、ゲームでも、料理でも。多分頭が良かったんだろうね」

「なんで、そんな子が普通の公立学校に転校してきたんだろうね?」

「さぁね。私にもよくわからないよ」

「だから、私たちの学校ではその完璧さから、魔術師って呼ばれてた」

「へー・・・!」

俺は、ある事に気付いた。あの時の放課後、先生が、「ただ、魔術師があなたを選んだ策略」っていってたよな。

もしかして、魔術師=神崎・・・?

「どうしたの?大丈夫?諒?また、眠くなった?」

いや、でもな神崎が俺を選ぶわけがない。それじゃあ、魔術師ていうのは別にいるのか?

「ねぇねぇ、諒?聞いてるー?おーい?」

あー分からない。何がどうなってるんだ。もう、頭の中でごちゃごちゃになってる。

「もぅ、諒!私が行ってること気付いてるのに、聞いてないでしょ!もう、知らない寝る!」

俺はやっと雫が言っていることに気付き、部屋から出ようとしていた雫に

「あぁ、ごめん。雫。ちょっとかんがえことしてて」

「もう。諒はこういう所がダメなんだから。このままじゃ女の子にモテないよ」

「そうだな。今度から気を付けるよ。後、眠いから、もう寝てもいいかな?俺、明日学校だし」

時計の針はAM1:00をさしていた。こんな時間に起きていることはめったにない。だから眠い。

「いいわよ。ただし、今のお詫びとして私と一緒に寝て。同じベッドで」

「いいでしょ」

「うん。分かった」

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「こんな美少女と一緒のベッドで寝られて幸せですか?」

「・・・はい」

はい。と言わないといけないのが今の状況だ。どんなんかって?雫が俺の方を向いている。いや、二人で向かい合わせになっている状況です。

「諒。私、最近諒が全然私に声かけてくれなくて寂しかった。違う学校っていうこともあるけど、最近は特に去年よりも諒に会う時間が少なくなったから、とっても寂しかった。何故か、自分の心が圧迫されてる感じがして、苦しかった。でも、こうして今日みたいに喋れて、今まで自分の中にあったおもりみたいなものが取れた感じがしてすっきりしたんだ」

俺は今初めて17年間幼馴染の本心を聞いた。俺に会えなくて寂しかったっていう言葉を聞いて、正直びっくりした。雫が俺に対してこう思っていたなんて・・・。

「だけど、最近、諒が神橋さんと一緒に帰ってるのをみたら、とっても心細くなったんだ。諒がいつか、自分の幼馴染じゃなくなって、友達じゃなくなって、誰か私以外の彼女になっちゃうんじゃないかなって思って、そしたら、いつの間にか諒のこと誘ってた。この気持ちを伝えたかったから」

「・・・」

俺は何も言えなかった。そういや、最近文化祭の練習が終わった後流れのまま神崎と一緒に帰ってたのを雫は知っていたのか・・・。今回は、たまたま神崎が用事があるから一人で帰ってた俺を見つけて誘ったのか。雫が最近俺に会えないからってそんな気持ちになっていたとは知らなかった。

「だから、私のこと今、抱きしめて」

「・・・分かった」

俺は、出来る限り雫がその悲しみを吹っ切れるように抱きしめた。

「ありがとう」

雫はそう言ったまま目から一粒の雫を流し、眠りに落ちていった。僕もそれに引き続いて眠りに落ちていった。

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朝起きると、彼女は隣で気持ちよさそうに寝ていたので、そーっと起こさないように起きて、学校へと向かった。途中、朝ご飯を食べていないことを思い出しコンビニに寄って菓子パンを買い食った。

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「ふぁーーーーー。眠たい。今日、3時間ぐらいしか寝てない気がするのだが・・・」

今、俺は誰もいない教室に一人ぽつんと自分の席に座っている。現在時刻はAM6:50。雫の家を出るのが早すぎたせいか学校に早く着いてしまい、こうやって一人で台本を見ながら練習する羽目になっている。


ナレーター「彼は追い続けました。例え、足が銃弾で打ち抜かれようとも、目から邪悪な力が放出されようとも」

何?このセリフ。前者は怖いし、後者は正真正銘の中二病発言じゃないか。

主「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、もう体力が限界だ。だけど、だけど、俺はここで諦めてはいけないんだぁぁぁぁぁぁぁぁ」

こんなセリフ言わないといけないのか・・・。誰だ、こんなナルシスト的なセリフ考えた奴。

主「なぁ、静香。どこに行ったんだ?お願いだから俺の前から消えないでくれよ」

ヒ「わ・・・は、こ・・にい・・る・・・」

主「なぁ、どこなんだ?いつものあの明るい笑顔の静香を見せてくれよ」

こんなセリフいえるわけないだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

俺は、一人で悲しんで、怒って、発狂していた。あまり、朝から発狂しないでおこう。俺は、一回窓の外に向かって発狂して生徒指導を受けている。

そんな意味不明なことをしていた時に、教室の扉がいきなりガラッと空いた。誰だ?こんな時間に。

「いくら事情があるからって早く学校に来てしまった。こんな時間に学校来る人なんていないよね・・・!」

そんなことを呟きながら入ってきたのは、神崎結奈だった。

「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」沈黙が続く。予想もしていなかった展開に二人とも驚いている。そりゃそうだ。

こんな早い時間に学校着て、絶対に誰も学校に来ないなーって思っている人と、早い時間に学校に着いて、教室に誰もいないだろうな。と思っている人たちが、全く考えていたこととは逆の展開が生まれていたから。無理はない。

