78.実践篇:商業ライトノベルの分析(1/3)
今回から少し「商業ライトノベル」について述べてみます。
商業ライトノベルの分析(1/3)
商業ライトノベルとはこれまで「紙の書籍化したライトノベル」と述べていたことです。
商業ライトノベルになるためにはいくつかの条件があります。
そこで今回は商業ライトノベルについてあれこれ分析していき、実際に小説を書く際にミスマッチが起きないようにしていきましょう。
キャラクター小説である
商業ライトノベルにかぎらず、ライトノベルはキャラクター小説です。
登場するキャラクターがその魅力を発揮していなければライトノベルとは呼べません。
魅力は履歴書を作った際に設定した「個性」です。「個性」なしに魅力的なキャラは作れないと言っていいでしょう。
問題はそのキャラを「どう描写していくか」にかかっています。
ただ「背が二メートル超ある」と書くか「話をするたびに顔を下に傾けなければならない」「彼女のささやきを聞くために膝立ちになった」と書くか。どちらが効果的だと思いますか。
「背が二メートル超ある」はただの説明です。説明をいくら重ねてもキャラの魅力なんて出てきません。「背は二メートル超だ」の他に「小男が走る」「空は青い」「外は静かだ」の類も同じく感想を述べる説明です。
それに対し「話をするたびに顔を下に傾けなければならない」「彼女のささやきを聞くために膝立ちになった」は動作を伴った描写になります。その動作そのものが心に残りませんか。これがキャラクターが魅力を引き立てる例です。
でもこれだけでキャラクターを魅力的にしようとしても効果は薄い。
そこで出来事・エピソードを通じて性格やクセそしてどう判断するかなどを読み手に見せていきましょう。その対処の仕方や振る舞いを見れば、そのキャラクターはとても生き生きとしてきます。
動作を伴った描写と出来事・エピソードを通じた性格とクセなどを見せること。これがキャラクター小説に求められます。
そしてライトノベルにはカッコイイ主人公とかわいい女性が付き物です。普段はだらしなくてかまいません。決めるときにビシっと決める主人公だから「カッコイイ」と思うのです。
やることなすことすべてが決まっていて「カッコイイ」となるとさすがに鼻につきすぎて先を読む気が失せます。
かわいい女性はその小説の華になるキャラといえるでしょう。愛らしいのかツンデレなのかヤンデレなのかクールビューティーなのか萌えなのかは書き手次第です。
「かわいい」の基準は万人共通ではありません。普通「かわいい」といえば「愛らしい」を指すのですか、人によってはツンデレを「かわいい」と感じますし、クールビューティーを「かわいい」と感じる人もいます。
ここでは「書き手が『かわいい』と思う女性」を書いてください。自分の好きな女性像を書くのは、書き手が最もワクワクしますからね。
わかりやすさ
商業ライトノベルはとにかくわかりやすいです。
まずページを開いたとき、文字の分量が「軽く」なっています。
試しに書店の文学小説や大衆小説または政治経済のコーナーに行ってみましょう。ページを開いたら文字で埋め尽くされていませんか。
「ライトノベル」は「気軽に読める小説」であり「分量が軽い小説」でもあるのです。
商業ライトノベルの中にも文字がびっしりと敷き詰められたものがあります。それはたいてい「小説賞・新人賞」を受賞した作家が書いた小説です。
「小説賞・新人賞」を狙いに行くなら、原稿用紙の使い方をきっちりと習ったうえで書いてください。
小説投稿サイトに連載するのであれば、どんな書き方をしようともそれは書き手の自由です。「紙の書籍」と違ってページ数の上限がありませんからね。
でも商業ライトノベルは紙で出版されるがゆえにページ数と内容のバランスが求められるのです。
次に「この小説世界のことを何も知らない読み手のため」に書かれています。
商業ライトノベルで複数巻ある場合、どの巻の冒頭でも「この小説世界のことを何も知らない読み手のため」の説明に紙面を割いているのです。
