657.事典篇:北欧神話:アース神族3:オーディンの子ら
今回は「北欧神話」の主神オーディンの子と、これまで触れられなかったアース神族についてまとめました。
その他のアース神族が重要でなかったわけではなく、血縁としてまとめられなかっただけです。
ヘイムダルは「ラグナロク」の到来を意味する角笛「ギャラルホルン」を吹く役目がありますし、巨人族の長として戦いを挑んできたロキと戦いました。
事典【北欧神話:アース神族3:オーディンの子ら】
今回はブラギ、イズン夫妻と、その他オーディンの子どもたち、その他のアース神族についてまとめています。
ブラギ、イズン夫妻
詩の神ブラギ
オーディンの息子で、妻はイズン。
アース神族と仲の良い巨人エーギルの従者を殺して宴席を追い出されたロキが舞い戻ってきた際に、ブラギは「神々がロキに与える席はない」と言います。しかしロキはオーディンに「『私とお前は血を混ぜてビールを味わうときは二人一緒だ』と誓ったではないか」と迫ったのです。オーディンはヴィーザルに、フェンリルの父であるロキの席を用意させます。
そして「アース神族とすべての神々に幸あれ、ただひとりあそこに控えるブラギを除いては」とロキが言ったのに対し、ブラギは寛大に馬と剣と腕輪を示して「神々を怒らせたり、逆らおうとすべきではない」と諭すが、ロキは「神々と妖精の中でブラギは最も臆病な男だ」と馬鹿にしたのです。ブラギは「ここが広間の外であればロキに罰を与えてその首を手に掲げていることだろう」と言い、ロキが「ならば外に出て戦おう」と挑発するので、ブラギの妻イズンがブラギに対し「オーディンの養子と争わぬように、ロキは口を慎むように」と諌めたとされます。
若さの女神イズン
女神の一柱。アース神族に永遠の若さを約束する黄金の林檎の管理者で、詩の神ブラギの妻。
無邪気でお人好しな性格で、それが災いしてロキに騙され巨人スィアチ(スカジの父)に林檎ともどもヨトゥンヘイムへとさらわれてしまいます。
彼女とともに常若の林檎が失われたのです。アスガルドの神々に年老いる事態が発生しました。
神々の怒りに触れ、イズンを巨人から取り戻すよう課せられたロキは、フレイヤから借りた(女神フリッグも持っている)「鷹の羽衣」で鷹に変身し、スィアチの宮殿スリュムヘイムへ向かったのです。
ちょうどスィアチは外出しており、宮殿にいたのはイズンひとりだけ。ロキはイズンに素早く変身の呪文を唱え、イズンを一個の胡桃に変えて運び去りました。スィアチはすぐに気づいたのです。鷲に姿を変えてロキの後を追いかけましたが、あと少しのところでアース神族たちの用意したカンナ屑の火に翼を焼かれて墜落し、神々に倒されました。アスガルドへ帰還後、ロキの呪文で本来の姿を取り戻し、年老いた神々に林檎を配りました。これにより神々は若さを取り戻したのです。
青空のように真っ青な瞳と、晴れやかで優しげな美しい容姿を持っており、フレイヤと並び、アスガルドで最も美しい女神であるとされています。
その他オーディンの息子
ヴァーリ
司法神のひとり。オーディンと女性(アース神族とも巨人ともいわれる)リンドの息子。ヘズは腹違いの兄。
バルドルがロキにだまされたヘズに殺された後、父オーディンは巨人の女の予言に従って、復讐者となる息子ヴァーリを女性リンドに産ませます。ヴァーリは一夜にして成人し、腹違いの兄であるヘズを殺しました。
ヴィーザルとともにラグナロクを生き延びるとされ、再生したバルドルとヘズとも出会うとされています。
ヴィーザル
父はオーディン、母は巨人族のグリーズ。
トールと同等の力を持つとされ、アース神族からひじょうに頼りにされているといわれるが、ヴィージと呼ばれる森で半ば隠遁生活を送っています。
エーギルの広間で開かれた宴の席にロキが乱入してきた際、父オーディンに命じられるまま席を立ち、彼に黙々と酒を注ぎました。間もなくロキが神々と口論を始めたが、ヴィーザルだけがロキから詰られなかったといいます。
「ラグナロク」においてはオーディンを噛み殺して飲み込んだフェンリルを倒す活躍を見せたのです。
ヴァーリとともに「ラグナロク」を生き残り、新しい世界を見守る神の一柱となります。
その他のアース神族
光の神ヘイムダル
母親たる九人姉妹の息子とされます。
眠りを必要とせず、夜でも昼と同じく百マイル先を見ることができ、草の伸びるわずかな音でさえも聞き取る鋭い耳を持っていたことから、アスガルドの見張り番の役目を負います。彼の住居はヒミンビョルグといい、アース神族の国アスガルドと人間の国ミッドガルドをつなぐ虹の橋ビフレストに近い場所にあります。
