760.回帰篇:五十枚、三百枚で腕試し
今回は「短編小説」と「長編小説」を書いてみようということについてです。
原稿用紙十五枚が書けるようになれば、四部構成「起承転結」に割り振れば、だいたい五十枚の短編小説が書けます。
五十枚が書けるようになれば、三百枚の長編小説も六部で構成できるようになるのです。
六部の場合は「起承転結」を「起承転承転結」のように盛り上がるポイント「転」を二つ作れます。
五十枚、三百枚で腕試し
原稿用紙十五枚以上書けるようになったら、いよいよ小説を書くことになります。
といってもいきなり三百枚から五百枚の長編小説を書くのはハードルが高い。そこでまずは目標にしやすい五十枚を書いて「小説賞・新人賞」の短編部門に絞って投稿しましょう。
なぜ十五枚だったのか
前々回、原稿用紙十五枚を目安に文章を書く練習をしていただきました。
なぜ一投稿ぶんを十五枚に設定したのか。五十枚の短編小説を書くときに三部構成か四部構成にできるためです。
三部構成なら四十五枚で、「佳境」に五枚余計に使うことができます。
四部構成なら六十枚で、こちらは応募の許容範囲内です。削るなら「起承転結」の「起承」と「結」でしょうか。とくに短編小説では「結」が唐突に終わる作品もかなり多い。「結」が短いと物語の先を読み手が妄想するようになります。とくにショートショートの技ですが、短編小説にも応用はきくのです。その場合は「起承」も枚数を減らして十三枚、十三枚、十五枚、九枚くらいの配分で書くとよいでしょう。
短編の「小説賞・新人賞」に応募しても受賞する必要はありません。とりあえず一次選考の通過を目指してください。一次選考は「小説の文章」になっているかをチェックされるからです。
これから長編小説を書くために必要となる「小説の文章」が書けているのかどうかがわからないのに、長編を書いても徒労に終わる可能性が高い。それならまずは短編賞に応募して、「小説の文章」が身についているのかを試すのが最良の手順となる方もいらっしゃいます。
もちろん最初から三百枚から五百枚ほどの長編小説を書いて「小説賞・新人賞」に応募してもいいのです。でも、かけた時間の割に「小説の文章」になっているかを判定してもらうのに時間がかかります。
そこであえて短編賞に作品を応募して一次選考を通過するのかを探るのです。
ムダを減らして着実に「小説の文章」を身につけるには、短編賞が試金石となりえます。
また短編の「小説賞・新人賞」は、これから三百枚の長編小説が書けそうな書き手を見極めるための賞です。なぜなら、短編小説一編では単行本にはできません。かといって長編の「小説賞・新人賞」では選考に時間がかかり、せっかくの才能が他の出版社レーベルに奪われかねません。そのため主催の出版社レーベルは、才能の青田買いをするために短編の「小説賞・新人賞」をあえて設けているのです。
だから短編しか書けない人が受賞すると、その作品が「紙の書籍」になることはまずありません。長編が書けるようになっていないと、その先に進めないのです。
三百枚に挑戦する
五十枚のマス目を埋めることができるようになったら、いよいよ三百枚に挑戦しましょう。五十枚が十五枚の三〜四回ぶんであるように、三百枚も五十枚六回ぶんでしかありません。
五十枚の六倍ですから、登場人物も数名から十名程度まで増やせますし、それぞれの五十枚で話が完結し、それが次々と展開されて「起承転結」を形作れます。
とりあえず三百枚も質と内容は問いません。「小説の文章」でありさえすればいいのです。そして書きあげた作品は「小説賞・新人賞」に投稿して、一次選考を通過するかどうかに挑みましょう。短編の一次選考のように、長編の一次選考は「小説の文章」になっているかどうかを見ています。内容よりも文章の良し悪しを見るのが一次選考なのです。中には一次選考の段階で内容が秀でていて稀有であると思われれば、二次選考へシードされることがあるそうです。
一次選考を通過するまで長編小説を書き続けることで「長編を書く体力」が身につきます。五枚も書けなかったときは五枚を書く体力をつけるために内容を問わず五枚書く特訓を積むのです。そして五十枚の短編を書く体力をつけるために内容を問わず五十枚書く特訓を重ねます。これで一万メートル走を完走する体力をつけるのです。しかし三百枚の長編は「マラソン」を完走するほどの体力が要求されます。そしてプロの書き手は、毎作「マラソン」を走り抜けて原稿を完成させるのです。
アマチュアの私たちは、まず「マラソン」を走りきれるよう内容を問わずに作品を書きましょう。そして何作も書いては「小説賞・新人賞」へ応募するのです。そのうち三百枚を五日から一週間ほどで書きあげるほどの体力が身につきます。
まぁ体力と言っていますが、実際には「脳力」ですね。物語を作るのも文章を書くのも「脳力」を全開に活用します。この「脳力」全開状態を三百枚書き終えるまでキープするのが「マラソン」トレーニングの真の目的です。
内容は一次選考を通過するようになってから身につけていけばよいでしょう。質は二次選考を通過するようになってからでも遅くはありません。
とくに『ネット小説大賞』は二次選考後の最終選考を経て各賞が出揃います。最終選考通過を目指すのなら、まずは内容を高めて二次選考が確実に通過できるようになってから質を高めたほうが、審査員に好印象を与えやすいのです。