「え、何でこんな早くに学校着てるの?」

「いや、そっちこそ。何でこんな早くに学校着たの?」

「えーっとそれは・・・。色々と言えない事情があって・・・。そっちは?」

「まぁ、俺も言えない事情があって・・・」

(諒太郎君が朝早くに学校に向かっていたのを見て、私も早く来た。なんて言えない・・・。)

(幼馴染の家に泊まってそのまま来ました。なんて言えるわけがない。しかも、女子の幼馴染なのに・・・)

なんだ?この展開・・・どちらも言えない事情があるって・・・。

「まあ、いいわ。丁度良かった。一緒にセリフを覚えて練習したいと思っていたところなの」

「それは、また好都合だな。俺も、セリフを覚えるのがヤバいと思っていたところなんだ」

二人とも適当な理由をつけてごまかしておく。

今日を含めて文化祭まではあと3日だ。今日からは文化祭の会場準備やテント・屋台の設営などで、練習時間が大きく削られる。そして、今日は金曜日なので、明日、明後日、と学校が休みなので自主練として来ないといけない。めんどくさいな。まあ、とにかく俺たち役者にとっては大きな打撃だ。そろそろ、調子に乗ってないで、本気で取り組まないといけないな。

「じゃあ、河石。みんなが来るまで練習しましょ。こんな場面見られたら、何を噂にされるか分からないから」

「そうだな。神崎に迷惑が掛からないよう、精いっぱい頑張るよ。普段から迷惑かけまくっているけどな。お前には」

「そうね。毎日毎日迷惑ばかりかけられて、困ったものだわ」

と、言っているが全然神崎自身は困った顔をしていない。

「まあ、練習しようか。16ページあたり」


ナレーター「彼はいつの間にか、周りが暗く何も見えない空間に転移されていた」

主「ここはどこなんだ?俺は静香を追いかけてきて、そしたら、誰かの声が聞こえてきて・・・。一体、何がどうなってるんだ?」

ナレーター「彼は、混乱しました。こんな状況、予想できたでしょうか?」

何、観客に問いかけてんだよ、ナレーター。

ヒ「ケ・・君・・・。ワタ・・・ハココ・・・イル・・・ヨ」

主「静香、なあそこにいるんだろ?声は聞こえるんだ」

?「ああ、確かに静香は君の目の前にいる」

ナレーター「いきなり、知らない男の声が彼の耳に響きました」

主「誰だお前は?静香を何処へやった」

定番セリフ出たーーーーー。このセリフってこの世で何回使いまわしされてきたのだろう?

?「あ、僕の名前?そんなものはない。彼女を何処へやっただって?君の愛しき静香さんは君の目の前にいるよ。今、見えないけど」

そういや、今思ったけど、この?の役、誰がやるんだ?

主「静香に何をしたんだ?」

?「何をしたって?ただ、魔法をかけただけさ。愛しき人から見えなくなってしまう魔法を」

そんな魔法現実に存在したら、リア充を爆発させることが可能だな。

主「何故、そんな魔法をかけた?静香は何も悪いことをしてない。なのに、何故だ」

?「何故かって?それは自分で考えてみた方がいいと思うよ。ゆっくりと、心の中で考えてごらん。何か、心当たりはないかい?」

主「・・・」

ヒ「謙太君・・・。た、す、け、て、・・・」

主「静香!大丈夫か?今、俺がお前を・・・!」

?「どうしたのかい?謙太君。そんなに前の電光掲示板のタイムが気になるのかい?制限時間の」

ナレーター「彼の目の前に現れた掲示板のタイムは、彼が静香を助けられることができる時間でした。しかし、制限時間は10分を切っていた」

主「冷静になれ。自分が今までした過ちを思い出すんだ」

ナレーター「彼は自分の胸に手を当て、今までの自分を思い返しました」

?「思い出すことが出来なかったら、もう、僕の勝ちでいいかな?」

主「勝ち?それはどういうことだ?これはなにかのゲームなのか?」

?「そうだよ。君が彼女のことをどれだけ思い出せるかね」

彼の目の前は荒野に変わり嵐が吹き荒れていた。その風と音と共に名のない男は消えていった。目の前の景色はすぐに消え、モノクロだった周りの世界は新たな音と共に消え、静香が目の前に現れバタリと倒れた。俺は、彼女のもとへ駆け寄り直ぐに抱きかかえ、「ごめんな。ごめんな」と、彼女の耳元に呟いた。先ほどのモノクロの世界は何だったのか?と思うほどの青空が曇り空の合間から顔を出したが、僕らを祝福しているのか、それとも嫌っているのか。僕にはよくわからなかった。


