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三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム  作者: カイ.智水
実践篇〜さぁ筆を執って書き始めよう
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72.実践篇:読み手は「無」にいる

 実践篇の幕開けは「書き手が留意すべきこと」として「読み手は『無』にいる」ことを書きました。

 その観点から説明や描写をしていかないと情報が読み手に正しく伝わりません。

読み手は「無」にいる


 読み手はあなたの書いた小説に対する事前情報(予備知識)を持っていません。まったく何も知らないのです。

 読み手が悪くないことは、あなたが読み手にまわったときのことを考えればわかりますよね。

 本文を読む前に他人の小説世界がわかるようなら、あなたはエスパーかニュータイプです。今すぐ地球連邦軍に入隊してガンダムでジオングと戦ってください。




何も知らない読み手のために

 すべての小説は「その世界の予備知識がない読み手」が読んでいます。つまり「その世界のありとあらゆるもの」が読み手にはまったくわかりません。

 書き手のあなたにはさぞ明確なイメージがあることでしょう。しかし読み手はまったくイメージを持たない「無」の状態から小説が始まるのです。

 この書き手と読み手の意識の食い違い(ギャップ)を理解することこそ、よい書き手になれるかどうかの分岐点です。

 書き手の頭の中にあるイメージをただ書き連ねた小説では読み手に届きません。

 何も知らない読み手のために、一つひとつ丹念に描写してあげる姿勢がたいせつです。

 読み手の「無」から、書き手の頭にある「有」へ導くように文章を書くのです。




まず主人公を示す

 小説には主人公が不可欠です。読み手は主人公に感情移入しながら小説を読み進めます。

 その主人公のことが何ひとつわからない状態で小説を読み進められるものでしょうか。無理ですよね。

 主人公の性別は、年齢(年代)は、職業は、外見は、など見た目に関する問いがまずあります。

 そして主人公はどういう性格かは出来事(イベント)を通じて明らかにしていきます。

 小説の書き出しで必ず主人公が出来事(イベント)の渦中に放り込まれるのも、「主人公の性格」を描写するのに適しているからです。

 ここで「この主人公なら楽しい小説かも」と思わせられるか。とくに冒頭の出来事(イベント)で「最も強調したい主人公の性格を見せる」ことが大切です。

 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』では書き出しの出来事(イベント)で主人公の相良宗介が「戦争ボケ」という性質をまず読み手に見せています。それも宗介が秘密組織ミスリルに所属していることを暗に示すことにもなっているのです。

 書き出しでどれだけ多くの読み手をつかめるか。主人公の性格は読み手が感情移入しやすいものかが問われます。




舞台設定を示す

 主人公の紹介をしつつ、小説世界の設定を示しておく必要があります。

「剣と魔法のファンタジー」であればJ.R.R.トールキン氏『指輪物語』準拠なのか、エニックス(現スクウェア・エニックス)社『DRAGON QUEST』準拠なのか水野良氏『ロードス島戦記』『魔法戦士リウイ』準拠なのかなどとにかく「どんな世界観ですよ」ということを手早く紹介します。

 剣で戦う世界観なら冒頭は剣で戦うシーンから始めるようにする。魔法のある世界観なら冒頭で魔法が炸裂したほうがいいです。手早く説明しようとするなら、片や剣、片や魔法で戦う姿を見せれば読み手は瞬時に「剣と魔法のファンタジー」だと理解してくれます。

「剣と魔法」だけでなく神や天使、悪魔や妖怪などが出てくるようなら、その情報だけでも冒頭で触れられないかを考えます。

 小説世界がどこまで広がるのかわかるような、そんな導入部がベストです。


 現代日本が舞台なら具体的な地名を出すことでどこが舞台なのかは読み手に伝わります。

 現代日本だけど架空の市区町村が舞台ならたとえば「東京都あしび野市」などのようにだいたいどの都道府県にある架空都市なのかを明示するのです。


 またこの小説はいつの話でしょうか。現代なのか江戸時代なのか平安時代なのかでも書くべきものが変わってきます。

 それだけでなく春夏秋冬でも異なってくるでしょう。長編小説なら季節が移ろうさまが書けます。でも短編小説ではなかなか難しいです。かなり強引にすっ飛ばすくらいの気構えが必要です。