だから、三百枚をスラスラと書けるようになるまで、とにかく書いては「小説賞・新人賞」に応募していきましょう。もちろん「小説賞・新人賞」の募集要項を確認し、適切なジャンルとお題に沿った作品を書かなければなりません。
どんなにジャンルやお題が苦手でも、お構いなしに書いては応募を繰り返してください。ひょんなことから、隠されていた得意なジャンルやお題が見つかる可能性があります。小説は「食わず嫌い」が激しい創作活動なのです。
音楽ならポップスかロックか、ブルースかジャズか。まず自分の好きなジャンルを選択して練習を重ねます。音楽はどんなジャンルであっても多様性があるため、ロックを選んでポップス寄りの楽曲を演奏することもできます。才能を好みで決めてしまえる創作活動なのです。
対して小説は「他人に評価されるまで、自分に合ったジャンルやお題がわからない」創作活動と言えます。自分の好みだけで作品が書けるのはアマチュアのうちだけです。プロになったら、出版社レーベルの担当編集さんと打ち合わせをして、ジャンルやお題を合議で決めます。書き手の好きな小説が書けないのです。
そのあたりを見極めるためにも、まずはジャンルやお題に関係なく、とにかく書いて片っ端から応募してください。短期に数多くのバラエティーに富んだ長編小説を投稿できれば、速筆家としてとても重宝がられます。
そしてその執筆にかける体力や「脳力」をできるだけ早いうちに獲得しておくべきなのです。次々と新しいジャンルやお題の作品を生み出す能力に長けた人を「ストーリーテラー」と呼びます。どんな小説でも書けるため、時代がいかように変化しても小説界で生き残れるタイプです。
あなたが目指すべきは、大好きなジャンルの作品を好きなように書けるだけの実績を残すことか、どんなジャンルの作品も過不足なく書けるだけの多様性を示すこと。それができれば小説界での熾烈なサバイバルを生き抜けるでしょう。
小説界は戦国時代なのです。毎年何百という新人が「小説賞・新人賞」の各賞を授かって「紙の書籍」を出版しています。それに比べて絶筆もしくは死去する書き手は十数人程度。つまり書き手市場はすぐに飽和してしまうのです。飽和したらどうなるか。実績と将来性のない書き手は出版社レーベルから切り捨てられます。つまりドロップアウトさせられるのです。こうなったら再び「小説賞・新人賞」に応募して出版社レーベルに実力を認めてもらう以外に生き残る術はありません。
新入社員は多いのに退職者が少ない。政府官僚と同じで出世コースを外れれば退職を余儀なくされます。いえ、政府官僚は「天下り」という裏技がありますから、小説書きのドロップアウトとは異なり「配置転換」の意味合いが強い。政府官僚よりもさらに厳しい競争にさらされる小説界はそれほど小説だけで身を立てるのは難しいのです。
初めて書く長編は不思議と自信に満ちている
これから三百枚の長編小説を書いていだたくわけですが、長編小説は短編小説とは異なり、根拠のない自信を覚えるものです。
まず「書く前は妙な自信」を持っています。三百枚書くだけならなんの苦もなく書ける。私はもっと実戦的なテクニックを習いたいのです。そう言ってくる方が多いように思えます。実際に書かせてみると三百枚を埋められずに挫折する人が多いのです。頑張って一作書き終えた方に、次の作品を書かせようとしてもたいてい筆が止まります。
小説は「書きたい物語を書いて印税をもらう」職業だと思われがちです。実際は「提案された物語を機械的に書いてそれでいて面白い作品に仕立てて印税をもらう」職業だということを忘れないでください。
いざ三百枚を書き始めると、途中で大きな壁にぶつかります。「三百枚程度なら余裕余裕」などと言っていた人ほど壁はすぐに立ちはだかるのです。
こんな表現で本当に読み手に伝わるのかな。物語は本当に面白いと思ってもらえるのかな。など不安に苛まれるのです。長編小説という「マラソン」を完走するための体力をつけるための段階でそんなことに気を配っても仕方がありません。まずは「脳力」をつけることと「小説の文章」になっていること。つまり「小説賞・新人賞」の一次予選を通過することだけを目指してください。
そうやって誕生した三百枚の原稿を前にして、あなたは「自信に満ちあふれている」と思います。これを「小説賞・新人賞」に応募したら受賞間違いなし。すぐに「紙の書籍」となってたちまち大ヒット。そして夢の印税生活だ。というくらい「自信満々」なのです。
しかし現実は厳しい。あなたの長編小説はあえなく落選します。原稿が完成したときの高揚感が絶望感に一転するのです。ここで挫折してしまう方もおられます。おおかたは「長編小説を書いた」という実績を残したので、次の長編小説に取りかかろうという意欲が再び湧いてくるものです。その心境に達すれば、何作でも再挑戦できます。
最後に
今回は「五十枚、三百枚で腕試し」について述べました。
小説を書くには「体力」が要ります。とくに「脳力」は不可欠です。
始めのうちは、内容を気にせずマス目を埋めることだけに注力してください。三百枚を埋める「体力」「脳力」がついたら、そのうち誰もが安心して読める三百枚の作品が書けるようになります。
そして習作の短編も長編ももらさず「小説賞・新人賞」へ応募するのです。まずは一次予選の通過を目標にしましょう。通過したらひとつ上のステップに進むのです。




