74.実践篇:履歴書(キャラシート)を創る
登場人物の設定、皆さんはどのくらい細かく作っていますか。
今回は私が一日で思いつくだけの属性を書き出してみました。
それを履歴書に落とし込んでいくのです。
履歴書を創る
箱書きができたら、そこに登場する人物についての設定をしましょう。
キャラシートいわゆる「履歴書」です。
履歴書の設定項目
■「名前」:姓名を正しく書いてもいいですし、愛称でも構いません。のちに「相関図」を書く際に、他のキャラからどう呼ばれるのかを決めることになるので、愛称であってもとくに問題がないのです。
■「性別」:男性・女性は当たり前ですが、今は性的マイノリティーの代表であるLGBTの方々がいらっしゃいます。そう考えると結構選択肢がありますよね。「マイノリティー」というくらいなので、その割合は少ないため基本的には男性・女性で分けるだけでもいいと思います。クセのある小説を書きたいときにLGBTを意識してはいかがでしょうか。
■「一人称」:このキャラは自分のことをどう言うのでしょうか。「私・僕・俺・わし・それがし・自分」などもありますし、自分の名前を直接一人称でいう人もとくに女子にいますよね。「君枝はこう思うんだけど、宏太はどう思う?」のように。
男性はあまり自分の名前を言う人はいません。幼児の頃なら親が名前で呼んでくるから、自分の名前で返すということはありますが。
■「年齢」:キャラの書き分けに必要になります。ただ明確に「二十八歳」などのように書く必要はないです。
すべて登場人物の年齢を事細かに小説内で書くことはまずありえません。その場合でも「二十代後半」「六十代」のように「年代」だけでも決めておけばキャラの実在感が出てきます。
■「生年月日」:小説内で誕生日を迎えるシーンが出てくるのなら決めます。出てこないなら決めなくてよいです。
西洋占星術や四柱推命や星座占いなど誕生日や星座を先に決めて性格を定めたい書き手もいます。なにをさしおいてでも生年月日や星座だけは決めておきたいというタイプですね。
■「血液型」:小説内で輸血や献血をする場面があるのなら決めます。そんな場面がないのなら決める必要もありません。
生年月日同様、血液型占いによって性格を決めたいという書き手なら、すべてのキャラに設定していってもいいでしょう。ただ占いだけで性格を決めてしまうのも機械的で人間味がなくなる可能性はあります。
■「身長」:外見で目を惹く項目です。ただ身長の高低を「何センチ」と明確にする必要もなく「皆より頭一つ抜き出ている」のように特徴として際立つ場合にだけそのように書けば問題ありません。
マンガ化・アニメ化を見据えていたとしても、書き手の「履歴書」には明確に記載してあるだけで、作中では「何センチ」などを書かない人も多いです。
■「体重」:これは女子がとくに気にする項目です。ただ体重は脂肪で重いのか筋肉で重いのかの区別がつきません。スポーツをしている女子ならある程度重くなってもとくに問題がないのです。
だからこちらも作中で体重を気にするキャラにだけ「何キロ」と設定するだけにしておきましょう。
■「体型」:大きく分けて「飢餓」「痩せ」「中肉(標準)」「脂肪太り」「筋肉太り」に分けられます。これ以上さらに細かく分けても小説内でそれを描写することはまずないでしょう。ですが大別くらいは設定しておかないと読み手がキャラのイメージを固められないので、身長・体重とは異なり必ず設定しておいてください。
■「風貌」:どういった顔つきなのか身のこなしなのか肌の色や髪型や瞳の色はといった項目です。凛々しくマナーにうるさいのか、下卑た表情を浮かべて風体が悪いのか、戦場で傷ついたため今でも片足を引きずっているのか。とくに顔つきに関しては小説でキャラを明確にイメージできる不可欠な情報です。
アニメ化まで見据えれば髪型や瞳の色といった形や色が直接イメージできる言葉を選んでおきましょう。そこにそのキャラ特有の身のこなしが加わればよりいっそうはっきりと見えてきます。
こちらも「職業・役職」と並んで「年齢」の次に決めなければならない項目です。
■「服装・装飾品・身だしなみ」:外見を決めるうえで欠かせないのが「服装・装飾品・身だしなみ」です。貧乏な家柄や無精で粗末な服を着ているのか、セレブな家柄で豪奢な服を着ているのかでは大きく異なります。