「ふー。疲れた。ここ主人公が多い割にはヒロインが喋る割合が少ないよな」

と、俺は愚痴をこぼした。

「そんなこと言うんだったら、最初からこの台本の主人公が喋る回数を減らせばいいのに」

「そんなこと言われても、俺は主人公になるなんて思ってなかったから」

「そんなこと、知らないわ。それだったら、あなたがあの時了承しなければよかったのよ」

「でも、あの時あの場所で断れると思う?」

「じゃあ、文句言わない事。分かった?」

「はーい」

と、幼児が返すような返事をした瞬間にクラスメイトが来た。

「ガラガラガラ、おはようございます」

「おはよー」

と、今読んでたふりをした本を閉じて返事を返す。今まで、二人でセリフ練習なんかしてなかったよー、という素振りをする。

「あとは、放課後な」

「うん。分かった。それまでに全部セリフ覚えといてよ」

「え、マジかよ。それはきついなぁ。あ、忘れてた。今日の数学の宿題で分からない所があるから教えて。神崎」

「分かったわ。引き換えとしてジュース1本買ってきてね」

「分かった。休み時間に買ってくるよ。でも、この前やったことはしないって約束するんだったらね」

「えー何それ。説明してー」

お、いやらしい目使いで聞いてくる。俺は神崎の耳元に、

「間接キス」

と言ってやった。神崎は一瞬頬を赤く染めたが、すぐにそれは元通りになり、

「分かってるわよ」

と、恥ずかしそうな口調で言った。

「じゃあ、その話は終わらして、問題するよ。x^3+xy-y-1の因数分解を答えなさい」

「これ、どうやったら解けるか全くわからないんだよなー」

「①通因数をくくり出す。②公式を使う。これらをすれば解けるわよ」

「分かった。答えが合っているかいるか見てくれ」

「あ、そこはそうね。・・・いや、そこはそうじゃなくて・・・そう、そうするのよ・・・」

朝の騒がしい教室の中で僕らの話は、他の人にとったら楽しいのかは分からないが、僕たちはこの時間がとっても楽しくかけがえのない時間でいつまでも続いてくれればいいのになーと思った」

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今日は予想通り、準備の時間などに追われ練習などしている暇ではなかった。というか、できなかった。

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※少し河石の頭の思考回路の視点でお送りしています。

「ジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリ」

「あ、目覚ましが鳴って・・・る。今、何時だ・・・。!え、7:45・・・。うわーやばい。遅刻するーーーーーーーー」

今日は土曜日。普段は学校に行かないので、早く起きる習慣がない為。なので、こうやって大事な練習の日に寝坊する。よい子は真似してはいけませんよ。とか、言って場合じゃなぁい」

俺は、全力フルパワーで朝の支度をし、朝ご飯を食った。その行為に掛かった時間。なんと5分。

俺は全速力でダッシュし、学校へ向かった。今のままでは練習に遅刻する確率が45.7パーセント。

足が痛くなろうが俺は走り続けないといけない。これはきついなぁ。

そんなことを考えているうちに俺は学校に着いた。ぜぇぜぇはぁはぁ。と、息づかいが荒くなっている。心臓が早く動き、足にじわじわと痛みが広がっていく。

「さぁて、ここからまだクラスまで、少し距離があるなぁ。まあ、頑張ろうか」

と、自分で自分を励ます俺。少し悲しい。

そんな事を考え、走ろうと構えた瞬間。俺の手と足は横の木の陰に隠れていた人に掴まれて、引きずられていった。俺は強く頭を打ち、20分後まで目を覚まさなかった。俺は、知らない人に捕まって殺されていくのかなぁと思った。

;;;;;

僕はその時、見覚え緒ある交差点にいた。小学校6年生くらいにいた街の交差点に、今いる。夢の中に俺はいた。

いつも学校に行くときに通っていた何の変哲もない普通の交差点。

しかし、あの(・・)事件(・・)があった場所でもある。何故、この交差点を見たら思い出すのだろう?この悲惨な思い出などもう、脳内に残っていなかったのに。なぜだ。なぜ、この場所を思い出すんだ?自分に腹がたってくる。

しかも、時刻はあの事件が起きた時間の1分前だ。今は、赤信号だがもうすぐ、信号が青に変わる。そして、事件が始まる。

心拍数が上昇してきているのが自分でもわかる。額からじわりじわりと汗が出てくる。足はがくがくと震え、もうすぐで倒れてしまいそうだ。知らない人に連れ去られている時に、何故こんなことしか思い出せないのか?こんな思い出で、人生を終わらせたくない。

しかし、そんなことを思っている時、あの事件の被害者の女の子が横断歩道に向かって歩いてきた。そして、僕の隣に並び信号が青になるのを待っている。

僕は、眩暈が起き、吐き気が体の中でこみ上げてきた。今にも倒れてしまいそうだ。

信号が赤から青に変わっていく。

それが、僕にはスローモーションンビデオのように見えてきた。ああ、もう終わってしまうんだ。

その子は横断歩道を渡っている。あああと5秒でとっても悲惨な光景が目の前に嫌でも現れるんだ。もう、無理だ。僕は今何をしたらいいのか?

僕は地面に倒れ込んだ。目を両手で覆った。

何故、僕はこんな時に何もできないんだ?人が目の前で悲惨な現実に立ち向ってしまうと分かっているのに何故、それを防ごうとしないんだ?自分は?今まで、自分は何度、人に助けてもらったんだ?自分が助けてあげられるならばしないといけないんじゃないのか?でも、俺は助けて死んでしまうのか?俺はまだ死にたくない。自分が書いている小説はまだ完結してないし、ゲームも最後までクリアしてないし、好きな子にまだ告白してないし、将来の夢もまだ、実現させれていないし、未練が多すぎる。だけど、人は助け合って生きているんだ。自分が出来る限りのことならしないといけない。しかも、俺はこの事件に一回遭っている。俺が、前と同じ状況を作れば大丈夫なはずだ。

「よし、もう俺は怖くない。出来ることだけをやろう」

俺は、立ち上がり横断歩道に向かってダッシュした。あと、3秒で事件は起きる。その子は横断歩道を歩いている。何も知らないから。刻々と時間が迫ってくる。0.1秒が長いのか短いのかよく分からない?時間間隔が無くなっている。周りから、クラクションの音や、サイレンの音が鳴り響いている。その音が半径10M以内に入った時、その子は音に気付き横を振り返った。

