924.文法篇:将棋は指すもの、弱音は吐くもの
今回は「特定名詞と特定動詞」についてです。
「魚」は「締める」もの、「鶏」は「絞める」ものです。
このように、ある特定の名詞には呼応する動詞が設定されているものがあります。
将棋は指すもの、弱音は吐くもの
ある名詞には、それを行なうときに定められた動詞があります。
タイトルにあるように「将棋をする」ことを「将棋を指す」と言うのです。
「弱音を」と来たら「吐く」と続きます。「漏らす」ではありません。
こういった決まりごとを憶えることで、表現が豊かになります。
「将棋をする」「囲碁をする」「麻雀をする」では表現が貧困です。
初心者ほど「〜をする」で済ませようとします。
特定名詞と特定動詞の対応表
物の動作
孔(穴) ⇒ を穿つ ※穿孔
網 ⇒ を打つ ※一網打尽
燗 ⇒ をつける
景色 ⇒ を愛でる
香 ⇒ を焚く/を嗅ぐ ※焚香
ご飯 ⇒ をよそう/を盛る
衣 ⇒ を纏う
魚 ⇒ を締める
鶏 ⇒ を絞める
三枚 ⇒ におろす ※三枚おろし
時間 ⇒ を割く/を作る
新年 ⇒ を寿ぐ
寿司 ⇒ を握る/をつまむ
裾 ⇒ をさばく
贅 ⇒ を尽くす
タバコ ⇒ をのむ/を燻らす
惰眠 ⇒ を貪る
茶 ⇒ を淹れる/を点てる/を沸かす ※点茶
釣り糸 ⇒ を垂れる
縄 ⇒ をなう
荷 ⇒ を担う/を担ぐ ※荷担
鋸 ⇒ を引く ※鋸引き
花 ⇒ を生ける ※生花・生け花
火 ⇒ を熾す ※熾火
暇 ⇒ に飽かす
名勝 ⇒ を訪ねる/に富む
用 ⇒ を足す ※用足し
夜 ⇒ を徹する ※徹夜
体の動作
汗 ⇒ が滴る/をかく
頭 ⇒ を刈る/を丸める
髪 ⇒ を結う/を梳く
咳 ⇒ を鎮める/をする
痰 ⇒ を切る/を吐く ※痰切り
血 ⇒ が迸る
鼻 ⇒ をかむ
ひげ ⇒ を当たる/を剃る
膝が ⇒ 笑う
心情
忙しさ ⇒ にかまける
憂き身 ⇒ をやつす
思い ⇒ を馳せる/を募らせる
気 ⇒ を揉む/が滅入る
肝 ⇒ をつぶす/を冷やす
些事 ⇒ にかかずらう/にこだわる
匙 ⇒ を投げる
手 ⇒ をこまぬく(新しくは「こまねく」とも)
流れ ⇒ に棹差す/に逆らう/にまかせる
万全 ⇒ を期する
胸 ⇒ が弾む/が痛む
弱音 ⇒ を吐く
人間関係
相槌 ⇒ を打つ/を求める
異議 ⇒ を挟む
汚名 ⇒ を着せられる/を雪ぐ
重荷 ⇒ を背負う
核心 ⇒ に迫る/を衝く/をなす
軽口 ⇒ を叩く
議論 ⇒ をふっかける
口 ⇒ を挟む/を突っ込む
国 ⇒ を統べる
権力 ⇒ にへつらう
甲乙 ⇒ をつける
恋 ⇒ に落ちる/に溺れる
私情 ⇒ を挟む
弱点 ⇒ を突く
借金 ⇒ に喘ぐ
スタート ⇒ を切る
節 ⇒ を枉げる/を屈する
世話 ⇒ を焼く ※世話焼き
先方 ⇒ へ赴く
大枚 ⇒ をはたく ※大枚はたく
他人 ⇒ をくさす
駄目 ⇒ を出す
罪 ⇒ を贖う ※贖罪
物議 ⇒ を醸す
人目 ⇒ を憚る/を忍ぶ
末席 ⇒ を汚す/に連なる
身 ⇒ を委ねる/を任せる
耳 ⇒ を傾ける/を澄ます ※傾聴
命 ⇒ を下す ※下命
盲点 ⇒ を衝く
約束 ⇒ を違える/を反故にする ※違約
弱み ⇒ に付け込む/を握る
論議 ⇒ を呼ぶ
詫び ⇒ を入れる
自然・動植物
枝 ⇒ が撓む/が撓る
風 ⇒ が薫る/がそよぐ/が凪ぐ ※薫風・風凪
霧 ⇒ が降る/が立ち込める
空気 ⇒ が澱む
草 ⇒ を食む
霜・霜柱 ⇒ が立つ
蕾 ⇒ がふくらむ/がほころぶ
時 ⇒ が移ろう
波 ⇒ が立つ
星 ⇒ が煌く ※煌星(こうせいとも)
雪 ⇒ を頂く
趣味
囲碁 ⇒ を打つ ※碁打ち
一句 ⇒ ひねる
歌 ⇒ を詠む ※詠歌
カード(トランプ・手札) ⇒ を切る/を引く/をめくる
ギター ⇒ を爪弾く
鍵盤 ⇒ を打つ/を叩く ※打鍵
サイコロ・賽 ⇒ を転がす/を投げる
辞書 ⇒ を引く/に当たる
雀卓 ⇒ を囲む
書 ⇒ を繙く
将棋 ⇒ を指す ※将棋指し
手紙 ⇒ を認める
ピアノ ⇒ を弾く
筆 ⇒ を断つ ※断筆
ページ ⇒ を繰る
最後に
今回は「将棋は指すもの、弱音は吐くもの」についてまとめました。
対応する動詞を持つ名詞があります。
対応が外れると読み手は違和感を抱くのです。
適切な対応を選んで用いましょう。