「箱書き」で描かれるシーンの「場所と時間」を明確にしなければ、読み手は何もイメージできません。

 そして「場所と時間」によって読み手に知らせなければならないものが異なります。

 あなたは読み手にそれらをうまく教えてあげられているでしょうか。そこを留意してください。




対になる存在を示す

 物語が始まり、主人公が出来事(イベント)の渦中に放り込まれる。

 舞台設定を示して、主人公がなぜ出来事に巻き込まれたのかを見せる。

 そのあと、なるべく早い段階で「対になる存在」を登場させてください。

 恋愛ものなら想い人を出す。バトルものなら倒すべき相手を出す。冒険ものなら探し求めるものを出す。

 これは大きな「伏線」です。

 読み手はまったくの「無」の状態から主人公をイメージし、彼が活躍する舞台を見ています。そして主人公と「対になる存在」も小説には不可欠です。

 登場人物の中で誰が「対になる存在」なのかはこの「伏線」によって早期に明示される必要があります。

 それなのにいつまで経っても「対になる存在」が出てこないという事態に陥る。読み手は誰が「対になる存在」なのかわからず、あなたの小説に飽きてしまうでしょう。

 読み手が「書き出し」で最も欲しいのは「誰と誰がどんな舞台で何を見せてくれる小説なのか」という情報です。

 このことを強く意識して小説を書くようにしてください。




対になる存在は早く登場させる

 恋愛もので、幼馴染みの少女と綺麗だが訳ありな少女が出てくるとします。

 どちらがヒロインとなって主人公と結ばれると読み手が納得するか。それは登場順によって変わってきます。

 説明と描写は主人公の身近なところから描写していくわけですから、通常なら幼馴染みの少女が先に出てくる。

 でも最終的には綺麗だが訳ありな少女と結ばせたいのであれば、小説のできるだけ早い段階で綺麗だが訳ありな少女を登場させましょう。

 そういう話や噂程度でもかまいません。とにかく文字に書いて読み手に示してください。


 アニメのサンライズ・安彦良和氏&富野由悠季氏『機動戦士ガンダム』は冒頭で幼馴染みのフラウ・ボゥが登場しますが、綺麗だが訳ありな少女セイラ・マスも初回から登場しています。

 物語の終盤で登場したララァ・スンがのちに主人公の心の重荷となりますが、彼女はアムロ・レイのニュータイプ能力を引き出した人物と見るべきでしょう。恋愛相手はあくまでもフラウ・ボゥかセイラ・マスだったはずです。まぁ大穴でミライ・ヤシマかもしれませんが。

 アムロ・レイの初恋の相手はマチルダ・アジャンでしたが戦死してしまいましたし婚約者もいたので「初恋は実らないもの」という物語の法則の一つは守られていました。

 その後宇宙に戻った際にフラウ・ボゥは作中でハヤト・コバヤシと心を通わせますし、ミライ・ヤシマもブライト・ノアといい仲で終盤を迎えましたから、この時点でヒロインはセイラ・マスかララァ・スンに絞られます。こちらもララァ・スンを自らの手で討ってしまうので、最終的にはセイラ・マスでなければならなかった。

 まぁ本来アムロ・レイは戦死する予定だったらしいので「恋愛ものではない」と言われればそれまでなのですが。

 ちなみに富野由悠季氏が手がけた小説版のアムロ・レイは実際に戦死しています。同氏の小説版『機動戦士Ζガンダム』にしれっと出てきますし、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』まで生きていますから、富野由悠季氏の無節操さにはちょっと呆れてしまいましたが。

 戦争ものとして『機動戦士ガンダム』を見ると、パイロットとしては主人公のアムロ・レイと「対になる存在」のシャア・アズナブルは初回の早い段階から登場します。

 指揮官としては主人公のブライト・ノアと「対になる存在」のシャア・アズナブルもやはり初回の早い段階で出てきます。

 つまり読み手としてはとてもわかりやすい構造なのです。




立ちはだかる存在は追い追い出す

 主人公と出来事と「対になる存在」は「書き出し」に出さなければなりません。

 しかし「立ちはだかる存在」は出番が来るまで出てこなくていいのです。「書き出し」に出してしまうと「立ちはだかる存在」が「対になる存在」なのかと勘違いされます。

『機動戦士ガンダム』を例にとれば「青い巨星」ランバ・ラルも、「黒い三連星」ガイアとオルテガとマッシュももし「書き出し」に出てきていたらどうでしょう。「対になる存在」としてのシャアの立場が危うくなる気がしませんか。


 読み手は「無」の状態から文章を通して頭の中に「有」を作り出していきます。

 そのときキャラの重要度は「どれだけ早く文章に登場してきたか」に左右されます。

 ランバ・ラルが「書き出し」に出てこないのも「対になる存在」であるシャアが埋もれないためには必然なのです。





最後に

 今回は「読み手は『無』にいる」ことを述べてみました。

 先にマンガやアニメやゲームなどで物語の内容を知っている場合は別ですが、基本的に読み手はあなたの書いた小説に対して予備知識を持っていません。

 つまり読み手の心の内では、あなたの小説は「無」の状態です。

 読み手を「無」から書き手の「有」へと導いていくのが小説の文章になります。

 必要な情報は余すところなく開示し、不要な情報は容赦なく削除する。この削り出しの作業が小説を書くことなのです。

 このことを意識して説明と描写をしていれば、読み手に正確なイメージが伝えられます。

 ミステリー小説でもないかぎりムダな情報なんて要りません。

 すべての文章が小説の「テーマ」と「箱書き」と「エピソード」に結びついていること。

 それこそが不可欠なのです。




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