俺は走る。その子との距離はあと5Mだ。俺は前しか向いていない。その子の顔は顔面蒼白だった。目の前の状況を理解して、怯えているのだろう。人間ってそんなものだろう。あんな状況下に置かれたら誰でもそんなことになると思う。もう、動けなくなって、足が震えているのが分かる。そのまま倒れ、膝をついたまま目の前を向いている。俺は地面を蹴り、飛び込んだ。そのままその子を押した。

そこから、記憶はプツリと消えた。

;;;;;

「うーん。ここはどこだ?俺は殺されてないよな。大丈夫だよな」

俺は草っぱらの上で起きた。おそらくここはあまり使われていない東校舎の裏庭だろう。

俺は起き上がり周りを見た。特に異変はない。誰かがいるわけでもないし、凶器もない。

「誰が、ここまで俺のことを連れてきたんだ?用がないならこんなところに連れてくるなよな。俺は練習があるんだ」

と、俺が東校舎へ行こうとした時後ろで、「わっ」と、俺の背中を押し声をかけてきた。俺は膝をつき倒れ込んだ。そんなことしたのは誰かって?そんなことする奴は一人しかいない。

神崎だよ。

-----

「まさか、河石があんなにもビビりだったとは思わなかったよ」

「うるせーなそもそも、ここまで俺を連れてきたのは神崎だろう。俺、頭強打したんだぞ」

「そんなこと私がやると思う?この神聖な存在のわ・た・し・が?」

やるにきまってるよ。だって、こいつ悪魔だし。

「倒れてた河石を見て優しい優しい私はここまで連れてきたんだよ。そして、膝枕までしてあげたのに」

「そんなことは知らないが、俺はおかげで昔、俺が実際に遭遇した交通事故の悪夢を見ることになったからな」

「うん?まあ、そういうことで。話したいことが合って河石をここまで連れてきたんだ。みんなには河石を探してくるって嘘ついて」

「あのー俺の悪夢はスルーですか。ちなみに、話ってなんだ?」

「やっと、私の話を聞く気になったのね。神聖で偉大な私の話を」

「はいはいそうですそうです」

と、俺は適当に返した。

「まあ、話したい事は・・・」

神崎が珍しく頬を赤らめている。いや、珍しくないか。最近はずっと赤いもんな。

「どうした、神崎?話したい事って何だ?」

「いや、その・・・その・・・私のこと・・・」

「どう思ってるかって?そういう事?」

神崎の体がぶるっと震えた。俺が言ったことはあっているのだろうか?

「いや、違うバカ。だから、私のことを・・・昔の私のこと覚えているかなぁって?」

「え・・・?」

いや、

正直今の神崎の言葉を聞いてビックリした。

「神崎、俺ってそんなに昔からお前と接点あったっけ・・・?」

「うん。あったバカ。今言っとくけど、私今怒ってるからね。河石が昔の私と、私たちが交わした約束、思い出すまでもう口きかないから」

一方的な戦争通知。俺、なんかしたか?

「・・・」

「ねえこれ見て」

俺は考えていた思考回路をいったん閉じ、神崎の方を見る。神崎は空中で何かを操作した。

「これが何か分かる?」

「分からない」

俺の前に現れた数字、1:5:52:10・何の数字かこれじゃ、分からない。しかも、数字は1秒ごとに一つずつ減っていく。

「何かのカウントダウンか?」

「カウントダウンっていうのかは分からないけどそうよ。これは、河石が私との約束を思い出すまでの残り時間というか、この残り時間、今、1日5時間51分15秒以内に私との約束を思い出さないと、私この世から姿を消してしまうんだ。この世から。跡形もなく」

「えっ」

今の言葉は、俺が今まで生きてきた中で初めて、心の奥深くの底から何かを振るわされた言動だった。神崎が死んでしまう?なわけないだろ。

「それは本当か?」

「この私の目の前の数字を見て分からないの?こんな数字が私の目の前に電光パネルもなく表示されるのがおかしいことに気付かない?」

確かに、こんな数字なぜ、プロジェクターマッピングもないのに映し出せるんだ?これは明らかに異常事態だ。

「この数字はいつから浮かび上がって表示されてきたんだ?」

「分からない?三日前にカウントダウンが始まって、1時間前くらいにこの数字が何のことかを自分も知らされたから。魔法師が私の目の前に来て」

「魔法師?」

「うん。この世に魔法師がいるって聞いてとってもびっくりしたよ。そんな場合じゃないけど」

「やあ、俺がその約束を思い出したらどうしたらいいんだ?」

「その約束を私と一緒にその時間以内に実現させたらこの数字は消えて無くなる」

「分かった」

「・・・」「・・・」

二人とも黙り込み、俺は何も分からず、神崎は何も喋らず、時が過ぎた。

「練習行こうか」

「うん。バカが思い出すまで私、劇の時以外バカと喋らないからね」

俺は思い出せる自信などなかったが、「分かった」という返事を返した。

でも、思い出せないと神崎の命が危険な状態に陥る。

監督にあった時、「今まで何してた?」と聞かれたので俺は、学校に来た途端に変な人に誘拐されたと言ったら、「分かった」といい。練習を始めた。監督、そんなこと信じるのかよ。

俺はその日の練習は身に入らず、何もできずに終わってしまった。

****

彼はその時何も思い出さなかった。私のことを。仕方ないかもしれないが、何故か、怒りが込み上げてきた。彼は何も悪くないのに私が怒ってしまった。何故だろう?これが恋心というものだろうか?