貧乏だけど服装だけは豪華にする人もいるはずです。キャラの背骨を強く支える要素といえます。
「装飾品」も高級腕時計や首飾り、イヤリングや指輪などをしていれば、それだけでじゅうぶんキャラの差別化が図れるのです。
「身だしなみ」は生活態度に関わってきます。無精がまめかがひと目でわかるのです。
■「利き手・利き足」:特定のスポーツ選手ではよく区別されます。野球なら「左投げ右打ち」のように使いやすいほうが利き手に設定され、バレーボールも左腕でスパイクすると有利になります。
サッカーも利き足が左の「レフティ」は重宝されます。利き足は日常生活ではそれほど活きてきません。利き手は日常動作の端々で違いが顕著に出ます。『わたしの彼は左きき』という歌まであるくらいですからね。
■「視覚」:裸眼視力と矯正視力の二つあります。アフリカの方で裸眼視力8.0という驚異のスペックを持つ人もいます。逆に度の強い眼鏡をかけないと遠くのものが見えない近視または近くのものが見えない遠視の人もいます。
ただ「眼鏡やコンタクトレンズで視力を補正している」のか「とてつもなく視力が良い」のか「眼鏡なども要らないけどそれほど視力が良いわけでもない」のか「どのくらい目が見えない」のかくらいの大別は必要です。
眼鏡をかけていたり白杖を突いていたりするようなら凡百な人とは外見に差が出るわけですから。かけている眼鏡のデザインなどもキャラの個性になります。
■「聴覚」:こちらはたいてい普通に聴こえるレベルの登場人物が多いです。なのでウルトラマンのように「十メートル先で針が落ちた音が聴こえる」ほど鋭敏か、「補聴器をつけないと聞き取れない」難聴か、「まったく耳が聞こえない」かくらいは設定しましょう。こちらもとくに描写する必要がなければ設定する必要もとくにありません。
■「嗅覚」:犬のように嗅覚が鋭いか、悪臭もまったく気にならないかくらいの設定しかされていないキャラが大半です。後述しますが「グルメ」なキャラを創るのなら「嗅覚」もそれなりに良くなければなりなせん。料理は舌で味わうだけでなく鼻に心地よいかも評価の対象だからです。
■「味覚」:食べられるものであればなんでも食べる「悪食」タイプと、適度に舌で味わえる「グルメ」タイプに大別されます。「悪食」と「グルメ」は正反対です。「悪食」の代表例は鳥山明氏『DRAGON BALL』の孫悟空や尾田栄一郎氏『ONE PIECE』のモンキー・D・ルフィ、「グルメ」の代表例は雁屋哲氏&花咲アキラ氏『美味しんぼ』の山岡士郎と海原雄山といったところでしょうか。
■「触覚」:肌に触れる感覚に鋭いか鈍いかです。小説に登場するのはとかく触覚が鋭いキャラが多い。
情景描写をする際、少しでも寒くなったら「冷えてきた」と言いますし、熱くなったら「暖かくなってきた」と言います。殴られたり切られたりすれば「痛い」と感じます。キャラが鈍感だと描写が難しくなるため避けられるのでしょう。
意外な盲点でもあるので「触覚に鈍感な主人公」が活躍する一人称小説というのも読んでみたいところですね。
■「職業・役職」:学生か先生か会社員か社長か大統領かなど、今籍を置いている集団とその地位です。学生で生徒会長をしているとか、一兆円規模の大会社CEOとか、アメリカ大統領とか、所属する組織とその地位については必ず決める必要があります。
重要度でいえば「年齢」の次にたいせつになる属性です。小学生でも社長になることはできます。それはじゅうぶんな個性です。「年齢」と「職業・役職」の組み合わせで読み手が思いもつかなかったキャラを創れればそれだけで書き手の勝ちと言っていいでしょう。
■「経歴」:大学生であればどんな幼稚園・小学校・中学校・高等学校を卒業してきたか。社会人であればどんな職種でどんな技能を身につけてきたのか。これを表すために「経歴」が用いられます。就職活動の際「職務経歴書」を書かせる会社も今ではずいぶん増えました。どの大学のどの学部を出ようと、その人にどんな技能があるかなんてわかるはずがないのです。その人にどんな技能があるのかを計るには「職務経歴書」がないと判断できません。小説でも「このキャラにはこの特技(技能)がある」となれば、獲得した「経歴」を示す必要があるのです。