小説投稿サイトであれば初回はいつでもすぐに読めますから、毎回の投稿で「この小説世界のことを何も知らない読み手のため」の説明をしなくてもかまいません。
ただし主人公の年齢や性別、大まかな性格がすぐにわかるような描写は必要になります。
せめてそのくらいは毎回わかるように書くべきです。
読みやすさ
商業にかぎらずライトノベルで必ず求められるのが「読みやすさ」です。
試しに小説投稿サイトでランク入りしている連載を書いている方々の作品を読んでみてください。頭の中にすっと入ってくるはずです。
なぜ「読みやすい」のでしょうか。文法や文体も一因です。こちらは別途取り上げますので今回は除外いたします。
ライトノベルは文法や文体の他に、「主人公と読み手が近しい」ことが多分に影響しているのです。
ライトノベルの主要読者層は中高生となっています。そして「読みやすい」ライトノベルは主人公が中高生かそれに近い年齢であることが多い。
稀に三十歳を超えた大人が主人公であっても人気が出るライトノベルも出てはきます。その場合は「精神構造が中高生に近し」いことが多いのですが。
小説を読むとき、読み手はまず主人公が誰なのかを特定し、その人物の性格描写を通じて主人公に感情移入して物語に没入していきます。
つまり「中高生に近しい」ことはそれだけで有利に働くのです。
少年向け小説では男子中高生が主人公のものが多く、少女向け小説では女子中高生が主人公のものが多いのもそのためだと考えられます。
ただし少年向け小説では女性主人公の作品もいくつかヒットしてはいるのです。
その場合中高生が「こんな女性が近くにいたらいいな」と思える女性像がウケます。
卑劣かもしれませんが、ウケを狙わなければ読み手が「読みやすい」とは思ってくれません。
漢字を開く
また漢字をできるだけ開く必要もあります。「阿」「論」はそれぞれ常用漢字で高校生までに憶えます。
でも「阿る」「論う」の読みは中高生ではまず習いません。それぞれ「おもねる」「あげつらう」と読みます。読めた人は漢検三級はとれるでしょう。
こういった「常用漢字だが常用読みでない読み」や常用漢字でない「常用外漢字」はすべて開くか常用漢字に置き換えるのです。「開く」とは「漢字をひらがなに置き換える」ことを指します。
とくに副詞はできるだけ開きます。「勿論」「大概」「大分」も「もちろん」「たいがい」「だいぶ(だいぶん)」と書くのです。よく使う「常に」「既に」「非常に」「大変」も開いたほうがいい漢字になります。それぞれ「つねに」「すでに」「ひじょうに」「たいへん」ですね。
漢字が持つ表意性が強い漢字だけは漢字のままにします。
「第一」「大の」などは表意が強いので漢字のままで結構です。
「非常に」は「つねにあらず」という表意が強いと判断すれば漢字でもよしとしています。「とても」の代わりに使うのであれば表意と異なるため開いたほうがいいです。
「大変」も「大いに変である」という表意が強いのなら漢字にします。私は「たいへん」を「とても」の代わりと判断しているので開くことにしているのです。
ライトノベルでは主要読者層が中高生だということを忘れないでください。
彼らが一瞥して読めない漢字は使わないことです(「一瞥」も瞬時には読めないでしょうね)。
使いたいなら必ずルビを振りましょう。中高生が漢字を憶えるきっかけを作るのもまた小説なのです。
小説で、常用漢字だけど常用読みでない漢字に必ずルビが振ってあれば、中高生はその漢字の読みを憶えてくれます。
つまり小説を楽しく読みながら漢字を憶えていけるのです。まさに「一石二鳥」ですね。
最後に
今回は「商業ライトノベルの分析」(1/3)を述べてみました。
この題で文章を書こうとするとどうしてもかなりの枚数が必要になります。ひと投稿ぶんにすべて詰め込むとおそらく六千字を超えると思いますので、あえて三分冊にしてみました。
次回は「売りと題名とテーマ」について述べていきます。