885.惹起篇:佳境は二度設ける
今回は「佳境」を二度設けることについてです。
長編小説では、「佳境」にたどり着くまでに一波乱ないと物足りなさを感じます。
一回「佳境」を作りましょう。
佳境は二度設ける
佳境は四部構成のうち三番目に位置するものです。
しかし、長編小説で佳境が一度だけしか存在しないと、そこまでたどり着く前に読み手が脱落していきます。
ではいかにして脱落者を少なくすればよいのでしょうか。
もうひとつ山場を作る
佳境は物語が最も盛り上がるところです。
しかし佳境までなんの「波乱」もない作品が面白いのでしょうか。
適度に山場を作る必要があります。
とくに物語を貫く「謎」を中盤過ぎに一度「解い」て「謎」が残っていないように見せかけましょう。
そして「謎」を解いても、新たな「謎」が浮上してくるのがよい小説の条件です。
新たな「謎」は「書き出し」から提示されていた「謎」よりも深く濃いものにします。
それまでスイスイと「謎」を解いてきたのに、そのペースでは絶対に解けない厄介な「謎」です。
ここでいかに主人公を叩き落とすか。それが物語の起伏を激しくします。
物語には小波、中波、大波の三つの波があると思ってください。
そのうち小波は主人公や登場人物を紹介するための出来事を当てます。
大波は言わずもがな、佳境に当たるのです。
では中波とはなにか。
佳境の前に起こる、それほど大きくない佳境です。
つまり長編小説では「佳境は二度設ける」ようにしましょう。
ゲームのファルコム(現日本ファルコム)『Ys』と『Ys II』は連続した物語です。『Ys』でダームの塔を攻略して「対になる存在」であるダルク・ファクトを倒してゲーム終了です。『Ys II』ではそこで六冊の「イースの書」がアドルを天空に浮かぶ国「イース」へと飛ばしたのです。そして始まる物語の後半戦。ゲームを攻略していくと、魔導師ダレス、そして本編通しての「対になる存在」である黒水晶の魔王ダームを倒して、今度こそ物語の終了です。
このときの『Ys』のダルク・ファクトとの戦いが「中間に用意された、それほど大きくない佳境」に当たります。
そして『Ys II』のダレス、ダーム戦が「物語を完全に終わらせるための佳境」となるのです。
それだけではありません。『Ys』『Ys II』はダルク・ファクト、ダレス、ダームへたどり着くまでに多くの「ボス戦」を勝ち抜かなければなりません。
それぞれが小さな「佳境」とも呼べるのです。
『Ys』『Ys II』は面倒なレベル上げをしなくても先に進めますが、ラクに攻略したければレベル上げをするべき。というくらいざっくりしたゲームでもあります。
脱線してもよし
長編小説は「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を決めてから執筆するのが筋です。
しかしときには「プロット」を脱線して、未知なる道を駆けてみるのも面白いかもしれません。
もちろん初心者の方は「ブロット」どおりに書くべきです。
初心者が脱線してしまうと、元に戻れなくなります。
ある程度長編小説を書き慣れたら、「プロット」を脱線して主人公を宙ぶらりんの状態にするのです。
すると主人公は能動的に動かざるをえなくなります。
これまで主人公の設定をどこまで「粗く」作ってあったか。それが試されます。
ガチガチの設定を施した主人公では、脱線してしまうと動きようがなくなるのです。
それでは脱線したときの躍動感がありません。
「プロット」を完璧にしておいてなお「脱線」するのです。
「先が見えなくて怖い」と思いますが、これができないと連載小説は書けません。
連載小説は、日々の読み手の反応を見ながら、都度「プロット」を書き換えて次話を書いていきます。
そのために「箱書き」「あらすじ」にも変更が出てくるでしょう。
そこを修正して全体像を確認しながら、「プロット」で脱線するのです。
「プロット」で脱線したのに「箱書き」「あらすじ」に手を入れないとどうなるか。
全体的に物語がどこへ向かっているのかがわからなくなります。
だから怖いのです。
怖さを取り除くには、いつでも全体像を確認できるようにすればよい。
「企画書」は物語の根幹ですから動かせません。
動かせるのは「エピソード」の肉付けをした「あらすじ」レベルからです。
脱線したのはどんな「エピソード」なのか。物語全体に与える影響はいかほどか。
それを計るために「あらすじ」レベルで、どんな「エピソード」を加えて脱線するのかを確認してください。
最もとんでもない「エピソード」へ脱線したとすれば、「企画書」で決めた「主人公の結末」すら変わってしまう恐れがあります。
こうなると物語がどんな「結末」を迎えるのかさえわからなくなるのです。
それは同時にどんな「佳境」が繰り広げられるかにも影響します。
「結末」が変わるということは、直結する「佳境」の決着をも左右するのです。
だから「脱線」するなら、「佳境」の直前だとたいへん都合が悪くなります。
元に戻れる「脱線」ならよいのですが、小説にムダは要らないのです。
「脱線」した意味が「佳境」へ正しく反映される必要があります。
次がもう「佳境」なんだというときに「脱線」してたいてい失敗してしまうのは、「佳境」の変更が間に合わなくなるからです。
「佳境」は主人公と「対になる存在」との直接対決の場になります。
つまりすべてのお膳立てが整って、さぁこれから最終決戦だという直前に「脱線」してしまうと、読み手の期待が削がれてしまうのです。
こうなってしまうと、読み手が焦れてきますから、あなたの作品から離れていくでしょう。
物語に躍動感を与えるためには大いに「脱線」するべきですが、もう「佳境」が始まるというタイミングでは、「脱線」せずそのまま「佳境」へつなげたほうがよいのです。
最後に
今回は「佳境は二度設ける」ことについて述べました。
長編小説はその長さから、どうしても途中でダレてしまいます。
そのダレそうなところに小さな「佳境」を設けることで、物語にスパイスを加えるのです。