角笛ギャラルホルンの持ち主で、この角笛が鳴らされることは「ラグナロク」の訪れを意味します。すなわち巨人の軍勢が虹の橋ビフレストを渡ってアスガルドへ攻め上がってくるのを見つけると、彼はギャラルホルンを鳴らして神々にそのことを知らせるのです。
容姿が神の中で最も美しく、ヴァン神族と同じように未来がわかる神だとされています。ロキが愛の女神フレイヤの所有するブリージンガメンの首飾りを盗んだときにこれを奪還すべくロキを追跡して激しい戦いののちに無事に取り戻したという逸話があります。このことが因縁になってか「ラグナロク」では、戒めから解放されたロキと戦い相討ちになります。
ヘイムダルはグルトップという素晴らしい馬を持っているとされています。
オーズ
愛の女神フレイヤの夫。フレイヤとの間にとても美しい娘フノスとゲルセミをもうけます。
テュール
軍神。勇敢な神。
ギリシャ神話のゼウス、ローマ神話のユピテルなど印欧語族の多くが天空神として信仰する神々と同語源と考えられ、テュールも本来は天空神だったようです。
本来は法と豊穣と平和を司る天空神でしたが、二世紀後半以降にゲルマン人の世界が激しい戦乱の時代を迎え、戦争の神であるオーディンへの信仰が台頭したのです。テュールは最高神の地位を追われて一介の軍神に転落したと考えられています。
テュールは父である巨人ヒュミルの元に、神々が酒宴を開くのに必要な大釜を入手するために出向いています。ただしこれはロキの仕事であるとする説もあります。
獰猛なフェンリルは初めのうち神々のもとで拘束されていましたが、餌をやる勇気があったのはテュールだけでした。やがてフェンリルをグレイプニルにつなぐことになった際、疑り深いフェンリルはグレイプニルが危険でないことの証明のため誰かの腕を自身の口内に入れることを要求します。他の神々が戸惑っているのを見てフェンリルが嘲笑するのです。それを見たテュールはこれはまずい、と思い自ら右腕を入れます。グレイプニルにつながれたあとフェンリルはそれを壊すことができないと悟ったがすでに遅く、怒り狂ったフェンリルはテュールの右腕を噛み切ったのです。
テュールはエーギルの宴席でロキから右腕を失ったことを詰られたうえ、テュールの妻がロキの子を産んでいたことを暴露されます。
テュールを表すルーン文字を剣の柄や峰、血溝の上に彫って、二度テュールの名を唱えることで勝利できると語られています。
エイル
アース神族の女神。最良の医者とされます。エイルはまたヴァルキュリアのひとりでもあり、死者を蘇らせる能力と結びついているのです。彼女はすべての治療に精通していますが、とくに薬草に詳しく、死者を復活させることもできたといいます。また彼女はリフィア山に住み、フリッグの召使いもしていたのです。また霜の巨人メングロズの召使いとされています。
医師の長としてエイルは医療従事者の後援者となっていました。彼女は肉体的な治療だけではなく、精神、感情、霊的な治療も行なったとされるのです。彼女は訪ねてくるすべての女性に治療を施しましたが、秘術を授けたのは女性だけだったといいます。そのためスカンディナヴィアでは女性だけが治療術を知ることとなったのです。
女神が序列される中でも三番目に名を挙げられ、「すぐれた医者」だと紹介されています。
ゲフィオン
アース神族の女神の一柱。オーディンの息子のスキョルドと結婚し、フレイズラで暮らしたそうです。処女神であり、処女のまま死んだ女性は彼女の元に行くといいます。
オーディンから「人間の運命をすべて知っている女神」と言われていたのです。
オーディンに命じられて新しい土地を探すべくスウェーデンのギュルヴィ王を訪ねて王から「四頭の牛が一昼夜で鋤いた土地を与える」と持ちかけられます。彼女はまずヨトゥンヘイムへ行って巨人との間に四人の息子を作り、彼らを牛に変えてスキを着けて土地を鋤き取らせて海の方へ運んでいってセルンド島(現在のシェラン島)を作ったとされます。えぐれて湖となったのがレグルまたはログであるといいます。
フレイヤの別名「ゲヴン」と名が似ており、戦死者の半数がフレイヤのところへ向かうのと同様、亡くなった女性がゲフィオンのもとに召されるなど共通点は多い。そのためゲフィオンはフレイヤの別名とも考えられています。
ロキの暴言を諌めようとしたが、首飾りをくれた男性と性交渉を持ったことを暴露されてしまいます。(このあたりもフレイヤと一致します)。
最後に
今回は「北欧神話:アース神族3:オーディンの子ら」についてまとめてみました。
アース神族は数が多く、間違いなく北欧神話の主役たちです。
次回はヴァン神族について取り上げます。