なんの前フリもなくキャラが瞬間移動してしまうのでは読み手は「なぜ瞬間移動できるの?」となってついてこれなくなります。ただ書き出しでいきなり瞬間移動してしまうのは「あり」です。読み手に対して「なぜ」が提供できています。その「答え」をその後でしっかりと説明してやれば読み手はすぐに納得してくれるでしょう。
■「学力・技能」:学生・生徒なら「学力」がいかほどかでカースト制度が敷かれる学校があるものです。
「学力」の良い学生・生徒なら3年A組、中くらいなら2年B組のように「学力」で集団を作ると先生側としては教えやすい面があります。
逆に全クラスの「学力」を平均にするため「天才」と「バカ」を同じクラスにする学校もあるそうです。社会人になれば「学力」は「技能」に置き換わり、とくに「専門知識」によって就ける職に差が生じます。「学力」がイコール社会人としての「技能」とはならないことも書き分けてあればじゅうぶん魅力的な小説になるはずです。
■「趣味」:趣味を通じて職業や経歴だけでは身につかないさまざまな技能を身につけることができます。それが「個性」となってキャラの強みを形成することになるのです。
■「性格」:性格は「出来事」を通じて語っていくことになります。ですが履歴書の段階では「楽天的でポジティブ。でも芯はしっかりしていて信念は曲げない」のように感情を表す単語を使って端的に決めてください。
ここでしっかり性格が決まらないことには「出来事」を通じて性格を見せることなどできはないのです。
■「好きなもの・嫌いなもの」:人間誰でも好きなものと嫌いなものがあります。
蝶々は好きでもゴキブリはダメとか。『ドラえもん』の野比のび太なら昼寝が好きで勉強が嫌いなのは有名ですよね。好き嫌いだけでもキャラを書き分ける大きな要素になります。
■「家族・生い立ち」:「性格」を形作る大きな要因が「家族」と「生い立ち」です。両親は健在なのか片親に育てられたのか、どんな環境で現在まで生きてきたのか。小説で直接登場することのない家族はとくに決めなくてもいいです。キャラが四人兄弟の三男だとしても兄二人が小説に出てこないのであれば、兄二人のキャラ設定をする必要はありません。妹ひとりは必ず出てくるというのなら彼女の設定は必須です。また一人っ子で甘やかされて育ったのか貧乏長屋で子だくさんな環境で育ったのかでも性格に影響を与えますよね。
■「境遇」:ここまで設定してきたキャラが今現在どんな境遇に置かれているのか。
現状が満ち足りているので維持したい。鬱積したものがあるので打破したい。それによってなにか「出来事」が起こる予感がしてきますよね。
そうです。「境遇」は物語の「伏線」になりえます。他の項目でも「伏線」にすることはできますが、「境遇」ほどの推進力は得られません。
■「夢」:そのキャラは「どうなりたい」ですか。「主人公がどうなりたい」が主人公の「夢」なら、登場人物それぞれにも当然「私はどうなりたい」という「夢」があるはずです。
これが明確になることで、物語の展開によってキャラは自立した一人の人間としての存在感を出すことになります。
最後に
今回は「キャラシートを創る」ことについて述べてみました。
人間には履歴書・職務経歴書に書けるものから書けないものまで、実にさまざまな個性があります。
しかしすべてのキャラにすべての項目が必要なわけではないのです。
「必要になったときに必要なぶんだけ」設定してやればいい。そして設定したものを履歴書に書いておけば「このキャラは確か方向音痴だったよな、それなのに今は進むべき道を迷わず歩いている。どうしてだよ」という読み手の怒りを買うこともなくなります。
「必要なときに必要なぶんだけ」が人物設定の肝です。
すべてを設定してガチガチに固めてからでないと書けないと思い込んでいる書き手も、上記の項目を見てそのすべてを設定してきたかどうか考えてみてください。おそらくここまで細かくは設定しなかったのではないでしょうか。
つまり今までも「必要だと思ったものだけ」設定していたわけです。
そのことをご理解いただくために、あえてここまで細かい「履歴書」をお見せしました。