*****

「もしもし、そっち今喋れる状況?」

「あ、いいよ。大丈夫。大丈夫。なにかまた問題でもあったのあいつと」

「いや、問題というよりか私が起こしたんだけどね。彼が私のこともい出してくれないから私が勝手に一人で切れちゃって、今日は後半彼と口きいてないの。このままじゃ、彼の幼馴染に彼のこと取られちゃう」

「まあ、頑張れ。俺は応援するだけだからな。その劇と、二人の関係を。じゃあ、俺は寝る。おやすみ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。まだ、話は終わってないじゃないの----プープープープー」

本当に自分勝手な電話の切り方だなあいつは

*****

土曜日ははっきり言ってあまり眠れなかった。ずっと、神崎と昔、何処であったかと考えていると眠れなかった。このまま思い出せなかったら、俺神崎との関係はどうなるんだろう?そのまま切り捨てられて何もなかったことになるのかなぁ、とか考えていたら急に自分がひどく小さく感じた。寝る時間を大幅に削っても思い出せなかった。夢で、昔神崎と出会った頃を映し出してくださいと願いながらその日は眠りに着いた。

その日の夢の内容はこんなものだった。

;;;;;

夢は、頭を強打先日した時の悪夢の続きから始まった。

俺は、その子を押し、その子は反対側の歩道まで飛んで行った。

しかし、俺は走って来た車のボンネットに足をはねられた。

車はそのまま、斜めの公衆電話ボックスに衝突し、前方のみ車体の原形をとどめずにいや。公衆電話ボックスに人はいず、けが人はいなかった・・・じゃなーい。ハッピーエンドじゃなかった。俺が足を怪我していた。車に乗っていた人は、現行犯逮捕された。救急車の音がし、俺とその子は病院へ運ばれた。

-----

「えーと君の足首は折れてないし特に異常はないね。レントゲン検査も何も異常なかったので、あと、1日だけの入院で大丈夫です。お疲れ様」

「有難うございました」

ここはとある町のとある大きな病院だ。俺は先ほど救急車に運ばれて病院へ行って検査してもらったが、異常はなく、今日だけ入院すればいいという事だった。おかいしな?俺、車にはねられたのに無傷だったんだな。俺の骨マジでTUEEEEEな。

一緒に運ばれた子も検査を受けたが、俺がぶっ飛ばした時のかすり傷だけで、内部の異常はなかったらしい。同じく一日入院だ。ほっとした。

そして今、俺はベッドにいる。

俺が入院部屋に着いてから30分後には、両親、祖父母、先生、友達などが来てくれた。

みんな俺に、「大丈夫か」とか「怪我はないか」とか、沢山の言葉をかけてもらった。

隣の子も、親や先生が来ていた。そして、隣の子の両親は

「うちの子を助けてくれて有難う」

と、お礼の言葉をもらった。その子のお父さんはよくニュースで見る大企業の社長だった。

一瞬驚いたが、その時はお礼を言い握手をするだけで心臓がどきどきした。

-----

みんなが帰った後、病室は俺とその子だけになり長い間、静かだった。夕方の明かりが差し込んでくる部屋から見る夕日は綺麗だった。

「・・・」「・・・」

無口な様態が続く。何を喋ろうか?ネタにしようか?と悩んでいるところだが全く思いつかない。

そんな状態の中、先に口を開いたのは隣の子だった。

「今日は、助けてくれてありがとう。河石諒太郎君」

と、お礼の言葉を優しい口調で言ってくれた。僕の頬が赤くなったのは確かだ。

「こちらこそ。事故の後いち早く心配してくれてありがとう」

彼女は、俺が倒れた後にいち早く駆けつけてくれた。そして、すぐに「大丈夫?ねえ君大丈夫?と声をかけてくれた。

「名前はなんていうの?」

「神崎結奈。結ぶに奈良の奈と書いて、結奈って読むんだ」

「へー。結奈かーー。いい名前だね・・・!」

神崎結奈。彼女だ。この子が神崎結奈なんだ。あの今ツンデレ状態の神崎結奈だ。昔も今も可愛いな。ていうか、俺たちはここで出会ったのか。神崎よくこんなこと覚えていたな。何故覚えていたんだろう?

「河石君はこの近くの学校に通ってるの?」

「うん。そうだよ。神崎さんは?」

「私は、私立池宮教小学校の6年生なんだ。私の近くに住んでる人たちみんな公立に流れちゃうから、私、あんまり地元の子たちと友達じゃないんだよね。もしかしたら、河石君が男子で一人目の友達かも?」

「同い年だ!」

初対面の子を友達として見てくれて嬉しかった。

こんな時間がいっしょうつづいていればなぁと思った次の瞬間、彼女から、思いがけない言葉が僕に降りかかってくる」

「ねぇ、ねぇ、私のことを助けてくれた河石君。もし、私と河石君が高校2年生の時お互いこの約束を覚えていたら、その時は私と、付き合ってね。指切りげんまんだよ」

「うん。」

「「指切りげんまん。嘘ついたらハリセンボン飲ます。指切った」」

「これで、約束は有効になったね」

「うん。そうだな。きみ、小学校6年生でしょ。あと、5年後覚えていられる?」

「うん。こういう事だけは覚えていられるよ」

「何それ。怖いね」

「ははははは」

「ははははは」

「まあ、今この瞬間、っていうか君が私を助けてくれた時から君が大好きなんだけどね、家の規定でまだ付き合えないから、今はこれで許してね」

といって、何か柔らかいものが俺の頬に当たった。彼女は俺の頬にキスをした。

キスをされた後、俺の頭の中は真っ白になっていた。彼女は、「やってやった」みたいな顔をしていた。

まるで、今の神崎結奈と全く変わらない性格の神崎結奈だった。

神崎が満面の笑みを浮かべ、こちらを向いていた光景がとても眩しかった。

「その笑顔、いつまでも見ておきたいな。桜の下で、見たらとても綺麗だろうな」

「そう。有難う」

彼女がそう言った瞬間、横にひもで止めてあったカーテンがバサっと音を立て、広がり神崎の顔を隠した。その瞬間に俺の脳内でまたプチッと音がし何かが切れて意識を失い、その場に倒れていった。

;;;;;

俺は起きる。時刻は午後3時だった。いつもより9時間も遅く起きた。こんなことは初めてだ。

短い夢のような気がしたが、現実ではずいぶん時間が経っていた。

俺は夢の中で昔の神崎と約束を思い出した。これは奇跡だと思う。約束の内容は、今でも自分でも信じられないことだが。

「昨日の朝10:00くらいに残り1日と5時間50分と書いてあったよな」

制限時間はあと、50分だった。頭から汗がたらーっと流れる。これはまずいと思った。俺は全力を出しベットから起き上がり、急いで支度をした俺が寝てる間に神崎からLIMEが30件ほど来ていた。そのうち着信は10件ほど。俺を心配しているのか、自分が死んでしまうから早くして。といっているのか分からない文章が来たがとにかく急いだ。急いで家を出て神崎に電話をした。

「もしもし、神崎」

「大丈夫?河石。君が殺されてない?」

「いや、俺は大丈夫。神崎は?」

「うん大丈夫だよ。今、学校にいるから来て。後、制限時間は40分しかない。急がないと私死んじゃう。こんな形で人生終わらせたくないよ。うっ、うっ、うえーん」

いきなり神崎が泣き始めた。あの神崎が。これはとてもやばいと感じ、

「すぐに行く。教室でいいな?」

「う、うん」

といって、電話を切った。

俺はその後、信号のない住宅街を全力疾走で走った。最近全力で走ってることが多いがそれは自分の身に何か危険が迫ってることが多いからかもしれないというか、迫っているからである。

最近、色々な出来事があった。文化祭で自分のシナリオに決まり、自分が主人公になり、神崎と共演することになって少し戸惑いもあったけど、今では楽しくできているし、時には俺の17年間の幼馴染、雫との関係もあったし、こうやって神崎との約束も思い出したし、そして、今、神崎が危険な状況、崖っぷちに立たされている。もうすぐで死んでしまうかもしれない。一歩踏み外してしまえばそうなるかもしれない状況に僕は今いる。でも、俺はこの1週間の生活が嫌で時はなかった。最初は無関心だった神崎には今、思春期に男子が訪れる恋心が訪れているし、雫の本音を知れたし、秋介と久々に喋れたし、自分にとって悪いことは一つもなかった。いい事しかなかった。だから、今こうしてそんな状況を作ってくれた神崎を今度は俺が助ける番だ。ここで頑張らなくていつ頑張るんだ?

そんなことを考えていたら、いつの間にか学校の門の前に立っていた。

時刻は3:30分。あと、20分だ。早く教室へ向かおう。

俺はいち早く教室へと向かった。しかし、そこに神崎の姿はなかった。俺の心が折れた。

「神崎、何処へ行ったんだ。俺は教室って言ったはずだ。なあ、何処にいるか教えてくれよ。神様。一生に一度のお願いだからさ」

俺は泣いていた。神崎を見つける前に挫折していた。なんて情けないんだと思った。

こんなところでくじけてはいけないと思い、すぐに立とうとしたが、立てなかった。足が反応しなかった。俺の意思に対して反応しなかった。

「何故だ。何故なんだ?何で立てないんだーーーーー」

俺は発狂していた。もう何が何か分からなかった。少ししか努力していないのにすぐにくじけて自分をすぐに追い込み、挫折させて諦めさせてしまう奴が自分ということをその時悟った。

「なんで、こんな人間になってしまったんだ」

自分は今、自分に一番聞きたいことを聞いた。しかし、何も自分から返ってこない。

ぞれほそ、今の自分は弱っていた。それが、自分には悔しかった。自分に腹がたった。殴りたかった。死にたかった。人の命一つも助けられないなんて人間失格だと思った。自分を痛めつけ、自分を自分で苦しめていた。制限時間が刻々と近づいているのに、自分は行動を起こせなかった。

しかし、そんな自分をここで変えられるんじゃないかと思った。この苦しさを乗り越え自分は成長できるんじゃないのかなと思った。そして俺は叫んだ。

「俺は、ここで諦めるわけにはいかないんだ」と。

その時、俺は自然に足が軽くなった。今まで着いていたおもりが取れたような感じの軽さになった。自分にやる気が戻ってきた。俺は挫折するちからなどをもう全て吹き飛ばしていた。今が、神崎を助ける最後のチャンスと思った。

残り時間は10分を切り。8分台になっていた。教室にいないのなら、神崎はあの教室にいる。絶対に。俺はその教室へと向かった。

-----

「神崎、やっと会えた」

「河石。どこにいたの。心配したわ。10分を切ってどこに私のヒーローは言ってしまったのか」

「迷惑かけてすまなかった。約束、思い出したぞ」

「何?言ってみて?合ってたら私のこの数字も消える」

俺は緊張し、唾をごくりと飲んだ。

「神崎、小学6年生のあの事件の時の約束だ。5年経っても覚えてるとか言ってたけど、覚えてなくてごめん。こんな俺だが、付き合ってくれないか?」

その時、神崎の目の前に表示されていた3分という数字がパリンと音をたてて消えた。

「はい。私もあの時から好きでした。付き合ってください」

と、神崎が言い。俺の近くに寄ってきた。そして、俺の口に柔らかいものを押し付けてきた。神崎との5年ぶりのキスだった。

「私、諒太郎に会うためにずっと頑張ってきたんだ。時に挫折してもう無理だ。とか思ったんだけど、諒太郎が頑張っている姿を浮かべたら私も頑張らなきゃなって思って、毎日頑張ってこれたんだ。有難う。私のヒーロー」

神崎は最後にそんな言葉を言ってくれた。嬉しかった。今までの人生の中で一番うれしかった。

しかし、次の瞬間俺はその場に倒れた。

「大丈夫?諒太郎?こんなところで死んじゃうの?それは嫌だよ」

「いや、死んじまうかもしれない。俺、約束を思い出すためにある約束を取り付たんだ」

「えっ何それ」

神崎は驚いた顔をした。

「俺、夢の使者に「神崎と俺の約束を思い出さしてください。代金は自分だからな」

俺は、何かの使者と約束を作ることが出来るという不思議な人間だが、実は昨日、俺は夢の使者にとある約束を取り付けた。さっき言ったとおりの約束を。

「なぜ、そこまでして、私のことを・・・」

「なんでって、そこまで神崎が切羽詰まって頑張ってるのを見たらこっちは助けたくなったんだよ。だから、別にいいんだよ。もうすぐ俺は使者が迎えに来ると思うから、神崎はもう何処かへ行った方がいいと思うよ。神崎まで連れていかれたらダメだし」

「だけど、河石がいない世界なんて私考えられないよ」

「大丈夫。神崎は強いから自分で生きてけるよ。だって、いつもみんなから頼まれた事何でもしてるじゃん。俺はそんな神崎が憧れだったんだ。あんな人になりたいな。ってずっと思ってたんだ」

「河石がどこかへ行くなら私も一緒に行く。だから、最後にこの力だけ使わせて」

「何の力だ?」

「私、実は魔術師なの。だからその力を使って河石を助ける。リスクは分からないけど。やってみるよ。やらなきゃ分からないしね」

といい、神崎はなにか大きな棒を取り出して持ち、俺に向けた。そして、呪文を唱えた。

だが、運悪く使者がその時登場した。使者は神崎の攻撃を防いでるようだった。

激しい戦いが続いたが、俺は最後を見る余地もなく深い眠りについてしまった。


文化祭当日


あの戦いは、神崎がギリギリのところで夢の使者に勝ったそうで、失神して倒れていた俺を家まで送ってくれたそうだ。神崎は俺にとって一生の恩人だ。

俺はセリフをどうにかして昨日で全て覚えた。そして今、俺たち2年2組は舞台裏で円陣を組んでいるところだ。あと30分で俺たちが作り上げた劇が上演される。

俺たちのグループ名は2年2組ショートショートストーリ製作委員会だ。

これは俺が中学生の時の文化祭のショートショートドラマ製作委員会というものがあった。この名前は俺が文化祭の寸劇に乱入した挙句勝手につけた名前だが、自分を含め当時の同級生は殆どがこの名前を気に入ってくれてこの名前を使用したまま劇へと突っ走っていった。

だから、今回はショートショートストーリー製作委員会ってカッコつけて文化祭を迎えようと思い、ドラマをストーリーに変えた。

監督が、

「俺らが2週間かけて作ってきた劇を、悔いが残らないように精いっぱい頑張ってお客さんに見せるぞ」

というと、みんなが珍しく

「そうだ。頑張るぞ」「無駄のない悔いの残らない劇にしよう」と珍しくチームワークを意識する言葉が出てきた。少し前までは全く統一感がなかったこのクラスだが今はクラスのみんな一人一人がみんなのことを考えて行動している。随分進歩したと思った。

円陣を組む前に俺らは1人ずつ自分が文化祭に込めた思いを言い合った。

「1年で1番楽しみな行事を適当に終わらせたくなかって、一生懸命出来てよかった」

「チームワークがついた」

「みんなで交わした言葉一つ一つに思いがこもっていた」

などみんなからとても感動するような感想が出た。泣きそうになったが、まだ、泣いてはいけない。劇が終わってから号泣しよう。

今、円陣を組んでいるが今のみんなの顔はとてもいい表情をしている。「こいつこんなにいい顔してたっけ?」って思うほどの明るい顔がみんなからありふれていた。

「よし、頑張るぞ」という気持ちが一層高まった。


「文化祭、みんなで成功させるぞーーーーー」

監督の声が鳴り響いた。俺らはそれに合わせて

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おーーー」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

と大きな掛け声を出した。

今までの中で一番最高の文化祭になるなと思った。

-----

俺は劇が始まる前に神崎と相談したい、と監督に言い5分だけ時間をもらった。

「神崎、昨日はありがとうな」

「いや、お互い様だよ。諒太郎も私のことを救ってくれて有難う。私の本当のヒーローだよ」

「俺たちも、もうすぐ本番が始まるな。最後まで気合を抜かずに一生懸命にやろうな」

「うん。諒太郎の期待に応えられるくらいの彼女の役をするよ。じゃあ、頑張ろうね」

「そうだな。じゃあ、後は本番まで」

/////

私が今ここにいることが出来るのは本当に彼のおかげだ。

彼があの日から私を引っ張ってくれた。私の真実のヒーローだ。

ここまで、彼に頑張ってきてもらったから私も恩返ししないといけないな。

/////

「2年2組劇開始まであと10秒9.8.7.6.5.4.3.2.1.0.スタート!」

僕たちの劇は開幕した。

「大変長らくお待たせいたしました、プログラムNo.15番2年2組ショートショートストーリー製作委員会による、「桜の下でのあの君の笑顔をもう一度」です」


照明セット完了、大道具小道具セット完了、音響セット完了、監督OKサイン出ました」


「「季節が冬から春に変わろうとしている頃、まだ冷たい木枯らしが吹きつける中、彼はコートの両端を握りながら学校へと向かっていた」・・・

俺は、最初から一人で登場し独り言を呟きながら劇を進めていった。

途中で友人が出てきて、一緒に喋るセリフも覚えていた。上手くいった。

何度か、舞台裏に戻った時はみんなから良いね良いねと褒めてもらった。少し早いが嬉しかった。その時の顔はみんな笑顔だった。

告白のシーンもしっかりと言えた。自分が練習から恥ずかしいい恥ずかしいと言っていたシーンもしっかりと言えた。練習で何度も間違ったところも、簡単だったところも一つ一つプロの役者になりきって丁寧に乗り越えていった。神崎もミスはなく落ち着いていた。

照明も完ぺきで、大道具小道具のセットも良かった、音響は一度間違えただけでそれ以外は嗄声するタイミングがとても完ぺきだった。みんな目に見えない所で練習ぢていたんだなと実感した。

喜怒哀楽をしっかりと表現した演技はお客さんから何度も拍手を頂いてとてもよかった。

毎日、神崎と二人で読む特訓をしていた為、二人の息はばっちりだった。

観客席を見ると、雫がいた。とても輝いた目で劇を見ていてくれて嬉しかった。秋介も楽しそうに劇を見ていた。観客席全体も色々な感情で包まれていた。

僕がここまでこうしてやってこれたのは、ここまで引っ張ってきてくれた人たちのおかげでこれたのだと思う。親、先生、友人、クラスメイト、地域の人、そのほかの人たち。僕が一人でここまで来たのではない。お互いに助け合いここまで来た。その人達に感謝を伝えれる場がここだ。だから、僕は一切の余興も許さず取り組んだ。僕は、みんなのおかげでここまで来て、成長できたんだよ、と。

劇のラストスパートに掛かり、集中力が無くなってくる時間帯も皆が最後まであきらめずに取り組んでいた。その背中を見て、僕も頑張った。長いセリフも、一つ一つの仕草も忘れずにできた。

今思うと、この劇は全くショートショートではなかった気がする。とても長い道のりをかけてきたものだからロングロングでもよかったのかもしれない。だけど、劇を行う時間はショートショートだからそれでよかったかもしれない。

そして今、僕たちはラストを迎える。起承転結の結を。

「彼は、朝方の学校への道を歩いていた」

「前、ここであいつの笑顔を見たんだとな。とってもかわいかったなもう一度見たいな」

「彼はそんなことを考えながら歩いた。しかし、彼は次の瞬間目の前の光景に息をのむ」

「----!」

「それは、彼女が満面の笑みで木の下に立って彼を見ていたから」

「静香---」

「彼らは、そう言って抱き合いました。昨日もあったはずなのになぜかさみしさがこみ上げてきました。二人とも昨日の夢が原因なのか分からないけど。それでも、この不器用な恋の物語はまだまだ終わりを迎えず続いていきます-----」

「The END」

そういった後、彼女----神崎は舞台の上で、全校生徒の前で、僕に、彼氏にキスをした。ばれないようにこっそりと。そして、「やってやった」みたいな顔をしていた。やっぱり、神崎はいつでも変わらないなと思った。

-----

「諒―――劇良かったよー感動したー」

「諒太郎、劇良かったぞ。俺も泣きそうになったが、大丈夫だったぜ」

いや、泣いてくれよ。そこは。

俺と神崎は、劇を完璧に終わらせた後、クラスのみんなと集合し喜びを分かち合った後こうして今、雫と秋介と一緒にいる。

「そうだろ。俺のシナリオよくできてただろ」

「うんホント良かった。やっぱ、私の幼馴染は違うな」

と、雫は俺の頭をなでた。それを見た神崎は、

「私の彼氏に何してるの?」

と、少し棒読みの半ギレ状態の顔で雫と俺を見ていた。俺は関係ないだろ。

「まあまあ、そう切れるなって俺の従妹(・・)よ」

「そうだよ、神崎・・・って従妹?秋介と神崎って従妹?」

「あ、そうなんだ。俺たち従妹なんだ」

「何で言うの?私そろそろ、秋介にキレるよ」

「それは勘弁してください。俺は何度こいつの怖い制裁をくらったことがあるか・・・」

「はははははは」

「はははははは」

「はははははは」

「はははははは」

俺たち何が面白かったのか分からないが、笑いあっていた。いつもよりも10らいの声量と笑顔で。


そんな俺の青春は今からまだ続いていく。

俺はこうして今ここに入れるのはみんなと助け合ってここまで来たからだ。

皆で、泣き、笑い、怒り、喜び、悲しみ、嬉しみ、感動し、色々なことを一緒に、色々な人たち過ごしてきた。そうして僕が今いる証が、今こうして笑顔で俺が笑っていることだ。

これからも、沢山の壁が自分の目の前に立ちはだかる。しかし、それを避けずに乗り越えていくことが大切だ。だけど、一人で乗り越えるのは難しい。一人で乗り越えられなければ、みんなで一緒に乗り越えていけばいい。そうやって、人は成長していく。

これからもそのことを忘れずに俺は生きていきたい。

最後に、文化祭とは全く関係のないことを書いてカッコつけて終わらせました。そういう人、河石諒太郎の日常をこれからも見守っていただけると嬉しいです。

                                       終わり

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